無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

顔なきもの -1

2024年04月06日 | 顔なきもの
【ネタバレ注意】本記事はシナリオ「Hell Rides to Hallt」の内容を含んでいます。

一行は今、ドラッケンフェルズ城に向かっている。いや正しくは城のある灰色山脈ふもとのハルト市へ向かっている途中だ。訴訟代理人ゴスウィン・サムターは法律上不可避な義務のため、日が暮れた後もぎりぎりまでハルトに向かって進んでいる。一行はその彼に護衛として雇われたのだ。ウィズマー・フォン・リヒテンラーデにとって高額の報酬に興味はない。ただハルトがドラッケンフェルズ城の道中にあるという点を気に入って引き受けたのだ。


年の末が押し迫ったこの時期、しかもヘクセンスナハトの前日の日没後に先を急ぐことは真っ当な市民であればあり得ない。ゴスウィン・サムターはそれでも先を急ぐため、気前よく金を消費している。彼は背が低く、丸々とした禿げた男で、薄灰色のくぼんだ目、赤らんだ頬、曲がった鼻をしている。人目を引き、富を誇示するのが好きで、職業柄上等なローブを身にまとい、冬の強風から身を守るために分厚い毛皮のコートを羽織っている。身振り手振りを交えて自分の重要性を強調しており、その両手には高価で派手な指輪がずらりと並んでいる。
彼は御者を急かしながら、道中の心配事についてしゃべり続ける。この時期ハルト周辺にはいつも、追いはぎやならず者、暗いライクヴァルドの森の奥から飛び出してくる怪物らの襲撃が絶えない。特に昔、この町に出没したという首無し騎手、デュラハンについて詳しく話をする。

ゴスウィンは赤らんだ鼻を鳴らし、痰のからんだ咳をし、酒をすすりながら言う。
「デュラハンは暗闇の生き物で、首のない騎手、死の呪いをかけられた者が乗り、見る者すべてに死をもたらす。それは致命的な前兆であり、高貴な心を持つ者か、真に無垢な者だけが、そのような遭遇から生き延びることができる」
彼は咳き込み、ひどい夜を呪い言葉を吐き、続ける。
「しかし、これは単なる田舎の迷信に過ぎない。 満月に切った柳の杭でデュラハンを殺すとか、銀の刃だけが怪物を殺せるとか。失われた首が見つかればデュラハンは満足し消え去るとか。こんな話は戯言だ。間違いなく正直なハルトの市民を食い物にする山賊か何かの隠れ蓑だ!」

冷たく澄んだ夜空には宵の明星と2つの月、マンスリーブとモースリーブが輝いている。馬車は小高い丘の頂上へ達し、眼下にハルトの灯りが見える。ランタンの明かりと煙突から立ち上る煙、城壁に囲まれた小さな町は不吉な夜でも安心を感じさせる。

==========
タールのように重い漆黒の闇の中から、疾走する蹄が聞こえる。枝が折れ、茂みのがざわめきが急速に近づいてくる。闇から生まれたような黒い軍馬の上に黒い鎧をまとった首なし騎手乗っている。騎士は大きく禍々しく曲がった斧を高く掲げた。一行の乗る馬車の横を通り過ぎざま、馬車を引く一頭の馬の首を残酷に薙ぎ払う。馬車は馬の死体に叩きつけられ横転し、御者は地面に投げ出される。

騎士は少し離れたところで止まりこちらの様子をじっと窺っている。馬車ではなく自分の馬に乗っていたウィズマーは馬を降り、勇敢にも首なし騎士へ切りかかる。下馬して騎乗の敵を攻撃するのは不利だが、騎乗戦闘の訓練をしていないウィズマーにはこれが最善の攻撃だった。ウィズマーは裕福な貴族の例にもれず、幼少のみぎりより最高の剣士から剣の使い方を習っていた。そして現在もたゆまず腕を磨いており、得体のしれない怪物だろうが切り伏せる自信はある。しかしそんな彼の強力な一撃を首なし騎士は事無げに重そうな大斧で受け流した。
「強い!」

一方、横転した馬車の中でも敏捷な身のこなしで被害を免れたアルヴィンがゴドウィンとウィズマーの召使いのゴットフリート・トレフィラヌスことトレフィを救出していた。馬車の中で転がされ、頭から血を流したゴドウィンは恐怖に駆られ、一人で森の方へと走り出した。
「あいつが来た!」
動転して木の根や茂みにつまづきながら逃げ出すゴドウィンの後を首なし騎士は常歩で追い、大斧を高く振り上げる。斧頭にモルスリープが反射する。止めに入る間もなく、騎士は斧を振り下ろしゴスウィンの首を一撃で落とし、返す刀で右手を切り落とした。殺された馬の首の血まみれの切り株から、温かい血潮が流れ、白い雪を染め、夜の空気を揺らめかせる。恐怖が混じった圧倒的な血の悪臭がゴスウィンの首から漂う。

