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ポジティブシンキングという病  №169

2013-02-08 01:32:28 | インポート
 ポジティブシンキングというのは、ある物事に対して肯定的な考え方で対応しようということです。会社をリストラされたり、自分にはなんら落ち度がないのに一方的に非難されたときでも、非難する相手や会社に反論せず、これは自分を成長させてくれるための試練なのだ、と前向きに考えるようにすることをポジティブシンキングといいます。
 一見素晴らしいことのように思えますが、それは組織の欠点や社会のシステムを覆い隠すことにもつながります。会社をリストラされた人に、「失業はあなたにとってむしろ次のステップにキャリアアップするためのチャンスととらえましょう。」とまことしやかに説くことは問題の本質を個人的な問題に矮小化し、批判の目を曇らせてしまいます。
 就職したい、結婚したい、経済的に豊かになりたい等々の望みをもっている人たちに対して、うまくいかないのはあなたの考え方がネガティブだからです。ポジティブな考え方こそ成功の前提条件であり、それさえ満たせばすべてうまくいくというようなセミナーや書物が数多くあります。
 アメリカのコラムニスト、バーバラ・エーレンライクは、「ポジティブシンキングは現実から目を背けさせるためのアメリカにおける『暗黙のルール』」であり、これこそアメリカの病だ。」といっています。
 彼女は乳がんを患ったとき、医療従事者からも、患者同士のサポートグループにおいても、とにかく「前向きな気持ちで治療に取り組むことが治癒への道である」という非科学的な考えを半ば強制されることに憤りを感じたといっています。がんになったおかげで大切なことに気づいたのに、がんになったことに対して怒りや悲しみをすることがタブーになっているのはおかしいのではないか。病気は人間の肉体における非常事態であり、自分の症状や治療法についての正しい情報を得て、病気と闘うための冷静な選択を下すこと、それがよく生きることの大前提だ。情報を遮断し、自然な感情を押し殺し、無理をして明るくふるまうことで事態が好転するのを待つのはばかげているとエーレンライクは思ったといっています。
 なんらかの事情で、不満や不満、憎しみや悲しみ、怒りといった感情に満ちている人間が「ネガティブ」という烙印を押されてしまったら、健全な批判精神は排除され、自分ではどうしようもないことで苦境に立たされている人間が放置されかねないことになります。
 私たちの国でも近年、規制緩和とともに「自己責任」という言葉が語られます。物事がうまくいかないのはあなたの「自己責任」です。きっと考え方が「ネガティブ」だからです。もっと「ポジティブ」に物事を考えるべきですといわれると、反論するのはなかなか難しくなります。その一言で、私たちは社会に対するたくさんの「異議申し立て」を失っているのかもしれません。

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