無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

狂える魔術師の迷宮 -21(ネタばれ注意)

2023年03月21日 | 狂える魔導士の迷宮
第13次探索6日目

ここは墓場だ。

エルフは光と生命、風を尊ぶ。私の半分は人間だが、エルフの趣向の影響を強く受けている。月のない黒い森であっても、そこかしこに生命の息遣いが聞こえ、木々を渡る風は心に平安をもたらす。ここには死の静寂しかない。忘れ去られた死だ。高度な技術で作り上げられたこの地下都市には、ドワーフの建築技術、生活を便利にする用具、細かな細工模様や芸術品が残されている。しかし今となっては遺跡荒しが持ち去る獲物であり、不注意な盗掘者を襲う怪物が利用する撒き餌でしかない。森の樹木や草花とは違い、使うものがいなければただの副葬品でしかない。

私は冒険者だ。つまり盗掘者でもある。この都市を収めていたメレア王の財宝を求めて、墓場を彷徨う。
「メレア王には親近感が湧くよね。だって俺はメネルだから」
甘い憂鬱を楽しむこともできない。だがこの朗らかさがエルフなのだ。辛気臭い考えはドワーフに任せておこう。

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西壁にガラス張りの小さなくぼみが等間隔に配置されている。中にはジェイド(蒻翠)製の杖の4つに折れたかけらがある。小さなくぼみはいずれも高さ4フィート、幅1フィート、深さ1フィートで、どこから差すともない魔法の光に照らされている。南側にある隠し扉の先の部屋の中では、髑髏と骨が空中に円を描いて浮いている。

メネルが慎重に近づくと、骸骨の霊に憑依され、見知らぬ人物のように話し出した。
「山の中心は黒い玄武岩の扉の先にあるよ。扉を開けられるのはドワーフの王だけだよ。山の中心に行けば、おまえは自分の中の力を見出すだろう」
「部屋に入る時には大きな声でズンデルブロクと言うのだよ。よい報いがあるだろう」
「神殿にデーモンが攻めてきた。そこでわしらはデーモンをこの階層の像のなかに閉じこめたのだよ。だから像には気をおつけ」
ズンデルブロクとはドワーフ語で"隠された財宝”を意味する。我々は財宝の担い手として選ばれたと考えて良いのだろうか。それとも犠牲者に選ばれたのか。

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王の墓所のように見える部屋を見つけた。しかしここは偽の墓だ。


隠し扉の先へ進むと、4体の大きなドワーフ像の部屋に出た。これらの像はドワーフの神モラディン(創造の神)、"真なる銀"ベアオナー(炉辺と家の神)、“銀鬚”クランゲディン(戦の神)、マーサモア・ドゥーイン(探険の神)をかたどったものだ。

突然、メネルはマーサモア・ドゥーインの像の方を向くと力強く、快活に言った
「だが断る」
何事かと思う間もなく頭の中に声が聞こえた。
「よくぞここまで来た。私にはメレア王の本当の墓への道を見出す知恵と力がある。私を囚われの身から解放してくれるなら、道を教えてやろう」
成程、メネルに憑依した髑髏の言葉は警告だったのか。この像には、ドワーフによってデーモンが封印されているわけだ。そうなると返事はひとつ
「だが断る」
ロサとまぐみんも言った。
「だが断る」
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食屍鬼島 -6(ネタばれ注意)

2023年03月04日 | 食屍鬼島
溶岩洞はここで行き止まり。このひどく汚れた場所は正にごみ溜めだ。通路の真ん中に大きな石柱が立っており、人が通るのは窮屈そうだ。身体の小さなクレシダが、間をすり抜けて先に中の安全を確認しに行く。部屋の天井は高く、中央部分は狭まりさらに上へ続いている。先には地上へつながっているらしく、光が見える。入り口と反対側の壁は柔らかい土でできており、以前に誰かが掘ったような様子がある。部屋の床には生活ゴミの他に、嫌な匂いのする動物の皮が折り重なるように散乱しているのが目立つ。
《留置所の下よりはマシね》そう思って安心したところに、鋭い無数の棘を生やした触手が3本打ちかかってきた。《何かいるわ!》


アティアグからは降伏の意志らしきものがテレパシーで感じられる。
「よし、いい仔だ。おとなしくしていれば、ここで十分な食事を得ることができるぞ」グラトニーの言葉は伝わらなくとも、意志は理解したようにアティアグはじっとしている。
《さてと、じゃあ後は天井の穴を抜ければ良いのね。アダム・スミス鎧を脱ぎなさい。空を飛ばしてあげるわ》

鎧を脱いだアダムがやっとのことで通り抜けられる程度の穴の先はなめし皮工房につながっていた。アダムは聞き耳を立て、出るタイミングを見計らっていた。誰かが近づいてくる。穴から下を覗き込んだ男は、下から見上げるアダムに気付き、手にしたゴミを捨てるのを止めた。
「そんな所で何をやっている?」男は警戒しながら言った。
「…、君たちは無事か? 気をつけろ、世界は破滅の淵で危ういバランスに晒されている」
「君の方がよほど落ちそうだけどね」男はアダムに手を差し伸べた。

「そうですか。すると町はすっかりゴート教団と背後にいるガタノソア教団、新参者のグール、それら悪の勢力と手を組んだアルウィイ執政官に支配されているわけですね」ザローが聞いたことをまとめた。
「陰謀、ここに明らか。だな」アダム・スミスは我が意を得たりと言った体で、頷いた。
「今はグールが街中を歩き回って、住人を監視しているというわけか」オルターセルフでヒューマンの姿をとったグラトニーが言った。
《じゃあ、なおさら急いで武器を手に入れなきゃね》

「よし、では俺がグールの姿に変身してお前たちを拘置所まで連行するというシナリオでいこう」仮の作戦本部にしているなめし皮工房の作業員たちに対し、余計な説明の手間を省くための言い訳をして、グラトニーはオルターセルフを解いた。
《私は周囲を警戒しておくわ》猫であるクレシダに注意を払う者はいない。
「私とアダムが連行される反逆者というわけですね」

「おい反逆者を連れてきたぞ。ザンドルはどこだ!?」
なめし皮工房で教えてもらった、拘置所の所長を務めるグールの名前を出し、受付にいたガストが執務室を指さすより先に、奥へとどんどん進んで行く。縄で縛られた者をグールが連れている状況に、間抜けなガストが疑念を持つことはない。足元を黒猫が素早く走り抜けることにも気づかない。執務室の前まで来た3人は見せかけの縄を外し、武器を構えると素早く執務室に入り込んだ。
「何だお前らは!?」不意を打たれたが、百戦錬磨のザンドルは素早く武器を構えて反撃する。しかし多勢に無勢。ガストたちを呼びよせる暇なく倒された。


《後はガストを騙くらかして、武器を回収すれば完了ね》廊下の先のガストが、ここの騒ぎに気付かずぼんやりしているのを扉の影から確認したクレシダが言った。
「そうですね、その前にロタール隊長のためにグレート・アックスを回収しないと」と言いながらその武器に手を触れた瞬間、ザローの視界が狭まり、夜になったかのように暗くなった。暗闇の中、ザローは男の声を聴く。
「その書物が我々を助けてくれるのだ! あほうどり亭へ行き、それを取り戻さねば!」
ロタールの深いバリトンが応じる。「我々にはその時間はないし、今、彼らにメッセージを送るすべもない」
視界が元に戻ると、アダムが心配そうにのぞき込んでいる。その会話は理解不能なささやきとなって消えていった。
「武器を回収したら、我々はアホウドリ亭へ行き、何か書物を見つけないといけないようです」ザローは全員に告げた。

アホウドリ亭はファルジーンでは珍しい建物だ。家具は白く塗られ、窓には雨戸がつけられ、何より屋根が瓦葺きだ。玄関先には三脚の椅子の残骸が積み上げられている。壊されたものがこの椅子だけということが、建物の不穏さを際立たせている。
「ここは普通ではないな」アダム・スミスは何かを恐れるように声を潜めて言った。
建物の2階までは清潔で上品な普通の宿だが、主人の寝室や書斎がある3階は雰囲気が一変する。書斎には床から天井まで届く背の高い書棚が並んでる。そこには収められた書物、手稿、写本は禍々しい魔術や忌まわしい神々に関するものばかりだ。小さい寝室のベッドの下には理解不能な魔術的物品が隠されていた。そのうちの一つ、縮尺1/2の真鍮の銅像はグラトニーが触れると突然しゃべり始めた。
「ようやく私のことを思い出したのだな。良かろう、今までこの暗がりに押し込めていたことは許してやろう。では聞かせてくれ、お前が新たに得たヨグ=ソトース神話について」グラトニーは少しの間考えてから言った。
「ヨグ=ソトース神話はクソだ」
「なるほど、クソか。お前がただ罵ったのでないことは、私には分かる。クソとは新しい神、あるいは古き神の別称であろう。新しい神についての知識であれば非常に興味深いが、先ずは古き神について考察を進めるべきであろう。すなわち…」
グラトニーは延々と考えを述べる銅像を縄で縛り、背中に担ぎ上げた。
主神室には隠し扉があり、開けるとギザギザに痩せこけた獣が現れた。それは見上げるほど大きい犬の骸骨の姿をしていて、青い油膜に覆われた皮膚はぬらぬらと光っている。


部屋の奥のテーブルの上に1冊の書物がある。これが幻視で言及された魔導書に違いない。書物の題名を読んだザローが呟いた。
「ワンドルフィンズ・レジャー。この本は私達をどこに連れて行くのだろうか」
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