怪物を恐れもせず、プファイルは死んだゴスウィンに近づき彼の切断された手首を拾い上げ、馬上から見下ろす騎士に問う。
「神君シグマーのしもべ、プファイル=ジーベンが問う!お前は何者だ、何故この哀れな男を害したのか」
頭の無い騎士は地の底から聞こえるような、くぐもった声で答える。
「私はギスモンド。手に1つの目、頭に2つの目、これはウーテの復讐」
そして、犠牲者の手首を渡せというように片手を差し出した。
プファイルは躊躇し手の中の手首に目を落とすと、小指の付け根に異教めいた眼を模した入れ墨があるのに気づいた。
「シグマーの名にかけて! この目は何だ?」
「お前には印はない。その呪われた手を渡せ」
まだプファイルが躊躇しているとウィズマーが言った。
「プファイル、それを奴に渡せ」
こんな夜にはシグマー神の言葉も届かない。異教のものは同類に委ね、相食ませるのが良かろう。
首なし騎士は手首を受け取り、地面に転がる頭部を斧で器用にすくい上げると森の奥に走り去る。

==========
怪我を負い、馬を失った御者はトレフィが治療を行うあいだ、ゴドウィンが指示した強行軍のせいで生じた損害への不満を言い続けていた。
「とは言え、お前は危険を考慮したうえで約束をしたのだろう。雇い主が死亡する可能性を予見できなかったのはお前の責任だろう」ウィズマーが冷静に指摘する。
「私ごときにそのような難しいことを考えられるわけないじゃないですか。何とかなりませんか?」
そう言いながら、御者はゴドウィンの残った左手の指で輝く宝石に目をやる。
「良かろう、お前の契約は私が代行しよう。その死体を馬車に積んでハルトまで届けるのだ」
一番小さいゴドウィンの指輪を一つ抜いて御者へ放った。御者はまだ何か言いたげだ。次に小さい宝石を渡すと、御者は上機嫌になり仕事を始めた。

==========
ゴスウィンの死を知り、警備兵の隊長であるベルティーユ・リンデマンは、これがこの1ヶ月で4件目の殺人であり、この1年で起きた一連の事件のうちの1つであることを明らかにする。警備兵たちと話していると、背後の教会から閉門を知らせる鐘の音が聞こえてくる。その音は、まるで順番が狂っているかのように奇妙に感じられる。
「シグマーに光あれ!不吉な鐘の音だ」プファイルは魔除けの仕草をした。

==========
一行は警備隊長に勧められた穏やかなヒキガエル亭に宿をとった。1階の酒場で夕食をとりながら町の噂話を仕入れた。

・犠牲者の多くは右手を切り落とされているが、その理由は誰にもわからない。ある者は、犠牲者を集めて鞭を作り、正直な民衆を懲らしめようとしていると言う!
・全員が首を切られているが、右手を切断された者は数人しかいない。そこにどんな意味があるのか?
・騎手が恐ろしい飢饉と不作をもたらすことは、誰もが知っている!ハルト近郊の収穫はここ何年も絶好調だったのに、残念なことだ。先週、2つある穀物の全部が腐ってしまったのもそのせいだろう。
・あそこにいるマルコルフ・バックマエは大笑いだ。街でエールの取引をしては、街を飲み干している!運が悪かったな。殺される前に二人の農夫と話しているのを見た!考えてみれば、彼はあの石工と、騎手と同じものを取引していたんだ......。 胡散臭い運の持ち主もいるものだ!
・その夜、宿にはもう一人、酒造家のマルコルフ・バックマエという旅人が泊まっていた。彼は宿のエールの品質に大声で文句を言い、代わりに自分の蜂蜜酒を買わないことに憤慨している。
・デュラハンは処刑人の亡霊で、高貴な生まれの女性を殺した罪でエイルハートで殺された。今、彼は彼女を探しており、彼女を愛しているかもしれないと思う者は誰でも殺している!

