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ウエストエンド版ミュージカル「ウェイトレス」 "Waitress"(2018.07.08)

2021-03-09 | stage

ミュージカル「ウェイトレス」の日本版が近く上演されるということで、
ちょっとずつ進めている留学日記ではまだ触れることが出来ていないのですが、
ロンドンで見たウエストエンド版の「ウェイトレス」"Waitress"のことを振り返っておこうと思います。


(Adelphi Theatreと、劇場のある大通り=ストランド)

ミュージカル「ウェイトレス」は2007年の映画「ウェイトレス 〜おいしい人生のつくりかた」を舞台化した作品で、
ダイナーで働くウェイトレスのジェナが、夫に虐待されながらも、
大好きなパイを焼きながら現状を打破しようともがく物語。

実は私は、映画の舞台化である「ウェイトレス」にはそれほど興味はなく、
日本に帰国するまでに見る予定もなかったのですが、
俄然見る気になったのは、当時ジェナ役を引き継いたばかりのルーシー・ジョーンズ
「ウエストエンドライヴ」(2019年6月22日・23日)で見たことがきっかけでした。

ウエストエンドライヴは、ウエストエンドで上演中の演目から、キャストが出演して
ハイライトとなる楽曲を演じる無料イベントで、ミュージカル好きは決して見逃せません。

そこで、ルーシー・ジョーンズが歌った"She used to be mine"に圧倒!!!されまして、
これは絶対見に行かなきゃいけない!と思ったのでした。

WEST END LIVE 2019: Waitress Live performance "She Used To Be Mine"
(これが実際に私が撮影したウエストエンドライブでのパフォーマンス)

(オフィシャルの映像はこちら↓)
West End LIVE 2019: Waitress performance (Sunday)

後で知ったのですが、ルーシー・ジョーンズはオーディション番組「Xファクター」出身で、
2017年のユーロヴィジョンコンテストに英国代表として出場した実力の持ち主。
(ユーロヴィジョンに出てた時はそれほど気にしてなかった…)
レミゼのコゼットや、「RENT」のモーリーンを演じた経験もあります。
伸びやかで力強い声は、トラファルガー・スクエアから全英まで響き渡っているんじゃないか?と思うくらいでした。


(観劇時のキャスト表)

Adelphi Theatreのロビーでは、Tシャツやマグカップのようなグッズの他に、
瓶入りのパイを売っていたらしく、入り口に入ってすぐ、
甘ぁい、いい匂いが一帯に漂って幸せな気分になりました。

まさかスイーツが売ってるとは思わなかったので買いそこねてしまった…
今、すげー後悔してます。

Waitress to plate up Pie Jar selection at the Adelphi Theatre

Waitress, soon to begin previews at the Adelphi Theatre, has announced...

Official London Theatre

 


(お姉さん、手にジャーを持ってますね。買えばよかった…)


(幕がパイ柄で可愛い!美味しそう!しかもアーチがパイケースになっているのだ!!!)

それでは、物語も振り返っておきましょう。
(紹介する動画はブロードウェイ版も含んでいます。)
※字幕もなく英語で見たのであらすじが微妙に違っていたらごめんなさい…

 

ACT 1

ウェイトレス仲間のベッキーとドーンとともに「ジョーのダイナー」で働いているジェナ。
彼女は食べた人を幸せな気分にするパイ作りの達人でした。

Katharine McPhee performs "Opening Up" | Waitress in the West End
(ウエストエンド版のオリジナル・キャスト)

ある日、吐き気に苦しむジェナにベッキーとドーンが妊娠検査を試すよう進めます。
すでに夫とは冷え切った関係で、妊娠を望んでいないジェナ。
結果が陽性であることを知り落胆していると、店に夫のアールがやってきます。
彼女のチップを取り上げ、低賃金の仕事とパイ作りをあきらめさせようとする夫。
ジェナは夫の前で妊娠については触れず、
自分と同じように不幸な結婚生活を送っていた母を思い出しながら、
個性的な手作りパイを焼くことで自分を慰めます。

Sara Bareilles Performs 'What Baking Can Do' at the Adelphi Theatre in London
(作曲家のサラ・バレリス本人の歌唱)

産婦人科に立ち寄ったジェナは、新しい担当医ジム・ポマターに出会います。
昔から診てもらっていた女性医師ではないことに苛立つジェナは、
子供を望んでないことを明かし、彼女のために特別に作ったパイをポマター医師に押し付け帰宅。
砂糖を絶っているため、はじめはパイを断っていたポマター医師でしたが、
彼女の手作りパイを口にすると、すっかり魅了されてしまいます。

