無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

狂える魔導士の迷宮 -14(ネタばれ注意)

2022年07月18日 | 狂える魔導士の迷宮
第9次探索2日目

悪趣味な首飾りの指は、クレサンド・ロスナーのものに間違いない。数旬前、ヒューマンの悪党がストロムクルダーにやってきて、奴隷貿易をもちかけた。態度或いは言葉使いが気に入らない、それともただ単に虫の居所が悪かったのかも知れない。将軍が言うところのゴミ虫は、その場で首を跳ねられた。男の指輪だけは気に入ったので、首飾りにしたとのことだ。悪は悪を見抜く。クレサンドは悪の理論により、命を失ったのだ。世界は悪に満ちており、その本質は弱肉強食だ。その意味でホブゴブリンの悪は自然の摂理であり、善の狂信者が唱える悪即暫もまた同様だ(それを唱えて勝てない敵に突っ込むのも、生命の軽視であり悪だ)。善たらんとして命を落とすことは、無意味なことかも知れない。しかしそこには一縷の光があるのではないか。
エズヴェレが復讐を望んだら、私はどうするべきだろう。ホアの使徒として代理戦士をかってでるべきか。それとも神の名の下、公正な決闘の場を準備すれば十分だろうか。アズログ将軍は悪故にどちらも受け入れるだろう。私が負ければ彼の首を飾るトロフィーが一つ増えるだろう。そしてゴミ虫ではない、まっとうな戦士として記憶に留めるだろう。
「ダンナ、辛気臭い顔をして、どうした?」手にした骨付き肉を振りながら、メネルがこちらを見ている。
「いや、エズヴェレのために、将軍が首飾りにしているクレサンドの印象指輪を取り戻してやるべきかと思ってな」
「当然、取り返してやるべきだ。美人だしな。」こともなげ言いながら、肉にかぶりつく。
「だが、将軍から首飾りを取り戻すのは容易じゃないぞ」
「なに簡単なことさ。例の将軍様の魔法の武器となら、喜んで交換してくれるさ」
なるほど悪に捕らわれていたのは、私のようだ。

やるべきことが決まったら、次は剣の時間だ。先ずは先日撤退したドラウ神殿勢力の殲滅だ。

ロサ、まぐみんのファイヤー・ボール連打で押し切る。
後は地下水脈の対岸にいたドラウを倒して、この階層のドラウ勢力は根絶した。

アズログの魔法の短剣を盗んだドゥエルガルはスカルポートにもおらず、もっと下の階層に逃げ込んでしまったようだ。我らも先に進むことにする。

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第10次探索

第4階層に到着。ここは風味豊かなキノコと自然洞窟、そして奇妙な住人が暮らす場所だ。


双頭の巨人、エティン。頭同士でお互い罵りあうものが多いが、彼らはとても仲が良い。我らとも友好的な出会いとなった。


キノコの錬金術師。この階層について色々教えてもらった。


ローパー2体。奇襲されなければ、ただの的。
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セッション5 睨んで人が死ぬならば(ネタばれ注意)

2022年07月09日 | 巡回奇譚
シグムンド、ヨーケル、ラングの3人は雇い主である商人ルトガー・ロイターが手配した平底船、トランダフィル号乗っている。船はボロボロで年季の入った木材から塗料が剥げ落ちている。甲板は木箱、樽、そして建築用の資材が危なっかしく積まれている。
乗員たちはストリガニーだ。オールド・ワールドの流浪の民で不吉な迷信を持っていることで知られている民族だ。環状の耳飾りを鳴らしながら平底船のあちこちで一生懸命働いているが、シグムンドが見ると素人であることは一目瞭然だ。それでも彼らは鼻声のライクシュピールで会話をくつろいだ様子でしている。船尾には大き目の船室があり、何枚もの垂れ幕で中味は隠されている。船首の方には黒いウールのショールを被った老女がいる。彼女は三本足の椅子に座り、体を前後に揺らしながら何かをブツブツとつぶやいている。

