おかもろぐ(再)

趣味のブログ

日野日出志「つめたい汗」

2011-03-23 19:59:27 | 日野日出志
 なんとかMacの古いOSを起動させることが出来ました。そしてようやく以前紹介した日野日出志「ホラー自選集」のCD-ROMを読むことが出来ました。このディスクには全部で18話収録されています。その第1話がデビュー作の「つめたい汗」です。

 この作品は16ページの短編で、しかもホラー漫画ではなく、時代劇のような舞台設定です。絵柄は一見ギャグ漫画のようで、後の日野日出志の人物造形とはやや異なりますが、シルエットを多用したり緩急のあるコマ運びだったりする表現力は既に完成しているように思われます。

 夏、暑さにイライラし始めていた浪人はそれを自覚し、落ち着くように自分に言い聞かせます。そして村の茶屋に入ってスイカを注文します。茶屋の中にはたくさんの村人がスイカを待って座っていました。浪人は外に面した暑い席に座っており、太鼓を叩いている宗教か何かの行列が進んでいくのをぼんやりと眺めています。



 このページでは話が全く進んでおらず、暑さと待ち時間の長さが強調されていて浪人のイライラを見事に表しています。まるで映画を見ているようでもあります。4コマ目に上空(太陽?)からの視点がありますが、この作品では同様の視点が多く見られます。その後の日野作品にはあまり見られない技法ですが、このあたりも映画を意識したものかもしれません。

 その後、浪人は店のおばあさんに文句を言ったり、ぶつかってスイカを台無しにした村の子供達に怒りを募らせたりしますが、涼しい席に陣取って昼寝をしている村人に怒りの矛先を向けます。浪人が村人を起こそうとしてゆすったところ、浪人は顔面に放屁を浴びてしまうのです。ここでちょっとコミカルな展開になるかと思いきや、怒りが爆発した浪人は問答の末にその村人を斬ってしまいます。それを見ていた通りすがりの武士が浪人を許すことが出来ず、二人は決闘することになります。



 ここでも暑さと間の表現が前面に出ており、暑さと冷静さが対照されています。他人事のような蝉の「ミーンミーン」の鳴き声も、逆に緊張感を高めています。

 そして武士に斬られた浪人が現実から逃避するようなセリフを吐きます。そしてこれまでの出来事が全て夏の暑さに融かされてしまったかのように、感慨のない結末を迎えます。実時間にしておよそ30分に満たないであろう出来事のお話です。

 絵柄こそ漫画的ですが、視点や間などは熟考されているという印象です。そして暑さで浪人が狂気に走るという展開は、その後の日野日出志作品の原型となったに違いありません。日野日出志ファンならぜひ読みたいデビュー作です。


日野日出志作品紹介のインデックス


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
素晴らしい (manken99)
2011-03-25 00:57:01
 この間の取り方、作品世界を現実の様に読者に体感させる技法は、とてもデビュー作とは思えない出来。恐らくは研究に研究を重ねて苦労して完成に漕ぎ着けたのではないかと思いますが、特に意識せず感覚的にこういった描き方が出来たならば、もはや手塚や石ノ森クラスと言っても過言ではありません。影の多用、アングルを様々に変える演出は、読者を不安にさせる効果があり、「ホラー」とまでは言えないものの、何処か怪奇な話である事は間違い無い様です。
返信する
驚きです (おかもろ(再))
2011-03-25 11:41:00
 漫研さま、コメントありがとうございます。当時は一作毎にものすごい時間をかけて何度も直しながら描き上げたようで、大変な努力家かつ職人的なこだわりのある方のようですね。CD-ROMのインタビューでは、元々映画監督になりたかったが漫画家なら一人でもできるかも知れないと思った、とのことでした。どうりで映画的なわけです。
 この作品ですでに見られるシルエットは、人物の動き(あるいは静止した時間)が感じられると同時に、心の中の焦りのようなものも表していて、確かに非常に不安定な画面になりますね。読み終わっても気分がすっきりしないという点においても、ホラーへの方向性を示していたように感じます。
返信する

コメントを投稿