無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

食屍鬼島 -1(ネタばれ注意)

2022年10月29日 | 食屍鬼島
プロローグ
この町は且つて港湾都市だった。今は密集して崩れかけたモニュメントだ。老朽化した建造物や剥き出しになった下水管、中には居住可能な建物もあるが、多くはただの瓦礫に過ぎない。通りに漂う魚の生臭い匂いに混じって、汚物の腐敗臭が感じられる。辛うじて使用可能な家屋の腰折れ瓦屋根は、暗緑色の苔とカモメの糞からなる厚い層に覆われている。申し訳なさそうに頭を出した煙突からは、弱々しい煙が立ち昇っている。
つまり、ここは行き止まり。将来の展望など何一つ描けない、とどのつまりの町。それが港町レサンテだ。生まれの卑しさ故か、才能が足りなかったのか。ただ単に少し幸運が足りなかったのか。それぞれの理由で二人と一匹はここに流れ着いた。この先、何物にもなれず、ゆっくり崩壊してゆくこの町で朽ち果てるのが運命…。

やっと見つけた。この3人なら彼女の願いを叶えられるかもしれない。それにしても、なんと醜い。いやあの黒猫は美しいな、求婚したいくらいだ。でもそれが強力な目くらましになるだろう。後は敵に気付かれる前に、素早く島に送り込むだけだ。

「僕の名前はノウエム。ファルジーンの英雄になってくれない?」
その白猫はヒゲを震わせながら、直接頭の中に問いかけてきた。
「英雄に必要なのは生まれでも、才能でもないよ。必要な時、必要な場所に居合わせるという偶然なのさ。つまり運だね。その点、君にはそれがある。僕はそれをインスピレーションと呼んでいるんだ」
4本足の白い生き物の真意を、うかがい知ることは出来ない。こちらの不信を知ってか知らずか、意志とは無関係に動く尻尾は、見る者に言い知れぬ不安を抱かせる。
「それに君が真にピンチの時には、僕が助けてあげるよ」

特別ルール
1. PCは毎回1点のインスピレーションをもってセッションを開始する。
2. d20による各種判定で1の目をロールして判定に失敗すると、インスピレーションを1点獲得する。
3. PCが保有できるインスピレーションの上限は習熟ボーナスに等しい。
4. セッション中にノウエムを呼び出すことが出来る。彼はほぼ何でもできるが、状況と気分により願いを拒否することもある。彼を呼び出すとき、そのセッションで初めての場合には1d10で9以下の目をロールしなければならない。成功した場合、次に呼び出す場合には9から今ロールした目を引いた数字以下であることが必要となる。3回目は2回目に必要な数字からロールした目を引いた数字が必要となる。呼び出しに失敗した場合、そのセッション中には再び呼び出しを試みることは出来ない。

★★★★★★
クロと一緒にあの恐ろしい怪物、いや邪神ともいえる存在から逃げ続けてこんなところまで来てしまった。邪神の気配はもう感じない。ひとまずは逃げ切ったと考えて良いだろう。とは言え、ここも相当酷いところだ。正に進退ここに極まれり、だ。そういえば昨晩の夢は傑作だった。この俺が英雄だと。レンの民のこの俺が。

「おや、クロさん。お戻りなさい。この腐った魚はなんですか!?」
「それは腐っているのではない、発酵しているのだ」
クロと呼ばれた黒猫の後ろから、布で顔を覆った人物が現れた。食屍鬼だ。
「グールの方ですね。珍しいです。俺も人のことは言えませんが。どーも、うちの猫が失礼しました。異邦人二人仲良くしましょう」
「ああ、俺の名はグラトニー、美食家と呼んでくれ」
「…、宜しくお願いしますグラトニーさん。俺はザローです。見ての通りレンの民です。この猫は相棒のクロです」
黒猫は二人の会話を理解して、挨拶するかのようにグラトニーの腕を軽く引っかいた。
二人はお互いの身の上と、ここに至った経緯を語った。
「なるほどお互い運命のいたずらでここに至ったというわけですね。ところでザローさん、ファルジーンという言葉を聞いたことがありませんか?」
「ファルジーン! 知っている。いや正しくは知らないが聞いたことはある。それも夢でだ」
「それは奇遇です。俺も夢で聞きました。それも白い猫のような生き物が話しかけてきました」
《本当に奇遇ね。私もその白い猫の声を聴いたわ》
突然頭の中に響いた声にザローとグラトニーは驚いて、顔を見合わせた。
「これはテレパシーですか?」そう言いながらザローは周囲を見渡す。グラトニーも同様だ。
《どこを見ているの、私よ。それに私の名はクロではなくクレシダよ》
「猫がしゃべった!?」
二人が見つめる中、黒猫は落ち着いて身づくろいをしながら「ニャー」と鳴いた。