しびれを切らしたシグムンドが船員に注意をしようとした矢先、船室を隠す垂れ幕を引いて若い男が現れ、溌溂とした様子で自己紹介を始めた。
「ごきげんよう!僕がルトガー・ロイターだ。ルトガーと呼んでくれ。この仕事に参加してくれて本当に助かったよ。現場キャンプにはやるべき仕事がいっぱいあってね。腕っぷしが強くて言いつけを守れる、君たちのような人たちに任せたい仕事があるんだ。揉め事は起きないとは思うけど、君たちに目配りをしておいて欲しい。何か起きたときに手伝ってくれるなら、どんな仕事でもお礼を出すよ。では、君たちについて教えてくれないか」
誰から発言すべきか、3人は顔を見合わせた。
「では俺から。俺はシグムンド、船乗りだ。率直に言って船はオンボロ、船員は素人。これでは河賊に襲ってくれと言っているようなものだ。それでもって、実際襲われて急な操舵をしたら、積荷が崩れて転覆だ」
ロイターは他人事のように大笑いする。
「これは参ったな。急な手配だったのでベテランをそろえることが出来なかったんだ。でも君のようなプロに来てもらえたんで、その埋め合わせが出来たよ」
「俺はヨーケル=ザカ、賞金稼ぎだ。お前さんの求めに応じられるかは分からんが、悪さをしたやつを捕まえたいなら俺に言ってくれ」
「いや、君こそ僕が求めていた人だよ。ここだけの話だが、やはりストリガニーは信用ならないからね」
「私はハイドリッヒ・ラング、ヴェレナの僕です。知識をお求めならわたしにお聞きになって下さい」
「都会を離れた場所で貴重な知識を得れるとは、なんと贅沢なことだろう。僕は常に文明人でありたいからね。ラング先生と呼んでいいですか」

上機嫌で船室に引き返すルトガーの後ろ姿を見ながらヨーケルが言った。
「ぼんくらだな」
「残念ながら、そのようですね」とラングが答える。
「とりあえず、河賊に襲われないよう積荷をしっかりとした方が良いな」 シグムンドは近くの船員を集め始めた。

シグムンドと船員たちの作業を見守るヨーケルとラングの元に、船長のレイコーがやってきた。
「お前さん方の仲間には感謝している。俺らは生まれついての船乗りという訳じゃないからな。ストリガニーは各地を放浪し出来る仕事をして生活しているのさ。沼地に工場なんかを建てて儲かるかどうかも分からんが、ロイターは真っ当に見えるし、これまでのところ、支払いもちゃんとしてるからな。とは言え、その沼地は家の婆さまが言うように呪われているのかもしれない。向こうでは悪夢を見るという奴も多いし、日中はちょっとした言い争いや喧嘩が絶えない。早く終わらせて、子供の所に帰りたいよ」

続いて二人がストリガニーの婆さまの話を聞こうと近づくと、突然彼女が紙のように薄い声でしゃべり出す。
「ああ、助かった!ご先祖様に感謝じゃ!川の蛇行と”オルトシュラムの魔獣”からお守りくださったのじゃ!皆、喜べ! だが油断してはならぬ。別の、もっと恐ろしい災いに向かっておる・・・」
ラングが老女に話しかけようとすると、他のストリガニーが警告する。
「ヴァドマ婆さまを邪魔しねえでくれ。そのまま祈らせてやれ-年寄りに余計なお節介を焼くもんじゃねぇ」
ヨーケルとラングはお互いを見合ってから、首を振りながらその場を離れた。

