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改訂小学校指導要領では道徳の「数値などによる評価」は禁止

2018年04月21日 | こども危機
  日本会議系団体理事が支持
 ◆ 「道徳」を〝数値評価〟していた文科省研究開発学校 (紙の爆弾)
取材・文 . 永野厚男

 〝愛国心〟教材が多出する教育出版・道徳教科書の執筆者、牧一彦校長以下三名の教職員が勤務する東京都武蔵村山市立第八小学校(以下、八小)は二〇一四~一七年度、文部科学省が「大綱的基準として各学校の教育課程編成に法的拘束力あり」とする学習指導要領(以下、指導要領)を越え、研究・実践できる同省研究開発学校の指定を受けた。
 八小が文科省に出した『平成29年度研究開発自己評価書』(以下、『自己評価書』と略記)九頁を見ると、〝運営指導委員会〟委員の筆頭に、日本会議系「日本教育再生機構」理事の貝塚茂樹・武蔵野大学教授(教育出版教科書監修者)の名が出ている。
 一五年三月、同じ日本会議所属の下村博文・文科省が道徳だけ他教科より二年前倒しし「特別の教科」とする指導要領改訂を〝官報告示〟したことで、全国の小中で今年四月から初の検定教科書使用と児童への評価が入る。
 八小が二月十七日に開催したパネルディスカッション等を取材した。

 ◆ 三観点・十二視点にもわたる徳育科評価を実施
 八小は文科省研究開発学校として、四年にわたり全学年、指導要領を越える「道徳科三〇時間+礼儀作法の実践的指導に関する内容(礼法の時間)一五時間=年間四五時間の徳育科」の授業を実施してきた。
 『自己評価書』は一六・一七年度、〝礼法〟を①気持ちのよい挨拶と基本姿勢②心と身なりと物を整える態度③先人の生き方に学ぶ姿勢④時と場や目的に応じた言葉遣いや態度⑤いじめを絶対に許さない態度⑥温かい人間関係をつくる姿勢⑦規則の尊重や公共の場の使い方⑧公共の場での心配り⑨よりよい家庭生活をつくる態度⑩よりよい学校生活をつくる態度の、十項目に〝精選〟し実施したとする。
 〇八年十一~十二月、都教育委員会の教職員研修センターが都内公立小中学校、都立高校各十校の児童生徒を対象に行なった『自尊感情や自己肯定感に関する研究』では、「自分には得意なことがある、よいところがある、自分のことが好きだ」「自分の個性と多様な価値観」は、小一・二年生が最も高く、小三から中二にかけて徐々に下がり、中三で少し回復する傾向である。
 一方、八小が二月十七日に配布した『研究主題 礼節を大切にし、自分に厳しく人に優しく、主体的に集団と社会に働き掛ける児童の育成』と題する全二三頁の冊子の二一頁「道徳教育に関する意識調査」は、「自分のよさ」が「一年と、四.六年、教員、保護者」対象の調査において「肯定的評価が低い」(△印)とし、二・三年も「よくできる、大体できる」の肯定的評価(○印)には至っていない。
 八小が一年時から自尊感情や自己肯定感が低いのは、前記十項目が⑤⑥などを除くと、指導要領の内容にある「個性の伸長」「寛容」よりも、「節度、節制」「礼儀」「規則尊重」や個人を型にはめる方、に注力しすぎているからではないか、と筆者は考える。
 ところで『自己評価書』は、〝徳育科〟の評価について、〈学力の三要素に照らし合わせて、1単位時間の授業を通して、児童の変容や思考の深まり等を「関心・意欲・態度」、「思考・判断・表現」、「知識・理解・技能」の3観点で評価していくことが可能である。そのために、具体的に評価の12視点を基にした所見の書き方も含めた評価の在り方、評価方法について更に検討していく必要がある。〉と主張している。

