無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

巡回奇譚 -2(ネタばれ注意)

2022年01月22日 | 巡回奇譚

「それで、ヴェレナはどのような思し召しでお前にこのような騒乱を起こせとお命じになったのかな? ラングとやら」
「・・・・・。」

そうよ、それでいいわ。ラングは良く分っているわ。他の人も同じようにお利口にしていると良いのだけど。ライクランドで名の知れた法廷弁護士であるオザンナ・ヴィナンドゥスは、余裕たっぷりの笑みを、メリエルテ裁判官に向けた。
ふむ、まあヴェレナの入信者がオザンナの言いつけに従うことは想定通りだ。どれ、賞金稼ぎの方はどうかな? メリエルテは次の獲物に目を向けた。

「お前は賞金稼ぎだそうだな、ヨーケル=ザカ。このような騒ぎを起こしたからには、お前の持つ許可証は取り消しにせねばなるまい。だが、正直にやったことを白状すれば、これまでの貢献に応じて寛大な処分を考えないことも無いぞ」
「これはこれは裁判官閣下。慈悲深いお申し出に感涙の至り。しかし小生の許可証はアルトドルフで発行されたもの。閣下がかの偉大な都市の当局の判断に異議を申し立てるとは、卑小なる我が身はすくむ思いです」ヨーケルは視線を下に下げたまま、深々と頭を下げる。

ちょっとあなたやりすぎよ。メリエルテの顔が真っ赤じゃない。まあでも、次のシグムンドへの攻撃をそらすには丁度いいかもしれないわ。

「裁判官閣下。ヨーケル=ザカは当然ながら”閣下”や”私”が行う、高度な司法上の応酬には全く無知なのです。無知ゆえに無意識に職業上の対応、つまり彼がいつも相手にしている下等な犯罪者に対するような会話しか出来ないのです。”当然”閣下がこの点を理解していることは分かっていますが、弁護人の責務として申し上げます」

ごろつき紛いの賞金稼ぎ風情が、この私を侮るなよ。いや、これもオザンナの計略か?私を動揺させて、本命への攻撃を和らげようと言うのだな。お前の魂胆などお見通しだ。

「では、シグムンドよ。お前はどうなのだ? 船乗りと称しているようだが、私には分かっているぞ。叩けばいくらでも埃が出ることは。どうだ、お前だけでも助かりたいのだろう。誰もお前を責める者はいない。むしろ、この二人がお前を無理やり引き込んだことを正直に話せば、皆がお前の勇気を褒めたたえるだろう」

「・・・・・。」シグムンドは言葉の通じない外国人ように、困惑した表情を浮かべ裁判官を見つめている。 このオッサンは何を言っているのだろう、どうして俺が二人を売ると思っているんだ?

あらあらメリエルテ、それではだめじゃない。シグムンドは筋金入りよ。やはりヨーケルのせいで眼力が曇ったようね。そろそろ仕上げと行こうかしら。

何だこれは。騒ぎを収めるのに都合の良い獲物を3匹釣り上げたと思ったら、獰猛な人食い鮫も一緒に私の法廷に飛び込んできた。3人の背後に誰かいるのは間違いない。そうでなければオザンナが現れるはずがない。これはユングフロイト家と皇帝の諍いに関係あるのか? オザンナがこっちを見ているな。良いだろう、何を話すか聞いてやろう。

メリエルテ裁判官はオザンナと二人だけで穏やかな短い協議を行った後、法廷全体に向けて宣言する。
「ここに集められた者たちが自分たちだけでマルクトプラッツ全体を襲撃したというのはかなり考えにくい。そうでありながら、証拠なく無罪を主張して裁判の時間をいたずらに浪費させなかったことについて賞賛に値する。従って、我々は慈悲深くありたい。」
裁判官はオザンナに目を向けた後、ラング、ヨーケル、シグムンドを順に見据えて話を続ける。
「この事件にまつわる証拠と状況を慎重に検討した結果、我々の公正な町の平和を破壊することに関与した人物は、その復元にも関与すべきだと言うのが私の見解だ。判決、被告全員は、ユーベルスライクに対する恩義を働いて返すために警備隊の指揮下に入って任務を果たすこと。この任務は明日から始まり、最長3年とする。新しい任務を怠った場合は帝国に対する反逆罪とみなし、死刑に処す。ヴェレナの名において私が命じる。裁判はこれにて閉廷。ヘンジル、私にボルドロゥのグラスをもってきてくれ」

