長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『あの頃エッフェル塔の下で』

2016-09-29 | 映画レビュー(あ)

 デプレシャンはやっぱり永遠のシネフィル青年だった。ブレイク作「そして僕は恋をする」以後、マチュー・アマルリックとエマニュエル・ドゥボスが再演してきたポールとエステルの出会いを描く本作はさながら「そして僕は恋をする」のエピソード0だ。デビュー当時から早熟過ぎた映画青年はここに来て瑞々しい青春恋愛映画を撮り上げてみせた。しかもその筆致は荒唐無稽で奔放。かねてから“全ジャンルを撮りたい”と公言してきたデプレシャンだけに各章毎にジャンルの異なるヒップホップな語り口なのだ。

まるでオカルトホラーでも始まりそうな幼少期の第一章、冷戦期スパイスリラーのような第二章を経てエステルとの恋を描いた第三章はアメリカ青春映画のような狂騒の中、若手俳優の好演もあって何度も息を呑む瞬間が訪れる。ドゥボスのようなふてぶてしい個性を持ったエステル役ルー・ロワ・ルコリネ嬢の見返り絵はポールでなくとも胸をときめかせるには十分な磁力がある。デビュー時のデプレシャンにはむしろこんな若々しいケレンはなかった。

女優の趣味も相変わらずいい。
「そして僕は恋をする」同様、個性的な美人が初出演を飾っている。
“私ブスでしょ?”と嘆く妹役リリー・タイエブ、ジャンヌ・バリバールそっくりなクレマンス・ル=ギャル、脱ぎっぷりの良いメロディ・リシャールと皆、短い出番ながら印象深い(最後にはドゥボスにも出てほしかったなぁ!)。

デプレシャンは同じキャラクター、俳優を使い回すからといってリンクレイターのようなクロニクルを作るワケではない。
 ポールはデプレシャンの分身であり、ポールのふとした回想から始まる本作は記憶を辿り、時に改ざんする自分史の更新である。そして自分史の更新とは思い出の美化であり、過去との対峙である。デプレシャン、50歳だからこそ到達できた新境地だ。


「あの頃エッフェル塔の下で」15・仏
監督 アルノー・デプレシャン
出演 カンタン・ドメール、ルー・ロワ・ルコリネ、マチュー・アマルリック、リリー・タイエブ、クレマンス・ル=ギャル、メロディ・リシャール
 

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