コーネリアス・カーデュー:
・オータム 60
・論文(21、22ページ)
・メモリーズ・オブ・ユー
・マテリアル
・八重奏 '61 ジャスパー・ジョーンズのための
シンセサイザー:ジム・ベイカー
パーカッション:キャリー・ビオロ
トロンボーン:ジェブ・ビショップ
他
HAT HUT: hat[now]ART 150
コーネリアス・カーデューは1936年生まれのイギリスの作曲家。王立音楽アカデミーで正式な音楽教育を受け、前衛音楽を指向します。前衛音楽とは
「音楽を一部の芸術家による支配から開放し、全ての人が平等に演奏・観賞できるようにする」のようなことを目的として、従来の音楽をぶっ壊すために作られた音楽なのです。
このディスクの収録曲も全て前衛音楽で、メロディもハーモニーもリズムもないような、雑音とか騒音レベルのもの。結局のところ何を聴いても区別がつかないゴミのような音楽体験だと感じる人も多いでしょう。このような現代音楽の聴き方は色々あると思いますが、主に「ひたすら純粋に音を聴く」「作曲コンセプトを知る」という二つの態度があるかと考えられます。もっとも、そもそも音楽鑑賞なんて純粋に聴くだけの態度でいいはずですが、彼ら前衛音楽の作曲者は「なんでこんな音楽になったのか」を知ってもらいたいに違いありません。
このディスクに収録されている『論文(Treatise)』に注目してみます。この作品の楽譜はPDFファイルとして公開されているようで、誰でも入手可能となっています。試しに「
cardew treatise」で画像検索すると、
ミステリーサークルのような意味不明な図形がたくさんヒットします。実はこれが楽譜です。こんな落書きみたいなものが延々と193ページも続いていて、しかもそれをどうやって演奏するかが記述されていないのです。つまり、演奏者はこれを見て感じたままにその場で演奏するというのです。
これらのような楽譜を「図形楽譜」といい、前衛音楽ではごく普通に用いられています。カーデューは大体の設計図を図形で示し、それをどのように具体化するのは演奏者に委ねられています。カーデューと演奏者の関係は、まるで
佐村河内氏と新垣氏のようであると言えるかもしれません(実際に佐村河内氏が書いた「指示書」というものは図形楽譜のようでした)。ただし演奏するたびに異なる音楽になるわけで、「単なるデタラメだ」と言われても全くもって否定する事はできませんが……。
YouTubeには楽譜と対応させた演奏の動画がいくつかあるようで、そのうちのわかりやすい一つをここに貼ってみます。また、このディスクでの演奏では無意味な文章の断片を語るナレーションのようなパートも存在し、人間の記憶の宮殿内部のような静謐な音楽になっています。
こういう楽譜はドシロウトでも書けますし(佐村河内氏のように)、演奏する方も高度な技法は不要で自分ができるように演奏すればいいわけです。したがって芸術家と言われる人々でなくとも誰もが作曲・演奏できる音楽であるとは言えます。演奏もメロディアスかつハーモニックおよびリズミカルになってはいけないという規則も無いので、楽しくアドリブで演奏できればいいでしょう。わざわざ難解に演奏する必要はありません。前衛音楽は「普通の音楽」を内包しているのです。
……まあそんな演奏は聴いたことないですけどね。
その後、ぶっ壊すのも音楽だけに飽き足らなかったのか、カーデューは政治家となります。しかも
「国家を一部の資本家による支配から開放し、全ての人が平等に生活できるようにする」といった典型的な極左政党を創設します。音楽についても
極左らしく自己批判したのか今までの前衛を否定し、単純な旋律と伴奏で構成された「人民のための音楽」を目指す事になりましたとさ……。
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