ドミートリィ・ショスタコーヴィチ:
・交響曲第1番 ヘ短調 作品10
・交響曲第9番 変ホ長調 作品70
指揮:ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー
ソビエト国立文化省交響楽団
ビクター音楽産業: VDC-1013
大学時代の生物学の講義、教官の専門分野は
熱帯伝染病、具体的に言えば
寄生虫による感染症。その教官がある日の講義の時に古い8ミリフィルムの教材をもってきて上映を開始。
多くの寄生虫には屋外で過ごす時期があり、動物が近づくと寄生するために活発に活動を開始する。動物が近づいた事がなぜ寄生虫にわかるかというと、動物の呼気に含まれる二酸化炭素を検知しているから。
その実験映像。シャーレの上に小さな寄生虫の群れ。いずれも目立った活動は無い。そこに二酸化炭素を吹きかけると……。
突如として踊るように頭を振り始める寄生虫の群れ!
ポェ~~ッというマヌケな効果音! BGMには
ショスタコーヴィチの交響曲第1番の第2楽章!
……ということをいつも思い出してしまうのです、このショスタコの1番を聴くと。この曲はレニングラード音楽院の卒業作品として書かれたとの事ですが習作といった雰囲気はすでにありません。とにかく才気あふれる曲であり、ナイフで斬りつけてくるような鋭さがあります。まだソビエト共産党にそれほど翻弄されていないせいか、後の交響曲のような死臭を放ってはいません。それでも、皮肉めいた楽想とかスネアドラムのタンタカリズムとか、誰が聴いてもショスタコの作品とわかるほど完成されています。恐ろしい子!
こちらはゲルギエフ指揮の交響曲第1番第2楽章のスケルツォ。ちなみに寄生虫のBGMは0:59から。
このディスクの2曲はどちらもコンパクトな編成で演奏される緻密な楽曲です。カップリングの交響曲第9番は、交響曲第7番および第8番に続く戦争三部作といわれています。この曲は第二次世界大戦に対するソビエト連邦の戦勝記念に「第九」の名を背負った大作として当局に期待されていました。ところが出来上がった曲は戦勝に浮かれるソビエト共産党をおちょくったような、極度に凝縮された皮肉の塊のようなものでした。当局の逆鱗に触れたショスタコは痛烈に批判され(ジダーノフ批判)、芸術家生命どころか生物学的な生命まで断たれかねないところまでのピンチに陥ったのでした。
音楽として聴くと、余分なものを削ぎ落としたアンサンブルの妙が楽しくもあるのですが、愉快なメロディーの裏や合間で流れる不穏な伴奏やスネアのタンタカリズムがソビエト共産党体制下の歪んだ世の中を表しているようです。音楽作品を政治とからめて理解するのは必ずしも妥当ではないのですが、ショスタコーヴィチに関してはとにかくソビエト共産党に目を付けられて何度も粛正されそうになったわけで、もともとどこか屈折した曲を書いていたショスタコが共産党の圧力に心から従うとは思えないのです。
こちらはデュトワ指揮の交響曲第9番の第1楽章。以前の変な動画は削除されたもよう。
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