作業が一段落つき、船上の者は皆、昼下がりの時間を思い思いに過ごしていた。突然、恐ろしい音が船底から聞こえ、激しく船が振動した。木箱や樽が留め具から外れて転がり、山積みの資材が崩れて甲板上の人々を薙ぎ払う。船首に一人でいたヴァドマが叫び声をあげながら、泡立つヴェルフェルフラス川へ放り出されてしまった。
舷側の手すりに寄りかかり、流れる風景を眺めていたシグムンド、ヨーケル、ラングの3人もたまらず水中に投げ出された。3人には幸運なことに(同時に船にとっては不幸なことだが)、この辺の流れは速いが水深は浅く、何とか水底に足がとどいた。しかし川の水は灰色山脈からの雪解け水で非常に冷たく、数分で動けなくなるだろう。老人ではなおさらだ。しかも溺れまいともがくヴァドマを狙って、怪魚が近づいて来ている。
「まずいな、スターパイクとしては小物だが、婆さんぐらいは一口でいけそうだ」
シグムンドが冷静に観察する横で、ヴァドマを救おうとラングは必死に進むが、急な流れでままならない。
「ほら、二人とも急ぎましょう。ストリガニーの老人を見捨てたりしたら、酷く祟られますよ」
ラングに脅されて、シグムンドとヨーケルはヴァドマをスターパイクから守るために進み出る。シグムンドが近づいたスターパイクの眼の間を強く叩くと、怪魚はおとなしく元来た方へ泳ぎ去った。
「やるな、シグムンド」
濡れた衣服から白い蒸気を立て、大きく息をつきながら、ヨーケルがシグムンドの肩を叩く。
「なに、仕事ではもっと大きい奴を使うことが良くあったからな」 シグムンドは事無げに言い、濡れた髪をかき上げた。



「シグマー様のご加護だね!これぐらいで済んでよかったじゃないか? 確かに大変なことにはなったけど、思っているほど取り返しのつかないことじゃない。キャンプに戻って、スルグリムをここに寄越すよ。あの船をどう直すか分かるはずだ」
ルトガーが船の方を指さすと、船は嫌な音を立てて崩れ落ち、少し色が塗られた残骸と化して川下へと流れだした。
「ああ・・・今のは気にしないでくれ。ラナルド様は片手で与え、片手で奪うと言うからね。そのうち良いことが起きるに違いないよ」

幸いに死者はいなかった。何人かがいささか水を飲んだり、崩れた荷物で打撲を負った程度だ。ヴァドマ婆さまを助けたことでストリガニーと仲良くなれたのは、ルトガーの言うラナルド様の贈り物と言えるだろう。彼らからはルトガーの能天気な話の裏が聞けた。キャンプでの主導権争いや土地にまつわる噂話など、問題が山積みだ。逆に言えば、儲けるチャンスが多いということだろう。これもラナルド様々と言ったところか。その代償は水に濡れたことと、重い建築資材を担いでキャンプを目指すことになったことぐらいだ。

1時間ほど歩くとキャンプ地に到着する。そこは灰色の湖の岸辺で、酷く湿った場所だった。近くに河の奔流があるので動力となる水車小屋を建てるにはうってつけだが、とても繊維工場を運営するのに適した場所とは思えない。周囲には霧が立ち込めており、あちこちに大きな黒い立石が見える。少し離れたところにある巨大な立石を見ていると、背中に寒気が走る。
「もう戻ったのか、人間」 黒く長い髪と、幅広で硬い顎髭をもつ壮年のドワーフが近づいてくる。汚い作業着を着て、大きな茶色いパイプをふかしている。
「スルグリム!ああ…、その…、うん…、なんて言うか、川で事故があってね。この親切な人たちが有能なところを見せてくれたんだ。だからちょっとお礼ができないかと思っていたところなんだ。というか、現場の仕事をやってもらうために雇ってきた。ほら、あるだろ。その…、ストリガニーたちが嫌がる仕事とかさ」 ルトガーは首から鎖で下げた大きな真鍮の鍵を取り出した。
「できれば、金庫をスティーグラーのキャラバンへ持っていって、彼らのために銀貨を用意してやってくれないか?」
スルグリムは大きくタバコの煙を吐き出すと、3人についてくるよう身振りで示す。
「俺は建築のことは分からんが、ここの現場はだいぶ問題があるように見えるが?」 シグムンドが言うように、この現場はずいぶん荒れている。足場はいい加減に組まれた状態で放置されているし、土台工事は川岸に近すぎるところを掘り返しているため、浸水している。労働者の道具は安物で、縄、木材、レンガなど建築資材は適当に積まれている。
「真面目なドワーフの労働者がいれば、俺の仕事も灰色山脈の現場みたいに立派にやれるさ。だがまともな働き手もいねえし、俺の自由になる予算にも限界がある。やる気のない人間どもと、言い争うバカ二人に囲まれてても、もっとましな結果が出せると思うなら、勝手にやるがいい」

