長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『10 クローバーフィールド・レーン』

2017-02-09 | 映画レビュー(て)

どっひゃ~!
とんだ珍品、怪作である。
2016年早々、未だ自身の監督作である
『フォースの覚醒』が大ヒットを続ける中、“J・J・エイブラムス製作”のクレジットで突如発表された『クローバーフィールド』姉妹作公開のアナウンス。

一体、いつの間に作ってたんだ?
無名の新人監督ダン・トラクテンバーグによるキャスト3名の別タイトルホラーがそれだと明かされ、続くハッタリ十分の予告編に今回も仕掛屋JJの博打が成功した格好だ。ネタバレはおろか、本編映像すら流出しかねない昨今、観客を映画館へと向かわせる徹底された情報統制であり、その予想外の見事な出来栄えこそが最大のサプライズと言える。

映画はメアリー・エリザベス・ウィンステッド扮するミシェルが恋人との別離を決意し、一人立ち去るところから始まる。泣きはらしながら車をひた走らせるミシェル。しかし車が横転、気が付くと窓のない部屋で足に鎖を巻かれた状態で監禁されていた。そこにはジョン・グッドマン扮する謎の大男がいて…。

映画はグッドマン演じるハワードと居合わせたエメットの3人のみで進行するのだが、トラクテンバーグ監督はカメラを振り回すような事もせず、観客に部屋の構造を熟知させ、緊迫感溢れる密室スリラーとして新人離れした手腕を発揮する。特筆すべきは善人なのか悪人なのか、狂人なのか正気なのかわからないグレーゾーンを怪演するジョン・グッドマンで、この巨漢俳優は善人を演じる時の温かみも味わい深いが、やはり出世作『バートン・フィンク』で見せた巨躯を活かした狂気こそ唯一無二の個性だと思い知らせてくれる。

正統派スリラーとして映画を牽引してからのラスト10分は一見“トンデモ”と映るが、これはメソメソしていたヒロインが自らのアイデンティティを確立し、立ち向かっていく力を身に着けるまでの“女性映画”とも見て取れる。『デス・プルーフ』などで“可愛い子ちゃん”扱いしかされてこなかったメアリー・エリザベス・ウィンステッドがマッチョでもお色気でもなく、大人の女優のしなやかさを見せてくれた事に驚いた。

『クローバーフィールド』は単にモンスター映画ではなく、“怪物”をメタファーとしたコンセプトシリーズの名称なのである。既に製作情報が解禁された第3弾は宇宙を舞台にしたSFスリラーになるらしい。大いに期待しようではないか。


『10クローバーフィールド・レーン』16・米
監督 ダン・トラクテンバーグ
出演 メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョン・グッドマン、ジョン・ギャラガーJr.
 

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