ザロー:レンの民、真なる中立、神話からの生存者、ローグ
筋力12、敏捷18、耐久14、知力14、判断12、魅力4

美食家グラトニー:食屍鬼、真なる中立、放浪者、クレリック(破壊)
筋力9、敏捷17、耐久12、知力13、判断16、魅力5

黒猫クレシダ:地球猫、混沌にして中立、神話からの生存者、ウォーロック(グレート・オールド・ワン)
筋力7、敏捷16、耐久12、知力13、判断14、魅力16

二人と1匹はファルジーンについて町で調査を行った。この町の人々は気難しく、余所者を避けている。話を聞いた数人は、何故か決まって猫のクレシダのほうを向いて話をした。彼女が言葉を理解できることを知っているようだ。
「奴らは何故、こちらを向いて話をしない?」思うように情報が集まらない苛立ちを込めてグラトニーが文句を言う。
「仕方がありません。俺たちを見るよりはクロを見る方が楽しいのです」ザローは何をいまさらと言う調子で答える。
《いいじゃない、実際私は理解しているんだし》

この呪われた町を最も象徴的に体現しているのが港長ムンド・フェンだ。うろこ状の皮膚、飛び出した目、唇の薄い大きな口、この町の者がいう”海水に触れられたもの”の特徴が全て現れている。彼を初めて目にしたものは皆、恐怖あるいは嫌悪のため目をそらす。天邪鬼なムンドはそんな人々の様子に喜びを感じていた。しかし見た目についてはザローやグラトニーも負けていない。3人はお互いの姿をじっくりと観察したあと、普段通りに会話を始めた。
「こんにちは港長さん、貴様のお顔は正に海の漢という感じですね。ところでファルジーンという言葉を聞いたことがありますか?」
「ファルジーン、知っているとも。ここから遠く離れた、海の向こうにある島の名だ。ちょうど今、そこへ向かう船が停泊している。行きたいのなら、その船の者と交渉してみるがいい」

船には乗客として乗船したかったが、船賃が全然足りない。交渉の末、ファルジーンまで船員として働くことになった。優秀な船乗りであるレンの民、ザローは航海長エイデン・ブサイラの助手務め、美食家グラトニーはコックのネビ・コプシュイと一緒に船員の食事の準備をする仕事が割り当てられた。最初グラトニーは自分の好みの食事を手によりをかけて作ったが、船の全員に酷評された。そこで不本意ながら、子供が喜ぶような低俗な味の料理に切り替えた。こちらは皆に好評だった。
一方、クレシダは猫らしい働きを期待されたが、日がな一日甲板でくつろいでいた。船長のペットで先住猫のヌッキとあまりに違うため(ヌッキは頻繁にネズミを捕まえて、船員に新鮮な肉を提供した)、船員たちはクレシダをとんでもない怠け者の貧乏神だと罵った。
《仕方がないわ、私のこのビロードのような滑らかな毛皮を撫でさせて、ご機嫌をとってあげるとしましょう》


そろそろファルジーンに到達するころ、海上で最も恐れられる怪物、すなわち大嵐につかまった。海は荒れ船を上へ下へと大きく揺さぶり、風は帆柱を折ろうとする勢いで吹きつける。乗組員が一致団結してこの困難に挑む中、猫であるクレシダは手を貸せない。グラトニーの目を見張る八艘跳びの活躍でこれを何とか切り抜けたが、船は帆も帆柱も失いなすすべなく海を漂うことになった。


この後にくる飢えと渇き、そして緩慢な死を前に船員の心には絶望が広がる。長く寒い夜が終わり、嵐は日の出と共にすっかり消え、遠くにどこかの島の砂浜が姿を現す。プサイラは岩礁に錨を下ろし、船を放棄して小舟で島へ上陸すること命じた。
嵐の名残でいまだ海は波立ち、視界は悪い。小舟が波の谷間に入ったとき、船底に何かがぶつかった。水面下に潜んだ怪物は小舟を揺さぶり乗員を振り落とそうとする。その時クレシダはヒゲを震わせ、「ニ”ャーコ゜」と鳴いた。すると怪物は動きを止めた。船員の誰かが叫んだ。
「何だか知らんが、怪物が動かなくなったぞ。急げ今のうちだ。まったくたまげた魔除け猫だぜ、クロ」

