今回、各章ごとに検討を加えてみて、少しずつは自分なりに問題が整理できたような気がします。
どちらかと言えば、批判的に著者の主張を検討してきたようですが、「福音の矮小化」という問題は、広く福音派の神学者の間で共有されつつ問題であるようです。この問題に対して、自分としてどういう回答を持つのか、まだまだ整理はできませんが、いくつかの方向が見えてきたような気もします。
(1)キリスト論を軽く扱わないこと
確かに、「救い」に焦点を当てるあまり、キリスト論が軽く扱われる傾向は、諸教会の中にもありますし、自分の中にもあったような気がします。十字架による贖いの重要性を踏まえつつも、受肉から生涯、教え、みわざ、受難と死、復活、昇天、着座、そして聖霊の傾注に至る「イエスの物語」全体をよく見ること、救い主としてのイエスを語るだけでなく、主なるイエスとしての宣言が十分なされるべきこと等、多くの示唆が与えられました。
(2)イエスについての物語(宣言)と救いの計画との関係は、今後の課題
それでは、救済論とキリスト論と、どちらが主でどちらが従かという問題は、今後の課題です。
今回の検討を通して感じるのは、福音とは、イエスについての物語(宣言)と、救いの計画の両方を含むものと理解するのが、聖書的に言っても自然なことではないかということです。そうは言っても、錚々たる神学者の方々が、福音についての新しい見方を提唱し、その影響力がますます大きくなっているように見える中、簡単に結論づけられる問題でもないように思われます。
組織神学的に言えば、救済論中心に神学を構築するのか、キリスト論中心に神学を構築するのかという問題と考えることもできるのでしょうか。これらの点については、今後の課題としたいと思います。
(3)義認だけに集中せず、聖化、栄化、更に個人的救済を越えた部分に目を留めるべきこと
福音が伝える救いを義認だけに限定しないで、新生、聖化、栄化等にまで及ぶ豊かさに常に目を配るべきこと、また、個人的救済に限定しないで、神の民に対する神様の大きなご計画にも目を留めることなど、大きな視野の中で「救い」を見ることが必要ではないかと思いました。
(4)個人的救済と神の民に対する神の計画のどちらに比重を置くべきかは、今後の課題
それでは、福音の宣言の中で、比重が共同体としての神の民に対する計画に置かれるべきなのか、個人の救済に置かれるべきかについては、今後の課題です。
著者はどちらかと言えば、個人の救済以上の部分にむしろ比重を置きたいようです。私としては、そのような見方を、従来見落とされがちな側面を示唆するものとして尊重しつつも、実際的に福音が語られる際には、それを個人的に語ることが必要なのではないかという気がします。おそらく、個人的救済か、共同体への神の計画か、という問題の立て方がよくないのでしょう。
組織神学的に言えば、教会論を救済論の付録のように考えてもいけないし、救済論を教会論のサブテーマのように考えてもいけない、双方は相互補完的に考えるべきではないかという気がしますが、これも、今後の課題の一つとなりそうです。
(5)イエスラエルの位置も今後の課題
関連して、福音との関わりの中でイスラエルをどう位置付けるかも、今後の課題です。イエス様と使徒たちによる福音が、イスラエルと神様との長い歴史的経緯の中で生まれてきたことは間違いありません。ただ、それが、福音を語る時、杓子定規のようにイスラエルの物語に言及しなければならないのではないような気がします(使徒行伝に見られる異邦人への福音説教を見れば。)
私としては、ユダヤ人やユダヤ的背景を持つ異邦人に対して福音を語る際、旧約聖書やイスラエルの歴史について語られることは、文脈化の結果のように思われるのですが、マクナイトの見方からすれば逆であって、本来、福音はイスラエルの物語の文脈の中で語られるべきものであるけれども、異邦人に対して福音を語るときには文脈化が行われているということになるようです。
両者の見方が「結局同じこと」なのか、福音理解の本質に関わる決定的違いを生み出すのか・・・今後の課題です。
著者は、アメリカの代表的な新約学者のようです。最近読んだ『イエス入門』(リチャード・ボウカム著、新教出版社)の末尾に、近年の福音書研究に関わる著作案内がつけられていますが、N.T.ライトやJ.D.G.ダンの本と共に、マクナイトの著作がいくつか紹介されていました。
おそらく、面と向かって著者と相対したならば、畏れ多くて一言も発することができないだろうと思いますが、こうして本を通してまるで著者と対話させて頂いているかのようで(勝手な空想に過ぎないかもしれませんが)、楽しいひと時でした。感謝。
(完)
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塩屋の先生からは、笑うセールスマン扱いされておりますミーちゃんはーちゃん でございます。
ここまで丁寧に読んでいただけるとは。感謝の言葉、もういかに申し上げてよいか。
本当にありがとうございます。心から感謝をこめまして。
本書の企画CRISP担当 ミーちゃんはーちゃん
自分自身の整理のために書いた部分が多く、読みづらい面もあったかと思いますが・・・。
ありがとうございました。