 前出の八小の全二三頁の冊子は、この一二視点なるものを、「知識・理解・技能」に五つ、「思考・判断・表現」に四つ、「関心・意欲・態度」に三つ、それぞれ割り振っている。
 紙幅の関係で「思考・判断・表現」に割り振った四つの視点だけ紹介すると、「自分の経験や体験を振り返りながら考えている」「様々な視点(結果や原因)について考えている」「別の立場で考えている」「自律的に考えている」である。
 だが、一クラス三五人近い児童の発言やワークシートの記述を、「思考・判断・表現」で評価すると決めたとしても、今度はこの四つの〝視点〟のどれに当たるか考えるだけで教員は悩み、疲れてしまう。多忙化の中、〝評価疲れ〟を発症してしまわないだろうか?
 ◆ 授業ごとの評価パターン化、児童を型にはめる恐れ
 同じく二月十七日に配布された、八小が文科省の指導要領を真似て名付けたと思われる『小学校学習指導要領解説 徳育科編』なる冊子(A4判で全二一五頁)は、「所見例」という評価の文例を、学年ごとに示している。
 一年生の「所見例」は、「関心・意欲・態度」で「『先人の生き方』の学習では、二宮金次郎の生き方から努力を続けることの大切さに気付き、勉強を頑張ろうという気持ちが高まりました」と明示。「思考・判断・表現」では、「『先人の生き方』の学習では、二宮金次郎の生き方から自分が努力することは友達に優しくすることだと考え、その方法を表現することができました」と示している。
 「知識・理解・技能」の観点では、二年生の「所見例」の一例が「『姿勢・返事・挙手』の学習では、姿勢・返事・挙手の仕方について理解し、正しい姿勢・返事・挙手をすることができました」と示し、五年生の「所見例」の一例が「『正しい姿勢と返事の仕方』の学習では、背筋を伸ばし適切な声の大きさで返事をすることが大切であることに気付き、ペアで練習をする中で意識した返事ができました」と示している。
 こうして教員は毎授業、学級の児童全員分、傍線部の前後を〝テストの穴埋め〟のように文章化し、評価するのだが、こんなことを毎時間やったら、評価する教員も評価される児童も、共に自らを「型にはめる」ことになるのでは、と心配である。
 ◆ 〝修身教育〟への反省から文科省が禁じた「数値評価」
 前述した一五年三月の道徳の改訂小学校指導要領は「児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう努める必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする」と規定し、通知表等でA・Bや○印を付けるか否かも含め、「数値などによる評価」を禁じている
 これは文科省が、以下のように自分たち国家権力が、児童に国家主義思想を教え込み、教員に対し児童の内心に入り込んでの評価をさせていた、戦前・戦中の修身教育に対し、十分とはいえないが、一定の反省をしているからだといえよう。
 慶應義塾大学・山本正身ゼミ共同研究報告書『修身教育の実像とその問題』(一五年三月発行)によると、山口県の高等尋常小学校六年等の修身科の試験問題は、「皆さんの崇拝人物をあげ、その崇拝する理由を書きなさい」「我が国体の他国に優れた点如い か何ん 」「皇大神宮を、私どもが尊崇するわけ」「我が国運は維新以来僅か六十余年間に非常な発展をしたがそれは何に基くか。又あなたは我が国の将来に対して大いなる責任がある、如い何かにして国運の発展に尽くそうと思っているか、その覚悟を述べよ」であった。
 これら試験の成績をもとに、教員は通信簿の修身の欄に、「甲乙丙」の三段階数値評価を強行していたのだ。
 八小の『新教科 徳育科( 構想)』リーフレットは「重点観点」を三観点のうちの「知識・理解・技能」と設定し、「礼儀正しい挨拶の大切さを理解し、真心と笑顔で礼儀正しい挨拶をすることができている」という〝評価規準〟を示している。その上で、同リーフは「十分満足=挨拶についての大切さと理由を考え、お辞儀と言葉と心を組み合わせた挨拶ができる」と、「概ね満足=礼儀正しい挨拶の大切さを理解し、お辞儀と言葉を組み合わせた挨拶をすることができる」との二種に児童を仕分けする〝評価基準〟なるものも明示している。
 武蔵野美術大学の伊東毅教授は筆者の取材に、「十分…概ね…」の仕分けは「数値などによる評価」に相当する可能性があり、「こういう発想での評価は大いに問題だ」と語る。八小の教員に問うと、「十分…概ね…」は四年間の研究の途中まで実施していたが、現在はやっていないという。しかし、いくら研究段階とはいえ、生身の児童を相手に実質「数値などによる評価」を行なっていたことは、批判されてしかるべきであろう。
 ◆ 日本会議系団体理事に文科省研究官が「不適切」
 ところで、前述の八小の道徳観点別評価は、違法な数値評価につながる危険性がある。本誌四月号で紹介した福岡市立小の通知表・社会科の〝愛国心〟観点別評価は、A~Cの「数値評価」を行なっていたからだ。だからこそ文科省は一六年七月二十九日、藤原誠初等中等教育局長名で観点別評価を道徳では不適切とし、「大括りなまとまりを踏まえた評価とすること」と通知したのだ。
 二月十七日のパネルディスカッションで、八小の評価を含む取組みを是とする前出「日本教育再生機構」理事の貝塚氏に対し、文科省国立教育政策研究所の西野真由美総括研究官は「八小・徳育科の評価は観点別になっているが、子どもの姿は分節化して見ると、抜け落ちてしまう危険が大きい。道徳科は、子どもがどこまでできるようになったかギリギリと見ていくのでなく、その子の良さは何か、思考が多面的に捉えられるようになったかなどで評価すべき。一時間ごとに評価していき最後にまとめるのは、大括りな評価ではない」などと述べ、不適切だとした。
 研究開発学校ごとに出る「毎年一五〇万円×四年=六〇〇万円」の税金はムダ遣いだったと言える。
 ※永野厚男 (ながのあつお)
文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』2018年5月号

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