センサ船長はこの見知らぬ砂浜がファルジーンだと断言した。
「明日朝一番でファルンジーンへ向かいましょう。全員今晩はゆっくり休むこと。プサイラ、キャンプの設置と明日の夜明けの準備について確認してちょうだい」
プサイラは船長の命を受けて、船員たちに仕事を割り振る。ザローとグラトニーには周囲の探索を命じた。
「よし、お前たちは水と食料の調達を頼む。あまり遠くには行くなどんなモンスターがでるか分からないからな。一応食料はあるが、水が不足している。新鮮な食糧があればなお良いが無理はするな。時間があれば海岸のほうを見てくるといい。何か役に立つものが昨日の嵐で打ち上げられているかもしれないからな」
「了解しました。みなさん嵐と怪物のせいでうんこ漏らしたような顔をしていますからね」ザローがグラトニーに向かってうなずく。
「今晩は異郷の料理人フレイヤー秘伝のレシピ”翌朝のカーレ・ライス”を作ってやろう。これを食べた者はホームを思い出して心が落ち着く」そう言いながら、グラトニーはいつも持ち歩いているスパイス入れを確認した。
「(翌朝?)貴様が言うホームが俺の思っているのと同じことを祈ります」
《私は生肉が良いわ》

「よし、水は手にはいりました。あとは新鮮な食い物ですね。このフルーツは食べられますかグラトニー?」
「俺は食えるが、お前らはやめた方が良いだろう。カーレ・ライスには肉が必要だ」
《この先に獲物がいるわ》
2人と1匹は林の中で土を掘り返して食べ物を探すイノシシを見つけた。
「…、少しデカすぎないか? あんなにはいらないぞ」茂みの影からグラトニーが言った。
「どうやら、気が付いたようです。こっちに来ます!」
ジャイアント・ボアの突進をまともに食らったグラトニーが叫ぶ。
「く、食うのはオレだ!」


海岸には船の残骸や積み荷が散乱している。大半は壊れた木箱、腐った材木、索具の切れ端などだ。その中に3人の遺体を発見した。2二人は波打ち際に、3人目は水際からかなり離れた砂の中に倒れている。3人目の人物はヒューマンかハーフエルフの海辺の民のようだ。その皮膚は長年にわたる太陽と潮風の影響でひどく皺が寄って乾燥し、なめし皮のようになっている。死因は溺死のようだが、海からこんなに離れた場所までどうやって運ばれたのか分からない。そして妙なことに死体はまだ新しいのに、その体は枯れ木のように固い。ベルトには「ザントゥー石板」というタイトルの小冊子が挟み込まれていた。

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狂える魔導士の迷宮 -17(ネタばれ注意)

2022年10月10日 | 狂える魔導士の迷宮
第11次探索
第4階層に戻り、階層主のアボレスと対決。倒すまでは至らなかったが、アボレスは呪いを吐きながら地底湖の底へ逃げ去った。


第12次探索
狂気に陥った魔女に会いに行く。魔女ダリベスはまぐみんのグレータ・レストレーションで正気を取り戻した。彼女は仲間がここで全滅したため、正気を失ってしまったそうだ。他の仲間のアーガラがアンファイルの町にいて、迎えに来てくれるので心配ないという。

第13次探索
地下水脈から上陸した第5階層には天井が無く、地上の空が見える。しかしロサがいくら高く飛んでも地上に出ることは出来ない。なにかの魔法、幻影のようなものだろうか。道端に共通語、エルフ語、竜語で書かれたメッセージが掲げられている。
〈ウィロウウッドに心せよ。害する者は害される〉
ウィロウはムーンエルフの大ドルイドの名だとロサが言う。

木立の中に強力な炎で焼き尽くされた空間がある。そこには薔薇の飾りがされた墓石が1基だけあった。ロサの魔術による偵察でこの階層にはグリーン・ドラゴンがいることが分かっている。だが緑龍の吐息は火炎ではなく毒ガスのはずだ。他にもこのような惨状をもたらすモンスターが身を潜めているのだろうか。

墓標には〈クリサンここに眠る。このヒューマンはわが親愛なる友なりき〉と刻んである。
クリサンとは誰だ。墓を作ったのはウィロウか。
墓の前で考え込んでいるとささやき声が聞こえた。
「わが小さき杖を取り、エルフの魔女ウイロウを打ち滅ぼせ」
言葉を発した者の姿は見えない。だが急に悪の気配強まった。この匂いはアンデッドだ。敵は…墓の上に浮いている。
「私はホアの使徒。復讐は我が信仰。お前はこの墓の主なのか? 私に聖なる復讐を求めているのか?違うな、お前は死の直前に放たれた未練が腐り果てた汚物に過ぎない。お前の言葉は汚泥が放つ悪臭に過ぎず、お前を浄化することこそ我が勤め」


墓の中には魔力を放つ何かがある。掘り返すと、は人骨とワンドofファイヤーボールがあった。すると先ほどのアンデッドの言にも一抹の真実があったのかもしれない。エルフの魔女ウィロウに真実を確かめなくてはなるまい。
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