<はたらく> (TOKYO Web)
◆ 見通せぬ生活苦の解消 最低賃金2けた引き上げ
使用者が労働者に払う賃金の最低額「最低賃金」(時給)の地域別金額が出そろい、十月以降に改定される。安倍政権にとって賃上げは重要課題の一つであり、全都道府県で、三年ぶりとなる十一円以上の引き上げが実現した。だが、地方の働き手の生活は厳しく、ワーキングプアの解消には程遠いとの批判もある。 (福沢英里)
「最低賃金の金額では将来を見通せない。子どもを育てることもできません」。新潟市に住む元高校教諭の男性(37)は声を強めた。大学院を出て県立高校に勤務していたが、激務でうつ病になり、三十二歳で退職。労働組合の活動に加わり、カンパなどから捻出される人件費月五万~六万円の収入で生活する不安定な暮らしになった。
男性は「最低賃金以下の生活」として、自身の生活を組合のブログにつづった。食費をできるだけ抑えるため、昼食を抜いた。食べる分だけ買い、冷蔵庫を使わず電気代は節約。教員時代に妻と離婚、子どもへの養育費も必要だった。半年前にようやく飲食店でのアルバイトを始め、同じく大学院卒の元妻との間で「せめて子どもは大学に行かせたい」と、収入の大半を教育費の貯蓄に回す。
本年度の新潟県の最低賃金は七百一円。フルタイムで働いても月収十二万三千円ほどで、年収百五十万円にも満たない。「最低賃金は自分の労働条件と生活に直結する」と男性。「教員時代は今の生活を想像もしなかった。人生の落とし穴に落ちた人に思いをはせた議論こそ必要だ」
◇
地域別の最低賃金額=図=は、東京と神奈川以外は新潟と同じ七百円台。全国平均額も七百六十四円だ。
毎年二月、最低賃金の生活体験を実施している愛知県労働組合総連合(愛労連)。例年、千円以上への引き上げを強く求めている。
今年は組合員ら八十人が参加し、時給七百五十八円(愛知県の昨年度の最低賃金額)で一日八時間、月二十二日働いたとの設定で生活に挑戦した。しかし、最後まで離脱せず残った四十六人のうち、税金や社会保険料などを除いた月約十一万円の枠内に収めたのは十六人だった。
「人が普通に生活できない金額」「冠婚葬祭があれば設定額を超える」「生きる楽しみを奪われる」といった声が、参加者たちから聞かれた。
◇
労働者の暮らしを守る金額と、最低賃金額に隔たりがあるのはなぜか。
愛労連の榑松佐一(くれまつさいち)議長は、最低賃金審議会を「労働者代表の委員が大企業の労働組合から出ている。議論も事業主の支払い能力が中心で、平均賃金の動向をもとに検討しているだけ」と批判する。これに対し、委員を務める連合愛知は「委員の人選や賃金についても、中小企業に配慮した議論をしている」と反論する。
愛労連は労働者たちの「生の声」を審議会などに反映してほしいと、意見陳述を求めてきたが、認められていない。しかし、冒頭の男性は新潟県の審議会で初めて、意見陳述が認められた。
「自分の店を持った経営者が体を壊して働けなくなったという相談を受けたことがある。つらいのは労働者だけじゃない。統計上の数値には出てこない人たちの窮状も議論に加えてほしい」
◆ 審議会の専門部会 大半が非公開
最低賃金は中央と地方にある「最低賃金審議会」が決める。各地の労働局長の任命による学者や弁護士ら中立の公益委員と、推薦で労働局長が任命する労使代表の三者で構成されている。
雇用や経済など二十の指標をもとに、全国をA-Dの四ランクに分け、中央の最低賃金審議会から、地域別の引き上げ額の目安が示される。この目安を受け、地方の審議会で「労働者の生計費」「労働者の賃金」「企業の賃金支払い能力」の三項目について、生活費の水準や地域の雇用情勢などの実情に照らして検討。上乗せするかどうかを話し合う。
審議会は手続きをする「本審」と、具体的に話し合う「専門部会」がある。専門部会は「率直な意見交換」を理由に非公開の自治体が多い。審議会や専門部会に参加できない労使関係者が発言する「意見陳述」は、全国では二十一都市で実施されている。
『東京新聞』(2013年9月20日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2013092002000185.html
◆ 見通せぬ生活苦の解消 最低賃金2けた引き上げ