オザンナは3人にニッコリ笑いかけ、軽くお辞儀をする。
「3年の管理下任務は、即時絞首刑よりはずっとマシだわ。それに、私に時間をくれるなら、後日この任務の代案を働きかけることもできるかもしれない。個人的には、この結果は大いに喜ばしいわ」

河川漂泊者であるシグムンドは、成り行き上、岡でしばらく定住することになった。彼にとって陸上の法は何ら従う必要を感じないものであったが、今の(彼にとって)風変わりな仲間との生活は、刺激的で興味深いものだった。しかも警備隊員としての暮らしは、乾いた寝床と腐っていない食事が容易に手に入るという素晴らしいものだ。唯一の不満といえば、彼らの上司で監視役であるルディ・クルッペンクルク警備隊員副隊長だ。この男は人当たりがよく、明るい振る舞いを見せるが、その実腐敗した沼沢地のような性格の持ち主で、周囲の人間を迷わせ、泥まみれにせずにはいられない。そして誰にも見通すことのできない精神の水面下には、嫌らしい粘液にまみれた怪物が潜んでおり、いつでも哀れな犠牲者に食いつけるよう待ちかまえていた。

警備員としての教育のため、ルディはシグムンド、ヨーケル、ラングの3人を引き連れて街にでた。目ざとくスリに気付いたシグムンドは素早く対応し、賊を捕らえた。ルディはスリから盗んだ財布を取り上げると二、三小言を言って見逃した上、被害者には不注意の罪があると言い、取り上げた財布の中身の半分を罰金と称して自分の懐に入れてしまった。そして3人にも1シリング銀貨を投げて寄越した。


別の日には肉屋から出火して大騒ぎになっている現場に出くわした。ルディはそのまま素通りしようとしたが、3人が消火に向かうと、向いのパブに入りエールを注文した。当然金は払っていない。挙げ句の果てに、近くにいた野次馬とこの火事で何人死人がでるかで賭けを始める始末だ。ラングの指揮とヨーケルの勇気ある救助活動により、1人の犠牲者も出さずに鎮火させることができた。ルディは3人の活躍を見越して、死人がでない方に賭けており、その日の残りはずっと上機嫌だった。


またある日には曲がりハンマー亭でユーベルスライクの警備兵とアルトドルフの兵士たちによる乱闘騒ぎに呼び出された。例のごとくルディーは「喧嘩が終わった後、その辺でぶっ倒れている奴をしょっ引けば十分だろう」などと言っている。間に割って入り、力づくで喧嘩を止めようとすると、アルトドルフ兵の一人が1対1の素手による決闘を挑んできた。シグムンドがこれに受けた立つ。一進一退の攻防が続くが、最後にはシグムンドの拳が兵士の顎を捕えてノックアウトした。この戦いぶりに感銘を受けたアルトドルフ兵はシグムンドの戦いを褒めたたえ、大人しく店を出て行った。


ラング、ヨーケル、シグムンドに対する町での評判は高くなっていった。しかし警備隊内部ではルディーの画策により、正当に評価されていない。3人は多くの警備兵たちと共に、クルッペンクルク副隊長とブフェファー警備隊長との特別な会議に召集された。隊長は皆の前で、”ユーベルスライクを守る迅速にして勇敢な行為”に対する報奨として、クルッペンクルクに1枚のメダルと1袋のシリング銀貨を贈呈した。
「新人たちを導きながらこれらのことを為すのは、いささか困難ではありました。しかし、ユーベルスライクに不正が潜んでいる限り、私は決して休むことはありません」ルディーはそう言うと、報奨金の重さを確かめながら3人へ向けてニヤリと笑った。
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