無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

狂える魔術師の迷宮 -34(ネタばれ注意)

2024年08月31日 | 狂える魔導士の迷宮
第16次探索3日目

警報に答えて階下に集結する人の気配がする。
「私はガントレット騎士団のヴォルクマール・フォン・ヒンデンシュテルン。既に2体のムイラルを倒した。下の階への階段までの通行を許可されたい」
暗がりから一人のドラウが進み出て言った。
「最後の、3体目のムイラルを倒したら我らの支配地域の通行を許可されることもあろう。当主との面談を許可する。ついてこい」
階段を降り切った先は広大な洞窟が広がっている。そこに多くのドラウが臨戦態勢で集結していた。これまでの経験では我らがどれだけ信義を尽くしても最後はにドラウが裏切る。再びあれが繰り返されるかもしれないと思うと心が沈む。こちらを見つめるドラウたちの顔に死の影が浮かび上がる。いや、今度は違う結末が得られるかもしれない。人はみな違うものだ。ここのドラウたちに善の心が全く無いと考えるのは私が狭量なせいかもしれない。そのような陰鬱な考えに囚われながら気が付くとドラウの女主人の前に到着した。

「お前たちはムイラルを滅ぼせると言うのだな。かの怪物は長きにわたって我らアーブリンダー家の平安を妨げてきた。見事ムイラルを倒したあかつきには我らの領域を通過することを許そうぞ」
この領域は一段高い北領域と南領域に分かれている。北はムイラルの勢力圏、南はドラウの一族、アーブリンダー家の領域だ。そして北側が第9階層に通じ、南側が10階層に通じている。第12階層はアーブリンダー家と敵対するフレス家の領域となっており、中間である第11階層にはトログロダイトやトロルの繁殖地となっている。加えて第11階層にはビーヒアという怪物が生息しているらしい。アーブリンダー家としてはこのまま我々が先に進み、フレス家と戦うことになることを望んでいるようだ。

北側領域に引き返し最後のムイラルを探す。ドラウの話では今までに倒したムイラルは本体の劣化コピーに過ぎないようだ。力のムイラルと技のムイラル、それぞれ近接戦闘と魔術のみを本体から引き継ぎ、それ以外が劣化している。次の戦いは激しいものになるだろう。

ワンドで何かを指し示すウィザードが要石に描かれたゲートを発見した。いろいろと試したがゲートを開く方法が分からない。ゲート前には腐敗したドワーフの死体が扇状に倒れている。そのうちの一人はイノシシを象った鋼鉄製のヘルメットを被っている。このヘルメットは領主同盟のドワーフの密偵、ジョロス・ブライトヘルムの話に合致する。ウォーターディープのミラバー大使館から”蜘蛛の目”と呼ばれるエメラルドを盗み出した”ファルキールの拳”の頭目、ドワーフのファルキールがかぶっていたというヘルメットにそっくりだ。
「あら、このヘルメットには魔法が込められているわ」
「どれ」といって私はヘルメットを被ってみた。すると何やら腹の底から自信が沸き上がってきた。自己肯定感が増すのを感じる。そうだ私は今までも正しかった、そしてこれからも間違うことはない。

南側の領域はほぼ探索しつくし残りは隠し扉の先の領域だけだ。慎重に前進する。いつの間にかキュウキが現出し私の後ろをついてくる。まぐみんは気味悪がってすこし距離をとる。


先頭を進むメネルにフィンガー・オブ・デスが投射され、いきなり重傷を負う。しかしムイラルの姿は見えない。おそらくグレーター・インヴィジビリティで姿を消しているに違いない。そして奴の背後にはバンシーもいるはずだ。メネルの前へ出て周囲を見渡す。前方に揺らめく影が見える、奴だ。先ほどから強く感じている自己の正しさに後押しされ、私は躊躇なくエルドリッチ・ブラストでその揺らめきを貫いた。手応えと同時にムイラルが姿を現す。私の思った通りだ、敵は私の攻撃で呪文の精神集中が維持できず姿を現したのだ。ムイラルは私に近接して手にした剣で切りかかる。確かに完全体のムイラル、剣捌きが複製体とは違う。しかし剣の腕では私も負けない。モーニングスターの姿をしたキュウキがもたらす呪いをムイラルに投げかけつつ攻撃する。実体化したキュウキの霊も私の意図を汲み、最も相応しい位置へ移動しムイラルを攻撃する。はなはだ不本意ながら、敵にとって私とキュウキの霊は完璧な相棒に見えるだろう。そんな我々の挟撃態勢を節足動物の素早さで抜け出し、怪物は私とキュウキ、そして背後のロサに向けてライトニング・ボルトを投射する。かなりのダメージだが、その程度で私を倒すには不十分だ。しかしロサの体力は半減した。後ろにいたバンシーたちがムイラルに加勢しようと近寄ってくる。

バンシーの”慟哭”は致命的だが私なら耐えられる。私はムイラルに近接攻撃を継続し部屋の奥に押し込む。私と仲間との距離がひらき、そこにバンシーが入り込み後ろにいる仲間を攻撃する。しかしこれこそが狙っていた状況だ。ロサ、まぐみん、メネルはファイヤー・ボールを惜しげもなく投射しバンシーを焼き払う。バンシーは倒したがメネルが気絶し、こちらの損害も甚大だ。最後の死力を尽くしてムイラルに攻撃を集中する。
「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。紅魔の名のもとに原初の崩壊を顕現す。終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者。我が前に統べよ!エクスプロージョン!」
まぐみんのファイヤー…、エクスプロージョンによりムイラルは崩れ落ちた。
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狂える魔道士の迷宮 -33(ネタばれ注意)

