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パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

南葛定時制卒業式不起立裁判(原告・申谷)を考える会

2012年09月03日 | 日の丸・君が代関連ニュース
《第3回「日の丸・君が代」裁判全国学習・交流集会・資料(東京)》
 ◆ 再雇用拒否処分取消訴訟を振り返って
2012年3月3日 津田玄児

 申谷先生の再雇用・再任用拒否処分(以下単に再雇用拒否処分といいます)取消訴訟は、残念ながら最高裁判所第2小法法廷の昨年5月30日判決により、請求が認められないまま終結しました。
 振り返ると、再雇用拒否処分の理由とされた、卒業式での君が代斉唱の際の不起立は、それまで、減給、停職などの重い処分を受けていても、再雇用を希望すれば拒否されたことはありませんでした。誰もが先生を、生徒にとって良き教育者であり、教育技術に優れ、教育熱心であったと評価していました。それなのに、ただ1度の不起立で、最も軽い戒告処分を1度受けただけで、以後そのような行為は全くないのに、勤務成績が良好でないと評価され、再雇用を拒否されたのです。私達はこの裁判で、このような処分は、裁量権を著しく逸脱するもので許されないとして処分の取消を求めました。
 第1審の判決は、先生が採用要件である、職務の遂行に必要は知識及び技能を有していたこと、および健康でかつ意欲を持って職務を遂行すると認められることは、争われていない。再雇用が拒否された理由は、不起立のため勤務成績が良好でないことに尽きると認定し、「懲戒処分の対象としては非行の程度が軽いと評価しながら、採用選考の際には、これだけを理由に不合格となるほどの重大な非違行為に当たると評価することは、不合理と評価せざるを得ない」「都教委は、その裁量権を逸脱、濫用して原告の期待権を違法に侵害したと評価せざるを得ない」として、東京都に損害賠償を認めました。
 しかし拒否処分の取消は認めませんでした。第1審判決が指摘するとおり、先生がすぐれた教育者として評価されており、この再雇用の拒否が、裁量権の著しい逸脱であることは、正常な法感覚を有する者なら、誰も否定できないものでした。
 しかしそれならば、なぜ拒否処分を取り消さないのか大いに疑問が残るところでした。そこで双方が控訴しましたが、第2審は、先生が、教科指導、受験指導、部活指導、分掌業務等に熱心であり、生徒にとって良き教師であることは間違いないとしながら、都立高校の教師となり、起立斉唱の「職務命令が出された以上…これに従うべき義務があったのであり…従う義務を免れるものではない」とし、「都教委がその裁量権を逸脱、濫用したものとまではいうことができない」として、再雇用拒否は違法ではないとし、処分の取消はもちろん、損害賠償も認めませんでした。
 最高裁も、裁量権についての判断が誤っているとの、上告受理申立てを認めなかったばかりか、起立斉唱を命じる職務命令が、その思想及び良心の自由についての間接的な制約となる場合であっても、その制約を許容し得る程度の必要性・合理性があれば、憲法19条に違背しないとし、本件の場合は、起立斉唱を命じる職務命令は、公立学校の教諭である者に対し、卒業式という式典における慣例上の儀礼的所作として求められたもので、それを求める学校教育法、学習指導要領など関係諸法令の規定の趣旨と、地方公務員としての職務の公共性、生徒への配慮を含め、教育上の行事にふさわしい秩序の確保し式典の円滑な進行を図らなければならない立場という点で、制約を加える必要性、合理性があり、憲法19条には違背しないとして、上告を棄却したのです。
 第1審の判決は、処分が違法だとしましたが、取消については、新規採用と同様で、東京都教育委員会は、法律の定める一定の規準に従い、「希望者を選考し、任命する権限を有するもので」「広範な裁量権が認められる」ので、拒否処分は違法だが、裁量権の範囲内にあるとしました。
 これは、再雇用制度発足の経緯や、その後の運用を無視した暴論としかいいようのないものです。
 そしてその後の高裁も、最高裁も第1審の処分が違法だとした判断をも放棄し、全く不当な論旨を発展させ、逆に国旗国歌法、新教育基本法、新学校教育法、学習指導要領を持ち出し、これらと地方公務員としての地位から、不起立の職務命令違反を、再雇用の規準とするのは当然で、憲法19条にも違反しないと、拒否処分の取消を認めなかったのです。
 これでば違法だという判断を維持すると、処分の取消を認めざるを得なくなるため居直ったとしかいいようがありません。
 間接強制を加える必要性、合理性といいながら、生徒への配慮を含めといいながら、教育上の行事にふさわしい秩序の確保し式典の円滑な進行を図らなければならない立場だけが強調され、最も必要で合理的な根拠ともいうべき、生徒自身が式作りに参加することや、採用する教師がふさわしい教師であることには、前提事実としては認定されていながら、全く触れられていない奇妙な論旨の展開です。
