無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

食屍鬼島 -4(ネタばれ注意)

2022年12月17日 | 食屍鬼島
「ここは…」
角を曲がると、やせ細り、乾燥した死体が何十体も薪のように積み重ねられている。その配置の体系的な正確さにザローは動揺させられる。ここはカタコンベではない、倉庫だ。壁には朽ちた絹が掛けられ、床には装身具、磨かれた石、光り輝くガラスの破片が散らばっている。
「麝香の香りがする。ガストがいるな」グラトニーがそう言うと、暗がりから3体のガストが姿を現す。怪物たちは、何かを期待しているかのようにグラトニーをじっと見つめている。
「何だ?」グラトニーが無意識に攻撃の型を構えると、その意図を読み取ったごとく、ガストは鋭い爪を突き出し襲い掛かってきた。


「ここは倉庫なのですね」ザローがグラトニーへ問うのではなく、推測した事実を伝える。
「その通りだ。しかも品ぞろえは一級品だ」死体の足に取り付けられたタグを調べながら、感心したようにグラトニーが答える。
《あまり詳しくは聞かない方が良さそうね》
「ちょっと待て、これはゴート神殿にいたブラザー・マッテオじゃないか。会ったのはついこの間だったのに、何故このような姿になっているんだ? ここまで乾燥させるには相当の時間が必要だぞ。いや待て、これは…」
《ガタノソアにはミイラ化の凝視という呪いがあると聞いたことがあるわ。その呪いを受けた者は生きながらミイラになってしまうと》
「では、彼はまだ生きているのですか!?」それがどういうことなのかを理解したザローは驚愕のあまり叫ぶ。
《なるほど、あの苦味の正体がこれか。俺も拘置所にいたゲテモノ喰いのグールと一緒ということか》

二人と一匹は神殿の探索を進める。待ち伏せしていた教団の狂信者を返り討ちにし、死者の思い出の品に囚われていた少女のゴーストを解放し、更に進む。牢屋に囚われたチョー=チョー人のフレッシュ・ゴーレムは牢の扉を開くと、自分を閉じ込めた敵を求めて飛び出していった。


死体でいっぱいになったムロを発見したグラトニーは一瞬興奮するが、すぐに怒りに変じた。
《このムロは素晴らしい、しかし…。エターナル・ダイニングとは結局、ヒューマノイド・ファームということか。魔法で大量生産された珍味など、ただの餌だ。その上、人工飼育された人生など全くもって味気無い》

そうこうして神殿の最深部、力の中心を覆い隠すカーテンの前に到着した。向こうにはガタノソアの依代があるに違いない。新和の時代より奥を覗いて酷い目に遭う英雄の逸話は数知れず。分かっていても、覗かずにはいられない。まさにそのためにここまで来たのだ。


帳の奥にはガタノソアの偶像が安置されていた。邪悪に満ちた醜悪な姿は、偶像であっても人に破滅的な影響を及ぼす。
《なに!?この波動は。早くあの像を破壊しなくては!》
偶像を破壊しようとすると、壁から何かの触手あるいは擬足のようなものが生えてきた。それは偶像の一部を模したような姿をしており、小根と言うべきものだった。
《まずいわ!あの目を見てはいけない、二人とも逃げるのよ!》
偶像を破壊され怒り狂った小根は手当たり次第に暴れまわる。その衝撃で洞窟全体が振動し、天上が崩落を始める。洞窟は崩壊させながら、小根は逃げるクレシダたちを追ってくる。
「まずいですね。しかし希望はあります、あそこの裂け目から外に出られそうです」小根に追われながらも、口調だけは冷静なザローが指し示す方向には、洞窟の崩落で生じた外へのトンネルがあった。狭く、人ひとりがやっとのことで通り抜けられるトンネルの中は、崩れ落ちる土砂と塵で視界がほとんどないが、それでも外からの光を感じることが出来る。

「結局、邪教の寺院はご本尊の乱心で完全に埋まってしまったな。これで一つの悪が消え、英雄たちは無事帰還してハッピーエンド。…とは簡単にいかないよな」
火山から漂う刺激性の空気、足元で続く地鳴り、うだるような暑さが周囲に満ちている。ジャングルの奥に潜む肉食獣の気配。これで終わりではないといく確信。二人と一匹は重い足取りで、島で唯一の安息地、ファルジーンを目指して歩き出す。
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食屍鬼島 -3(ネタばれ注意)