2024年08月17日 | 狂える魔導士の迷宮
16次探索2日目

その声が聞こえるようになったのは第九階層のドゥウェオマーコア、魔術学園での経験が影響しているのかもしれない。私のキュウキが…私の?実体を得たキュウキが私の前に現れた。奴はドラウの巨人の向こう側に出現し私をじっと見つめていた。

その広大な大広間も他と同じように廃墟となり無人であると思われた。暗がりの向こう側から巨大な石のかけらが空気を切り裂いて飛んでくるまでは。先頭を歩いていたメネルが巨石に跳ね飛ばされた。最初は何らかの機械的な罠かと思いその場で動きを止めた。しかしメネルは手にした明かり代わりの光る石を広間の奥へ投げながら言った。
「敵だ!」
光りが照らすさらに奥の暗がりに、崩れ落ちが広間の柱の残骸を持ち上げこちらへ投げようとする2体の巨人のぼんやりした影が見えた。廃墟の様子をよく見ようと明かりを点けたことで敵の攻撃をうけたのだ。こうなっては暗がりに紛れて近づくこともできない。敵の投石を掻い潜りながら接近するしかない。意を決して広間の柱を遮蔽にしながら前進する。投石は間断なく続く。誰か、あるいは何かで敵の気を逸らすことができれば…、そのように考えていた時、手にしたキュウキが身をよじり私の体内を巡る魔力に触れるのを感じた。
「助けが必要か? いつものように」頭の中にキュウキの嫌らしい粘つく声が聞こえる。
「私はお前に乞うことはない。ただ使役するだけだ」
「そうなのか?お前の期待を感じるぞ」舌なめずりする奴の姿を想像する。
「黙れ!」
「つれない主人だ。だが私はお前のすぐ目の前にいるぞ」

巨人は突然自分の背後に出現した正体不明のアンデッドに驚く。巨石を手放し、残忍なモーニングスターを引き抜くやアンデッドに叩きつける。その一撃でアンデッドは完全に破壊された。死体は残らず跡形もなく消失した。キュウキは破壊される最後の瞬間まで振り下ろされる武器には目を向けず、じっと私を見つめ続けていた。

私はこの一瞬の出来事の意味が理解できず茫然とした。しかしロサの呪文詠唱で今すべきことを思い出した。
ロサは力場の壁で1体の巨人を閉じ込めた。そうだ私の役目は敵の攻撃を引き寄せ、ロサとまぐみんが魔法を行使する時間を稼ぐことだ。背後からまぐみんの呪文詠唱が聞こえる。
「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。他はともかく、爆裂魔法のことに関しては私は誰にも負けたくないのです!行きます!我が究極の破壊魔法、エクスプロージョン!」

「変わった巨人ね。大きいことを除けばまるでドラウのようだわ」
「ドラウと言うには随分と変異しているようだけどね」巨人の持ち物を確かめながらメネルが言った。
「奇形のムイラルは自身がキメラであるだけでなく、手当たり次第に混合生物を作り出しているのかもしれないわね」
「そんな怪物に目をつけられたのなら、ドラウといえども気の毒なことだな」メネルは値打ちがある品物は何一つ持っていないことを確認して立ち上がった。
「この何も無い空間には復讐の怨念が満ちている」それがキュウキを引き寄せたのか、それとも私の中に渦巻く暗い思念が生んだのだろうか…。

==========
部屋を囲むように高さ30フィートのバ ルコニーが巡らされている。バルコニーはクモの足の形に彫ら れた8本の石の支柱で支えられており、クモの巣を模した鋳鉄製の 手すりで囲われている。南にある奥行きの深いアルコーヴには、人型生物の骨が 大きな山となって積まれている。北にある入り口の両脇から2つの石の登り階段がバルコニー へと続いている。バルコニーの上にはロルスの像が吊り下げられている。
「気をつけろ、あの吊り下げられたロルス像のところ。前と同じならムイラルが隠れているぞ」
メネルが身を乗り出してロルス像の周囲を観察する。「居るな」
ロサとまぐみんが呪文詠唱を始めると、ロルス像の陰に隠れていたムイラルが動き出した。同時にロルス像も。バルコニーの下では骨の山の中から大きな植物の塊がよろめき現れた、シャンブリング・マウンドだ。

敵の攻撃を予期していた我々は有利な位置を取った。パーティーの2大火力であるロサとまぐみんが自由に魔法を行使できる状況であれば、我々が後れを取ることはない。倒したムイラルの所持品を検分しているとエルフ語を話す女性声が周囲に響き渡った。
「蜘蛛の女王はアーヴリンダー家を嘉し給う1 階下にて行なわ れし、プレス家の砦を打ち破る戦いにて、我らは勝利に次ぐ勝 利を収めたり。我らはかつて敵の手にあった、重要拠点を奪還 した。プレス家の打倒は必然である。ロルスを讃えよ!」

