神田川に架かる橋の一つに「面影橋」というのがある。
「面影橋」という名だけでも由緒と情緒を十分に感じさせるが、桜の満開に咲き誇る頃、川沿いは見事な光景を映し出す。
私はその橋の名を「面影橋から」という昔のフォークソングで知るばかりだった。
しかし、それが東京に実在することをある女性から教えられ、いつか案内してほしいと頼んでいた。
先日、その女性に声をかけられ、夜桜を見ながら橋の周辺を二人で歩くことになった。
女性と知り合ってからすでに二十年近くの歳月が流れているーーあどけなさの残る女子大生から、すっかりキャリアウーマンに変貌した彼女の語る話は、夜桜の雰囲気とは場違いな仕事のことばかりで、職場から持ち帰った資料を入れたバッグを重そうに持ち歩いていた。
彼女の話によれば、男女共同参画社会のなかで、覇気のない草食系の若い男性を牽引する立場に立たされているというのだ。
紙媒体の時代からウェブの時代へと変化する情報産業の双方に精通する存在として重宝がられている彼女の姿からは、目立たないながら、現代日本の象徴的な一面が垣間見えたような気がした。
一方、彼女の話を聞く私はといえば、いまだに優しく奥ゆかしい女性の面影を探し続ける自称「旅人」のままである。
往時、こんな歌を作っていたのを思い出す。
どうやら時代はすっかり変わったようだ。
抒情などというものが存在価値を持ち得ない社会になるのも、もうすぐかもしれない。
できれば、「面影橋」という名にふさわしい感慨に浸ってみたかったのだが、その夜は、何かに追い立てられるようにして、都会の喧騒に戻ることとなった。
「面影橋」という名だけでも由緒と情緒を十分に感じさせるが、桜の満開に咲き誇る頃、川沿いは見事な光景を映し出す。
私はその橋の名を「面影橋から」という昔のフォークソングで知るばかりだった。
しかし、それが東京に実在することをある女性から教えられ、いつか案内してほしいと頼んでいた。
先日、その女性に声をかけられ、夜桜を見ながら橋の周辺を二人で歩くことになった。
女性と知り合ってからすでに二十年近くの歳月が流れているーーあどけなさの残る女子大生から、すっかりキャリアウーマンに変貌した彼女の語る話は、夜桜の雰囲気とは場違いな仕事のことばかりで、職場から持ち帰った資料を入れたバッグを重そうに持ち歩いていた。
彼女の話によれば、男女共同参画社会のなかで、覇気のない草食系の若い男性を牽引する立場に立たされているというのだ。
紙媒体の時代からウェブの時代へと変化する情報産業の双方に精通する存在として重宝がられている彼女の姿からは、目立たないながら、現代日本の象徴的な一面が垣間見えたような気がした。
一方、彼女の話を聞く私はといえば、いまだに優しく奥ゆかしい女性の面影を探し続ける自称「旅人」のままである。
往時、こんな歌を作っていたのを思い出す。
──時は流れ、いまは春 夢はるかに かすみ立つ
雲は流れ 鳥は歌い 何思う 旅人よ
見つめ合った 瞳の奥の 愛は幻か
花の園を さまよえば──
雲は流れ 鳥は歌い 何思う 旅人よ
見つめ合った 瞳の奥の 愛は幻か
花の園を さまよえば──
どうやら時代はすっかり変わったようだ。
抒情などというものが存在価値を持ち得ない社会になるのも、もうすぐかもしれない。
できれば、「面影橋」という名にふさわしい感慨に浸ってみたかったのだが、その夜は、何かに追い立てられるようにして、都会の喧騒に戻ることとなった。