「見えるわ見えるわ」というフレーズが印象に残る話。同じ逃走するのでも知恵というのが親しみやすい。ただこのタイプは日本の昔話ではみたことがありません。
・山の巨人をからかったむすめ(スエーデン)(子どもに贈る昔ばなし13 桃もぎ兄弟/小澤昔ばなし研究所/20127年初版)
めんどりがどこかにいってたまごをうんでいるので、三人姉妹の長女が、めんどりの足に糸を結んであとをおっていくと、山の巨人につかまってしまいます。次女も同じようにつかまります。
末っ子もつかまってしまうが、山の巨人は末っ子が気に入って結婚することに。
結婚式のため、かたづけや掃除をするが、そこででたがらくたやぼろも、まずしい家では必要だとして、末っ子は山の巨人に、これを袋にいれて、家の石段の上においてくるよう話す。
山の巨人がかついだ袋のなかには、長女が隠れていて、袋をみようとすると「袋の中を見ちゃだめよ」という声。
次女も同じように袋にかくれて家の石段のうえに。
最後に、末っ子が自分の人形をつくり、椅子に座らせ、自分は袋のなかに。
巨人が袋の中をのぞこうとすると「袋の中を見ちゃだめよ」という声。
巨人が家に帰って、人形ときづき、むすめになぐりかかるが、おこりすぎて体がはれつし、こなごなになってしまいます。
・三本のカーネーション(子どもに語るイタリアの昔話/剣持弘子 訳・再話 平田美恵子・再話協力/こぐま社/2003年初版)
父親が早くに亡くなって、母がせんたく屋を営みながら育てている三人姉妹のところに、見知らぬ男がやってきて長女を嫁にほしいという。
はじめは断わりますが、娘が幸せになるならと嫁にやることに。
男は娘の胸にカーネーションをさしてやります。そしてこの部屋だけは絶対開けてはいけないと言い残し、でかけます。
開けてはいけないといわれて、部屋を開けると、そこは炎の海で、大勢の娘たちが泣き叫んでいます。
炎でカーネーションがもやされ、男は長女が部屋をあけたことにきづき、長女を炎の部屋に放りこんでしまいます。
次女も同じ運命に。
男は末娘にも結婚を申し込み、家につれて帰ります。男は末娘にもカーネーションをつけ、あの部屋だけはあけてはいけないと言い残し でかけます。
末娘はカーネーションを胸からはずし、あの部屋を開けてみます。するとそこには、大勢の娘と姉たちも苦しんでいます。
末娘は男に、たくさんのせんたく物を母親のところにもっていってくれるよう頼みます。
末娘は、大きな箱を用意し、せんたく物でつつむように、長女をなかにいれ、とちゅう男が箱を下におこうとしたら「見てるわ見てるわ」というように話す。次の日、男が箱をかついで出かけますが、あまり重いので箱を地面におこうとしますが「見てるわ見てるわ」という声が聞こえてきます。
男が母のもとへ箱をとどけると、中からは長女が。次女も同じように助かります。
末娘も身代わりの人形をつくり、自分は箱の中へ。
男は人形の末娘に気がつき、壁に頭をぶっつけてくやしがり、あまりのくるしさに、火の中に飛び込んでしまいます。
ここにでてくる男、途中で急に悪魔にいいかえられます。
・フィッチャーの鳥(グリムの昔話1/大塚勇三・訳/福音館文庫/2002年)
イタリアの「三本のカーネーション」と、にています。
魔法使いが貧しい男の姿をしていろんな家の戸口に行き、なにかめぐんでください、などといっては女の子をつかまえ、どこかにつれていっていました。
犠牲になったのは三人姉妹。
一番目と二番目の娘は、魔法使いの家につれていかれ「どこにいってもいい。何を見てもいい。ただ一つ、小さい鍵で開ける部屋だけは、はいっていけない」といわれます。
たくさんの部屋は、銀や金できらきらかがやいていて、あけてはいけないという部屋をあけてしまいます。するとそこには血だらけのたらいがあって、その中には、死んできりきざまれた人たちがはいっていました。
もっていた卵の赤いしみをみた魔法使いは、娘が部屋に入ったのをすぐにさとると、体をばらばらにして、あの部屋のたらいのなかに、放り込んでしまいます。
二番目の娘も同じ運命。
ところが三番目の娘は、卵を大事にしまってから、部屋をあけ、二人の姉さんのばらばらな手足などを集めると、それらを頭、胴、腕、足をきちんとならべ生きかえらせます。
三番目の娘が魔法使いの花嫁になることになり、魔法使いは、娘から両親に金貨を入ったかごをとどけるよういわれ、かごをもってでかけます。このかごには二人の姉がはいっていました。
かごが重く魔法使いが途中で休もうとすると「あなたがみえているわ。さっさと歩いていきなさい」とかごのなかの娘のひとりがさけびます。魔法使いは、休むたびにおなじことをいわれ、かごを娘たちの家に運び込みます。
三番目の娘は、死人の頭を一つ持ってきて、それに飾りをつけ花輪をのせると、その頭を屋根裏部屋の窓のそばに置き、窓からのぞいているようにしました。こうした用意をすっかりおわると花嫁はハチみつの樽の中につかってから、ベッドの羽ぶとんを切り開き、そのなかでころげまわったので、ふしぎな鳥のようになり、誰だかわからなくなりました。
魔法使いも花嫁にたずねます。「おや、フィッチャーの鳥さん、どこからきたの?」「フィッツェ・フィッチャーのうちから、きたの」「あのうちの わかいよめさん なにをしてるの?」「下から上まで うちを すっかり そうじして 屋根窓から 外を のぞいている」
花婿が飾り立ててある死人の頭をみて、したしげにあいさつして家の中にはいったとたん、花嫁の兄弟や親類たちが家にやってきて、家に火をつけたので、魔法使いとお祝いにやってきたならず者たちも、焼け死んでしまいました。
「フィッチャーの鳥」がどんなものかは想像するしかありません。タイトルでは、とても内容もイメージできませんでした。バラバラになった死体がすぐに生きかえるのは、まさに昔話です。
こわそうな悪魔や魔法使いは性格が素直?で、言われたことを信じてしまう心やさしい悪役です。