==========
第16次探索3日目

ロルスの神殿の周囲を探索した。打ち壊された古い家具や装飾品から想像するにこれらの部屋はかつてドラウの女神官の聖所だったようだ。鍵のかかった扉を開けると下りの階段が現れた。同時に女性の声が響き渡る。
「ムイラルが侵入しました。至急警戒態勢!」
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顔なきもの -4

2024年07月06日 | 顔なきもの
【ネタばれ注意】本記事はシナリオ「Skarok and a Hard Place」の内容を含んでいます。

「全く情けない人間どもだ。俺様が戦いというものを教えてやろう。戦いには時と場所、そして兵力のうち最低2つが勝っている方が勝つ可能性を得ることができるのだ。お前たちは明らかに兵力に劣る。従って時と場所で優位を得なければならない」
「おい、ウィズマーこのゴブリンやけに雄弁だな」ヤッタランはフォン・マゴットへ懐から取り出したコンパスを向けた。「変な風は吹いていないな」


「よく聞けお前ら。アード・フェイスのキャンプの周りにはいくつかの特徴的な地形がある。ひとつはゴークの裂け目。森に刻まれた傷跡のように渓谷は底なしの闇へと続いている。長さは1マイル、幅は最も広いところで1000フィート、蛇のように曲がりくねっている。渓谷の北西と東の端には急で危険な自然の階段があり渓谷の底まで下ることができる。渓谷には高所を渡る倒木や、頭上から落とせば敵を生き埋めに出来る玉石の山、金属鎧をも貫く鋭利な岩場地帯、渓谷の一番深いところには冥府につながる深い穴がある。二つ目は凍った洞窟。網目のように複雑な通路をもつ洞窟で氷のように冷たい。低い天井をから吊り下がる鍾乳石から滴る水音は静かな空間に絶え間なく響く。表面が凍った地底湖に敵を誘い出せば冷たい水に落とすことができるだろうし、一番奥の巨大なスクイッグの巣へおびき寄せて怪物と戦わせるのも良い作戦だ」

「リヒテンラーデ公、この良くしゃべる緑色のちびは危険だ。先にやっちまいましょう」アルテミウスがウィズマーの耳元で囁く。

「三つめはワイバーンの罠。偉大なるスカロック様が一族のため、ワイバーンを退治するために作らせた罠だ。奴は罠にかかるより前にスカロック様に襲い掛かり片手を食いちぎったのだ。そうでなければアード・フェイスごときに後れを取ることはない。で、その罠はまだ使えるはずだ。ワイバーンの代わりにアード・フェイスを誘い込むのは楽しそうだ。そして最後は泥の穴だ。硫黄の悪臭を放つ半マイルほどの泥だらけの空き地だ。踏み込むと足は泥に沈み動きを鈍くする。あちこちから有害な蒸気や熱湯が吹き出し、まともに食らうと呼吸困難になったり大やけどをする。ここに誘い込んで遠くから射かければ寡兵を補えるだろう」

「スカロック様は顔剥ぎの儀式を行わなくてはならないので生きたアード・フェイスを連れてこい。殺してはならん。速やかに戦闘計画を作成し提出しろ」
「シグマーに誉れあれ!グリーンスキンが計画を求めるなど聞いたこともない」
「ユニークなゴブリンであることは間違いないな。一方的に指示されるのは気に入らないが目的のため政治的な対応が必要な時だ」ウィズマーはそう言って仲間を見回した。「先ずは戦場を見て回ろう」

==========
「では意見をまとめよう。敵をゴークの裂け目、玉石の山の下におびき寄せ石の雨を降らして弱体化させた後、アード・フェイスの確保を行う。そのための準備として一つ、玉石の山の下にスカロックが野営しているように見せかける。二つ目はスカロックを捜索しているアード・フェイス側のグリーンスキンを捕虜にして、スカロックの野営地の情報を聞かせてからあえて解放する。これで敵を罠に誘い込む」
「ところでどうやってグリーンスキンに情報を聞かせるんだ? 奴等が都合よく言葉を理解するとは思えない」
「その通りだアルヴィン。奴らが理解できないなら、できるように話してやるさ」
「ウィズマー、グリーンスキンの言葉が話せるのか!?」
「人には思いもよらない特技があるものだよ、ヤッタラン」

==========
空には厚い雲が広がり嵐を予感させる冷たい風が強く吹き付ける。
「シグマーを称えよ。待ち伏せにはうってつけの天気になってきた」
敵は雨風と稲妻に紛れて近づいてきた。裂け目の上から下に見える偽りの野営地の様子を窺っている。奴らは悪天候に感謝しているに違いない。スカロックに気づかれず攻撃を開始できることを。だが天が味方したのはウィズマー一行だ。不十分な視界の元では野営地の偽装を見抜くことはできない。


