無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

食屍鬼島 -2(ネタばれ注意)

2022年11月26日 | 食屍鬼島
破壊的な大嵐、冒涜的な怪物の襲撃、このような状況に立て続けに遭遇すれば、誰であれ精神に変調をきたしてもおかしくない。船員たちは見知らぬジャングルの暗がりから聞こえる小枝の折れる音や葉擦れ、唐突にあがる咆哮に怯えている。いつも冷静な航海長プサイラでさえ、動揺は隠せない。唯一船長だけは奇妙に落ち着いている。ザローが交代で夜番を立てたほうが良いと提案しても、笑いながら言った。
「大丈夫だ、何かあればヌッキが教えてくれる」

それでも安心できないと感じたザロー、グラトニー、クレシダは交代で番をすることにした。夜半過ぎ、クレシダはヌッキが静かに起き上がり、森へと向かうのに気が付いた。好奇心から後をつけたが、大きな木を回り込んだところで、こつ然と消えた。そして二度と帰ってこなかった。

クレシダの後を継いで、グラトニーの番となった。揺れるたき火の炎を見つめながら、これまでのことを思い返していた。超自然的な存在からの逃避行、ザローとの出会い。クレシダの正体。恐ろしい大嵐に、怪物の出現。一周回って元の出発点に戻ってしまったようだ。ふと我に返り、今まで聞こえていた心を騒がす物音が消えていることに気付く。しかも焚き火の火も消えている。暗闇と冷気がグラトニーを包み込む。空の月や星さえも見えない。描写することも説明することもできない何かが、空っぽの空間を押し破り、グラトニーの方へ近付く。触手は嫌らしく震え、飛び出した眼柄が瞬きせずに見つめている。
これは夢か。焚き火の炎、空の月明かりは変わらずそこにある。ジャングルから聞こえてくる音も、それ以外の音も。ザローとクレシダも目を覚ましたようだ。その怯えた目を見れば、同じ夢を見ていたことが分かる。彼らを悪夢から引き戻したのは、誰かが動き回る物音だ。3人はオローが船長の元から、唯一残った積み荷の石鹸石を袋ごと持ち去ろうとしてところを目撃した。脱兎のごとく走り出すオローをグラトニーが追いかける。ドワーフながらオローの足は速い。しかも他の船員たちが追跡の邪魔をする。しかしローグの技を駆使するザローには敵わず追いつかれてしまう。ザローはオローを傷つけるつもりはないが、剣を抜いて動きを牽制する。
「とても疲れているのは分かります、オローさん。さあその荷物は船長に返しましょう」
「だめだ、これを司祭様に渡さなければ世界が破滅してしまう」視線はふらつき焦点が定まらない様子で、精神的に不安定であることは一目瞭然だ。大人しくさせるためには、多少手荒な手段が必要かもしれない。
そのとき突然、草むらの向こうから断固とした命令口調の声が聞こえた。
「武器構え!」
痩せて背の高い女性が左右4人ずつの戦士を従えて現れた。
「お前たち武器を捨てろ。我々はファルジーン警備隊だ。ファルジーンでは如何なる理由であれ私闘は禁じられている」
「これは私闘ではありません。積み荷を盗み脱走した船員を追いかけてきたのです」
オローは狼狽えながら、逃げ場を探して右、左を見る。しかし逃げ場はない。
「何故邪魔をする。私を行かせてくれ、このままでは世界が…」
ザローとオロー、二人の様子をじっくりと観察して女隊長は判断を下した。
「どちらも信用できない。二人とも町まで連行する。うつぶせになって手を頭の後ろで組め」
緊張が高まる中、他の船員や船長も駆けつける。
センサ船長とプサイラ航海長の証言でザローへの嫌疑は晴れた。しかし食屍鬼やレンの民を船員として雇っている船長の気が知れないといった様子で、女隊長はあきれたように頭を振っている。オローと他の船員たちは船長への反逆罪により町へ連行されることになった。
「ここにいる男女は重罪を犯した。反逆、船荷の窃盗はファルジーンでは死刑に値する犯罪です。司祭たちと執行官が彼らの運命を決めるために召集されます。意見陳述のために、あるいはお別れを言う機会はある。貴方たち自身でどうするか決めるなさい」

センサ船長は船員に罪を問おうとは考えていない。右腕のプサイラ、それとザローとグラトニー(クレシダも)をつれて、警備隊と共にファルジーンへ向かった。砂浜からファルジーンまで、ジャングルの中を抜ける道はわずか数マイルの距離だが、暑さ、湿度、移動困難な地形、そしてあらゆる物陰に潜む危険な気配が相まって慣れていない者の体力を失わせる。わずかに露出した肌にどん欲な吸血昆虫が寄ってきて、かゆみを伴う湿疹やはれ物が身体のあちこちにできる。警備隊の隊員は全く意に介さず行進を続ける。重い足を引きずって息を切らせながら見上げた先には、100歩も離れていないところに城壁に囲まれた町が現れた。町の背後には島で最も目を引く火山、ケイザ山が頂上から渦巻く蒸気と硫黄の煙の柱を立ち昇らせているのが見える。町自体は崖の上に築かれており、ジャングルからは数十フィートの高さにあった。

