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孤独でいられる能力 №190

2013-06-17 22:10:59 | インポート
 「孤独」は独りでいる状態のことで、「孤立」は人とのつながりが切れている状態のことを言います。孤独は自ら選ぶことができますが、「孤立」は自ら選んだわけではなく、集団から切り離されてしまっている状態です。
 「孤独」ではあっても、いざとなれば、誰かが駆けつけて援助の手を差しのべてくれる状態にあるとき、人は孤独であることに耐えることができますし、むしろ孤独な状態を心地良く感じる場合もあり、「孤独」な時間を求める場合もあります。
 しかし、「孤立」というのは、たくさんの人に囲まれていながらも、誰ともつながりがない状態ですから、望まないのに「孤独」な状態にさせられ、なかなか耐え難い苦しさがあるものと思われます。「孤独」が「孤立」に移行することはあっても、「孤立」から「孤独」に移行することはありません。私たちは、「孤立」を怖れる一方で、「孤独」に耐えうる能力の程度に応じて他者を愛することができるとも言われています。
 では、孤独でいられる能力、独りでいられる能力とはどのように培われるものなのでしょうか。「ひとりでいられる能力」というのは、イギリスの児童精神科医のウィニコットが、幼児と母親の行動を観察することから発見した能力です。「怖くなったらすぐ母親が助けに来てくれる。母親のところへ戻れば自分は安全である。」これを基本的信頼感といいます。この基本的信頼感があるからこそ幼児は、親が何をしているかには注意を払わず、「ひとり遊び」が出来るようになって行くのだということを発見したのです。
 つまり、人間に対する信頼が根底にある人が、孤独に耐えられる能力があるわけなのです。見かけは、独りでいる状態でもその気になれば、親しい人や仲間とつながっている状態にあるとき、人は「孤独」ですが「孤立」はしていません。だから耐えることができるのです。しかし、見かけは、大勢の人と一緒にいても、心のつながりがない場合は、「孤独」ではないかもしれませんが、「孤立」しています。「孤立」は一種の「ひきこもり」状態です。周囲の人に心を開かないとなかなか「孤立」状態からは抜け出せません。「孤独でいられる能力」は、「他者に依存しない生き方」でもあります。
   私は私のために生きている
   あなたはあなたのために生きている
   私はあなたのために生きているわけではありません
   あなたもまた私のために生きているわけではありません
   私は私
   あなたはあなた
   けれど私たちの心がたまたま触れ合うあうことがあれば
   それに越したことはありません
   たとえ心が触れ合うことがなくても
   それはそれで仕方のないことです
             (フレデリック・S・パールズ「ゲシュタルトの祈り」)
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若者は本当に「下流志向」なのか(2)~労働からの逃走~ №189

2013-06-05 16:32:45 | インポート
 若者は消費行動の原理を労働に当てはめ、自分の労働に対して賃金が少ない、十分な社会的威信が得られないことに不満を感じ、努力した分だけ金をくれと、努力と成果の相関を求めています。それが認められないと、賃金が少ないと言って、労働から逃走してしまいます。その考え方の中には、設備投資や利潤を生み出さなければならないという企業体の概念が欠落していると、著者はいいます。
 最小の貨幣で最大の満足を得たいというのが、消費社会のルールです。自分を消費者という立場におけば、自分の労働に見合った対価が得られないと感じればやる気を失ってしまいます。そのため、周囲の人達と円滑な人間関係を築こうとはせず、仕事の質を上げる努力もしません。必然的に人事評価が下がります。すると、若者は職場や環境に不満を感じ、「ここ以外に、もっといい場所があるはずだ。」「自分の能力を発揮できる場所があるはずだ。」と、理想の場所を求めて転職や環境の変化を繰り返す”青い鳥症候群”に陥ります。
 ヨーロッパのニートは移民や貧困という階層化の一つの状況ですが、日本におけるニートのメンタリティは、先に挙げた消費主体、等価交換の発想が幼児期から確立する「幼児期における自己形成の完了」を特徴としているといいます。
 キャリア・アップ、とかキャリア・パス(企業内での昇進を可能とする職務経歴)というのはつきあう相手を上方修正したいということです。こんな仕事をやってられるかという不満がキャリア・アップの原動力の人が周りの人と上手くやっていける訳がありません。また、モチベーションもありませんから、当然評価も低いはずです。今やっている仕事の評価が低い人に、他の企業から、今より良い条件のオファーを受ける可能性は限りなく低いと著者は指摘します。
 内田教授の若者の捉え方も一つの見方とは思いますが、私は今の若者のマインドは、「ゆとり教育」の影響が多いのではないかと思っています。「ゆとり教育」が実施されたのは、小学校・中学校が、2002年4月(平成14年)、高校が2003年4月です。この学習指導要領改定で最も大きかったのは、生徒の評価方法の根本的な変更です。
 それまで、相対評価で序列化されていた生徒が、「意欲・関心・態度」という観点別の3段階と絶対評価による5段階で評価されるようになりました。いわゆる「新学力観」の導入です。絶対評価の導入は、競争原理としての「ナンバーワン教育(相対評価)」から個性重視の「オンリーワン教育(絶対評価)」への転換です。勉強ができなくても、運動が苦手でもそれがあなたの個性だから、「そのままのあなたでいいのよ」というメッセージが与えられたわけです。
 若者は「下流を志向」しているのではなく、ましてや逃走しているのでもなく、学校教育で培われたオンリーワン教育の価値観と企業の競争原理のギャップに納得できない若者たちが、社会の在り方に無言で異議申し立てをしていると考えるべきなのではないでしょうか。現に、ボラティ活動に取り組み、会社を辞め、利潤を追求しないNPO法人を立ち上げて生き生きと活躍しいる若者が多いという報道もあります。
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若者は本当に「下流志向」なのか(1)~学ぶことからの逃走~ №188 