2022年12月10日 | 食屍鬼島
《おっと、もう敵に気付かれたか。よし、じゃあ早速ジョーカーをきるか》

天井まで本を積み上げた、洞窟ごとき狭い空間にはまり込むように身を屈めて熱心に本を読む男がいる。学者ではない。鍛え上げられた肉体と年季の入った鎧、研ぎ澄まされた長剣はこの場にそぐわない。
《やあ、アダム・スミス》
「僕の邪魔をしないでくれ。もう少しでこの予言書に隠された真実がつかめそうなんだ」
《それも重要だけど、もっと差し迫った危機があるんだよ》
「何故猫が言葉をしゃべるんだ? 誰かが僕に白昼夢を見せているのか。これは予言書に記された真実を隠しておきたい勢力の企みか!」
《落ち着いてアダム。今、君にしか救えない世界があるんだよ》
「どういうことだ、まるで世界が複数あるような話じゃないか」
《そうさ、世界は一つじゃない。可能性の数だけ無数の世界があるのさ》
「な、なんだってー!」
《…それは君の役じゃないでしょ》

MMRの騎士 アダム・スミス:ヒューマン、ミステリー・ウォーリア4
筋力20、敏捷14、耐久13、知力12、判断15、魅力11

★★★★★★
木槌亭に入ると、全ての目がザローとグラトニーに注がれる。常連客の落ち着いた会話が途切れ、酒場は静寂に包まれる。グールとレンの民の二人連れが目立たないわけがない。しかしその足元をひっそりと進む黒猫に意識を向ける者はいない。巨漢のロタールが席を立ち、二人を招くと会話が再開される。
「今、島で数名の行方不明が発生している。私はその真相を明らかにしたい。君たちは傭兵みたいなもののようだし、私は君たちにやりがいを与えることが出来る」彼は揶揄しているのではなく、真剣にこの申し出をしている。「質問があるだろう、言ってくれ」

「つまり、ここ数日で島の住人3名が行方不明となり、留置所では船員6名が犠牲になった。留置所ではグールとガストが犯行に及んでおり、行方不明の3名も同様な被害にあったことが推測される。そして島では昔から少数のグールの部族と平和的に共存しており、現在のこの由々しき事態は不可解であるということですね」ザローが話をまとめてロタールに確認する。
「その通りだ。それに輪をかけて心配なのは、執政官がこの事態を軽く考えていることだ。グールのコミュニティーに何らかの大きな変化、それも好ましからざる変化が生まれているとしたら…」
《物騒なのが来たわ》ザローの足元の暗がりから、酒場を眺めていたクレシダがザローとグラトニーにテレパシーで警告した。
「失礼、僕の名はアダム・スミス。君たちに世界の危機を警告するため、次元を超えて来た」ロタールをも上回る大男の戦士が近づいてくる。



《物騒と言うより、面倒?》
ロタールは面前の二人を見る。二人そろって目を閉じ、首を振る。
「世界の危機とはただ事ではないな。私には君の方がよっぽど剣呑に感じるが」
アダムはロタールが何を言っているのか理解できないという風に首をかしげ話を続ける。
「白猫の予言によれば、この地では大いなる邪悪な力が目覚めつつある。しかるべき時、しかるべき場所に予言された英雄が現れなければ、世界は滅びてしまう。僕は予言を成就させるためこの地に遣わされた」
《また白猫…》
「アダム・スミスさん、はじめまして。ザローと申します。次元に関しては、私たちは不案内ですので残念ながらご理解致しかねます。申し訳ありません。その上で貴方のお話を思惟すると、私たちに協力するというご提案であると考えて宜しいでしょうか?」
「その通り!!」

その香りに最初に気付いたのはクレシダだった。だが彼女は興味を示さなかった。
「この香りは…」次に気が付いたのはグラトニーだった。他の者は誰も気付かない。
香りを追って外に出たグラトニーは、通りの暗がり身を潜めている猫背の人物を見つけた。
「100年、いや120年の信仰系か?」グラトニーは男に声をかけた。
「ほう、なかなかの鼻効きだな。これは116年の神官だ。他にこんなのもあるぞ」
「これは30年ほどの若いHFO。だがこの苦味はなんだ! 絶望的な苦悩、あるいは狂気。それにケイザのテローワールたるスモーキーな風味。唯一無二、そして完璧な仕上がりだ」グラトニーは差し出された干し肉のようなものを口に含みながら感動に打ち震える。
「それで、私に何をさせたい」冷静になったグラトニーが謎の人物に問う。
「何も。お前が何もしなければ、我々はエターナル・ダイニングを共にすることが出来る」
「エターナル・ダイニング…」