町の裁判官に拘束された船員への意見陳述するのは明日の昼だ。それまでは時間が出来たので、船長らと共に積荷を依頼主であるゴート教の司祭に届け、船大工のオーベッドに船の修理を依頼しに出かけた。その後ザローとグラトニー、それにクレシダはファルジーンの市内観光をするため船長らと別れた。



翌日、センサ船長、プサイラ航海長、それにザローとグラトニー(クレシダも)は連れ立って、船員が拘束されている拘置所に向かった。船長が訪問の理由を述べると突然、退屈そうにしていた衛兵は背筋を伸ばし、言葉を遮る。
「隊長が話があるそうです。ここでお待ちください」そう言うと、彼は席を立ち奥の部屋へ向かった。暫くすると厳しい顔つきの巨漢がやってきた。彼ロタール隊長だと名乗り、ついてくるように身振りで示すと、返事を待たずに奥の執務室へ入っていく。全員が入室すると、彼は後ろ手に扉を閉めて机の後ろに回り、グレート・アックスを背に椅子に身を沈める。
「施錠された牢屋から君たちの仲間がどのように脱走したのか説明してくれ」そう言いながらロタールは一人ひとりの表情を窺う。グラトニーのことは、明らかに他より長く観察していた。
センサは驚きながらも、慎重に答える。
「何かあったのですか?」ロタールは航海長がわずかにグールとレンの民を見たことを見逃さない。
「詳しいことはそちらのグールが説明してくれると期待していたんだが。まあいい、先ずは現場を見てもらおう」
牢屋の石敷きの床が壊されている。誰か、あるいは何かが地下を掘り進んで侵入したようだ。牢屋の奥の壁と床には大量の血が飛び散っている。船員たちは無事とは言えないだろう。しかし彼らの姿は死体すら見当たらない。隣の牢に入れられた酔っ払いが焦点の定まらぬ、血走った目でこちらを見ている。
「なんだここはあの世か? 怪物が二匹もうろついているじゃないか。まあ、俺は檻の中だから安全だ。お前ら気をつけろよ」
「彼は酔っ払いのゼブだ。素面の時はいいやつなんだが、気にするな」
ロタールはグラトニーとザローにあやまる。彼は本気で船長らが船員を脱走させたと考えていた訳ではないようだ。再び執務室で取り調べが再開された。とは言え、これは取り調べと言うよりは意見交換と言う雰囲気だ。
「確かにあれはグールが掘った穴に見える」とグラトニーが言う。
「それでは、船員たちはあの穴から連れて行かれたのですね?」ザローが問うと、グラトニーは否定した。
「いやあの穴は向こうからこちらに来た時のものだ。出ていくものではない。単に扉から外へ連れ出されたのでは?」
「最近の嵐によりパトロールが強化されており、6人もの船員を連れて町をうろつけば必ず誰かが目撃するだろう。確かに昨晩は人手が足りず当直の人間が急遽パトロールに駆り出されたりもしたが10分も留守にしていない」とロタールが説明する。
話し合いは外から聞こえてきたくぐもった悲鳴で遮られた。ロタールはザローとグラトニーを見て言う。
「なるほど敵はまだこの建物内にいたようだな。君たち、警備隊の好意を得る絶好の機会じゃないか?」

牢屋の扉は開いており、中にはグロテスクな人型生物が2体いて、犬のような顎で看守の太ももの肉をかぶりついている。グラトニーが中に足を踏み入れたまさにその時、その内の1体が獲物から筋肉の塊を噛み切り、頭を上げ、背を反らせて、それを一飲みにた。
《生肉を喰うなんて、なんてゲテモノ喰いだ。気持ち悪い》同族の冒涜的な食事風景にグラトニーは強い嫌悪感と殺意を覚えた。



「君たちの実力は見せてもらった。ここで良い話と、悪い話がある。どちらから聞きたい」ロタールが言った。
「では良いお話からお願いします」ザローは武器に付いた血を拭いながら言った。
「良い話とは、賊がどこに船員たちを連れて行ったのか分かったということだ」
「それでどこに?」グラトニーが聞いた。ロタールは牢の隅のトイレを指さす。
「おそらくこの穴、トイレの中だ。つまりこれが悪い話だ」