アード・フェイス率いるオークの集団が偽の野営地になだれ込み敵の不在に戸惑っている様子を確認したところでウィズマーが命令した。
「石を落とせ!」大量の石、大岩が頭上から降り注ぐ。アード・フェイスと思われる巨大なオークが盾を頭上にかざしながら、こちらを指差し叫んでいる。従うオークはアード・フェイスの精鋭に違いない。降り注ぐ岩で負傷をしながらも冷静に頭を守りながら崖の出口を目指して走り出した。損害を与えたことに間違いないが壊滅させたとはいえない。次は近接戦闘だ。
ここでは悪天候が敵に味方した。視界が効かずこちらが射撃の機会は1度しかなく、すぐに近接戦に突入した。弩弓兵たちは隊長のフックスを先頭に逃走した。槍兵隊長のオデルは突撃してくるグリーンスキンに対し槍衾をつくり待ち構える。その横を嫌がる剣士隊を引き連れアルテミウスが突撃する。
「グリーンスキンは皆殺しだ!」


乱戦となり順調にオークは倒れていく。しかしアード・フェイスはウィズマー、アルヴィン、ヤッタラン3人を相手にしても優位を保っている。目前のオークを倒したプファイル、アルテミウス、オデルが加勢する。多勢に無勢、アード・フェイスは戦闘不能となった。

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「よし、お前らよくやった」離れたところから戦闘を監視していたフォン・マゴットとスカロックが現れた。スカロックを認めたアード・フェイスは気力を振り絞り襲い掛かろうとするがまったく動けない。スカロックは残虐な笑みを浮かべるとアード・フェイスの口に手を突っ込み、そのまま力を込め上顎ごと顔面を引きちぎり頭上に高く差し上げた。周囲を囲ったスカロック一党のグリーンスキンたちは口々に歓声を上げている。
「フォン・マゴット君。スカロック氏にはおめでとうと伝えてくれ。我々はガイウスを連れて退去させてもらうよ。権力の回復を存分に祝ってくれたまえ」
「りひてんらーでコウ、おイワいにカンシャする。イダイなるすかろっくサマはおマエにホウビをあたえる。このアワレなニンゲンをつれていくがよい」

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「ガイウス!よく無事で…」シュマリング村長のいつもと変わらない悲しげな声にも抑えきれない喜びの響きが混じる。愛する息子の顔を両手で挟み抱きしめる。
「父上、この者たちの不手際を罰して下さい。私は1週間も汚らしい獣の虜囚となっていたのです。この者たちはもっと早く私を自由にするべきでした!」ガイウスは父の抱擁から抜け出すと、命の恩人に向かって的外れな糾弾を始めた。その様子を父親は悲しげな眼差しで見つめている。
「とんでもない馬鹿息子だ、リヒテンラーデ公、ついでに正道について教育してやりましょう」アルテミウスはゴブリンを見るような目でガイウスを睨みつけた。
「どうかな村長、私の隊長が無料でご子息に教育を施してもよいと言っているが」
「ありがとうございます。そして我が息子の無礼をお詫び致します。依頼費にこ奴の性質による不便も含まれていたとお考えいただければと思います」



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狂える魔道士の迷宮 -32(ネタばれ注意)

2024年06月22日 | 狂える魔導士の迷宮
第15次探索9日目

我らは実験体としてナイト・ハグのワームリドル教授に捕らえられていたゴブリン3人を第2階層のゴブリンマーケットまで無事に送り届けるため迷宮を上へと戻った。
学園を去る我らにスパイトは2,3の有用な情報を伝えた。スパイト曰く、第10階層は奇形のムイラル、元ハラスターのボディーガードが支配している。その階層はドラウが掘った領域であり、ドラウとムイラルは敵対している。

久しぶりに地上に戻った我らの元に数人の訪問客があった。灰色戦闘団の使いは我らが入手した魔法の品と彼らがもつ品物との交換を打診してきた。確かに珍しいが直接冒険に役立たない魔法の品は単純な魔法の武器と交換したほうが我らの役に立つ。
領主同盟の密偵であるドワーフのジョロス・ブライトヘルムは”ファルキールの拳”と呼ばれるドワーフ4人からなる冒険者のチームについて分かったことがあったら知らせてほしいと依頼してきた。彼らは1年以上前アンダーマウンテンで行方不明となったが、その数週間前、彼らの頭目ファルキール・グラヴェルフィストはウォーターディープにあるミラバー大使館から”蜘蛛の目”と呼ばれる有名なエメラルドを盗んだ疑いがある。占術による調査ではファルキールは既に死亡しているが、エメラルドを本来の持ち主に戻すことは政治的に大きな意味があるそうだ。ファルキールは恰幅の良いドワーフでイノシシの頭をかたどった兜を被っていた。”蜘蛛の目”は3インチの真球に近いエメラルドで中心部には蜘蛛めいた形の小さなしみがある。この宝石には魔法の力はないとされているらしい。


第16次探索1日目

今回の探索からゲート門を使い道中をショートカットする方針とした。ゲート門は使用するたび何らかの効果を発揮する。それは有用なときもあるし有害のものもある。以前試しに使ったときには所持金が全て消えてしまった。ただその影響は最初に侵入した一人だけである可能性が高い。そこで様々な現象に対する耐性が高い私が全ての装備を外し、先頭に立ってゲートに入ることにした。
最初は第2階層から第4階層へ。ここでは炎のダメージを受けた。次に第4階層から第6階層へ。精神に一時的な混乱を生じた。そして第6階層から第9階層へ。再び炎のダメージ。それなりに厄介だが、探索を中断するほどではなかった。