「よし、急ごう。こうしている間にも世界に危機は迫っている。グールはどうした?」朝早くにやってきたアダムが、朝食を食べているザローを急かす。
「グラトニーさんはお腹の調子が悪いとのことで、暫く休みたいと言っていました」
《そういえば…。大方何か変なものを食べたんじゃないの?》クレシダには思い当たるものがあるようだ。
「そうか、これが敵の陰謀じゃなければ良いが。まあ僕たちは出来ることをしよう」

行方不明の島民3名の消息を求めファルジーンの街路を進むグラトニーとスミス、それとクレシダは洒落者のグール、アプトンに出会う。何かを知っていそうな素振りを見せるが、こちらの質問をのらりくらりとかわす。
「シェリー? くしゃみかな? お大事に。アレルギーのせいなの? 風邪だよ、多分。厄介なことにならないように気をつけないとね。え、人の名前?」

その後シェリー夫妻の家に通じる溶岩洞を発見し、調査のために暗く、じめじめとした洞窟へ入った。


途中、”人だったもの”の怪物の脇をこっそりとすり抜け、グールの奇襲を撃退し、洞窟の最深部で謎の神殿を発見した。その入り口は4体のガストが守っている。神殿を調査し、行方不明となった島民の消息を得るためには奴らを倒して進むしかない。



初めてとは思えないほど連携の取れた動きで強敵に立ち向かう。地形の特徴を利用し、敵に挟まれて戦術的優位を取られないよう上手く戦う。普通の猫に見えるクレシダが飛ばす怪光線で、最初は優位に戦闘を勧めたが、邪神の加護を受け、数的優位である敵に圧倒され始める。そしてついにアダムスが力尽き、このままでは全滅してしまう。
ザローは心の中でノウエムに呼びかけた。
《ノウエムさん。今こそあなたの助けが必要です!》1d10=1
周囲の景色が奥行きを失い、四角い平面へと後退していく。ザローは自分が何もない真空に浮かんだ額縁から、倒れたアダム、次の敵を求めてたけり狂うガスト、身構えるクレシダを描いた超細密画を見ていることに気付く。隣には白い動物、4本の脚があり、見る人の心を騒がす尻尾をもつ軟体生物がいる。
《やあピンチだね。どうして欲しい》
《どうして欲しいと申されましても…、ではこの島で起きている問題を解決して頂くと言うのはどうでしょう?》
《いや、そのために君たちを呼んだんだよ。僕に出来ることは因果応報、大きな望みには相応の対価が必要だよ。今回はアダム・スミスを復活させるさせるぐらいにしておいたらどう?》
《では、それでお願いします》

死んだふりをしていたアダムが油断したガストを背後から貫く。虚を突かれて混乱した他のガストにクレシダの魔法が投射され動きが封じられる。アダムと連携したザローが敵の息の根を1体ずつ止めていく。気が付くと敵は全て倒れている。ザローはクレシダに言った。
「危なかったですね、クレシダさん。思わずノウエムさんに祈ってしまいました」
《あらそう、問題は無かったんじゃない》
「いえいえ、無事ガストを倒せたのはノウエムさんのおかげです」
《ふーん、そうなの。ところでこの神殿は何かしら》
「ここはガタノソアの神殿のようですね。我々二人だけで探索するのは危険かもしません」

ザローとクレシダが神殿の大扉の前で躊躇していると、グラトニーが現れた。
「二人だけで、よくこんなところまで来れたな。お前たちが倒したグールやらガストを見たよ」
《見直しても良いわよ》
「そうですね、私達二人だけではありません。ノウエムにも手伝ってもらいました、それに…」ザローは何かを忘れてしまっている気がして、言葉を詰まらせる。
「ノウエムか。奴は何ができるんだ?」グラトニーが尋ねる。
「相応の対価を支払えば、何でもできると言っていました」
「なるほど、やはり神仏、悪霊のたぐいか。関わり合いは避けるべきだな」
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