私にとって非常に間接的な形であるが、「命の超恩人」とでもいうべき方が、日大医学部教授の林成之教授だ。
私が心筋梗塞による心肺停止状態で路上で倒れたとき、搬送された日大病院で施されたのが脳低温療法(昏睡状態患者を知能障害なしに治すことが出来る)で、林教授はその開発者だ。
林教授は、生命倫理学者の森岡正博氏との対話で次のように語っている。
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(心臓が止まった患者さんに対して)僕らは医学の常識を破って、対外ペースメーカーで心臓を動かしながら、心臓が止まった原因の心臓の栄養血管(冠状動脈)の閉塞部位を体外バルーン法で、心臓への血流を回復させた後、脳低温療法で脳の回復治療を始めました。
すると、心臓は止まったままなのに、翌日、脳波が出てきました。
それで、いつまで治療を続けるか討議になりました。
僕は、「脳波が出ているから、止めたら殺人罪になる」といいました。
しかしみんなは、「心臓が止まったらそれは『死』だと社会的には言われています」という意見で、結局紛糾しました。
どうしたらいいか結論が出ないので、「いけるところまでいく」と、自分が責任とるかたちで決めさせていただきました。
ところが、4日後に心臓が動き出して、その患者さんは結局社会復帰しました。
(「脳科学は何を変えるか」)
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じつは、私も3日間、生死の境をさまよったのだから、読んでいくうちに、とても人ごとではないような気になってきた。
それにしても、脳というものがいかに可塑性に富んだものか!
実際、脳の温度を調整することによって、脳細胞の再生の試みもされているということだ。
さて、同じ対談の中で、林教授の若かりし頃の輝かしい(?)武勇伝も語られていた。
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僕はアメリカで、3時間睡眠の状態で研究を1ヶ月続けていたら、ストレスで突発性心停止を起こし8秒近く、心停止したことがありました。
そのあと、1ヶ月近く、廃人になりました。
あんなに情熱を燃やした学問がどうでもよくなり、医療もどうでもよくなり、ひたすら「人がいるところで死にたい」とのみ、思っていました。
生死をさまよった自分が感じたのは、人間はやっぱり生き物だということです。
そんなに立派なものではありません。心臓が止まると、焦ります(笑)。
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なるほど、こんな経験がやがて脳低温療法に結実したのかと、腑に落ちた次第である。
さて、そんな先生の人柄は次のような部分にも現れているのではないだろうか。
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「頭が良くなる」とは、記憶力や、そんなことだけで決まっているのではなくて、いかに新しいものを生み出すかとか、いかにすばらしい気持ちを持てて、その人がいるだけでみなが幸せになるだとか、そういう総合的なことをいうのだと思います。
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「頭の良さ」とは人を幸せにさせる力であるという説は、意外であるが新鮮でもある。
あるいは、私も他人を幸せにする「良き頭(脳)」を持っているのかもしれない。
自分の命がよみがえったことをいまさらながら感謝し、喜びたい気持ちがしてきた。
私が心筋梗塞による心肺停止状態で路上で倒れたとき、搬送された日大病院で施されたのが脳低温療法(昏睡状態患者を知能障害なしに治すことが出来る)で、林教授はその開発者だ。
林教授は、生命倫理学者の森岡正博氏との対話で次のように語っている。
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(心臓が止まった患者さんに対して)僕らは医学の常識を破って、対外ペースメーカーで心臓を動かしながら、心臓が止まった原因の心臓の栄養血管(冠状動脈)の閉塞部位を体外バルーン法で、心臓への血流を回復させた後、脳低温療法で脳の回復治療を始めました。
すると、心臓は止まったままなのに、翌日、脳波が出てきました。
それで、いつまで治療を続けるか討議になりました。
僕は、「脳波が出ているから、止めたら殺人罪になる」といいました。
しかしみんなは、「心臓が止まったらそれは『死』だと社会的には言われています」という意見で、結局紛糾しました。
どうしたらいいか結論が出ないので、「いけるところまでいく」と、自分が責任とるかたちで決めさせていただきました。
ところが、4日後に心臓が動き出して、その患者さんは結局社会復帰しました。
(「脳科学は何を変えるか」)
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じつは、私も3日間、生死の境をさまよったのだから、読んでいくうちに、とても人ごとではないような気になってきた。
それにしても、脳というものがいかに可塑性に富んだものか!
実際、脳の温度を調整することによって、脳細胞の再生の試みもされているということだ。
さて、同じ対談の中で、林教授の若かりし頃の輝かしい(?)武勇伝も語られていた。
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僕はアメリカで、3時間睡眠の状態で研究を1ヶ月続けていたら、ストレスで突発性心停止を起こし8秒近く、心停止したことがありました。
そのあと、1ヶ月近く、廃人になりました。
あんなに情熱を燃やした学問がどうでもよくなり、医療もどうでもよくなり、ひたすら「人がいるところで死にたい」とのみ、思っていました。
生死をさまよった自分が感じたのは、人間はやっぱり生き物だということです。
そんなに立派なものではありません。心臓が止まると、焦ります(笑)。
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なるほど、こんな経験がやがて脳低温療法に結実したのかと、腑に落ちた次第である。
さて、そんな先生の人柄は次のような部分にも現れているのではないだろうか。
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「頭が良くなる」とは、記憶力や、そんなことだけで決まっているのではなくて、いかに新しいものを生み出すかとか、いかにすばらしい気持ちを持てて、その人がいるだけでみなが幸せになるだとか、そういう総合的なことをいうのだと思います。
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「頭の良さ」とは人を幸せにさせる力であるという説は、意外であるが新鮮でもある。
あるいは、私も他人を幸せにする「良き頭(脳)」を持っているのかもしれない。
自分の命がよみがえったことをいまさらながら感謝し、喜びたい気持ちがしてきた。