某前大臣のG7での醜態については、連日、マスコミや野党は鬼の首を取ったかのような騒ぎようだが、クールさを誇る(?)このブログまでが、それに便乗して取り上げてしまうのは、いささか忍びない気がする。
とはいえ、「ニュースな日本語」の存続の危機にあって、やはり格好の素材であるのは間違いなく、あえて言及してみることにした。
今回は、「酒」「薬」のほか「酔う」「恥」なども候補に上ったが、いずれも語源的にはっきりしない言葉ばかりで、苦戦を強いられた。たとえば、「薬」は、「奇(く)しくも」の「くし」からきたとか、「草摺(す)り」から来たとか言われているのだが、今ひとつ、ピンとこない。
一方の「さけ(酒)」の場合、「さ」は接頭辞にすぎず、本体は「け」で、器に入った食べ物の意味を持っており、また「おみき(神酒)」の「き」、あるいは 「かむ(醸)」(米を噛んで発酵させて酒を造ったことによる)や「かもす」 の「か」とも同根だとされている。
ここで、日本人が酒を歌った最初の記録を古事記にたどれば、応神天皇の歌に
須須許理(すすこり)が 醸(か)みし御酒(みぐし)に われ酔ひにけり
事無酒笑酒 (ことなぐしゑぐし) に われ酔ひにけり。
ススコリ(百済の国の使い)が 醸造した酒に われは酔うたぞ
憂きこともなき酒 顔もほころぶ酒に われは酔うたぞ
とあり、なんと、ここでは、酒は「くし」と呼ばれ、解釈次第では薬と同様、「奇妙」なものとして扱われていることになり、前大臣の「風邪薬を飲んだ」という弁明とも「奇妙」に符合するわけである。
というより、当時は薬と酒の区別がはっきりしなかった、おおらかな時代だったというべきなのだろう。(まさか、ススコリとはソムリエの別名で、彼の出した酒がワインだったわけなどないのだろうが)
ここまで書いてきて、いい加減な私などはそう難しく考えずに、「酒」は「避ける」や「裂ける」と、「薬」は「屈する」と、「酔う」は「世を憂う」と同根だと断言してしまいたい気がしてきた。
いずれにせよ、ワイングラスの中の嵐にすぎないスキャンダルである。
ここで終わらせるのは少しもったいないので、唐突ながら次の一節を加えておこう。先日、NHKのETVで、辺見庸「しのびよる破局のなかで」を見た。
http://www.nhk.or.jp/etv21c/backnum/index.html
その中で、辺見は今日のグローバルな経済不況を鳥インフルエンザなどのパンデミック(感染爆発)になぞらえ、カミュの「ペスト」に登場する医師リウーの次のような発言に注目している。
ペストの感染が激しい状況では、誠実さだけが有効なのだ。
確かに重い言葉である。いかに財政通、経済通であろうとも、今日の異常な深刻さを克服していくには、まずは凡庸な誠実さで対処していくことから始めなければならないのではあるまいか。
とはいえ、「ニュースな日本語」の存続の危機にあって、やはり格好の素材であるのは間違いなく、あえて言及してみることにした。
今回は、「酒」「薬」のほか「酔う」「恥」なども候補に上ったが、いずれも語源的にはっきりしない言葉ばかりで、苦戦を強いられた。たとえば、「薬」は、「奇(く)しくも」の「くし」からきたとか、「草摺(す)り」から来たとか言われているのだが、今ひとつ、ピンとこない。
一方の「さけ(酒)」の場合、「さ」は接頭辞にすぎず、本体は「け」で、器に入った食べ物の意味を持っており、また「おみき(神酒)」の「き」、あるいは 「かむ(醸)」(米を噛んで発酵させて酒を造ったことによる)や「かもす」 の「か」とも同根だとされている。
ここで、日本人が酒を歌った最初の記録を古事記にたどれば、応神天皇の歌に
須須許理(すすこり)が 醸(か)みし御酒(みぐし)に われ酔ひにけり
事無酒笑酒 (ことなぐしゑぐし) に われ酔ひにけり。
ススコリ(百済の国の使い)が 醸造した酒に われは酔うたぞ
憂きこともなき酒 顔もほころぶ酒に われは酔うたぞ
とあり、なんと、ここでは、酒は「くし」と呼ばれ、解釈次第では薬と同様、「奇妙」なものとして扱われていることになり、前大臣の「風邪薬を飲んだ」という弁明とも「奇妙」に符合するわけである。
というより、当時は薬と酒の区別がはっきりしなかった、おおらかな時代だったというべきなのだろう。(まさか、ススコリとはソムリエの別名で、彼の出した酒がワインだったわけなどないのだろうが)
ここまで書いてきて、いい加減な私などはそう難しく考えずに、「酒」は「避ける」や「裂ける」と、「薬」は「屈する」と、「酔う」は「世を憂う」と同根だと断言してしまいたい気がしてきた。
いずれにせよ、ワイングラスの中の嵐にすぎないスキャンダルである。
ここで終わらせるのは少しもったいないので、唐突ながら次の一節を加えておこう。先日、NHKのETVで、辺見庸「しのびよる破局のなかで」を見た。
http://www.nhk.or.jp/etv21c/backnum/index.html
その中で、辺見は今日のグローバルな経済不況を鳥インフルエンザなどのパンデミック(感染爆発)になぞらえ、カミュの「ペスト」に登場する医師リウーの次のような発言に注目している。
ペストの感染が激しい状況では、誠実さだけが有効なのだ。
確かに重い言葉である。いかに財政通、経済通であろうとも、今日の異常な深刻さを克服していくには、まずは凡庸な誠実さで対処していくことから始めなければならないのではあるまいか。