ダイナーに戻ると、オーナーのジョーに彼女の妊娠の件がすっかり伝わっていましたが、
彼はジェナに賞金の出るパイ・コンテストに出るよう提案します。

一方、彼氏が出来たことのないドーンは、オンラインデートで相手から連絡をもらい、
初のデートを取り付けてすっかり興奮してしまいます。

Waitress the Musical - When He Sees Me

(「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」にも出演しているキミコ・グレンの歌唱)

仕事の後、バス停で偶然ポマター医師と出会ったジェナは、
不幸な結婚生活を送っていることを明かします。
ポマター医師は、彼女のパイに感動したこと、
彼女の思いやりに惹かれていることを伝えます。

家に帰ると、仕事を首になったアールがもっと金を稼ぐようジェナに当たり、
ついに彼女が妊娠していることを告げると、やっと冷静さを取り戻しますが、
自分を子供よりも愛するように命令するのでした。

Waitress the Musical - You Will Still Be Mine

翌日、ジェナはベッキーとドーンにパイ・コンテストに出場し、
その賞金で夫を置いて、子供と新しい生活を始める計画を話します。
そしてドーンのデートのためにとっておきのパイを作ってあげます。

ドーンのデートの日。
変わり者で積極的なデート相手オギーと距離を取りがるドーンでしたが、
お互いにアメリカ革命の再現(コスプレ?)に参加していることを知ると意気投合します。

Waitress the Musical - Never Ever Getting Rid Of Me

一方、ジェナは出血していることに気づき、翌朝、予約した時間にポマター医師を訪問。
仕事前に呼び出されたのに、妊娠初期によくあることだと診断されたジェナはイラつきます。
言い争った末に衝動的にキスしてしまうジェナとポマター医師。
動揺しながらも二人は、欲求不満な生活に終止符を打つために関係を持ってしまいます。

Jessie Mueller and Drew Gehling Sing "Bad Idea" from Sara Bareilles' WAITRESS
(ブロードウェイ版のリハ動画)

 

ACT 2

ポマター医師との密会の後、ダイナーに出勤すると、
ジェナはベッキーとカルがカウンターの裏でセックスしているところを発見。
不道徳だとなじりますが、ベッキーもジェナの不倫に気づいて彼女も同じだと主張します。

Waitress the Musical - I Didn't Plan It

ジェナと先生との関係は、ベッキーとカルの関係や、ドーンとオギーの交際と同じく、
その後数ヶ月続き、オーナーのジョーや看護師にも関係が知られるようになり、
会う回数も少なくなりますが、ポマター医師と再会したジェナは
この関係は間違っていると思うか確認し、
彼はお互いがこの世界で必要としあっている大切な存在だと答えるのでした。

Sara Bareilles and Gavin Creel - 'You Matter To Me' | Waitress London
(ウエストエンド版向けの動画。サラ・バレリスとギャビン・クリールの歌唱)

数ヶ月後、ドーンとオギーが結婚式を挙げ、お腹の大きくなったジェナが完璧なケータリングを用意。
式でカルに、ベッキーと不倫していても幸せか聞くと、「幸せすぎるほど」だと答えます。
そしてジェナとダンスするジョーは、珍しく彼女への信頼の情を表現するのでした。

しかし、突然ジェナの夫アールが現れ、宴会から彼女を無理やり家へと引き戻します。
コッソリ貯めていたコンテストの出場資金を、アールが見つけてしまったのです。
ジェナは赤ん坊のベビーベッドのために貯めていたお金だと説明しますが、
隠されていたことが気にくわないアールは金を取り上げ、出て行ってしまいます。
長い間大切に貯めた資金を取り上げられ、打ちひしがれるジェナ。

Sara Bareilles - She Used To Be Mine (Official Video)

(サラ・バレリスのオフィシャル動画)