スルグリムは豪華で立派な4頭立て4輪大型馬車の階段を上り、手早くノックした。片付ける音とため息がかすかに中から聞こえた。そして、硬い靴底が床に響く音が聞こえてから、ドアがゆっくり開いた。スティーグラーは背が高い女性で、上質に仕立てられたトラウザーとジャーキンを身に着けている。軽く油で手入れされた、金の巻き毛の持ち主だ。赤い唇は不満げに歪み、血走った青い目でスルグリムを睨みつける。
「少しでも…、寝ようと…、していたんだけど。何の用か知らないけど、朝まで待てないの?」
スルグリムは全く動じず、必要なことだけを言う。
「舟が事故にあった。こいつらが引き上げを手伝ったそうだ。ロイターが金を払ってやれって言っている。できれば手厚くとな」
彼女はひどく疲れている。これは間抜けな相棒と無神経なドワーフだけのためではなさそうだ。やはりこの場所には何かあるのかもしれない。結局、スティーグラーは金を払った。そして別れ際に言った。
「お互い、とっつき悪かったかもしれないね。もしそうなら、ちょっと大目に見てほしい。普段からこんな感じじゃないんだ。最近色々と…大変になっていてね。ここはみんなで一晩ゆっくり寝て、明日もう一度今後のことを話しましょう。ロイターがいくら払うって言ってるか知らないけど、私なら倍額を提示できるし、あいつと違って私は約束を守るからね」

その晩、3人は動揺して目が覚めた。心臓の鼓動が危険なほど早まっている。恐ろしい悪夢を見ていたようだ。記憶は急速に薄れていくが、藁ぶきのベッド、小屋を燃やす劫火、絡みつく鉤爪の感触を覚えている。グラウゼーの水面に反射した混沌の月が、怒りをたたえた巨大な目に飲み込まれていく。背中は石の板に押し付けられていた。その後は何も思い出せない。残っているのは激しい不安、全てを喪失し、永遠の孤独だけだ。

今朝も周囲は霧に包まれ、疲れ果てた作業員がやる気のない作業を始めている。スルグリムが大麦をつぶした薄粥を手にやってきた。
「ひどい顔をしているぞ。まあ、ここでは誰もが同じような顔をしている。良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい」
ヨーケルはうんざりした表情で先を促した。
「よしじゃあ、良い知らせだ。お前らの雇い主は、お前らが働いた分はちゃんと金を払うということで同意した。悪い知らせは、お前らの仕事のことだ。見て分かる通り、ここいらには気色の悪いオガム石がごろごろしている。邪魔なんで、これらを掘り返せってことだ。ストリガニーどもは禁忌だの抜かして役に立たない。石1つにつき、1人1シリングだ」



オガム石は草地全体に渡って広がる複雑な巨石群の一部だ。中心となる9フィートの石と、それを取り囲む4フィート程の6つの石で構成されている。それぞれの石は分厚く毛足の長い苔で覆われており、基部には網目模様が渦巻く抽象的な装飾が掘られている。順調に小さい石を掘り起こした3人だが、大きい石で手が止まった。明らかにこの石は他と違う。土に隠された基部には獣じみた野蛮で巨大な生物の歴史が刻み込まれている。それは呪術的で冒涜的だ。
「なあ、ラング、これ掘り返して大丈夫か?」 普段、神様や魔術などをまったく気にしないヨーケルも、流石に気になるようだ。
「そうですね、流石にこれはまずそうですね。オガム石についてきちんと調べてからにしたほうが良いでしょう」

