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日野日出志「はつかねずみ」

2011-05-18 22:59:03 | 日野日出志
 日野日出志「ホラー自選集」の第5話「はつかねずみ」です。私にとってこの作品も(いい意味で)しんどい部類に入ります。得体の知れない恐怖ではなくて、「はつかねずみ」という明確な対象がおり、読んでいると生々しい嫌悪感と怒りを抱いてしまうのです。



 作品は全編が主人公の回想からなっていてます。冒頭で主人公の少年がペットショップに立ち寄ったがために地獄の日々が始まったことが暗示されます。店ではトカゲの餌にするためのはつかねずみが飼育されていて、少年はそれらをつがいでもらってきました。

 少年と妹ははつかねずみを大変に可愛がっていました。そしてはつかねずみに子供たちが生まれたのですが、子育てにナーバスになっていたのか、はつかねずみは少年の指を噛んでしまったのでした。それに怒った少年は数日間餌を与えませんでした。すると一匹のはつかねずみが連れ合いと子供たちを食べ尽くして逃げてしまったようなのです。それと同時にペットショップも引っ越してしまいました。



 全てのはつかねずみがいなくなって落ち込んでいた兄妹を両親が元気づけているシーンですが、それにしては背景は真っ暗だし、あまりにも異様な絵柄になっています(特に最下段の3コマ)。コマの「間」が絶妙なだけに、歪んだホームドラマという印象を与えるページです。

 さて兄妹は小鳥を買ってもらうのですが、その小鳥が無惨な姿になっていました。犯人は逃げたはつかねずみです。少年が捕まえようとすると……。



 あえてショッキングなページをピックアップしますが、ここで見られる少年の顔の造形、色使い、ねずみの目つき、畳に真っ暗な背景、いずれも鬼気迫るものがあります。

 ある日、大きくなって暴れ回るはつかねずみを退治しようとお父さんが猫をもらってきました。



 はつかねずみが割とリアルに描かれているのに対し、猫の造形がひどいです。お父さんの顔のシルエットも凶悪で、一家の悪意が滲み出ているようです。ですがこれは徒労に終わるどころかはつかねずみの怒りを買い、さらに図体が巨大になってやりたい放題で、一家を支配していきます。一家は一計を案じて生け捕りに成功するのですが……。



 はつかねずみも怖いですが、この一家も相当怖いです。セリフのテンポや言い回しもいいですね。これでひと思いに処分していればそれで終わりだったのですが、一家が余裕をかましているうちに檻が壊されてしまい、報復として生まれたばかりの赤ん坊がはつかねずみに噛み殺されてしまいます。

 そして最初の見開きページと似たページが最後に再び現れます。日野日出志の作品にはこのように最初と最後が繋がっているものが多く、それによって恐怖が循環していることを暗示しています。

 もとは少年がはつかねずみを追いつめたのが悪いのですが、はつかねずみの凶暴化のエスカレートぶりがあまりにも恐ろしく、屈辱的です。そんなこともあって、この作品は読めば読むほどしんどくなります。だからこそ忘れたくても忘れられない強烈な印象のある作品なのですけど。日野日出志の他の怪奇作品とはやや異質ですが、絵柄や話の展開は相当に作り込んでいて、やっぱり日野日出志だと唸らざるを得ません。



 余談ですが、Wiiで出ているネクロネシアというゲームでは日野日出志がイメージビジュアルを担当していました。誰か持っていらっしゃるでしょうか?


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4 コメント

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この作品は… (manken99)
2011-05-20 23:39:34
 狙って陰鬱に、且つ嫌悪感をもよおす様に描いたという印象がありますね。これは私も読みましたが、ねずみの餌として腐肉を用意させられる所、排泄物を処理させられる所など、きつい描写のオンパレードでした。何も解決せずに終わっている所が、また何とも…。一度見たら忘れられない凄まじいインパクトがあり、子供の頃に読むとトラウマになってしまいそうなのですが、「その様な効果を狙って描いた作品」としての出来はやはり白眉であり、自分も読んできつい思いをしたにも関わらず、誰かに薦めたくもなってしまうのです。

 ところで「ネクロネシア」は私持っていてクリアもしたのですが、日野日出志先生が関わっておられたとは知りませんでした。その事を意識しながら改めてPLAYしてみるのも、また違った楽しさがあるかも知れません。リンク先も見てみましたが、「蟲子」は単純ながらも「ネクロネシア」の売りである生理的嫌悪感に焦点を当て、ゲームの宣伝用アンソロジーコミックとしても、ゲームとは無関係な独立した作品としても良く出来ている様に思いました。「零~刺青ノ聲~」のアンソロジーコミックを御茶漬海苔先生が描いていたこともありましたが、こうした試みは面白いと思います。
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狙いが大当たりですね (おかもろ(再))
2011-05-21 14:04:07
 漫研さま、コメントありがとうございます。確かに嫌悪感が尋常ではなく、しかもそれがある種のリアリティによってもたらされていますね。そして妙に歪められた絵柄がリアリティとミスマッチして破壊力を増大させているようです。漫研さまが購入された「Holy」に他の大作家と並んでセレクトされたのも頷けます。

 さらにそれだけでなく、生き物を飼うのには餌の準備や糞の始末は必要で、それができないなら生き物を飼うなというメッセージもひょっとしたらあるのかもしれません。執筆時期が近い「博士の地下室」(いずれも1970年)とも共通した「人間が他の生き物を軽々しく扱ってはならない」というテーマ性を感じます。

 「ネクロネシア」をクリア済みとはさすがです。日野日出志作品には蟲がしばしば登場しており、夢と現実の境界が崩壊する展開と合わせて、「蟲子」は日野日出志作品の王道とも言えるでしょう。「ぞわぞわ」という書き文字の字体も外せません。ご存知のように氏は映像作品やゲームなどの多方面に興味があるとのことなので、さらなる活躍を期待したいですね。
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Unknown (Unknown)
2014-03-29 00:24:59
兄妹の近親相姦的なイメイジあの絵柄で
彷彿させて陰鬱な時代背景により不愉快さを
増幅させていますね
個人的には粘土でこしらえたネズミ様の棲みかが
気持ち悪さナンバーワンですね
当時の年度臭かっただろうし
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確かに臭そうです (おかもろ(再))
2014-03-29 09:43:01
 Unknownさま、コメントありがとうございます。じめっとした空気や雑然とした雰囲気、夢のマイホームと仲の良い兄妹と家族。高度成長期の一歩裏手の家庭で起きた不愉快きわまりない事件ですね。
 ゴミや腐敗臭、糞尿に加えて粘度の油臭さまで加わったニオイも想像したくないほどです。恐怖というよりも本当に嫌悪感の方を強く喚起する作品でした。
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