長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ギャング・オブ・ロンドン』

2021-03-24 | 海外ドラマ(き)
※このレビューは物語の展開に触れています※

【ギャング版ゲーム・オブ・スローンズ】
 ロンドン暗黒街の帝王フィン・ウォレスが暗殺された。組織のナンバー2であるエド・ドゥマニが混乱の鎮静化を図ろうとするも、復讐を誓う2代目ショーンによって長年均衡を保ち続けてきた各勢力は一触即発の状態に陥る。ロンドンの覇権を巡る仁義なき戦いが始まった。

 2020年4月のオンエア以来、“ギャング版ゲーム・オブ・スローンズ”と呼ばれた話題作だ。“先王”の死から始まる謀略と血みどろの抗争劇には多くの登場人物が入り乱れ、誰が命を落とすか予測不能。キャトリン・スタークことミシェル・フェアリーがまたしても夫を殺された妻に扮して檄を飛ばせば、第1話にはウォルダー・フレイことデイビッド・ブラッドリーまで顔を見せる始末だ。そしてついにはロンドンがキングス・ランディングよろしく血と炎に包まれるのである。なるほど、『ゲーム・オブ・スローンズ』ロスのファンには打ってつけのスリルだ。

【ギャレス・エヴァンス、覚醒!】
 いやいや、TVシリーズの限界に挑戦した『ギャング・オブ・ロンドン』の超絶バイオレンス描写は、『ゲーム・オブ・スローンズ』を遥かに超えている。全編にみなぎる尋常でない殺気に、“キャスタミアの雨”を経たゲースロファンも卒倒するだろう。

 ショーランナーを務めたのはイギリス出身の映画監督ギャレス・エヴァンス。アクションコレオグラファーも務める彼の名が一躍注目されたのが、2011年のインドネシア映画『ザ・レイド』だ。ギャングとSWAT部隊の死闘を1棟のマンションというワンシチェーションに限定し、そこにクロスコンバットから銃撃戦、そして東南アジアの伝統武術シラットまで投入。これでもかと続くアクションシークエンスにアドレナリンがダダ洩れる、エクストリームなカルト作だった。

 『ギャング・オブ・ロンドン』には彼の作家性であるバイオレンス・アクションが手を変え品を変え、各エピソードの見せ場としてふんだんに盛り込まれている。「ダセぇカットは使わねぇぜ」と言わんばかりにカメラは猛り、ゲースロで慣れた僕らも思わず悲鳴を上げるほどのバイオレンスは、そのスピードとパワーで見る者を圧倒する。極めてレベルの高いスタントと編集技術がTVシリーズはおろか、近年のフィジカルを重視したアクション映画群をも凌駕しており、これらは第5話の籠城戦で早くもピークに到達。それでいて適格な采配が成された演出の印象は露悪どころかむしろ洗練されている。これほどの高揚感を覚えるアクション体験はしばらくなかった。ハイコンテクスト化が進む昨今のPeakTVにおいて、ストイックなまでにアクションへと特化した本作の存在は際立っている。

 またアクションのみならず、人物描写も非常に素晴らしい。キレると何をしでかすかわからない狂犬ショーンは、演じるジョー・コールの繊細な目つきもあってか『キング・オブ・メディア』ケンダル・ロイ級の魅力的なキャラクターだ。『獣の棲む家』のソープ・ディリスが演じる主人公エリオットの正体が判明する第1話では、マイケル・マン映画おなじみのコンバットスタイルで視聴者に「ひょっとして」と思わせ、巧い。脇役にもいい面構えの俳優が揃い、第5話で登場する弾薬職人イーヴィーなどまるでヴィンス・ギリガン組のような味が出ていた。筆者は『ザ・レイド』以来、エヴァンス監督の作品を見ていなかったが、映画祭を賑わせた“ミッドナイト・マッドネス”は格段とグレードを上げている。

【王国の崩壊】
 『ギャング・オブ・ロンドン』のもう1つの特徴は、非常にバラエティに富んだ人種の多様さだろう。昨今のエンターテイメント業界におけるダイバーシティに見えるかもしれないが、ここにはロンドンという街の特殊性が大いに反映されている。860万人を超えるといわれる人口において、白人は既に50パーセントを切っており、今や黒人や中東系移民ら所謂マイノリティと呼ばれてきた人々が多数派だ。市長には2016年にパキスタン系・イスラム教徒のサディク・カーンが選出されている(現在、コロナの影響により任期が特例延長)。長年、ロンドン裏社会を支配してきたウォレス家の衰退から始まり、中東からの新興勢力によって四面楚歌に追いやられる本作の展開は、そんな英国白人がマイノリティ化し始めた現在のロンドンを反映しているのだ。

 またウォレス家が表向きは建設業を営んでいるという設定も、物件が不足し、住宅価格が高騰し続けるロンドンの実情を反映している。都心は金融業を中心とした富裕層に買い占められ、海外向けに売り出されてもいるという。虫けら同然に排除される“アイリッシュ・トラベラー”のキニーらは住宅難に喘ぐいわば
格差社会の下層であり、ギャングどもは“投資家”と呼ばれる黒幕によって仁義ではなく市場原理のために争うのだ。そんな戦いに最後まで抵抗を続けるショーンが旧来的白人社会の断末魔にも見え、白人達が作ってきた“ギャングもの”に憧れる僕らはついつい肩入れしてしまうのだが、終幕には非常に現代的な結末が用意されていた。

 続編に色気を出さず、全力投球したことが伺える終盤の展開こそやや駆け足気味だが、当然の如く製作決定したシーズン2によって、今後『ゲーム・オブ・スローンズ』級の人気シリーズへと成長していくかもしれない。日本ではAmazonプライム内のSTARZPLAYチャンネルでしか見ることができないが、必見の1本と断言させてもらう。
 

『ギャング・オブ・ロンドン』20・英
製作・監督 ギャレス・エヴァンス
出演 ソープ・ディリス、ジョー・コール、ミシェル・フェアリー、コルム・ミーニィ、ブライアン・ヴァーネル、ルシアン・ムサマティ、パーパ・エッシードゥ、ピッパ・ベネット・ワーナー


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