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向精神薬、多剤大量投与の危険 №213

2014-02-13 12:20:27 | インポート
 2月11日付け読売新聞に、うつ病の薬や睡眠薬を大量に服用して救急医療機関に搬送される患者がかなりの数に上るという記事が大きくとりあげられていました。
 副作用や依存性が強く現在ではあまり処方されていないはずのバルビツール酸系の睡眠薬を大量に服用して死亡したり、重い合併症を起こす患者も少なくないということです。不眠や不安、筋弛緩作用などに処方されるベンゾジアゼピン系の薬を大量に服用し、入院中に興奮状態となって暴れる患者を6割の病院が経験しているということです。
 脳科学者の中野信子博士は「脳内麻薬」(幻冬舎刊)という本の中で次のよう書いています。「向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、気分安定薬、睡眠薬等)は一つの症状に対して多種類存在します。それぞれの神経伝達物質が、脳の異なる場所で様々な機能を果たしていることがあります。したがって、ある神経伝達物質の量を増減する薬を投与すると、必然的にその伝達物質が働いている他の部分にも影響が及びます。向精神薬にとって、副作用は避けがたいのです。ですから効き方の微妙に異なる薬品を多数組み合わせて効果が上がる方法を探るわけです。
 しかし、今度は別の問題が生じます。向精神薬の副作用は、意図しなかった場所での神経伝達物質の増減なので、その症状は何らかの精神病と類似していることが多いのです。統合失調症の治療のためにドーパミンの効果を抑える薬を投与すると、ドーパミンの不足によって起こるパーキンソン病の症状があらわれるのもその例です。そうすると今度はその症状を抑えるために別の向精神薬を投与する必要があります。さらに離脱症状といってある薬の量を減らそうとすると不快な症状が出ることがあります。
 こうなるとどれが本来の症状なのか、副作用なのか、離脱症状なのか見極めにくくなり一度投与をはじめた薬はなかなか止められなくなります。こうして患者が飲む薬の量も種類もどんどん増えていくのが多剤大量処方です。これについては学会や国からも何度も注意喚起されていますが、なかなかなくならないのが実情です。」
 さらに問題なのは、うつ病の薬や睡眠薬を大量に服用して意識を失うなどして倒れても、精神科では「身体のことは診られない」と対応を拒否され、一般病院では、「精神疾患には対応できない」との理由で受け入れを拒まれ、受け入れ先がないということです。
 日本では、人口あたりのベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用量が世界一で、アメリカの6倍とされているということです。依存性があるため海外では処方の目安を4週間程度としているのに対して、日本では手間と時間のかかるカウンセリングなどの心理療法を行う施設が少ないこともあって、半年、1年と長期処方されているのが原因ということです。
 安易に薬に頼らず、カウンセリングによるセラピーもあるということを考えてもらいたいものです。

スピリチュアルペインとは? №212

2014-02-10 17:47:10 | インポート
 スピリチュアルケアはスピリチュアルペインを和らげるための試みとされています。WHO(世界保健機関)は、「健康とは、身体的(フィジカル)・精神的(メンタル)・社会的(ソーシャル)に完全に良好な状態(ウェルビーイング)であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない」と定義しています。
 この定義に対して、オックスフォード大学教授トワイクロス博士が1999年に、「身体的(フィジカル)」「精神的(メンタル)」「社会的(ソーシャル)」の他に、「霊的(スピリチュアル)」という概念を加えるべきだと提唱しました。しかし、この提言は、さまざまの宗教をもつ国、あるいは無宗教の国などの考え方を統一することができず、全加盟国の3分の2以上の賛成がなされなかったため、現在も討議中ということです。
 霊的(スピリチュアル)に良好であるということはどのような状態でしょうか。きわめてシンプルに考えれば、自分という存在に対して不安のない状態とでもいえるのでしょうか。精神的(メンタル)に不安がないと言うよりは、もっと根源的なものと思われます。では、スピリチュアルに苦痛(ペイン)がある状態というはどのような状態でしょうか。
 スピリチュアルペインは、「自分という存在の揺らぎや不安」とでも言ったらよいのかもしれません。宗教家や哲学者でもない私たちは、普段は「何のためにいきているのか」などと深くは考えません。命に関わるような病気や不慮の事故、老いを感じた時のように平穏な日常が破綻するような状況に出会った時、初めて、「なぜ自分は生まれてきたのか」、「何のために生きるのか」、「毎日こんな生活をしていくことに意味があるのか」、「なぜ自分はこんな病気になったのか」、「なぜ今、自分が死ななければならないのか」という問いを発します。
 怪我や疾患などによる身体の痛みのケアには薬を用います。精神的な病やストレスのケアには薬やカウンセリングがあります。失業や障害などによる経済的困窮のケアには社会福祉制度があります。しかし、スピリチュアルペインは、薬や社会制度などで取り除くことはできません。
 スピリチュアルケアについて、「人生のあらゆる事象に意味や価値を見出すことができるような、適切な思考法や有益な情報を効果的に伝えることによって、対象者が自分自身で、「心の免疫力」や「心の自己治癒力」を高めていくよう導くこと。」語っている人がいました。
 自分自身でさえ安易に答えることのできないスピリチュアルな問いに対して、それも、死に直面している人に寄り添いながらその問いの答えを導くためには、人間に対する深い洞察や愛、宗教的なものに対する畏敬や哲学に対する造詣が必要とされるのではないでしょうか。スピリチュアルケアが必要であることに疑問はありませんが、ケアに携わる人を
育成するのは簡単ではないような気がします。 

心の機能の低下と退行 №211

2014-02-03 21:22:20 | インポート
 精神分析理論では、ストレス等により心の機能が低下することを「退行」といいます。ショックな出来事があったり、とても疲労したり、ある特殊な環境に置かれたりすると、知覚、思考、感情、行動をコントロールする「心の機能」が低下します。精神分析学者E・クリスは「退行」を「病的退行」と「自我の安定を図るための一時的・部分的退行」にわけて説明しています。
 病的退行とは、ストレスが加わり現在の状況より以前の状態へ、より未発達な段階へと逆戻りするもので、精神分析では口唇期(1歳位)まで退行するとうつ病、肛門期(3歳位)に退行すると強迫神経症、エディプス期(6歳位)に退行するとヒステリーを発病するというように考えます。
 一時的、部分的退行というのは、健康な自我の一次的・可逆的な退行現象であり、カラオケにいったり、お酒を飲んだり、ゲームに没頭したりしてストレスを発散させ、自我の安定を図ることです。「赤ちゃんがえり」も一時的・部分的退行といえます。
 病気になったり、高齢となってケアを受けることは心の機能が低下し「退行」の要素をはらんでいるといわれています。病気やけがは私たちを欲求不満の状態に置くことになります。この状況で退行が生じてきます。病気やけがに対して回復への不安や痛み、恐怖におそわれ、それを緩和してくれる医師や看護師、家族に依存状態となります。依存は心の中にある幼児体験を呼び起こします。母親に依存していた状態と同様に受動的になるからです。
 その場合、こんなことになった自分を周りの人は陰で笑ったり、悪口を言っているのではないかという「被害者意識」が強いと、「妄想的・分裂的」な精神状態になり、周りの人に迷惑をかけて申し訳ないという「自責的感情」が強いと、「抑うつ的」な精神状態になるといわれています。
 「ケアを受ける人の心を理解するために」(中央法規)の著者、精神科医の渡辺俊之高崎健康福祉大学教授は、介護者や家族はこうしたことを理解した上で、病気やけがで傷ついた人や高齢者の方の「退行」した心の回復に寄り添っていくことが必要だと述べています。