使用者が労働者に払う賃金の最低額「最低賃金」(時給)の地域別金額が出そろい、十月以降に改定される。安倍政権にとって賃上げは重要課題の一つであり、全都道府県で、三年ぶりとなる十一円以上の引き上げが実現した。だが、地方の働き手の生活は厳しく、ワーキングプアの解消には程遠いとの批判もある。 (福沢英里)
「最低賃金の金額では将来を見通せない。子どもを育てることもできません」。新潟市に住む元高校教諭の男性(37)は声を強めた。大学院を出て県立高校に勤務していたが、激務でうつ病になり、三十二歳で退職。労働組合の活動に加わり、カンパなどから捻出される人件費月五万~六万円の収入で生活する不安定な暮らしになった。
男性は「最低賃金以下の生活」として、自身の生活を組合のブログにつづった。食費をできるだけ抑えるため、昼食を抜いた。食べる分だけ買い、冷蔵庫を使わず電気代は節約。教員時代に妻と離婚、子どもへの養育費も必要だった。半年前にようやく飲食店でのアルバイトを始め、同じく大学院卒の元妻との間で「せめて子どもは大学に行かせたい」と、収入の大半を教育費の貯蓄に回す。
本年度の新潟県の最低賃金は七百一円。フルタイムで働いても月収十二万三千円ほどで、年収百五十万円にも満たない。「最低賃金は自分の労働条件と生活に直結する」と男性。「教員時代は今の生活を想像もしなかった。人生の落とし穴に落ちた人に思いをはせた議論こそ必要だ」
◇
地域別の最低賃金額=図=は、東京と神奈川以外は新潟と同じ七百円台。全国平均額も七百六十四円だ。
毎年二月、最低賃金の生活体験を実施している愛知県労働組合総連合(愛労連)。例年、千円以上への引き上げを強く求めている。
今年は組合員ら八十人が参加し、時給七百五十八円(愛知県の昨年度の最低賃金額)で一日八時間、月二十二日働いたとの設定で生活に挑戦した。しかし、最後まで離脱せず残った四十六人のうち、税金や社会保険料などを除いた月約十一万円の枠内に収めたのは十六人だった。
「人が普通に生活できない金額」「冠婚葬祭があれば設定額を超える」「生きる楽しみを奪われる」といった声が、参加者たちから聞かれた。
◇
労働者の暮らしを守る金額と、最低賃金額に隔たりがあるのはなぜか。
愛労連の榑松佐一(くれまつさいち)議長は、最低賃金審議会を「労働者代表の委員が大企業の労働組合から出ている。議論も事業主の支払い能力が中心で、平均賃金の動向をもとに検討しているだけ」と批判する。これに対し、委員を務める連合愛知は「委員の人選や賃金についても、中小企業に配慮した議論をしている」と反論する。
愛労連は労働者たちの「生の声」を審議会などに反映してほしいと、意見陳述を求めてきたが、認められていない。しかし、冒頭の男性は新潟県の審議会で初めて、意見陳述が認められた。
「自分の店を持った経営者が体を壊して働けなくなったという相談を受けたことがある。つらいのは労働者だけじゃない。統計上の数値には出てこない人たちの窮状も議論に加えてほしい」
◆ 審議会の専門部会 大半が非公開
最低賃金は中央と地方にある「最低賃金審議会」が決める。各地の労働局長の任命による学者や弁護士ら中立の公益委員と、推薦で労働局長が任命する労使代表の三者で構成されている。
雇用や経済など二十の指標をもとに、全国をA-Dの四ランクに分け、中央の最低賃金審議会から、地域別の引き上げ額の目安が示される。この目安を受け、地方の審議会で「労働者の生計費」「労働者の賃金」「企業の賃金支払い能力」の三項目について、生活費の水準や地域の雇用情勢などの実情に照らして検討。上乗せするかどうかを話し合う。
審議会は手続きをする「本審」と、具体的に話し合う「専門部会」がある。専門部会は「率直な意見交換」を理由に非公開の自治体が多い。審議会や専門部会に参加できない労使関係者が発言する「意見陳述」は、全国では二十一都市で実施されている。
『東京新聞』(2013年9月20日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2013092002000185.html
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます