昔話にみられるパターンの一つに、主人公が食べ物をだしてくれるテーブルや、金貨をだしてくれるろばを手にいれますが、どれも途中ですり替えられ、最後にはこん棒などで取り戻すという話があります。
・テーブルとロバとこん棒(グリム童話集 上/佐々木田鶴子・訳 出久根 育・絵/岩少年文庫/2007年初版)
前段部分がかなり長い。後段に入って仕立て屋の一番上の息子が、家具職人の見習い期間が終わった時に、親方からもらったものが、ごちそうが出てくるテーブル。ところがある宿屋で主人にこのテーブルを取りかえられます。
二番目の息子が水車小屋の見習いになって、親方からもらったものが、金貨をだしてくれるロバ。このロバも宿屋ですりかえられてしまいます。
末息子が木細工師の見習いになって、もらったものがこん棒。このこん棒をつかってテーブルとロバをとりもどす。
この話、前段部分を踏まえて最後にオチがある。
・北風をたずねていった男の子(子どもに語る北欧の昔話/福井信子・湯沢朱美編・訳/こぐま社/2005年)
食べ物はテーブルかけ、金貨はやぎ、なぐる杖。
・きこりとテーブル(バルカンの昔話/八百板洋子編・訳/福音館書店/2007年)
食べものは、テーブル、金貨はろば、なぐりつけるこんぼう。
・ろばとテーブルとそれからこん棒(ジェイコブズ作 イギリス民話選 ジャックと豆のつる/木下順二・訳 瀬川康男・絵/岩波書店/1986年11刷)
金貨はロバが、食べ物はテーブルが。主人公のジャックが、貧乏な娘と結婚する最後の場面が楽しい。
ほかの話ではお願いをすればテーブルやろばが手に入れられるが、ここでは一味ちがっていて、テーブルはお婆さんの召使いとして一年間働いて、ロバは指物師のところで一年間働いて、最後のこん棒は川に橋をかけるのを手伝ってと、どれも労働の対価として手にいれます。
・茶色の髪の若者(子どもに語るアイルランドの昔話/渡辺洋子・茨木啓子:編訳/こぐま社/1999年)
登場するものが上記のものとやや異なりますが同じような構成。金貨を生んでくれる財布、どこへでもいくことのできる上着、命令することができるトランペットがでてきます。
仕事をさがしにいった若者が、女にパンをわけてやったことから、女から三つの宝物をもらうことに。
たからものは、王さまに奪われるが、食べると鼻が伸びるリンゴ、食べると鼻がちぢむナシをうまく利用して、王さまに奪われた三つのたからものをとりもどします。
宝物がでてくるだけではなく、王さまの娘と若者の結婚なども盛り込まれています。
・テーブルかけとヒツジとずだぶくろ(まほうの馬/A・トルストイ・文/田中泰子・訳/岩波書店/1964年)
食べ物はテーブルかけ、金貨はヒツジが、そしてこん棒の役割を果たすのは、四十人の勇士。
ツルを助けたおじいさんが、食べ物を出してくれるテーブルかけ、金貨をうんでくれるヒツジ、そして四十人の勇士がはいっているずだぶくろをおくりものとしてもらう。
テーブルかけとヒツジは、金持ちの百姓にとりかえられ、最後にずだぶくろに入っている勇士の助けをかりてテーブルかけとヒツジを取り戻します。
・ふしぎなおなべ(大人と子どものための世界のむかし話 インドのむかし話/坂田貞二 編訳/偕成社/1989年初版)
お坊さんが、働き口を探す旅で、井戸のすむ精霊の勘違いを利用して、食糧がでてくる大なべ、宝石や真珠をだしてくれるヤギを手に入れますが、いずれも泊めてもらった商人の家でとりかえられてしまいます。しかし、三度目は、縄とこん棒を手に入れ、大なべもヤギもとりもどします。
お坊さんが働き口を探すに行くのは、托鉢だけではやっていけないと、インドらしい理由。精霊とのやり取りも楽しい。
・うそつき牛と三人の兄弟(語りつぐ人びと*アフリカの民話/江口一久:採録・訳/2004年初版
フルべ族は、ナイジェリアやその他の国でフラニ族と称されるが、彼ら自身はフラベ族と称する。また、その他にもフラ族、フルフベ族、プール族、プル族など様々な呼称があるという。遊牧民を起源とし、現在でも牧畜を営む人が多く独特の言語体系を有し、豊富な民話を継承しているといいます。