第10階層へ到着しいつも通りまず最初にロサの魔法の目による偵察を実施。だがこの階層は各部は扉で仕切られており広域の偵察はできなかった。とは言えここはスパイトの情報どおりドラウの建築様式が見られる。ここも第6階層と同様に住人のいない廃棄された街なのか。出会ったのはお互いを求めあうドラウの石像の恋人だけだ。彼らは動けず、愛を伝言してくれる誰かを待ち続ける。

この広い控えの間の床は他よりも数インチ低く、一面に人型生物の髑髏が敷き詰められている。 髑髏は年月を経て黄色く色が変わり脆くなってしまっている。そのさまは一見したところ玉石の床のように見える。しかし玉石とは違い髑髏は足元で動き、砕ける。部屋の天井は高さ40フィートのアーチになっている。そして差し渡し20フィートのタランチュラに似た巨大な石の蜘蛛が逆さまに貼り付いている。これはセルヴエターム、ロルスに仕える下級神格、"待機する蜘蛛"だ。セルヴェタームは武勇の技と流血への渇望により、ドラウから崇められると同時に恐れられている。ここは彼をあがめ奉るための部屋だ。


ここにも生きたドラウはいない。精巧な石像が複数佇むだけだ。静かな空間に髑髏が砕ける音だけが響く。しかしここに何の危険がないとおもうほど迂闊ではない。盾を構えながら慎重に進む。するとやはり来た。石像に見えたドラウが動き出した。だが大した脅威ではない。天井のセルヴエタームの陰に何かいる。ウォール・オブ・フォースが詠唱され、仲間との間に透明な力術の壁が出現する。分断されたか。だがその程度では我らを制することは出来ない。ロサが頷いているのを視野の端で確認して、目前の敵に集中する。謎の怪物が姿を現す。人とスコーピオンのキメラのような大型モンスターがこちらに近づいてきた。怪物は勝利の殺戮への喜びを抑えきれず歪んだ笑みを浮かべている。私も笑みを浮かべ怪物の後ろを顎で示す。メネルが瞬間移動で力術の壁を越えてくるのを、まぐみんの聖なる炎がドラウを燃え上がらすのを、そしてリサのファイヤー・ボールが敵の中央で炸裂するのを見たジャイアント・ハーフ・スコーピオンの顔は大きくゆがみ怪物に相応しい表情となった。
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顔なきもの -3

2024年06月15日 | 顔なきもの
【ネタばれ注意】本記事はシナリオ「Skarok and a Hard Place」の内容を含んでいます。

ウィズマーは仮事務所にしている市庁舎の一室で町の代表たちと話し合いをしていた。市長と邪教徒の行いは町の住人には知らせず、風車小屋に現れた怪物との戦いで命を落としたとだけ伝えられた。ウィズマーは有力貴族の風格と実力を発揮し、うろたえる町の代表者たちをまとめ上げウィズマーが相応しいと判断した人物を新しい市長に据えた。この決定は町の住人に友好的に受け入れられウィズマーに対する評価もあがった。

町が落ち着いた頃合いを見て一行はハルト市を出発した。ウィズマーの出立を惜しんだ町の人々は街道に列をなして盛大な見送りをした。
「さて次の村が最後の休憩地だ。そのあとは無法者やグリーンスキン、ハーピーなどの怪物が跋扈する山道になる」ウィズマーが仲間に説明する。
「次の村はどんなところだい? 砦のようなところかな」ヤッタランが言う。
「ヴェルゲッセンドルフという寂れた寒村だそうだ。危険な所にあるにしては無防備だな。ときおりライクランド伯-つまり皇帝陛下だな-が思い出したようにグリーンスキンの討伐軍を寄越すことがあるらしい」
「シグマーを恐れよ! 噂ではその村では邪教徒がシグマーを冒涜する儀式を行っているとか。確かめねば」

==========
ヴェルゲッセンドルフは、崩れかけたレンガ造りの大邸宅の周囲を取り囲む、おんぼろ木造家屋の集合体だ。野生の恐怖からの防御は、背は高いが貧相な木の柵だけ。その柵を補強するかのように、野蛮な獣やグリーンスキンの頭蓋骨を刺した杭が立っている。 この村の門はひとつで、ボロボロの軍服を着た弩弓兵がよそ者を警戒している。いつも寒く湿っていて、足元は泥でぬかるんでいる。空気には湿った麝香のような臭いが重く漂い、町の老朽化した家々の煙突から出る煙は、大気をいつまでも灰色の暗がりに包んでいる。

ここの人々は顔色が悪く、痩せこけ、元気がない。まるで毎日を生き抜くだけで精力を消耗しているかのようだ。興味深い場所は古カラス亭という酒場と黒いメイル・コートを着た獰猛な槍兵に守られている村長の屋敷だけだ。

古ガラス亭は今にも倒れそうなほど傾いている。 狭い窓からは光が差し込み、店内からは騒々しい笑い声と酔っぱらいの歌声が聞こえてくる。入り口の外に倒れている若い兵士は顔を泥の中に突っ込み、右手には空のタンカー(大ジョッキ)を握っている。その脇で別の兵士が膝をつき、血と嘔吐物を吐いている。それぞれ革の鎧の上に、唸るイノシシの頭が刺繍されたタバードを羽織っている。

