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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『LUSY ルーシー』

2018-01-27 | 映画レビュー(る)

僕が中学生くらいの頃、リュック・ベッソンといえば映画ファンにとってイケてる監督の1人だった。『サブウェイ』『グラン・ブルー』『ニキータ』『レオン』(『フィフィス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』も嫌いじゃない)とどれもカルト的な人気作だ。今ではとても信じられないがベネックス、カラックスらと名を連ね“フレンチニューウェーブ”と呼ばれていた時期もあった。
ところが、『TAXI』で本格的に製作サイドに回り始めた頃から俄然、魅力を失い始めた。フランス映画界に反旗を翻したそのハリウッド志向は猛烈にダサく、彼が率いる製作会社ヨーロッパ・コープのラインナップは非常に魅力に乏しいものだった。

いつしか矜持のように公言してきた“監督作10本で引退”という宣言も撤回され、ついにキャリア最大のヒット作となる本作『LUSY ルーシー』に至るワケだが、目も眩むような大駄作である。場当たり的な脚本、不必要なバイオレンス描写、勿体ぶった演出とどこを取ってもリュック・ベッソンの脳が1%も機能していない事は明らかな稚拙さだ。天下のスカジョを招いてベッソンがやった事といえばおっぱいを揉むくらいで劇中、ムダに2回もあの谷間に手を突っ込んでいる。中学生か!!

それでもスカジョはジャンル映画における自身のアイコン化を十分に心得ており、アクションヒロインとしてお色気とカッコ良さを発揮、駄作を救おうと奮闘している。後半の『攻殻機動隊』な展開は本作が実写化のきっかけになったのではと思えなくもない(ベッソンは士郎先生に金払え!)。

ムダに豪華なキャスティングにも“ハリウッドいてこましたる”というベッソンのドヤ顔が見えてイラつくのだが、さすがのモーガン・フリーマンも支離滅裂な脚本に困惑したのか、ひたすら呆気に取られた顔をするだけだ(いつも以上の省エネ演技で歴戦のロケ弁役者ぶりに新たな1ページを加えてはいる)。悪役にチェ・ミンシクを招聘するヨーロッパ・コープのプロデュース力は買うが冒頭、血まみれで登場するミンシク兄貴がとんだ噛ませ犬で終わるのも“ベッソンわかってねぇなぁ”とガッカリ来るのである。最後はルーシーと同じく脳機能を覚醒させ、超能力大決戦になれば文句もなかったよ!!

『LUSY ルーシー』14・仏
監督 リュック・ベッソン
出演 スカーレット・ヨハンソン、モーガン・フリーマン、チェ・ミンシク
 
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『ルーム』

2016-12-04 | 映画レビュー(る)

 4畳ほどの狭い部屋にトイレもベッドもお風呂もキッチンも揃っている。そこには“ママ”と5歳になるジャックが仲良く暮らしている。外界との接点は電子ロックで固く閉じられたドアと小さな天窓のみ。世界はこの“部屋”を残して滅んでしまったのだろうか?

『ルーム』は先の予想がつかないスリリングな映画だ。まるで宇宙に浮かんでいるかのような“部屋”を描く序盤の寓意性から一転、サスペンスへと転調する。ママは誘拐され、7年間この部屋に監禁されているのだ(そしてジャックの出自も観客は自ずと知る事になる)。息詰まる脱出劇。しかし、映画が本題に入るのは数多の誘拐劇が描いてこなかった脱出後からである。

加熱するマスコミ報道、両親の不和。誘拐を期に離婚してしまった父がジャックの存在を受け容れられない葛藤をレニー・アブラハムソン監督は何気ない食卓シーンに不穏な空気を漂わせる事で描出する事に成功している(父役ウィリアム・H・メイシー、母役ジョアン・アレンの的確な助演は言わずもがな)。

原作者エマ・ドナヒューが自ら手掛けた脚本は5歳児の目を通して世界の美しさを肯定し、現実の過酷さを直視しようとする。“部屋”はジャックにとって5年間続いてきた子宮であり、ママと2人の時間はそれがセカイの全てだった。だが世界は広い。美しいものに溢れ、無限のように空が広がり、理不尽に晒され、そして自分の足で歩いて行かなくてはならない。大人ですら忘れていた生きる事の現実をまっさらな純真さで体現したジェイコブ・トレンブレイ君こそが本作の主役であり、この映画のスピリットに他ならない。

 一体、彼にどこまで理解させて撮影したのか興味は尽きないが、母親役のブリー・ラーソンはブレイク作
『ショート・ターム』と変わらぬ実直さでトレンブレイ君から演技を引き出し、困難な役に立ち向かっている。思いがけず早咲きした若きオスカー女優の今後に期待だ。


『ルーム』15・加、アイルランド
監督 レニー・アブラハムソン
出演 ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ウィリアム・H・メイシー
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