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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

同一パフォーマンスに同一賃金を支払うという観点が抜け落ちているガイドライン案

2017年02月24日 | 格差社会
 ◆ 「同一労働同一賃金」の議論は抜け穴だらけで意味がない! | ハーバービジネスオンライン
 内閣総理大臣を議長とする働き方改革実現会議で、「同一労働同一賃金ガイドライン案」(参照:首相官邸)が検討されている。正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定するものと謳われているが、ガイドラインの制定が、同一労働同一賃金を促進するのだろうか。
 ガイドライン案は、ひと目みてわかるように、同一労働同一賃金でなくても問題にならない場合と、問題になる場合のガイドラインを、きめ細かく定めている。それを、給与を職業経験・能力に応じて支給する場合と、業績・成果に応じて支給する場合に区分している。
 例えば、「キャリアコースによる職業能力習得を、正社員がしており、パート社員がしていなければ、同一労働であっても同一賃金でなくてもよい」、
 「目標未達の場合のペナルティが、正社員には適用され、パート社員には適用されなければ、同一労働であっても同一賃金でなくてもよい」とある。
 この区分をみて、読者のみなさんは、どう思うだろうか。社員の能力向上のための研修を実施している企業は少なくないし、その対象は正社員のみを対象としているケースがほとんどであると言える。
 目標未達であれば賞与や昇給にあたり低い支給率が適用されるという、いわばペナルティが付されるケースが多いことが実態だ。
 だとすれば、「同一労働であっても同一賃金でなくても良い」ケースが多発することが目に見えているのではないか。
 ◆ 派遣法専門26業務の騒動
 そして、導入後は、問題とならない場合と問題となる場合の議論が百出、労働基準監督署への問い合わせは殺到し、解説セミナーが頻繁に開催され、いたずらに時間が経過、数年後には変更になるという、いやな予感がしてならないのだ。
 あたかも、2012年に制定され2015年に撤廃された、労働者派遣法における専門26業務の騒動を彷彿とさせるのだ。
 この時は、派遣受入期間が3年と限られている専門26業務の範囲を巡って、派遣業界、人事部門、派遣従事者を七転八倒したのだ。
 あげくのはて、26業務に該当しないように形式を整えて、幅広い業務を派遣社員に担わせようとする企業と、より長期に就業したいために就業先企業の意向に沿いたい派遣社員と、厚生労働省による業務停止を含む厳しい指導の下、違反事例を企業と派遣社員双方のヒアリングまでして摘発しようとする派遣会社との間で騒動が頻発し、挙げ句の果て、派遣会社と派遣社員、派遣会社と就業先企業の関係が悪化し、派遣会社が業績不振に陥る事態にまでなった。
 その結果、26業務の廃止である。この騒動は何だったのか、ほとんどの関係者が唖然としたに違いない。私は企業の人事部長のひとりとして、この騒動の渦中におり、こうした事態は決して再発させてはならぬと考えている。
 ◆ 同一労働同一賃金の議論は、派遣法の騒動の再来だ
 労働者派遣法の専門26業務の定義と範囲の議論と、同一労働同一賃金の定義と範囲の議論は、酷似している。トピックスは異なれど、思考のプロセスと登場人物が類似している。
 ましてや、ガイドライン案の当初から、同一労働であっても同一賃金でなくてもよい場合の定義と範囲が示されており、経験的には、同一賃金でなくてもよいケースが多いと思えるのだ。
 これで、同一労働同一賃金は促進されるのだろうか。どう考えても、促進されるとは思えない。「国を挙げての取り組みに竿指すのか」とお叱りを受けそうであるが、そうであるからこそ、声を上げずにはおれない
 ◆ 同一パフォーマンス同一賃金の議論をすべき
 そもそも、議論すべきことは、同一労働同一賃金でなくても問題にならない場合と、問題になる場合のガイドラインなのだろうか。
 同一労働同一賃金は、雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、パフォーマンスを向上させることなのではないだろうか。
 だとすれば、同一労働同一賃金のガイドラインは、パフォーマンスの向上という本来目的に役立つとは思えないのだ。
 なぜ役立つと思えないのかと言えば、同一労働同一賃金の議論が、同一労働の結果もたらされる同一パフォーマンスに同一賃金を支払うという観点が抜け落ちているからだ。
 ビジネスパーソンであれば当たり前に受け止めるであろう、同一パフォーマンス同一賃金であってこそ、均等・均衡待遇を確保できるにもかかわらず、そのことが、すっぽりと抜け落ちている。
 働き方改革を推進する今こそ、パフォーマンス向上のための方策を議論し、推進していかなければならない好機であるにもかかわらず、その議論がまたもや忘れられている。
 同一労働同一賃金のガイドラインに対する危惧は、ガイドラインの抜け穴の問題もさることながら、同一パフォーマンス同一賃金の問題が議論されないことにあるのだ。
 ※「パフォーマンス向上の手法」は、山口博著『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月。ビジネス書ランキング:2016年12月丸善名古屋本店1位、紀伊國屋書店大手町ビル店1位、丸善丸の内本店3位)で、セルフトレーニングできます。
 【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第24回】

<文/山口博>

 【山口 博(やまぐち・ひろし)】株式会社リブ・コンサルティング 組織開発コンサルティング事業部長。さまざまな企業の人材育成・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある
※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。
『ハーバービジネスオンライン』(2017年01月25日)
https://hbol.jp/126705
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