 憲法19条違反を認めない論旨だけにかぎっても、同じ再雇用処分の取消を求めた、6月6日最高裁の第一小法廷判決の、宮川裁判官の少数意見は、明確にこの論旨を論破し、その破綻を明らかにしています。
 宮川少数意見は、そもそも少数者の権利として保障されている、精神的自由に関する問題を、多数者の視点から論ずることの間違いを明白に指摘し、「思想及び良心として深く根付き、人格的アイデンティティそのものとなっており、深刻に悩んだ結果として、あるいは信念として、そのように行動することを潔しとしなかった場合、そういった人達の心情や行動を一般的でないからとして過少評価することは相当でない」とし、式典において、起立しないのは、自らの歴史観・世界観・教育上の信念を表明するものではなく、その理由は、第1に、慣例上の儀礼的所作ではなく、その歴史観・世界観等にとって譲れない第一線を越え、その思想・良心の確信を動揺させるからであると思われ、第2に、これまで人権の尊重や自主的に思考することの大切さを強調する教育実践を続けてきた教育者として、その魂と言うべき教育上の信念を否定することになると考えたからであると思われ、これはその思想良心の核心の表出であると見ることができ、少なくともこれと密接に関連しているとみることができるとしています。
 そして、さらに、教育法規・学習指導要領との関係については、教科教育については、及ぶことがあろうが、式典の場など、直接教育する場を離れた場面では、自らの思想良心の核心に反する行為を求められることはないとし、国旗国歌法についても、その制定審議の過程で政府の国会答弁が、国旗国歌の指導に係る教員の責務については変更を命じるものではないことを示していたことから、同法は強制の契機を有しないものとして成立しているとし、10.23通達は、校長の職務命令に従わない教職員の服務上の責任を問うとし、それに基き不起立の職務命令が出されていることから国旗国歌法の趣旨に反するとし、この職務命令は違憲審査の対象となるとしています。
 この少数意見は明確に、高裁・最高裁審判決の論旨が違法・違憲であるとしているのです。さらにこの論旨には、生徒とすぐれた教師への評価が不在であるという批判がつけ加えられるべきでしょう。
 最後に、生徒とすぐれた教師への評価の不在についていうと、高裁・最高裁判決は、すぐれた教師として申谷先生たちが、生徒、親たち、教育行政と共に作り上げ、大きな成果を挙げてきた、南葛飾高等学校定時制教育の灯を消すものです。
 申谷先生たちは、どんなに問題があっても、学習の場を求めてくる生徒は全員受け入れ、受け入れた生徒は一人でも多く卒業させるべく努力してきました。生徒を大切にすることが、その基盤にあります。卒業式だけに限っても、南葛飾高等学校定時制では、これまで卒業式は生徒とともに作り上げてきました。平場で生徒を囲んで、校長が卒業証書を生徒の元に運び、各自に激励の言葉を与えて授与してきたのです。一人一人の生徒が大切にされ、船出する生徒を主人公として、エンパワーする場となっていたのです。それは、子どもの権利条約が、掲げ実践を求めているものでもあります。
 10.23通達に基づく卒業式は、このような卒業式を、津波のように奪いさってゆきました。これは南葛飾高等学校定時制だけの問題ではありません。東京都教育委員会の暴挙は、大坂府・大阪市に広がろうとしています。そこでは、日の丸君が代の強制から、教育全体の競争をあおり、統制をつよめる教育基本条例づくりが進んでいます。大学進学の成績があがらない高等学校は整理され、学テの成績が悪い小中学校は統廃合の対象になり、行政の気にいらない親たちの希望が排斥され、大坂維新の会の主張だけが貫徹する、まさに子どもとすぐれた教師不在の学校づくりの体制が実現しようとしています。
 しかし、申谷先生たちが作り上げてきた南葛飾高等学校定時制の実践は、何もないところから、積み重ねで、築かれてきたものです。その経験の蓄積は残され、いつかは力を発揮するはずです。最高裁でさえ少数意見ではあれ、正論が見え隠れしているのです。
 憲法があり世界の大部分の国が批准し、その実現にとりくむ子どもの権利条約もあります。未来を託す子どもたちと教師を大切にしない行政が生き残れるわけはありません。挫けず前に進もうではありませんか。
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Unknown (だい)
2012-10-12 15:40:49
twitterでもこの裁判について書いている者です。

欧州人権裁判所のように世界的な目からこの不当判決を覆す道はないのでしょうか?
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