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日野日出志「鶴が翔んだ日」

2012-05-27 22:29:55 | 日野日出志
 日野日出志「ホラー自選集」の第16話は「鶴が翔んだ日」です。この作品はホラーというよりは民話のようであり、そこに現代社会の影の部分を重ねるという作風になっています。以前紹介した「白い世界」に雰囲気が似ています。

 鶴が飛来する北国の村に、病気で寝込んだままの少女がいました。少女はいつも障子を開けて鶴を眺めるのが好きでした。ただ、鶴の数が毎年減って来ていることに少女は気づいていました。



 墨絵のような鶴をはじめ、丹誠込めて絵が描かれています。左ページ一コマ目の天井の梁が入った構図も面白いし、間を感じさせるテンポはいつもながら見事です。

 少女には不思議な力がありました。折り鶴を折ってそっと飛ばすと遠くに飛んで行き、数日後に少女の夢を乗せて帰って来るのでした。帰って来た折り鶴を枕元において眠ると、折り鶴が運んで来た夢を見ることができました。



 この見開きはなかなか不思議な風景です。特に右ページ、飾られた折り鶴のイメージ、夕日にかかった雲の表現など、他ではあまり見たことがありません。

 ところがある朝、全ての鶴が外で死んでいたのです。病気の体をおして鶴に駆け寄った少女は肺炎にかかってしまうのです。今夜が山と言われた晩、少女は夢を見ます。それは自分が鶴になって空を飛ぶというものでした。



 この見開きでは夢の中ということなのか、活字のフォントが丸文字に変わっています。鶴もどこか漫画的になっています。この作品で最もほのぼのとししている瞬間です。

 翌朝、鶴になったと母親に伝えた少女はそのまま亡くなってしまいます。少女の葬儀が執り行われる中、棺を引く馬が突然暴走して棺が機に当たって壊れたかと思うと、棺の中から鶴と無数の折り鶴が飛び立つのでした……。

 この作品はホラーっぽい部分はありません。山形県を思わせるような北国を舞台にした民話のようなテイストで、絵も静的な印象を受けます。そしてここで見られたような静かな雪のシーンは、こののちに「地獄変」で狂気の結末となって帰って来るのです。


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4 コメント

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「め」は平仮名でしたね (おかもろ(再))
2012-06-04 22:28:19
 漫研さま、コメントありがとうございます。「百本めの針」をお持ちとはさすがです。確か楳図かずおの初期短編集ということと、表紙のインパクトとで思わず買った憶えがあります。私は他の収録作を思い出せないのですが、なぜか「地蔵の~」だけは記憶に残っています。絵柄も少年漫画のようでした。おっしゃるとおり、それが何かの教えになっているでもなく、こんな不思議なことがあったというだけの話。「鶴が翔んだ日」も寓話ではなく、淡々と、それでいて美しい話です。「人魚物語」も美しそうな作品ですね。
 私はノベルゲームが特に好きというわけではないのですが、ヴィジットのノベルゲームにはなぜか奇妙な存在感を感じまして、おそらく漫研さまにも察していただけるかと思います。「我が社はノベルゲームにかけている!」という雰囲気でしょうか…。だとしても、昔はどこにでもたくさんあったので、こんなに見つかりにくくなるとは私も予想できませんでした。共にコンプリート目指しましょう。手放したものもまた買い直したくなりましたが、「あらしR」をまたプレイするのもちょっと…、という躊躇もあります。
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楳図作品の中でもマイナー所 (manken99)
2012-06-04 18:39:00
 「百本めの針」は私も持っているのですが、読んだのは随分前になるので、他の収録作品に関しては忘れてしまっていました。「地蔵の顔が赤くなる時」、そう言えばそんな作品もありましたね。教訓がある様な無い様な、恐怖物の様なそうでない様な、そういった明確な区分が難しい所も確かに昔話風であった様に思います。今回のコメントを書いていた時に私が漠然と思い浮かべていたのは、「人魚物語」という悲しい恋愛物で、これも読み終わった時に「昔、何処かの村でこんな事があった」という寂しい様な懐かしい様な、そういう余韻が残る「現代版の童話」とでも言うべき不思議な内容の作品でした。

 ところでヴィジットのノベルゲーム、友達にあげてしまった「最終電車」を含めても、私が過去に所有していた物は8作品中3作品でしかなかった訳ですが、残りの5作品も何とか全部入手して、私もコンプリートを目指してみたいと思います。「あかずの間」は一時期、一軒のゲームショップに何本も並んでいた事もあったのですが、今では全く見掛けなくなってしまいましたね。一方、過去の漫画のリバイバルブームに乗って価値が上がり、プレミア価格になるのではと、私がゲームクエストの感想中でも予想していた「ゲームセンターあらしR」は、凄い安値でよく見掛けるので、自分の見立てが甘かった(と言うか、丸っきり外れてしまった。むしろ他の作品の方が今後安く見掛ける可能性が高いと、その時は思っていたので…)事を、今更ながら恥ずかしく思っている次第です。
 「あかずの間」と「上野発夜光列車」、入手してクリアされたら、是非又感想を上げて下さい。楽しみにしています。
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少女漫画、との言に納得です (おかもろ(再))
2012-06-03 09:29:47
 漫研さま、コメントありがとうございます。少女の身に起きたことは不幸ではありますが、救いがあり、余韻があります。絵柄も美しく、棺から鶴が飛び立つシーンは見事です(あえて掲載しませんでしたが)。
 私が昔持っていた楳図かずおの本に「百本目の針」というものがあり、その中に昔風の短編がありました。地蔵の顔が赤くなった時に津波が来るというものだったと記憶しています。昔話(的な作品)には、テクノロジーのない時代日本人が自然や社会とどのように付き合って来たかを、ショッキングな描写によって印象的に伝える役割があるのかもしれません。今思えば、「まんが日本昔話」にもそのような作品が多かった気がします。
 話は変わりますが、ヴィジットのノベル系ゲームは中古ショップでもあまり見かけませんね。あるのは「ゲームセンターあらしR」ばかり。残りの「あかずの間」と「上野発夜光列車」をクリアしてコンプリートしようかなという気になったのですが…。
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優しさに涙する (manken99)
2012-06-02 21:27:17
 悲しくも美しく、読後感も決して悪くはない、不思議な話です。ホラー漫画家の大御所の作品には、ホラーとは言えないまでも、何処か不思議で怪奇な話というのが、時々混じっている事がありますよね。楳図かずおや犬木加奈子の作品にも、童話や昔話をモチーフにしたり意識した物がありますが、童話とか民話・昔話そのものに、何処かそうした不思議感や怪奇感みたいな物が付き纏っていて、それを上手く取り入れる事が出来た場合に、今回のこの「鶴が翔んだ日」の様な、短くも心に残る名作が生まれるのではないかといった気がします。
 少女漫画は元々悲しいメロドラマが中心だった訳ですが(「鶴が翔んだ日」は少女漫画だと断定します)、主人公を理不尽な酷い目に遭わせ続けてでも無理矢理読者を泣かせるといった物とは違い、この様に「悲惨さ」ではなく「優しさ」に涙する様な作品は、本当に優しい気持ちを持った人物にしか描けないのではないかと思いました。
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