グリムの昔話のパターンで、これも大分複雑になっていますす。
前段部分では牛の世話をした三人兄弟が牛にだまされて、父親から家から追い出されるところからはじまります。
一番上の息子は、貸しロバ屋(こんな仕事もあったんですね)で働いて、ひまをもらうときに親方から金貨をはきだすロバをもらい、家に帰る途中、おる家に泊めてもらうが、そこでロバを取り替えられてしまいます。
二番目の息子は、大工の弟子になり、ひまをもらうときに親方から食べ物がでてくるテーブルをもらい、家に帰る途中、兄が泊めてもらった家でテーブルを取り替えられてしまう。
末の息子は、鍬の柄を作る職人の弟子になり、ひまをもらうときに親方から「棒」をもらい、家に帰る途中、兄達と会います。
兄の話を聞いた末息子は兄たちが泊めてもらった家にいき、「棒」で、ロバとテーブルを取り返します。
話はまだ終わりません。三人兄弟は、町の人びとを集め、みんなに食べ物をふるまい、さらにロバが金貨やダイヤモンドをはきだしたので、町の人びとはそれをひろい集めます。そうした人々を棒が一人のこらずたたいてまわります。
最後、町の人びとを棒がたたいてまわるという終わり方が象徴的。
「おはなし、おはなし」というフレーズのはじまりかたも新鮮。
・ぶてぶて、こん棒(シルクロードの民話3 ウズベキスタン/小澤俊夫編 池田香代子訳/ぎょうせい/1999年)
宝物をくれるのは、こうのとりの王さま。黄金の品をだしてくれるのは壺。ごちそうをだしてくれるのはテーブルかけ。
この宝を横取りするのは村の男の子。最後にある王さまが7千人の兵士をつれて、じいさんのところにやってくるが、こん棒が兵士をすべて殴り倒します。王さままでなぐりつけ、王さまから位をゆずりうけます。
・たたけ!こん棒よ!(ウズベクのむかしばなし/落合かこ他訳/新読書社/2000年初版)
コウノトリをワナから救い、黄金を出してくれる壺、ごちそうをだしてくれるテーブルかけ手に入れ、それらを取られてしまうが、こん棒のおかげて宝物を取り戻し、金持ちになり貧しい人たちや病気の人を助けてくれるという結末。
・小ずつよ、出番だ(オーストリアの昔ばなし いちばん美しい花嫁/飯豊道男・編訳/小峰書店/19834年初版)
序盤に女房の出番があるが、そのあとは亭主がでてくる。
こちらは、いろいろなものは商人がくれるというもの。
亭主が雌牛を売りに行って商人と交換したのは、糞が金貨にかわるというロバ。
ここでも宿屋ですり替えられてしまうが、面白いのはこの宿にいるのが魔女ということ。
次は金をうむメンドリ。食事のしたくをしてくれるテーブル、そして、相手をたたきのめしてくれる小づつ。
何度も失敗して、とりもどしてきたという亭主を女房が笑うと小づつで打つ場面もある。
さらに結びのことばもなんともいえない味になっている。
・ぶつぶつ父さん(ラング世界童話集9 ちゃいろの童話集/西村醇子 監修/東京創元社/2009年初版)
子だくさんの父さんに、聖人が宝ものをくれるが、酒場で取り換えられてしまう。
「めぐまれた幸運を最大に生かせるものがいつか見つかるだろう」と聖人が宝をもちかえるという結び。
昔話の成立期には、その日を過ごすことが精いっぱいで、十分なものが食べられなかったこと、貧乏生活をおくらざるを得なかったことを反映した話でしょうか。
しかし、食べものはいつでも手に入るし、お金にも苦労しない生活が続くというのは、汗して働かなくていいということ。どれか一つにでも、食べ物やお金を生み出すものがなくなって、働くことの意味を考えさせる後日談があってよさそうなものですが?・・・・・
・ふたりの兄弟(世界むかし話6 ロシア 空飛ぶ船/田中泰子・訳/ほるぷ出版/1979年初版)
主人公が食べ物をだしてくれるテーブルや、金貨をだしてくれるロバを手にいれ、どれも途中ですり替えられてしまうが、最後にはこん棒などで取り戻すという話は、これまで読んでいるなかでは、もっとも多い話型である。
さまざまな国にあるが、このロシアの昔話「ふたりの兄弟」はやや趣がことなる。
テーブルやロバをすり替えるのは、多くが宿屋というのが多いが、この話では兄である。