掘り起こした石の分の銀貨を受け取ろうと、キャンプでルトガーを探した。しかし彼のテントは無人で、足跡が川の方へ続いている。跡をたどると丈の高いガマが茂った川岸に突き当たる。風に揺れる草の中にルトガー・ロイターの死体が横たわっている。彼の来ているリネンの肌着は血まみれで、右腕が失われている。肩から肉が引き裂かれた無残な殺され方の割に、彼の顔は安らかだ。周りの泥土に残された大きな三本指の足跡が川へと向かっている。
何人かのストリガニーがすぐに集まり、皆何かを悟ったような目つきで頷きあっている。レイコーが彼らの考えを代弁する。
「ヴァドマ婆さまが言った通りだ。ここは本当に呪われている。すぐにここを離れなければ。オルトシュラムの魔獣が現れた!」
スルグリムとスティーグラーもすぐに現場に現れた。スティーグラーはぞっとするような冷たい目で死体を一瞥して言った。
「間抜けはついにくたばったみたいだね。散々面倒事を起された上に、こいつの親に説明しなきゃいけないとはね!」
スルグリムはスティーグラーの言い様に驚いて怒鳴る。
「死んだ人間に多少の敬意ぐらい見せたらどうだ!」
「敬意? 必要なのは犯人探しだろ」 スティーグラーはベルトから重そうなポーチを外す。「これをしでかしたバケモノの首を持ってきたやつに、金貨10枚をくれてやるよ!」 そして彼女は死体へと近寄った。「その金は工事の予算から出すけどね。鍵はどこだい?」
「鍵は俺が持っていた方がいいだろう」 とスルグリムは返した。「これは共同事業だからな。ロイター家の連中も、投資した金が全部他人の手の内にあっては落ち着かんだろう。自分の金が他人のものになっているのを見たら、どう感じるかは俺には良く分る」 スルグリムはスティーグラーを意味有り気で憎悪に満ちた視線を送るが、彼女は気づいてない。あるいは単に無視した。
「いったい何の権限があってそんなことが言えるんだい、ドワーフ。ロイター家が死んだルトガーの代わりを誰か送ってこない限り、ここを仕切るのは私だ!」
スティーグラーは勢いのまま三人の方を向くと言い放つ。「ロイターはまさしくこういう仕事のためにお前らを雇ったんだ。さっさとお行き!」
シグムンドは肩をすくめて言った。「やっと俺らの出番か。せいぜい稼がせてもらおう」

怪物の足跡は河の反対岸に続いている。泥だらけの起伏の多い地面を進むのは骨が折れた。特に密集した白樺の木立を通り抜けようとしたとき、突然近くから警戒の叫び声が聞こえた。濃い霧を通してぼんやりとした3人の人影と、もっと大きなおぼろげな影がこちらに向かってくる。木々が開けて、大きく泥だらけの湖の周りに出る。泥の中を必死にもがき、荷物や杖を落としながら3人の採集者がこちらに逃げてくる。彼らを追うのは体長20フィート近い怪物だ。その頭と肩は採集者の遥か頭上にある。8本の汚らわしい足を使って、泥の中を軽々と進む。しかしこの怪物は明らかに高齢で病気のようだ。動きには麻痺が見られ不安定であり、巨大な口から除く歯の多くは砕かれているか、無くなっている。灰緑色の皮膚はやせ衰えた体の周りで垂れ下がっている。白内障の眼は利かず、匂いで獲物を追っているようだ。
「怪物には違いないが、酷くみすぼらしい奴だな。これなら何とかなるんじゃないか」 シグムンドが気楽な調子で言う。
シグムンド、ヨーケル、ラングが怪物に立ち向かうと、逃げていた採集者も勇気を振り絞って加勢し始めた。