「無法者が村を占拠しているわけではなさそうだな」泥、ぬかるみ、酔っ払いの吐しゃ物、アルヴィンは巧みな足取りでそれらすべてを避けてゆく。彼にとってはごみ溜めも舞踏会場も、そして決闘の場でも変わらない。常に優雅に達人の歩みだ。ガサツな男には彼がどれほど危険かは分からない。だたの気に食わない伊達男にしか見えない。
一行が酒場に入ると一瞬会話が止まる。一瞬の間にお互いの値踏みが完了し再び喧騒に包まれる。

パイプの煙が立ち込める酒場の中では、同じような服装をした十数人の兵士たちが、いびつなイノシシの紋章を掲げて暴れまわっている。 一角のテーブルの後ろには、地元の人々がうずくまっている。 恐怖におののく店主と使用人たちはバーの下に隠れ、酔っぱらいにビールを飲ませている。 立派な鎧を身に着けた、隻眼で黒髪の男が兵士たちのリーダのようだ。彼は燃え盛る暖炉のそばに立って、火のついた薪で危険なジャグリングをしている。

カウンターに腰を据えたアルヴィンの後ろに体格の良い一人の兵士が近づく。他の兵士はお互いを小突き合い期待を持って成り行きを見ている。
「おいアンタ、ずいぶんとお上品なものをぶら下げているな。途中ですぐに折れちまうんじゃないか?」男はアルヴィンの高価なレイピアを指差し、腰を下品に振りながら手垢のついたジョークで挑発し、悦に入っている。
「私の武器は常にスマート、レディにも評判が良いよ。君の太くて頑丈なモノはグリーンスキン向きかな」男は目を細めて笑みを浮かべる。
「いいだろう、俺と勝負しろ。勝った方が相手の武器を頂く」
「よろしい、軽くひと遊びといこう。先に血を流した方が負けだ」
アルヴィンの勝ちを疑わないウィズマーは遊びが乱闘にならないようにと追加の提案をする。「ではわが友アルヴィンが勝ったら私がここにいる皆に酒を奢ろう」

アルヴィンは決闘者だ。兵士でも殺し屋でもない。流儀としてその戦いは人に見せるものだった。この戦いはゲームであり彼が得意とするものだ。しかし相手の兵士にとってゲームと殺しは地続きだ。挨拶代わりの試し合いなどしないし、アルヴィンに対してそんな余裕はない。ルールはある、しかし戦場ではあらゆることが起こり得る。殺しが好きなわけではない、死はありえる一つの結果に過ぎない。
アルヴィンが繰り出した試しの一撃は自分を傷つけるものではないことは分かる。そして自分より敵の方が強いことも。この苦境を打開する技などなく、作戦を考える頭もない。彼の戦いは気合、力任せの強打、そして幸運が全てだ。
アルヴィンの試しの一撃の引きざまに合わせて剣を目いっぱい振るう。まったく無意味な対応だが、油断しきっていれば敵の武器を弾き飛ばすか、あるいは大きく態勢を崩させることができかもしれない。一方自分にも大きな隙ができるため後先考えない行動だ…と普通は考える。だが彼は考えない、直観と激情で行動する。
アルヴィンは筋力頼りの未熟な反応に苦笑しながら教科書通り敵の反応に逆らわず受け流す。相手の武器に沿って剣を滑らせ小手に軽い、そして回避不能な一撃を繰り出した…はずだったが、兵士の手入れ不足の剣の欠け部分に武器が引っ掛かり勢いで持っていかれそうになる。慌てて武器の軌道を上方に変えたせいでわき腹が無防備になってしまった。兵士はその隙を見逃さず、攻撃のために大振りした武器を力づくで無様な軌道で引き戻した。これがアルヴィンにとって予想外の一撃となった。ただ引き戻すためだけの無勝手な剣の動きはアルヴィンの脇腹を切り裂き血が流れた。
「これは見事な驚、まさに戦場の技。私の負けだ、この武器は君のものだ。私はアルヴィン=ステュッツマンだ、君の名を聞かせてくれ」
「俺はアルテミウス、お前もなかなかだったぜ」

これで傭兵たちは我々の邪魔はしないだろう。むしろドラッケンフェルズ城へ向かうための護衛として雇っても良いかもしれない。次は隅の方で怯え切っている村人たちを何とかしてやらんとな。村人が邪教信仰に染まっていると思い込んだプファイルを前にした彼らは死刑宣告を受けた囚人と同様だ。プファイルの尋問-彼なら説教というかもしれないーは心の弱い人を精神的に殺すことができるからな。
富と権力の霊気をまとったウィズマーが温かい笑みを浮かべながら近づくと、哀れな村人は地獄に仏を得たかのようにすがり付いた。

==========
「なるほど、つまりお前たちは正直者で敬虔なシグマーの信者だと言うのだな。にもかかわらず余所者の傭兵たちに唯一の憩いの場であるこの酒場を占拠されてしまったと。対処すべき村長は息子が行方不明になったことで職務を放棄し家に籠ってしまったのだな」
「はい、その通りでございます」
「そして神の使いであるジーベン師がお前たちの魂を救うべくもたらされたと」
「いや、それは…」、「シグマーを称えよ!」
村長の息子の捜索を手伝い、あわよくば見つけ出してやればこの村は私に協力的になるだろう。ドラッケンフェルズ城への拠点とするには好都合だ。付近を探索するだけでも十分に意味はある。早速訪ねてみよう。ここよりはマシなベッドがあるかもしれないしな。