そして、宝物をくれるのも、テーブルかけは風、金貨をだしてくれるヤギは太陽、こん棒にかわる二人組をくれるのは雪じいさんと別々。雪じいさんというのがロシアらしいところ。
兄が金持ちイワン、弟はびんぼうイワンといい、ぺーチカがでてきたり、テーブルかけからでてくるものが、肉入りパイ、まるパン、肉入りシチュー、ブタのもも肉、カラスムギのゼリーなどと、おもわず食欲をそそりそうなものが具体的にでてくる。
そして、ヤギにドングリを食べさせると金貨がでてくるというのも楽しい。
・がみがみおやじ(ラング世界童話全集9 みずいろの童話集/編訳・川端康成・野上彰/偕成社/1978年初版)
フランスの話をラングが再話した「がみがみおやじ」。
食べ物をだしてくれる小さなかご。
金貨をだしてくれるおんどり。
お上人?から二つのものをもらうが、宿屋でとりかえられたがみがみおやじ。
他の話のように、最後は、なぐりつける小枝がでてきて、宿屋のおやじをなぐりつけ、ふたつのものをとりもどすことになる。
しかし、この話、お上人が宝ものをもちかえるというオチ。
この「がみがみおやじ」は、他の話の倍以上長い。お上人は、泉のそばのほら穴にすんでいるという存在。考えられた訳のよう。
・魔法のテーブルかけ(ラテン・アメリカ民話集/三原幸久:編・訳/岩波文庫/2019年)
エクアドルの昔話です。
十二人の子どもがいる貧乏な父親が、修道院にいって門番から一枚のテーブルかけをもらいます。テーブルかけを売ってもいくらにもならないという貧しい男に、修道士は「テーブルかけよ、テーブルかけよ。神がそなたに与えたもうた力によって、食べ物をだしておくれ」と、呪文を唱えると、目の前にはたくさんのごちそうが並びました。
家に帰って、おいしそうな料理や、果物、葡萄酒を食べると、みんなは大満足。
ところがある日、男が居酒屋で酒を飲みすぎ、テーブルかけのことを、酒場の主人に話してしまいます。テーブルかけのふしぎな力を見た酒場の主人は、同じようなテーブルかけととりかえてしまいます。
次の日、男がテーブルかけを広げても何も出てきません。男は酒場に飛び込んで取り返そうとしますが、主人は、腹をたて男を外に放り出してしまいます。
もう一度、修道院に行った男がもらったのはこん棒でした。
・・・・
魔法のテーブルかけを取り戻した男でしたが、この話には、もうひとつおまけがありました。テーブルかけに目をつけた泥棒が入ってきたとき、こん棒で追い払ったのです。
よくあるパターンの昔話ですが、ほかの話では、ロバが金貨をはきだすのもふくめ、三回の繰り返しがみられますが、この話では、テーブルかけとこん棒の二回だけ。けれども、家族は最後に取り戻す前にもテーブルかけの恩恵を受けています。
これだけ類話があっても、おはなし会等で聞くのは「北風をたずねていった男の子」ぐらいで、他の話は、ほとんどないというのも珍しい。
きこりとテーブル/八百板洋子・再話 吉實恵・絵/福音館書店/2011年月刊こどものとも
おなじような昔話が多いのですが、絵本になっているのはあまり見ることがありませんでした。
まずしいきこりが、泉のそばで であったしろいひげのおじいさんからもらったのは、「テーブルよ、仕事をたのむ!」というと、ごちそうがでてくるテーブル。
むらのえらいひとたちを 食事によんで、ふるまったのが わざわいのもと。地主の召使からテーブルを すりかえられてしまいます。
もういちど、泉にいって おじいさんから もらったのが、金貨をばらまいてくれるロバ。
このロバも、風呂にはいっているとき、風呂屋の主人から すりかえられてしまいます。
つぎにもらったのは、悪いことをした人をなぐりだす こん棒。
きこりは、「こん棒よ、しごとを たのむ!」と、ぜったいに いっちゃいけませんよと、さも いいことが おこるような いいかたをして、地主や風呂屋の主人公から、テーブルとロバを とりかえします。
おじいさん、きこりを働き者とみこんで、手を差しのべますが、取り扱いを注意するよう助言は しなかったのでしょうか。
吉實さんがえがく、人物と衣装、建物などに、とても特徴があります。
ハードカバー版が2020年に発行されています。