どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

幸運の神とちえの神・・インド

2023年10月10日 | 昔話(アジア)

     大人と子どものための世界のむかし話2/インドのむかし話/坂田貞二・編訳/偕成社/1989年初版

 

 あるとき、幸運の神とちえの神が、どちらのほうがえらくて力をあるかということで、言い争いをしました。

 はじめに幸運の神が、不思議をおこしました。ある村のまずしいヒツジかいの畑のトウモロコシの一粒一粒を、全部真珠にかえたのです。ところがヒツジかいは、「これでは、トウモロコシが真珠になったから、とても食えやしない。ことしは食い物がたりなくなるなあ」と、がっかりしました。

 このとき、となりの国から穀物を買いにきた商人が、真珠のなったトウモロコシ畑を見て、大喜びしました。ヒツジかいは、かたずける手間がなくなるから全部持って行ってくれといいましたが、商人はなにがしかの金貨をヒツジかいにおしつけて、人足を雇って、トウモロコシをとりいれると、王さまに一本献上しました。王さまはすっかり感心し、その土地のひとは、とてもゆたかにちがいない。王女も年頃になったから、その畑のもちぬしと婚礼をあげさせることにしようと、商人に頼みました。

 ヒツジかいは、商人にいわれるままに、旅のしたくをしました。商人は、ヒツジかいの髪をととのえ、あたらしい衣服をきせて、別人のようにりっぱな身なりにさせました。それから、国についたら、あまりよけいなことをいわないように注意しました。

 用心深くなったヒツジかいは、王さまがなにをたずねても、ろくに口をききませんでした。「王さま、むこどのはこの国のことばがよくわからないようす」と商人はうまくとりつくろい、そうそうに退散していきました。

 王女がヒツジかいのところに、嫁いでいくと、ちっぽけな小屋に、家具も食器もろくにありません。おかしいと思った王女は父親に手紙を書きました。手紙を読んだ王さまも心配になり、むこどのをお城に招き、市をたたせて、ありとあらゆる品物を並べるように、命じました。むこどのがどういう買い物をするかを見れば素性がわかるとおもったのです。

 むこどのが買ったものは、見たことのない赤い野菜。ヒツジかいは、こんなきれいな野菜を見るのははじめてで、そのまま、がりがりとうまそうにたべはじめました。市に集まった人たちはあきれて見ています。おつきの者もこまってしまい王さまに報告すると、王さまは、むこえらびをを商人にまかせっきりにしたことを、くよくよ考えこむようになりました。

 幸運の神が、ちえの神に相談し、ちえの神から知恵をさずけられたヒツジかいは、「あのニンジンとかいうものは、わたしの国にありませんので、味を見たのです。なかなかけっこなものなので、国に持って帰りひろめたいとおもいます。わたしの国には、ほかのものはなんでもたくさんあって、何一つ不自由しませんが、ニンジンだけはありませんので」。

 こうしてむこどのの面目はたもたれ、王女とヒツジかいは、なかよくくらしていくことになったのです。

「ちえの神さま、どうやら人間というのは、幸運の神と、知恵の神の両方のたすけあいがあって、はじめて、しあわせになれるようですな。」