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町の中心にある市長の邸宅はレンガ造りの堂々とした3階建て立派なものだが、よく見ると外壁はひび割れ、窓には汚れこびりつき、屋根のスレート瓦の何枚かは欠けている。正面玄関は短い石段を登ったところにあり両脇に黒い胸当てと兜を身に着けた槍兵が立っていた。

館内は薄暗くアンティークの家具が雑然と置かれている。 板張りの壁には色あせた絵画やガラスのような目と虫くいだらけの毛皮を持つ動物の剥製が吊るされている。 年老いた執事に出迎えられ村長の応接室に通される。オーク材の机にそびえたつ乱雑な羊皮紙の山の背後のおんぼろ椅子に村長が腰かけている。背後に飾られている水晶の髑髏と美しい剣だけがこの屋敷で価値ある品物のように思われる。

シュマリングは痩せて気難しい男で悲しげな目をし口ひげを垂らしている。高い地位にふさわしい高価なシルクとサテンのスーツはところどころ糸が切れつぎはぎだらけだ。喉元にはくたびれた付け襟が巻き付いている。ボロボロのウィッグをかぶりその下からは白髪が覗いている。

「私はマキシミリアン・シュマリング、この村の村長だ。君たちが私の苦境を救うために来ることは知っていた。先ずは感謝する」
彼は悲しみに満ちた重い声で穏やかに話しだした。 彼は金枠に入った小さな肖像画を抱いている。その肖像画にはハンサムと呼ぶにはあまりに病弱そうな10代後半の青年が長い金髪に上品な貴族の服装で描かれている。
「これが我が最愛の息子、ガイウスだ。息子は数日前、森林主任のエミール・ハルトマンら当家の使用人たちと狩りに出かけた。 不運にも保護者たちとはぐれてしまいそれ以来見つかっていない。ハルトマンは探索隊を組織し捜索したがガイアスが最後に目撃された場所の近くでグリーンスキンらしい足跡を見つけただけだった。捜索は毎日のように行なわれているがこの村には森の奥深くまで行く勇気のある者がおらず成果が出ていない」
「シグマーを信じよ!信じる者は救われる」
「グリーンスキンの痕跡の近くに血の跡が無いのなら少なくとも今はまだ生きている可能性が高いだろう。だた広い森を我々だけで捜索するには人数が足りない。酒場にいる傭兵を雇ってはどうだろう」
「構わない、金も出せる。傭兵のことは知っていたが、私のオラクルカードが勇者の到着を告げていた。君たちを待っていたのだ」
「おっさん大丈夫か?」ヤッタランが思わず思いを言葉に出す。
「私たちが勇者か否かはともかく、できることをしよう」
ヤッタランは懐から風変りな方位指針盤を取り出し熱心に操作を始めた。これは先天方位指針盤、魔力の風を感知することができる。指針盤は村長の後ろにある水晶の髑髏からダハールの風、魔術師が言うところの暗黒の風が吹いていることを示している。
「村長、後ろにある水晶の髑髏は何だ?」
「これは当家に古くから伝わるものだ。祖父はこの髑髏が発する邪気がグリーンスキンやビーストマンどもを村から遠ざけていると信じていた。隣の剣も古いものだが由来は伝わっていない」
ヤッタランが手にするとそれはわずかに暖かい。そして頭の中に不明瞭な囁きが響く。しばらく意識を集中するとそれが明確な言葉を成す。
「殺せ、あいつを殺せ!」

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結局ウィズマー一行は家宝の水晶髑髏と剣を受け取り、傭兵には前金として金貨25枚、成功報酬として金貨25枚支払うことで話はまとまった。翌朝出発し昼過ぎのこと。
「じゃあ俺たちはここで」嫌な笑みを浮かべながら傭兵隊長のクルツが言った。
申し出は意外ではないようで落ち着いた態度でウィズマーは聞いた。
「理由を教えてくれ」
「そうだな、ここにいるグリーンスキンは数体のはぐれ者というわけじゃない。ここにはグリーンスキンの正真正銘の部族がいるのさ。あんた達は腕が立ちそうだが、十数人の部隊でどうこうできる相手ではない。あんたも分かっているんだろ」
「我々は特殊作戦の専門家だ。規律を保って指示に従えば名誉と金を手に入れることができる」
「そう言う貴族様を何人も見てきた。大抵の場合手に入るのは血と泥だ。半分の金貨は手に入れたから今回はそれで十分だ」
「そうか残念だ」
「クルツ待て、お前に名誉を得る機会を与えてやろう」アルヴィンは鞘を払った武器を顔先に立ててから切っ先をクルツに向けた。
「私が勝ったらお前たちは契約通りリヒテンラーデ公の指揮で戦う」
「いいだろう、今度は遊びではない。生き残ったほうが勝者だ」