ロタールの話によると、ファルジーンでは島中に存在する溶岩洞にゴミや汚物を捨てているらしい。時には倉庫として使用することもある。この牢のトイレの先にも溶岩洞がある。溶岩洞自体は行き止まり構造だが、最悪の環境であることに目をつぶれば、賊が潜むには十分な空間があるはずだと言った。そして自身の腹回りをさすりながら、ロタールは言った。
「残念ながら、私の体にはこの穴は小さすぎる。君たちなら何とか入り込むことが出来そうじゃないか? きっと君たちの仲間も救助を待っていると思うぞ。生きていたならだが」



悪夢のような場所で見つけたのは、船員の残骸と待ち伏せしていた2体のガストだけだった。はじめザローとグラトニーはガストの奇襲に圧倒された。しかし迷い込んだ"ただの"猫が放つ強力な怪光線が戦況を好転させた。ガストを始末した二人と一匹はわずかに残った船員の亡骸を持って地上に戻った。
「仲間は残念だったな。グールにガストとはな」ロタールにはまだ何か話していないことがある様子だ。
「この島にはあのような狂ったグールが他にもいるのか?」グラトニーがロタールに問う。
椅子に深く沈み込み、ロタールはしばらく黙り込む。おもむろに口を開きかけたとき、騒々しい来客があった。
「どうした、なにがあった」高価な衣装を纏った男は、人に質問することには慣れているが、自分の意に沿わない回答は受け付けない、傲慢の塊のような人物だった。その様子から高い地位にあることはすぐに分かる。
「食屍鬼たちとの協定は何世代にも渡って守られてきた。彼らがそれを反故にするわけがない。これは明らかに飢えた逆賊の仕業だ」そう言い残すと、入ってきたときと同様に騒々しく立ち去った。
「今のは、この町の執政官、アルウィイ閣下だ」ロタールは執政官に対する怒りをこらえ、ことさら冷静な言葉を絞り出した。しばらくして感情が落ち着くと、ザロー、そしてグラトニーに向き合い言った。
「力を貸して欲しい。君たちには、何が起きているのか知る理由があるだろう。そして何が起きているにせよ、島民ではない君たちが関与していないことを、私は合理的に確信している。思わぬ方向に事態が展開しても、君たちが何をしていたのか、私は常に見て見ぬふりをすることができる。真実を知り、その過程で小遣い稼ぎをしたければ、今晩、笑う木槌亭で会おう」
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狂える魔導士の迷宮 -18(ネタばれ注意)

2022年11月12日 | 狂える魔導士の迷宮
13次探索2日目

魔女ウィロウはこの地の中央に位置する塔に住まわっている。
彼女の部屋は枯葉と小枝、そして塵に覆われている。そして強力な野獣を従え、その部屋にいた。


彼女は普通のエルフだった。普通、これは彼女が真っ当なエルフとしての心情を備えており、共感を感じることが出来るという意味だ。半面、彼女が持つ力は脅威的であり、我らが全力を傾けても対抗し得るか分からない。
北の墓の主はウィロウの友人であった、ヒューマンの傭兵のものらしい。彼はハラスターの狂気に取り付かれ、森に火を放つなどを暴挙を演じた。他に方法が無く、ウィロウは彼の命を奪うことで森を守った。彼女が何故このようなまやかしの森に執着しているのか分からない。すでにハラスターの狂気に蝕まれているのかもしれない。これほどの力の持ち主にもハラスターの狂気が伝染するのなら、それはいつかこの迷宮から溢れ出し、ウォーターディープを、そしていつかは世界を飲み込んでしまうかもしれない。私はただ目の前にあるこの迷宮を挑戦の対象として見ていただけだが、ここは神意があるのかもしれない。ホアはハラスターの狂気により命を落としたものの復讐を、そしてハラスター自身を狂気から救い出すことを求めているのかもしれない。

ウィロウはこの階層について話してくれた。グリーンドラゴンのヴァルデマーは脳天に突き刺さった剣の影響で善のドラゴン、テルアライとなった。南側にはワーバット・ゴブリンの一族が暮らしている。この一族には近づかない方が良いと警告を受けた。

テルアライはインテリジェンス・ソードに支配されいるものと予想していたが、ウィロウの言う通り、剣が突き刺さった影響で性格変化しただけだった。この状態で生きているのはさすがドラゴンと言ったところだ。


ウィロウの警告に関わらず、ワーバット・ゴブリンの一族の様子を見に行った。第2階層にいたゴブリン一族が予想以上に文化的な生活を営んでいたので、ここのゴブリン達からも何か得るものがあると思ったのだ。
結果として、ここのゴブリンは唯の血に飢えたワーバットに過ぎなかった。彼らはドワーフの古い住居跡に住み着く害虫だ。通路は我らが放つファイヤー・ボールに満たされ、焼却駆除された。
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