最後の噂はここまで一緒だった御者が言いふらしていた。彼は思いのほかロマンチストだったようだ。あるいは臨時収入が彼に詩情を呼び起こしたのか。
酒場の片隅では噂話されていたマルコルフが誰にも相手されないことも気にせず、大声で歌を歌い、楽しげにビールを飲み続けている。醸造家である彼は少しでも自分に関心を持った相手には、ビールに関する蘊蓄を滔々と説明する。特に最近作り始めた蜂蜜酒には大いに期待しているらしい。
酔っ払いがいよいよ気勢を上げていると、場違いなほど上品な女性が来店した。気づいた酔客たちが親しげに挨拶する。彼女は酒場を見回し、ウィズマーに目を止めるとまっすぐにやってきた。
「リヒテンラーデ公、お会いできて光栄です。わたくしはハルトの市長、エルヴァ・フェルギーベルと申します。この度のサムター氏のご不幸への対応について、故人に代わりお礼申し上げます。そちらが被った損害についてご協力できることがあると思います。そして当市が置かれた状況の改善にご協力をお願いしたいので、明日市庁舎までご足労お願いします」
そして二、三の社交的儀礼上の会話の後、彼女は酒場にいる顔見知りに挨拶するため、その場を離れた。彼女はパックマエ氏と酒造りについて専門的な会話をし-彼女自身もハルト市郊外に醸造所を所有している、輪投げに興じていた鷹匠のディオミラ・キーファーと女同士の短い秘密話しした後、酒場を後にした。


==========
外では雪が降り、しっかりと固定されていない鎧戸が風にあおられて音をたてている。ヘクセンスナハトの夜の祈りがかすかに聞こえる。穏やかな夜だ。
静かに夜の祈りを唱えていたプファイルは目の前の蝋燭が溶けて小さくなるのではなく、逆に大きくなっていることに気づいた。面妖な、これは凶兆だ。誰かが叫びながら廊下を走る音が聞こえる。
「シグマーズハンマー! アルヴィン、廊下が騒がしい」同室のアルヴィンに声をかけた。ウィズマーとトレフィはこの宿の最高級(と女将が言っていた)の別の部屋で休んでいる。
プファイルは少しだけ扉を開けて廊下を窺う。蝋燭のわずかな明かりで、下着姿の酒造家マルコルフが、恐怖で顔を灰色にしながら階段に向かって廊下を走り、助けを求めて叫んでいる。首なし騎士が重々しい足取りでプファイルの目前を通り過ぎる。決意を持った一歩一歩が建物そのものを揺るがすようで、歩みを進めるたびに鎧が不吉な音を立てる。
「シグマーに栄光あれ! アルヴィン、奴だ。後を追うぞ」
今まで完全に寝ていた様子のアルヴィンだったが、素早く身を起すと流れるような動作でベッドわきのレイピアをつかみ、プファイルの後を追う。


雪の薄い膜で白く覆われた誰もいない通りに跪くマルコムを見下ろすように首なし騎士が仁王立ちしている。黒ずくめの騎士が高く持ち上げた大斧は、雪が反射した月明かりで神々しく輝いている。光の軌跡がマルコフの首のあたりを通り過ぎ、鮮血が散る。月の光を失った武器は、怪物が振るうに相応しいただの人殺しの道具に戻る。またしても右手を切り落とした騎士の目前にプファイルは立ちはだかった。
「神君シグマーのしもべ、プファイル=ジーベンが再び問う!何故この哀れな男を害したのか」
騎士がマルコムの手首を拾い上げると、大きな下品な指輪が指から外れて落ちた。指輪の下にはゴスウィンと同じ目の入れ墨が隠れていた。
「ただ、その目を持つ呪いたちが、彼女の命を奪った。彼女の祈りは届かず、ウーテは朽ち果てる。シグマーは彼女を失望させたが、私はそうしない」
「シグマーを恐れよ! 神は人を失望させない。人が神を失望させるのだ」
プファイルの脇に武器を構えたアルヴィン、ウィズマーが立つ。トレフィは少し離れたところから心配そうに見ている。細かな雪が舞い、緊張が高まる。遠くから近づく馬の足音が聞こえる。誰も動かない。漆黒の馬が首なし騎士の横で立ち止まる。
「私は刃のために頭を持ち、彼らは私の頭のために刃を持っていた。私はその斧を手にし、それを養っている」と言い残し、馬に飛び乗り去った。

トレフィが近づいて来て言った
「死んでますね」
犠牲者を検分し、懐から謎めいたメモとシグマーの聖印である双子の彗星の首飾りを見つけた。首飾りの裏には巫女ウーテ・ボットと印されていた。
「シグマーの千里眼にかけて! 邪教の書と聖印、これは異端だ」


