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母親との関係に苦しむ人たち №191

2013-07-07 14:08:24 | インポート
 私たちは、「母親というのは無条件で我が子を愛してくれる」ものだという神話を、無意識のうちに持っているものなのかもしれません。だからこそ、その愛情が自分に十分に降り注がれていないと感じたり、愛されていないと感じたりすることによって深く傷つき、時には憎しみさえ抱くようになるのではないかと思います。
 かつて(1979年)愛知医科大学教授久徳重盛氏の著書『母原病 ~母親が原因でふえる子どもの異常~ 』(サンマーク出版)という本がベストセラーになりました。久徳教授は母原病を次のように定義しています。
 「ぜんそくや胃潰瘍の子、熱を出しやすい子などの症状と、家庭内暴力ややる気のない子などの症状とは、表面的に見た 現象は異なりますが病根は同じなのです。いずれも親の育て方の誤りに原因があり、子どもの心身形成・人間形成にひずみができ、その結果、子どもたちに病気や異常があらわれたのものです。育児の中心的役割を果たすのはやはり母親なので「母親が原因の病気」という意味で、私たちは「母原病」といっています。」
  しかし、この考え方は、子育てを母親に押しつけている父親や社会構造に責任はないのかという批判にさらされ急速に説得力を失っていきました。
  「母という病」(ポプラ社刊)を書いた精神科医の岡田尊司先生はもちろんそのことは十分に承知しているものと思います。 久徳教授のように、「母親の育て方」が原因とは書かれていません。母親との関係による影響を次のように指摘しています。
 「幼い頃、母親からよく世話をされ、愛情を注がれて育っていれば、母親との関係は安定したものになりやすい。しかし、不幸にして、母親が他のことに気を取られたり、さまざまな事情で幼いあなたに、気持ちや手をかけることができなかったりするとその関係は不安定なものになりやすい。そして、体や脳や心を形作るかけがえのない時期だけに、その影響は、対人関係の持ち方やストレスへの敏感さ、子どもや異性の愛し方、精神的健康のみならず、身体的健康や寿命、老化の速度にまで影響を及ぼす。」 つまり、母親との愛着関係が十分でなかったことが、境界性パーソナリティ障害や摂食障害、うつや不安障害など、心の病や生きにくさを感じている人たちの原因であるといっています。
 母親もまた、生身の人間ですから、過度に子どもに干渉したり、自己愛的で子どもに興味をもてなかったり、別れた夫に似てくる我が子に複雑な気持ちを抱いたり、育てやすい子とそうでない子を無意識のうちに差別したりしてしまうのは、仕方のないことです。母親自身の生育歴や結婚生活の様々な要因も子育てに影響してくるのも当然です。
 それでも私たちは心のどこかで、無条件で自分に愛情を降り注いでくれる母親幻想を持っているからこそ、「母という病」が存在するのかもしれません。
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