「シグマーの金床にかけて、いいのかウィズマー。どちらかが死ぬことになるぞ」
「決闘者に決闘をやめさせることはできないよ」そう言うとにらみ合う二人の間に進み出た。
「アルヴィンとクルツの決闘を宣言する。立会人はウィズマー・フォン・リヒテンラーデ、勝負はどちらかが死亡するか戦闘不能になるまで、あるいは降参を宣言するまで。双方遺恨無く。はじめ」開始を宣言すると同時に、向かい合うアルヴィンとクルツの間に差し出した手を引いた。ウィズマーの引いた手の陰からクルツは必殺の一撃を放った。自分を遮蔽に使われたウィズマーはアルヴィンの死を予測し目をつぶった。
キンッ
クルツの剣を受け流す冴えた金属音が響き渡った。
「このような奇襲攻撃は1875年エスタリアの決闘者スアレスのものが有名だ。彼は立会人の腕ごと相手に一撃を加えた。それに比べれば非常に紳士的な攻撃だ。ちなみにその決闘で相手は死んだがスアレスの負けとされた」アルヴィンが楽しそうに解説する。
「そうかい。昨晩みたいな舐めた戦いをしてくれていれば、今の一撃で終わっていたのに。厄介な奴だ」
遅いが重装甲に守られたクルツは多少の傷は無視して密着戦あるいは組打ちを狙う。一方軽装なアルヴィンは中間距離を維持しながら前後に素早く動き相手の防御の隙間を縫って小さな傷を与えて心理的に追いつめる。だがどちらの目論見も上手くいかない。決闘場の主と戦場の主はそれほど違うのだ。しかし生死を賭けた戦いにおいては数多くの理外を生き抜いたクルツに利があるのではないか。
最初の勝機はやはりクルツが得た。戦いは持久戦の様相を呈していた。速度に勝るアルヴィンの剣がクルツに傷を与えるが、クルツは全く意に介せず体をぶつけるようにして強引に前に出る。昨晩の決闘で受けた傷のせいでわずかに反応が遅れたのを見逃さず、クルツがアルヴィンの右手に深手を負わす。大量の血が流れだすがアルヴィンの笑みはさらに深くなる。
「アルヴィン、その傷じゃもういくらも立ってられないのじゃないか」勝利を確信したクルツはそう言いながらアルヴィンの連続攻撃をかわした…はずだったが最後の一撃が鎧の隙間を縫って肋骨を切り裂いた。今までに受けた小さな傷が積み重なってクルツの動きを鈍らせていたのだ。
「確かにそろそろクライマックスだ、どちらが死ぬにせよ」
胸に深手を負ったクルツはまともに戦えない状態だ。だがアルヴィンの出血も相当だ。クルツがこのまま時間を稼げば先に倒れるのはアルヴィンだ。彼は地面を這うようにしてアルヴィンから離れる。血を流しながらゆっくりとアルヴィンがその後を追う。
「さようならクルツ」アルヴィンの最後の一撃はクルツの胴体を真っ二つに切断し、近くにいた傭兵団員たちに血の雨を降らせた。

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「今後この隊の指揮はアルテミウス、君に任せよう。この任務の間は私に従ってもらう。任務が終われば金貨25枚を受け取って後は自由だ」
「任せろ、グリーンスキン退治は得意だ」
「今回は殲滅任務ではなく救出なんでほどほどに頼むよ。少し遅くなったが、エミール現場へ急ごう」

一行は村の森林管理者であるエミール・ハルトマンの案内で木々の間を進んだ。村長の息子のガイアスが姿を消した場所へと続く道は暗い森を縫うように続いている。周囲は不気味に静まり返り、鳥の声すら聞こえない。その場所の地面には争った形跡が残っていた。踏み荒らされ、低く垂れさがった枝が折れている。ここでハルトマンはグリーンスキンの顔が粗雑に彫られた青銅のバックルを見つけた。更に何かを引きずった跡と大きな鋲付きブーツの足跡とゴブリンの足の爪痕も見あった。加えてハルトマンがここで見つけた”G”の文字が刻まれた銀の短剣はガイウスのものであることをシュマリング村長が確認した。
「この引きずった跡をたどろう」
そのまま不穏な気配が漂う森を進むと前方にグリーンスキンが現れた。こちらを監視するだけでじっとしている。退路を断つように後方にもオークとゴブリンの一隊が出現した。アルテミウスは口汚く罵りながら後方のオークに突撃した。
「奴らはなにをしているんだ?」ウィズマーが疑問を言葉にする。
「何かを待っているようだな」ヤッタランの推測を裏付けるように巨大なオークが現れた。

「パーレイ」巨大なオークが現れた茂みの奥から小柄なゴブリンが縄で縛った人間の首元にダガーを突き付けながら現れた。そのゴブリンが着ている州軍のコートは大きすぎて裾を地面に引きずっている。首にはエンパイア軍のドクロのメダルを鎖でぶら下げている。貧相な外見とは反対に彼の種族には珍しい肝の据わったオレンジ色の目は知性に輝いている。そして人間の言葉を話すことができた。
「このオカタはスカロック・ノーロック。テンをつくイダイ。ボーン・クラッカーのゾクチョウ。オレはチュウジツなダイベンシャのフォン・マゴット。スターランド・シュウグン、ダイ3レンタイのマスコットだ。オマエらこのキゾクのコどもをたすけるからアード・フェイスをつれてこい」
「とりあえずアルテミウスを落ち着かせた方がよさそうだな」アルヴィンは後方へ向かった。

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