さらに、絶望する彼女を陣痛が襲います。

病院に着いたジェナを見舞ったのはジョー。
実は先が短く手術を受ける予定のジョーは、赤ん坊が生まれたら開封して欲しいと、
ジェナに封筒を渡します。

ベッキーやドーン、アールやポマター医師の妻まで現れて混乱するジェナ。
そして、赤ちゃんが産声をあげます。

ジェナは生まれた女の子にルルと命名。
夫のアールは性別が女の子であることに失望し、
相変わらず、赤ん坊ではなく自分を愛するよう命令しますが、
ジェナは冷たく離婚することを伝えます。
ベッキーとドーンに部屋を追い出されるアール。
残されたポマター医師は、ジェナとの関係の継続をのぞみますが、
ジェナは彼との「幸せすぎる」関係を終わらせることを告げ、
出会いのきっかけになった手作りパイの代わりに市販の小さなパイをプレゼントします。

"Everything Changes" - Betsy Wolfe and the WAITRESS Band
(ブロードウェイ版のキャスト、ベッツィ・ウルフの歌唱)

退院の時。ジェナはジョーからの封筒を思い出します。
手紙を読むと、彼の死後はダイナーをジェナに残すこと、
そして、自分の名前をつけたパイを作って欲しいと書かれていました。

2年後、ダイナーは「ルルのダイナー」と名前を変え、
オーナー兼料理長のジェナの人生がついに花開くのでした。

Waitress The Musical London | Official Trailer

(ウエストエンド版トレーラー)

ロンドンにいる間、資金を使いすぎない程度に舞台やミュージカルを見ていたのですが、
偶然なのか、女性のエンパワーメントをテーマにした芝居が多くてとても勇気づけられました。
「ウェイトレス」もその中の一つで、不幸な結婚生活に囚われたジェナが、
やっと暴力夫と別れる決断をして、自分の人生を手にする姿はすっきりしました。
ジョーが店を残してくれたからこその独立ではありますが、
これまでのジェナのダイナーでの貢献とジョーへの対応の結果でもありますからね。

ジェナがつぶやく「砂糖、バター、小麦粉」"Sugar, Butter, Flour" は、
まるでシンデレラを変身させる魔法の呪文のように聞こえます。
パイを作っている時こそが彼女を最高の魔法使いにする瞬間…。

私が「ウェイトレス」を見るきっかけになった"She Used To Be Mine"の、
昔の若かった自分を振り返りながら、でももう彼女は自分自身ではない、
自分のものではないのだという歌詞が、あまりに分かりすぎて、歌詞を読むだけで泣きそうになります。
ちょっと途中で休憩を入れないと読めないほどに(笑)。

ジェナほどの苦労はしていなくても、誰しもあの頃の自分を思い返す時ってあると思うんですよね、
一生懸命で、忍耐強くて、傷ついても完璧でいようとする女の子のこと…。

(劇場の中でもルーシー・ジョーンズのパフォーマンスは圧巻でした。
 観客すべてが歌声に集中し、割れんばかりの拍手と歓声が送られていました。)

コンテスト資金を失い、ルルの誕生をきっかけに夫を離れる決意をするジェナ。
やろうと思えば、もっと早くに決断出来たと思うのですが、
その決断が一番難しくて肝心ってことなんですよね。

ポマター先生との不倫も、不道徳な関係ではあったとしても、
ジェナに他の人生を選ぶことも出来るというヴィジョンを与えた意味で、
決断のはじめのきっかけを与えたのかもしれませんね。

ドーンとオギーの、初々しいカップルも可愛かった。
アメリカ独立戦争の格好でナニしてるのには笑っちゃいましたが。

「ウェイトレス」のバンドは、演者と一緒にお店の中(舞台上)で演奏しているので、
お店専属のバンドみたいなのも、見ていて楽しかったです。

とにかく劇場に入った時の甘い匂いから、パイ生地の幕、ケースに入ったパイのアーチ
甘くて酸っぱい音楽と、ジェナを囲んで交差する仲間の人間模様が、
アツアツのパイみたいに仕上がっていて、
お腹いっぱいデザートを平らげたような気分にさせてくれました。

ちなみに、ウエストエンド版は2020年7月に閉幕する予定でしたが、
パンデミックの影響で予定より早い3月にクローズしています。残念。
ウエストエンドライブも2020年は中止となりました。

また演劇好きが安全に気軽に観劇出来る環境になり、
ウエストエンドに活気が戻ることを心から祈っています。

 

 

余談ですが、「ドクター・フー」の"Hell Bent"というエピソードで、
クララ役のジェナ・コールマンがウェイトレス姿で出てくるのですが、
あれって「ウェイトレス」をイメージしてたんだなーとミュージカルを見てやっと気づきました。(遅い)
しかもどっちもジェナだし。すごい似合ってました。


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