2013-06-04 16:56:40 | インポート
 若者は本当に「下流志向」なのでしょうか?学ぶことによって得られる果実を信じない子どもたちが学ぶことから逃走し、働くことの対価が少なすぎる、と労働から逃走する若者たち。内田樹教授は彼らは努力して下流を志向していると言いますが、本当でしょうか。
  神戸女学院大学の内田樹名誉教授著「下流志向」(講談社刊)のサブタイトルは、~学ばない子どもたち、働かない若者たち~です。著者によれば、今の子どもたちは、家事労働の中で感謝と認知を獲得し、そこから、幼い自我のアイデンティティを確立していくという機会が失われてしまっている。初めての社会経験がお金を使うことになり、消費者マインドの中で育つことになった。そのため、教育の場においても、子どもたちは、買い手、すなわち「教育サービスの担い手」という意識を持っているのではないか。
  教育を権利ではなく、義務だと理解している子どもたちは、僕はこれだけ我慢しているけど、それに対して先生は何をしてくれるの。自分は教育を受ける義務を果たしているのだからその対価をくれと言ってくる。その答えが納得できればやるし、気に入らなければやらない。つまり、消費者マインドとすれば、気に入れば買うし、気に入らなければ買わないということになります。
 「これを学ぶことが何の役に立つのですか。」と、その商品(教育内容)に興味がないふりをすると、先生が教育内容のレベルをディスカウント(低下)してくれる。だから、子どもたちは値切ること、即ち、最小の努力で最大の商品(成績)を手に入れようとする。子どもたちは教室では貨幣をもっていないので、「不快」を示すことで等価交換しようとしているのだ、と著者は説明しています。
 さらに、東大・刈谷剛彦教授「階層化日本と教育危機」(有信堂高文社)の中から、「階層下降することから達成感を引き出す子どもが出現してきた」と、以下のように引用しています。
 相対的に出身階層の低い生徒たちにとってのみ、「将来のことを考えるよりも今を楽しみたい。」と思うほど、「自分には人よりすぐれたところがある。」という根拠のない「自信」が強まる傾向がある。
 グローバル化する社会は、学校で努力しても就職できない人が増大するとしいうリスクを抱えています。努力と成果の相関が崩れ、努力しても必ずしも報われない社会は、二極化し格差社会を生む。上層家庭の子どもは、勉強して高い学歴を得た場合は、そうでない場合より多くの利益が回収できることを信じられる。しかし、下層社会の子はそれを信じられない。学力差ではなく、学力についての信憑性の差が、学ぶことから逃走する子どもを生み出すというのです。
 頑張れば誰も同じような成果を達成できるというのがメリトクラシー(業績主義)の前提だが、努力への動機に階層的な格差があるとすれば、フェアではなく、すでに勝っている者がさらに勝ち続けることを正当化する社会となってしまうのではないか。努力しないのは本人のせいだから、自己責任だと言われるが、自己責任、自己決定は自分でリスクヘッジできない。それゆえに、社会のセーフティネットが必要だと提言しています。
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