「ありがとうございます。命拾いしました」 採集者にしてはヤクザ風な印象の男が頭を下げる。そして話も早々に荷物を回収して立ち去ろうとする。
「おい、お前ら少し待て。このおかしな杖は何に使うんだ?」ヨーケルは男たちが回収し忘れた杖を拾い上げ尋ねた。その杖には3本の枝が紐で奇妙な形に結ばれている。
「それは…、鰻や蛙を捕まえる道具です」
「あなたたちは、嘘つきですね。しかも、雑です。怪物の足の指は4本ですし、このような道具で鰻や蛙を捕まえることはできません」 ラングが指摘する。
「余計なことに気付くと長生きはできないぜ」 男たちは本性を現して、武器を3人に向けた。

「それで」 疲れ果てた様子のスティーグラーが絞り出すように言った。3人が戻ってくるとキャンプは撤収作業の最中だった。日も暮れて薄暮の闇の中、多くの馬車が移動しているのが見える。レイコーは既に出立した後で、残された若者が伝言を伝える。今後ストリガニーに出会ったときにはレイコーかヴァドマの名を出せば面倒を見てくれるだろう。スルグリムも金庫と共にどこかに消えてしまった。
「お前の状況にはいささか同情するが、約束は約束だ。怪物の頭をもって来たので、金貨をもらおう」
「…分かった、ここに10枚ある。持っていけ」彼女はベルトの袋を持ち上げる。
「まあ、待て。商人たるもの、金は商品を見てから払うものだ」 ヨーケルが扉を開けると、怪物の頭と拘束された採集者を語る男二人が並んでいる。
スティーグラーの頬にはわずかに血色が戻り、涙で赤くはれた目が鋭く狭められる。
「俺たちは怪物を殺し、”偶然”怪物に襲われていた男たちも救い出した。残念ながら一人は助けられなかったが、俺たちは最善を尽くした。それを評価してもらっても良いのではないか?」
「…なるほど。私はお前たちに感謝すべきだな。聞いての通り、金庫はスルグリムが持ち去ってしまったため、ここには金貨10枚しかない。ユーベルスライクに戻るまで待ってもらえれば、15枚を支払おう。加えて、持ち逃げされた金庫を取り戻したら、中身の10%を払おう」

「そう言う訳で、お前たちは”偶然”怪物と遭遇してしまい、俺たちに助けられた。死んだハンスは残念だったが、奴はお前らのために立派に戦った。誰かに何かを依頼されたわけではないので、銀貨など持っているはずはない。違うか?」
「…その、…通りだ」 採集者の生き残り、グルトとフレデリックは力なく同意する。
「俺は立派に戦ったハンスの名誉を称えたい。怪物の頭はお前たちが持っていけ。見世物にするなり、町で魔法使いに売るなり好きにしろ」 ヨーケルは満面の笑みを浮かべて、二人を拘束した縄を解いた。

町に戻ると、3人は警備隊でのコネをつかってスルグリムの居場所を探った。ドワーフは本気で逃げるつもりはなかったようで、すぐに見つけ出すことが出来た。スルグリムの一族は、過去にロイター家とスティーグラー家に騙され、全財産を失った。スルグリムは金を取り戻す機会をさぐるため、両家の工場建設計画にもぐりこんだのだ。スルグリムは自分を見逃すよう言ったが、3人は当局へ引き渡すことにした。

「なあ、ラング。スルグリムの奴は見逃してやっても良かったんじゃないか?」 シグムンドは金を数える手をとめてラングの方を見て、付け加えた。「スティーグラーは見逃してやったじゃないか」
ヨーケルが頷きながら言う 「それは、当然金貨…」 ラングは真面目な口調で言った。
「スティーグラーは明らかに、あの土地に充満するオガム石の放つ魔の力の影響を受けていました。しかしスティーグラーとスルグリムの間の因縁は人の法によるものです。我々には魔の法を断ずることは出来ません。そういうことです」
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