どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

のんき男

2020年03月26日 | グリム

     グリムの昔話2/フェリックス・ホフマン:編・画 大塚勇三・訳/福音館文庫/2002年

 

 グリムの大塚訳では、語られているものとタイトルが微妙にちがいます。

 「りこうなグレーテル」は「かしこいグレーテル」、「熊かぶり」は「熊の皮を着た男」がおなじみのタイトルです。

 この「のんき男」は、イメージしにくいタイトルです。

 御用済みになった兵隊が、四クロイツアーの小銭と軍隊パン一個をもらい歩きだします。

 とちゅう、天国の門の鍵を預かっているペテロが、こじきに姿を変え、のんき男にめぐみをこいます。ずいぶん気前のいい男は、パンのかたまりを四つにわけ、そのうちの一つとクロイツアー銅貨も一枚ペテロにあげます。

 ペテロはそのごも、こじきに姿をかえ、二度もめぐみをこいます。

 そしてペテロはこんどは、お払い箱になった兵隊の姿をして、さらにめぐみをこいますが、この時点では、のんき男もすっからかん。

 ここまでくると、めぐんでくれた見返りに、なにかを与えたり、不思議な力をあたえてくれたりするのが相場ですが、このあと二人は一緒に旅をつづけます。

 途中、ペテロは今にも死んでしまいそうな家の亭主を助けます。ご亭主のおかみさんがおれいをしようとすると、ペテロは断ります。のんき男は、どうしてもとさしだされた子羊を自分がつれていくことで肩に担いで歩きだします。

 肩に担いでいくのは大変、それにおなかもぺこぺこ。子ヒツジを料理しますが、料理の最中、ペテロは、料理ができるまで散歩するから、自分がかえってくるまで食べないようにいいのこします。子ヒツジがすっかり煮えてもペテロはなかなかかえってきません。のんき男は心臓をみつけると、味だめしに食べているうち、全部食べてしまいます。

 ようやくかえってきたペテロが心臓を食べたいというと、のんき男は、子ヒツジには心臓がないと言い張ります。心臓がないなら子ヒツジはいらないというペテロにかわって、のんき男は残りのぶんを背嚢に入れて旅を続けます。

 川をわたることになって、ペテロはなんなくわたりますが、のんき男が渡ろうとすると、水がどんどん増えて首まであがってきます。「助けてくれ!」というのんき男に、「子ヒツジの心臓を食ったって白状するかい?」というペテロに、のんき男が「食うもんか!」というと水はどんどん増えます。けれどもペテロはのんき男をおぼれ死なせようとせず、水をあさくして川を渡らせます。

 こんどは王さまのお姫さま亡くなったいう話を聞いて、ペテロは、死人の手足をばらばらに切り離し、それを鍋にほおりこみ、ぐつぐつ煮て肉と骨が離れると、白い骨を鍋からテーブルの上にのせ、自然のままの順序通りならべると「いとも尊き三位一体の御名において告げる。死者よ、立て!」ととなえます。するとお姫さまは立ち上がります。

 喜んだ王さまから、望むほうびをあげるといわれてもペテロは断ります。王さまはのんき男が、しきりにほしがっているのをみて、のんき男の背嚢に金貨をぎっしりつめこませてやります。

 ほうびをことわったはずのペテロでしたが、森の中に来ると、金貨を分けようといいだします。そして金貨を三つの山に分けます。二人きりなのに三つに分けるというのは合点がいきません。するとペテロさまは「一つはおれの分、一つはおまえの分、もう一つは子ヒツジの心臓を食べた男の分だ!」といいだします。誘導にひっかかったのんき男は、二つの金貨の山をさらい、「子ヒツジにだけ、心臓がないなんてあるはずがない」といいます。ペテロさまは、のんき男に嘘をついたのを認めさせると、ひとりで立ち去っていきます。

 さてこののんき男、お金のあつかいかたをさっぱりしらず、むだづかいしたり、やたらと人にやったりしましたから、しばらくすると、またまた無一文になりました。

 お姫さまが亡くなったある国にやってきたのんき男は、ペテロの真似をして死人を生き返らせようとしますが、うまくいきません。窮地に立ったのんき男のまえに、ふいにペテロさまが除隊兵姿であらわれ、急場をたすけますが、ちょっとでもお礼をねだったり、もらったりしないように言い残して再び姿を消します。それでもしたたかなのんき男は、遠まわしにいったり、うまく駆け引きしたりしたあげく、自分の背嚢に金貨をつめさせることに成功します。

 城の外にまっていたペテロは、のんき男がまちがった道はいらないように背嚢にふしぎな力を与えます。のんき男が背嚢に入れたと願ったものは、なんでもなかにはいってしまうというものでした。

 このあとも金をなくしてしまったのんき男でしたが、宿屋で「あのガチョウの丸焼き二つが、暖炉の戸棚からでて、この背嚢にはいりますように!」というと、たしかにガチョウの丸焼きは背嚢の中にありました。

 ある村で宿屋の亭主から泊めるのをことわられたのんき男は、生きて戻った人はいないという城に泊まることにします。

 ここにいた九匹の悪魔を背嚢にいれて一晩をすごしたのんき男は、鍛冶屋に背嚢を大きいハンマーでぶったたかせます。八ひきは死んでいましたが、一ひきだけは地獄へかえっていきます。

 やがて死期が近いのを悟ったのんき男は、ひろくて気持ちのいい道をとおって地獄へいきますが、地獄の門番は、九ひきめのあの悪魔でした。ひどい目にあった悪魔は、絶対にいれたくありませんでした。

 次に、せまくてでこぼこした道を歩いて天国にやってきたのんき男をまっていたのはペテロさまでした。

 天国に入るのをこばまれたのんき男は、「おまえのものみたいな背嚢のほうも、そっちにひきとってくれ。これっぽちも、おまえの世話にはならないや。」と大見えをきります。

 そして、ペテロさまが、背嚢を格子のあいまから天国の中に入れ、椅子のわきにひっかけると・・・。

 

 ”のんき男”といいますが、神さまといい勝負。のんきどころか したたかさも持ち合わせていました。


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