無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

食屍鬼島 -7(ネタばれ注意)

2023年04月15日 | 食屍鬼島
再び、グラトニー、ザロー、アダムの3人と1匹(クレシダ)は溶岩洞を進んでいる。今度は3人が持ち出した武器を携えた住人も一緒だ。
ファルジーンへ潜入した一行は溶岩洞をキャンプへ引き返した。一方キャンプでは避難民たちを兵士へと変えるための訓練が行われていた。ここに兵士と武器が揃い、反撃の準備が整った。今度3人は兵士を引き連れ、溶岩洞から再度町へ侵入し、街門を開け放つ任務を任された。外で待機しているロタールが率いる主力は、街門が開いたら町へ突入し、食屍鬼たちを制圧する作戦だ。

アティアグの住処に近づくと、突然グラトニーの脳裏に水棲人型生物のイメージが浮かんだ。アティアグが待ち伏せを知らせてきたのだ。
「皆、武器を構えろ。アッティーが待ち伏せを知らせてきた。敵は深きものだ」グラトニーが仲間に知らせる。待ち伏せをしていた敵は逆に奇襲を受け、瞬く間に倒された。

溶岩洞の天井の穴を通り抜け、クレシダは静まった皮なめし工房をそっと観察した。
《誰もいないわ》

後続のグラトニー、アダム、ザローも次々に姿を現す。工房の隅々を確認していたクレシダは、部屋の隅に毒蛇を発見した。クレシダの理性の部分はこの状況に違和感を感じたが、猫の本能が素早く反応して蛇を鋭い爪で切り裂いた。
「待て、クレシダ!」アダム・スミスが警告を発するが遅かった。
切り裂かれた毒蛇の断面が激しく泡立ち、あり得ないほど膨張する。

蛇は本来の姿を取り戻した。不定の粘体、無形の落とし仔だ。
「猫はやはり猫ということか」無形の落とし仔が動かなくなったことを確認したアダムが呟いた。
《あなたレイシストね》

門は食屍鬼が警備している。見えている人数は3人。こちらは3人と兵士5人(それと1匹)。門の巻き上げ機を動かすのに3人は必要でしょう。十分勝機はあります。もう少し近づいてから不意を打てば完璧です。そう考えて仲間に合図を送ろうとしたザローは、暗がりからゆっくりと近づく男に気が付いた。
「そう簡単にはいかないと思いますよ」この町では珍しいレンの民だ。もう一人のレンの民とノーリと一緒だ。
「貴方は確かカヴァの休憩所の店主ですね」
「その通りです。貴方は…、何だろうな? 迷子? いや、違います」彼は考えているようなそぶりを見せて、僅かに口の端を上げて言った。
「分かった、”すぐに死んでしまいそうな感じ”、ですね」
「そうかもしれません。しかしそれは貴方次第です」
口調がそう感じさせるのか、戦いが差し迫ったこの時に会話ではない。グラトニーはいら立ちを隠せないでいる。
「まあ落ち着け、グラトニー。ここは同族同志、ザローに任せよう」相手のノーリに盛り上がった筋肉を見せつけるように胸を張りながらアダムが言った。
「いいでしょう、あのクソマヌケの…、失礼、無能なゴキブリ野郎のアルウィイが町を我が物顔に這いまわるのには我慢がなりませんし、破壊と混沌に飢えたガタノソアに町を支配されるのはごめんこうむりたいです」
一度言葉を切り、門の方を見てから言葉を続けた。
「今なら門の前のグールは少数です。増援が来たら私が足止めしてみましょう」

門の巻き上げ機を動かすのには3人は必要だ。しかも作業している間は無防備な背中を晒すことになる。それだけではない、巻き上げ機自体を攻撃から守らなくてはならない。しかし今ならいける。


門を守る食屍鬼たちはザローたちの意図を読み、巻き上げ機を操作する兵士に攻撃を集中する。一人、二人と味方の兵士が倒れる。
「ここは私に任せろ!」人並外れた体躯を誇るスミスが叫び、2人前の怪力で巻き上げ機を必死に回す。重い町門がゆっくりと上昇する。隙間からロタールの声が聞こえる。
「いいぞ、上がってきたぞ!」
危険を顧みず、更に空いた隙間に身体をねじ込んで、細身のモマオが最初に現れた。
「さあ、敵はどこ!?」
門はゆっくりと、だが着実に上昇し、次々に味方が町に入ってきた。
その時、近くの民家の扉が開き、奇妙な服装の食屍鬼が現れた。
「んー、正にハエですね。ブンブン、ブンブンまとわりついて五月蠅いこと。センサ船長、貴方が連れてきたのだから、責任をもって始末して下さいね」アプトンだ。人をハエ呼ばわりしているが、本人こそ悪趣味な一張羅をまとった銀バエそのものだ。戸口の奥からゆっくりと姿を見せたセンサ船長は以前とは別人だった。いや、最早人とは言えない。深きものの血を示す目蓋の無い爬虫類じみた眼は、今や虚空に開いた黒い穴だ。身体はかろうじて抑えられている妖力により、無数にひび割れている。
《少しの間なら私が船長を抑えるわ。その間に残りのグールと蝶ネクタイを始末して》


アプトンが倒れるのを見届けたセンサは、薄ら笑いを浮かべながら、生き残りのグールを率いて立ち去った。
ロタールの朗々としたバリトンが戦場に響き渡る。「奴らめ、臆病な犬のように逃げていくぞ!」警備隊の隊長は自分の部隊、残った島民、光の司祭たちを集めてやってくる。
「この戦いは我々の勝ちだ、友よ! 君たちはファルジーンの英雄だ!」
周囲からは同意の歓声が、次々に挙げられる。しかしアダム・スミスは町の中央に新たにそびえる不吉な城塞を見つめながらつぶやく。
「敵は砦に逃げ去った。しかし、いよいよ危険は間近になった」


コメント
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