☆ ドライバーは限界寸前! 現場の問題に即した対策を(週刊新社会)
トラックドライバー 甲斐正康
☆ リスク大きく見返り少ない
この業界にいる人間の多くは、「それでもトラックドライバーが好きだ。この業界で生きていきたい」と思っている人が多い。1人でハンドルを握り、いろんな土地に行くことが出来る。自分にとっても魅力的な仕事だ。
とはいえ、あまりにもリスクが大きい仕事だ。労働時間ももちろん、何より事故の危険もつきまとう。大きなトラックを運転すればするほど、リスクはどんどん大きくなる。トラック総重量は20トンを超え、人なんかひ礫いたら一発で死ぬ。その貴任の大部分はドライバーが背負うことになり、リスクの割には見返りが少ない。
その上、働き方改革関連法で残業時間が削減される。労働時間が減るのは正直嬉しいが、給料まで減れば、本末転倒ではないか。
☆ 政府の政策は根本解決でない
私たちトラックドライバーは「基本給+歩合」で、働く時間が減る=運ぶ荷物が減る=会社の売上が減る=給料も減ることになる。
先日、政府が2024年問題に対応する政策パッケージなるものを取りまとめた(図表)。もちろん宅配業者の時間指定や送料無料、再配達は大きな問題だが、これだけでは根本解決には全くならない。トラックドライバー業界は、宅配業者だけで成り立っているわけではない。宅配する一つの荷物に多くの人間が関わっている。
今回の政策は、いかにして「安い運賃のまま、今まで通りトラックドライバーをなんとか使うことは出来ないか」という企業・政府側の思惑があるようにも思えてならない。
国民民主党の玉木雄一郎代表が4月4日に自身のTWitterで「大型トラックの80㎞/h規制を100㎞/hに緩和してはどうか。東京-大阪間が片道1時間半短縮できて、もっと物が運べます」と発言した。
なぜこんな発想しかできないのか。しかも現在の大型トラックの構造は、玉木さんが仰る「100キロ走行」に耐えうる構造になっていない。
現在の大型トラックで100キロを出すと、回転数がレッドゾーンまで跳ね上がる。その状態で走行すると、当然燃費は悪くなり、そのまま走り続けるとエンジンが焼きつく。
燃費が悪くなると、アブラ(燃料)の減りが早くなるし、エンジンが焼き付くと、故障する。そして運送会社がその経費を払う。
しかし、実際に「政策パッケージ」なるものに「100キロ走行」の提言が加わっている。
仮に100㎞走行に耐えうるトラックが出来たとしても、その購入費用は国がもってくれるのか。本当に玉木さんの発言も、提言も、「現場を全く知らない人の意見だな」と軽蔑してしまう。
例えば、貨物自動車限定で高速道路無料化や問題の根本の荷主企業の運賃の是正などの発想はできないのか。
荷主と運送業者の取引を監視する、と言っても星の数ほどある運送会社の仕事の孫請け、ひ孫謂け、ひひ孫請け…といったところまで、どうやって日本全国隅々まで監視出来るのか。
そして監視した上でいったいどうするのか。運賃の是正勧告などを発令するのか。とりあえずの「やってる感」を国会議員が平気でする。
☆ 私たちは限界 政府に本気求める
ドライバーの高齢化の問題もあるし、ある民間シンクタンクは、これ以上対策を講じない場合、全国の荷物総量のうち25年には約28%、30年には約35%の荷物が運べなくなるという算定結果を公表した。実際にそうなる可能性も大いにある。
トラックドライバーは限界まで走っている。運送会社もやれるだけの対策は行っている。そろそろ本気で政治は動いてくれないのか。
やれる事はもっともっとあるはずだ。私はこの問題について、自分の住んでる三鷹市の9月議会に、陳情書を提出するため、準備を進めている。何もしないままでは、何も変わらない。世間で「2024年問題は業界のピンチ」と言われる今こそ最大の「チャンス」ととらえて、議会に働きかけていきたい。
『週刊新社会』(2023年7月12日)
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