パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ 物流業界2024年問題<上>

2023年07月21日 | 格差社会

 ☆ 政策が招いた物流業界の問題点(週刊新社会)

トラックドライバー 甲斐正康

☆ 多重下請け構造によって買い叩かれる末端労働者

 働き方改革関連法(物流業界2024年問題)の施行が来年4月に迫り、この問題についての議論もよく目にするようになった。いよいよ、トラックドライバーの労働条件もよくなるのか。
 残念ながら、今の議論は「いかにして今のままドライバーに安い賃金で働かせ、この問題をやり過ごすか」という方向に、話を持っていっているだけのように思う。
 施行されれば、これまでの年間残業時間より200時間削減し、年間残業時間は960時間になる。一見、「なんだ、長時間労働が問題となっていたトラックドライバーの残業時間が減って労働環境が良くなるんじゃない?」と思われるかもしれないが、事はそう簡単には進まない。
 まず、私たちトラックドライバーの多くは「基本給+歩合」の給料体系が多い。この歩合制とは、勤める運送会社に仕事を振る荷主企業が、運送会社に支払う運賃から諸経費などを差し引いてドライバーに支払う給与だ。
 しかし、この荷主企業が運送会社に支払う運賃が極端に低く抑えられている。そこからドライバーはさらに会社が諸経費などを差し引かれた金額と、私はこれに低く抑えられた基本給がつく。賃金はそれでも低いので、補うために数を走る。しかし非正規社員はもっと厳しい。

☆ 人手不足・残業当たり前の実態

 時間内に一体どうやって荷物を運ぶのか。数をこなして走るドライバーは「残業時間の制限で走れなくなる」、そんな事態になっていく。
 またトラック業界は人手不足。自分は好きでこの仕事をやっているが、「この業界はいいよ」と勧める事はなかなか出来ない。
 1日の労働時間が12時間なんて当たり前。15時間、16時間、走りっぽなし。1週間家に帰れないなんて当たり前。そんな労働実態だ。
 本来ならば、荷主企業と消費者と、それを運ぷ運送会社は対等でなければならない。それが、荷主企業と消費者の立場ばかりが強くなり、運送会社は安く買い叩かれるようになってしまった。なぜか。

☆ 法改正による物流業界の価格破壊

 1990年の「物流二法による法改正」がきっかけではないか。
 それまで貨物自動車運送事業は、従来免許制だったが、許可制に変更、需給調整による経済的規制を原則廃止し、事業運営や安全管理の能力があれば参入を認めた。
 それにより新規参入がしやすくなった結果、事業者が増えすぎ、低価格競争が激化した。これが運転手の賃金低下や労働環境の悪化を招いた。

☆ 低い賃金がさらに中抜きされる現状

 加えて、運送業界は多重下請け構造にある。同業者間でも「下請けいじめ」が起きやすい。
 運送業界にはトラックを持たない仲介業者が数多く存在し、仲介料としてどんどん運賃を中抜きしていく。正常な状態に是正しなければ、末端の労働者は賃金が目減りする一方になる。
 要は中抜(ピンハネ)が常態化している。孫請け、ひ孫請けの仕事なんて当たり前で、最終的に荷物を運ぶ末端の運送会社やドライバーなんて、「一体この荷物の”本当の”荷主はどこなのか」全くわからない。
 それでも「この仕事をやらなければ、次に仕事がなくなる」と足元を見られ、いくら低い運賃でも走らなければいけない状態になり、低価格競争が激化した。
 その一端として「深夜の高速割を狙って、大型トラックによる高速ETC料金所大渋滞」という現象が起きている。これは、高速道路料金深夜割を使い高速道路料金を節約するからだ。
 荷物を運ぷ際に利用する高速道路料金は運送会社負担=ドライバー負担だ。時間通りに安全に(荷崩れなどを起こさず)荷物を客先に、それも日本全国どこまでも届ける。
「それが絶対」となると、どうしても高速道路を使わざるを得なくなる。それでも少しでも運賃を残したい、ということで高速道路料金深夜割を使う。
 深夜を走るので当然1日の拘束時間は長くなり、重労働低賃金の労働環境が出来上がる。(続く)

※ かい・まさやす
 トラックドライバー歴20年。2023年の統一自治体選挙で、東京都三鷹市議選に挑戦したが、惜敗。現在は新しい職場で、トラックドライバーとして頑張る。また、市民活動グループ「#みちばた」で「PFAS」や「東京外郭環状道路」の反対など、様々な社会問題を訴えている。

『週刊新社会』(2023年7月5日)

 


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