==========


「ご存じの通り、現在ハルト市は謎の怪異、怪物の脅威にさらされています。ご高名なリヒテンラーデ公ご一行のお力で解決して頂きたいのです」フェルギーベル市長の話を聞きながら、ウィズマーは彼女の右手を見つめていた。彼女は控えめで上品な刺繍が入った真っ白な絹の手袋をはめている。
「いいでしょう。その前に一つ不躾なお願いをしたいのですが」
「何なりと仰ってください」
「では、その上品な手袋を外して、美しい右手をわたしに見せて頂けますか?」
市長は驚き頬を赤らめる。恥じらいというには長すぎ時間逡巡し、まっすぐに見つめるウィズマーを上目遣いで見つめてから、ゆっくりと手袋を外した。美しい手だ。目の入れ墨はない。すぐに手は手袋に覆われた。
「思った通り美しい手だ。諸君そうだろう」
「ああ、しみ一つない美しい手だ」アルヴィンが言う。
「シグマーの名にかけて! 真っ白だ」
「ところでギスモンドとウーテという名に聞き覚えはありませんか?」ウィズマーが聞いた。
「ギスモンドは分かりません。ウーテは去年無くなったシグマーの司祭の名です。彼女の名はウーテ・ボット。邪な欲望を抱いた鍛冶屋のフリードヴァルト・ハウプトフェルトに殺されました。そして鍛冶屋は捕まり処刑されました」
「鍛冶屋は斬首ですか」アルヴィンが平板な口調で聞く。
「そうです」

==========
一行はウーテのことをさらに調べるため、神殿に向かった。神殿にいた唯一の司祭、巡回司祭のローター・シュミット神父に話をからは、新しい情報は得られなかった。ウーテが墓地に埋葬されているらしいので、念のため墓地を見に行くということにしたが、その前に市場で噂話を聞くことにした。

==========
屋根付き市場広場では、前夜の出来事と腐ったトウモロコシの噂が飛び交っている。 トウモロコシが腐ったという者もいれば、芽が出たという者もいる。
ウィズマーは裕福な商人を装って市場の人々から話を聞き出す。人々はここ数年の豊作を歓迎している。彼らはシグマーやタールへの信仰、あるいは単に幸運のおかげだと考えている。事情通を自認している一部の市民は、特定の農場、主に市長が所有する土地が特に豊作であると指摘する。
市場で作物を売りに来ていた農夫たちは数ヶ月前に殺された農夫ハンフリート・マウスのことを語り、壁の外での首なし騎士の襲撃に恐怖を感じていると口々に言った。そのために雇われた賞金稼ぎが数週間前にアルトドルフからやってきたが、すぐに騎手に殺されて寺院の墓地に埋められたらしい。

==========
一行は墓地でウーテ・ボットの墓を探した。それはすぐに見つかった。多くの墓が放置され荒れているのに対して、ウーテの墓はきれいに清掃され花まで飾られていた。墓石の裏側が最近掘り起こされたようになっており、調べると多数の骨と1本の生々しい指が埋められている。いくつかの骨にはまだ血やちぎれた肉が付着している。よく見ると指には見慣れた刺青があるのが分かる。
「シグマーの顎髭にかけて! これは如何なることや、シグマーの司祭と異教の衆との関係とは」
「首なし騎士ギスモンドと鍛冶屋のハウプトフェルトの関係と言ったほうが良いのでは?」とアルヴィンが言う。
アルヴィンとウィズマーが推測を述べ合っていると、周囲を見回していたプファイルが大声を上げる。
「シグマーズハンマー! 見ろあの社を、あれはおかしい」
墓の片隅に離れて立つ小さな社へプファイルは突進する。理解できないアルヴィンとウィズマーは顔を見合わせ、プファイルの後を追う。
「シグマーに光あれ! これを見よ」祠の扉には、マルコムが持っていたウーテ・ボットの銘が入った双子の彗星の首飾りがぴったり収まるくぼみがある。首飾りを合わせてみると扉が開き、中には薄い紙束が入っていた。これはウーテが書き記した、ハルトに巣食う異教についての報告書だ。

----------
14日、耕し月
長い間、拭い去ることのできなかった感覚、形のない不安がようやく形になり始めた。しかし、安堵するどころか、気になることが増えてきた。この町には、フェルギーベル市長をはじめ、時間そのものが大胆な便宜を図ってくれる人物がいる。私は3度にわたって、フェルギーベル市長が所有地の調査から戻ってくるのを目撃した。さらに、フンフリート・マウスが経営する農園など、近隣の農園では季節外れにさまざまな農産物が栽培されている。シグマルツァイトにイチゴ?と尋ねたい。

ハルトには、自然法則がねじ曲げられ、ゆがめられた人々がいるのは明らかだ。彼らがどのような手段でこの茶番を成し遂げたのか、私は心配だ。もしハルトの多くの人々が善良で勇敢な人々でなかったら、私はすぐにアルトドルフのカテドラルに助けを求めて出発しただろう。これ以上のことをする前に、ここで発見できることを確かめなければならない。シグマーが私の手をあらゆることに導いてくれますように。

ウテ・ボット、シグマーのしもべ
----------
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする