無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

食屍鬼島 -9(ネタばれ注意)

2023年06月17日 | 食屍鬼島
光の女神像を破壊する儀式を行う邪教徒を見て、グラトニーは静かにひとこと言った。
「多いな」
「早速、アレを使いましょう。これは何か運命的なものを感じます」ザローは先に探索でアブホースの粘液を入れたビンを見つけた。粘液が空気に触れると、成長して、たちまちアブホースになるという危険な代物だ。
「敵を混乱させて、その隙に女神像を取り返しましょう」

パリン
投げ込まれたカラスビンが割れると、悍ましい粘体の怪物が現れる。アブホースは近くにいる犠牲者を反射的に攻撃する。しかし頑強な狂信をまとった彼らは、アブホースの攻撃を意に介せず、儀式を進める。
《見上げた狂信ね。高みの見物とはいかないようね》
アブホースを避けるため自身をレビテートで持ち上げたガタノソアの魔女が、岩棚に隠れる3人を指差し金切り声をあげる。
「おのれ人外魔獣どもめ!我らの神聖な儀式を邪魔するか!」魔女は素早く呪文を唱え、強力な爆炎をクレシダに投げつける。

儀式の場は狂気と暴力に彩られた、混乱の場となった。光の女神像を溶解するための、酸の供給装置がアブホースに破壊された。噴出する酸に部屋が沈んでゆく。それでも儀式をやめない狂信者から女神像を力づくで奪い去り、三人は一目散に儀式場から逃げ出した。

女神像をフローティング・ディスクに乗せ第二階層を探索する。下の階から追跡してくる敵はいない。皆、酸の後始末をしているのか、あるいは酸に始末されてしまったのか。だが安心はできない。この階に漂う不浄の気配は、質量を持ち重く絡み付き、呼吸を止めても皮膚から体内に入り込み、精神を汚染する。

その部屋の中には鎖に囚われた人型生物がじっと跪いていた。この家具の無い部屋は、床に描かれた怪しい文様で飾られている。一行は慎重に中の生物を観察する。お互い動きのないまま、時間が過ぎる。すると中の生物がゆっくりと顔を上げてしゃべり出す。
「ようやく我が復讐の時が訪れた。俺をこの戒めから解放してくれたら、お前たちの敵-おそらく我が敵を倒す手伝いをしてやろう。俺はチョー=チョー人のオッカトル、リンギイ」
3人は顔を見合わせ、すぐにひとつの結論を出した。
「さようなら、リンギイ」ザローがそう言って扉を閉める。中からは咆哮と鎖が引きちぎられる音がする。


この階の核心部に近づくにつれ、周囲に漂うただならぬ気配が濃密になる。一刻も早くこの場所を離れたいが、出口が見つからない。逃げ去るためには、邪悪の核を破壊するか、突破するしかないようだ。
柱が立ち並ぶ長い廊下が部屋の奥まで伸びている。床は秘文、紋様、もだえる人影の描写で覆われていて、その多くはファルジーン探索中で見恨れたものだ。ガタノソアの紋様に違いない。

廊下に一歩踏み出すと、目に見えない力が一行を捕える。身体の内側に火がつき、足取りがおぼつかなくなり、手足からしなやかさがみるみると蒸発していって、鉛のように重くなる。油中をすすむような感触、重くねっとりとして、そして精神を圧迫する空気の先にそれがあった。三人の精神は、目で見たものを解釈しようとして必死にもがくが、その似姿は鼓動が1つ打つごとに変化し、歪む。目が-たくさんの目が-緩やかに波打つ塊を覆っている。あるべきではないところに、目があるのだ!

突然、目が消えて、さまざまな形や大きさの不揃いな歯が無数に並んだもの、カニの爪、タコのくちばし、鋸歯状のサメの歯などに置き換わる。それらすべてが、漣を垂らし、ぼっかりと開いた口の中にあるのが見える。目をそらしても、この恐ろしい光景の記憶が薄れることはない。光の女神像の力も、このむき出しの力の前にはなすすべもない。ガタノソアのおぞましい姿は、三人の意識に永久に焼きつけられた。

肉体と精神の力を振り絞り勇ましく剣を振り上げるが、肉食獣を前にした蟷螂のようなものだ。なすすべもなくガタノソアの力に囚われてしまう。怪物はおそらく目前の虫けらの行動を意識をしていない。反射的に手を払ったに過ぎない。三人は恐怖と共に自らの身体がミイラ化していくのを感じる。

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精神的な能力は完全に制御できるが、肉体的な感覚や刺激がない場合、時間の経過を把握するのは難しい。長い時間が過ぎた後、扉が開き、足音が近づいてきて、聞き慣れた教養のある声が聞こえてきた。
「君たちに会った時、食屍鬼たちの餌にしてしまうべきだったかな」アルウィイ執政官はそう言う。「正直なところ、そうすべきだったと思う、君たちがトンネルに入った時にな。だが、そうしなかった、君たちは生き延びねばならなかった。英雄のごとく」三人が現在の状態にあっても、それを口にするのが苦痛であるかのように、彼の最後の言葉に込められた痛烈な皮肉が、はっきりと分かる。
「どちらでも構わない、それに私は君たちに感謝すべきなのだろうな、マインドウィッチを私たちのところへ連れてきてくれたのだから。私の海底の同盟者は多分に迷信深いし、センサの、・・・独特な地位が、契約を成立させたようなものだ」
「彼女の出現は予言されていた、彼らはそう言っていたよ。彼女がクトゥルフ神から与えられたトウシャは、ガタノソアの深淵からの脱出を保証するものなのだよ!」
物思いに耽るように、アルウィイは数分間沈黙する。彼は立ち去ってしまったのだろうかと思っていると、彼は突然話を再開する。
「君たちは幸運だ、分かるかね?ガタノソアの祝福と君たちの力で、何世紀にも渡って生き続けることができるかもしれないのだから。君たちは楽しめないかもしれんな。食屍鬼たちなら君たちのために時間を使ってくれるだろう。私から彼らに頼んでおいてあげるよ」
足音が遠ざかっていって、三人は再び幽閉された精神の奥底に取り残される。
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ほとんどの人が完全な狂気に陥ってしまうような時間が経過した後、三人は再び自分の肉体を意識できるようになった。まるで祝福された夢か、絶望的な悪夢から抜け出したかのように、自分の肉体を再び感じられるようになったのだ。
とてつもなく重いまぶたが開くと、周囲の様子が分かるようになる。強張った手足がゆっくりと感覚を取り戻し、もう一度、動けるようになる。乾燥した空気が久しぶりに肺を満たし、咳や吐き気を引き起こす。
三人の視界はまだミイラ化の影響を受けているに違いない。大きさと体形がどことなく猫を思わせる、轟く触手に顔を覆われた奇妙なクリーチヤーが、やきもきしながら一行を見つめている。やがて、ネズミのような顔のクリーチャーが口を開く。
「私の仕事はここまで。さよならの時間ですわ」彼女が2歩歩いてからバッグを逆さまにすると、白く輝く像が転がり出てきます。大きさ以外は、光の女神像と瓜二つ。数秒の内に空気が揺らぎ、それは高さ6フィートほどに拡大した。

「ありがとうございます。助かりました」いつも通り丁寧なザローの物言いは、間違いなく心からのものだ。「恩人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ネズミのような生き物はいら立ちを隠さずに答える。「私はイレニア、ズークのことは知っているわよね?約定に従い私は貴方たちを救出したわ。貴方たちの感謝は不要よ」
「誰に依頼されたんだ?」ズークの言葉に従い、無遠慮にグラトニーが聞いた。
「ドムニクとの約定よ。貴方たちをミイラから復活させたのも、ドムニクに渡された巻物の力」
《できれば、出口がどこにあるか教えてもらえると有難いのだけど》クレシダが言った。
「猫は嫌いよ」そう言うと、イレニアは壁にもたれて座り込むと、すぐに眠り込む。すると彼女の姿はゆっくりと霞んでゆき、ついには消えてしまった。
《なるほどね》

幸運なことに、一行の装備は部屋の出口に近い奥まった場所に、無造作に散らばっていた。敵が油断している隙に、女神像を敵の城塞から持ち出さなければならない。部屋から出る扉は一つだけだ。隣の部屋からは何人かの声が聞こえる。奇襲して殲滅するのみだ。
部屋にはダイス、カード、その他のゲーム用具が乗ったいくつかのテーブルが乱雑に置かれている。3人が武器を構えて倉庫から出てくると、テーブルについていたカルト教団員たちと食屍鬼たちが驚いて顔を上げる。しかし、1人だけ冷静なものがいた。その男は普通の狂信者とは思えないほど立派な体格をしており、本当に狂信者ならば、恐るべきバーサーカーであったに違いない。しかし侵入した一行に気付いた男は深く被ったフードを後ろに払い飛ばし、その知的な顔をあらわにして言った。
「諸君、取り込み中に失礼。僕の名はアダム・スミス。君たちの危機を救うため、次元を超えて来た」
《もしかして、この城塞ってそれほど守られていないのかしら。風変りな人が次から次にやってくるわね》

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食屍鬼島 -8(ネタばれ注意)

2023年06月04日 | 食屍鬼島
目の前の光景は奇妙な具合に歪んでいる。まるで水槽の中を覗いているようだ。4人の人物が会話をしている。アルウィイとセンサ、見知らぬ女性、計り知れぬほど齢を重ねた樹木のように節くれだった女食屍鬼だ。水の中で話されているためか、聞き取りづらい会話の断片が聞こえる。
「・・・もう間もなく準備が整う・・・」
「・・・かつて止めた・・・貴殿が彼らを連れてきたのだから、貴殿が取引・・・」
センサが最後に言い放った言葉だけが、はっきりと聞こえた。
「封鎖するのよ、トンネルを!」
4人は解散して、暗がりの中に溶けて消えていった。一人残った女食屍鬼が振り返って、こちらを見据える。彼女の皺だらけの顔がねじれて、笑みのようなものを浮かべる。素早く呪文を唱えるような仕草をすると、目の前の光景が消え、代わりに部屋の天井が目に入る。そうだ、寝ていたんだ。
ザローは頭を振りながら、寝床から身を起こす。そばにはグラトニーとクレシダも同じように頭を振っている。また皆で同じ幻視を得たのか。こちらの様子に気付いたグラトニーが言う。
「お前も見たんだな。あのグールは墓穴の賢者と呼ばれる、強力な魔女だ。おそらくこの島のグールのリーダーだろう」
《島のお偉方が集まっていたということね。そうするとヒューマンの女はゴート教団の有力者あたりね》
「それなら、町の人に聞けばわかりそうですね。朝食でもいただきながら聞いてみましょう」ザローは大きく伸びをしながら、部屋を出た。

「諸君らもご承知の通り、集団幻覚の発生にはいくつかの類型がある・・・」
「おいネヅコ、ご承知ではないから、お前の意見を聞いているのはご承知ですか?」グラトニーはアホウドリ亭で見つけた真鍮製のしゃべる胸像にネヅコという名をつけて、なにかと便利な相談相手にしていた。ネヅコはヨグ=ソトース神話に並々ならぬ執着があり、いかに些細な事柄であれ念入りにその情報を収集する。また同時に、自らの知識を披露することにも大いなる喜びを感じており、聴衆を無視して自分の話に夢中になることもしばしばだ。今もネヅコはグラトニーの冷やかしを無視して続ける。
「よって、等しい傾向を持つ複数の人物が同じ幻視を得るということは、魔術の発現にも似た作用が生じていると言える。つまり、それは現実世界に確固たる作用をもたらし得るということだ。偉大な魔術師ウラムが守護する都市に対して、敵対する都市の魔導士団が戦略級爆裂魔法を放ったことがあった。彼は都市の一般市民の血に溶け込む無数の先祖の断片をブラッド・マジックにより活性化させ、戦略級魔法など存在しないと思うよう命じた。すると爆裂魔法は放った魔術師団もろとも消滅してしまった」
「もしもし、ネヅコさん。つまりどういうことですか?」懲りずにグラトニーが口を挟む。
「つまり、諸君らはトンネルを見つけて、封鎖される前に侵入し、するべきことをすべし。ということだ。私の言を待たずとも、分かっていたことではないかね。ちなみにその都市は活性化した血のスライムに飲み込まれて壊滅してしまったそうだ」
「最後のくだりには不吉な寓意を感じますが、トンネルに関しては私もそうすべきと思います」ザローが慎重に答えた。

トンネルとはすなわち溶岩洞。またしても溶岩洞を進む一行。ここにも深きものどもが。この島の地下は奴らに支配されているのかもしれない。そして地上にはガタノソアの不浄の城塞が。暗い未来を切り開くように、深き者どもを排除して進む。


ついに城塞の地下に到達した。邪教徒たちは魔法の力で縮小させた光の女神の像を腐食性の酸で満たされた水槽に沈め、、冒涜的な儀式により消滅させようとしていた。止めなければならない。しかし敵は多勢だ、どうする。


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