無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

顔なきもの -2

2024年05月06日 | 顔なきもの
【ネタバレ注意】本記事はシナリオ「Hell Rides to Hallt」の内容を含んでいます。

一行はさらなる手がかりを求めてハンフリート・マウスの農場へと向かった。確かに農場へ続く田舎の泥道を進んでいるが、時折石畳の道や板張りの床を歩んでいるような気分になっていることに気づく。そんなときウィズマーは立ち止まり周囲を見回す。すでに昼をとっくに過ぎている時分だが、太陽はまだ中天を超えていない。プファイルとアルヴィンも同じような違和感を感じているようだ。
「シグマーの両眼にかけて、この土地は呪われている。首なし騎士に無数のオガム石、そのうえ狂った時間に足元から伝わる奇妙な気配。何もかもが呪われている!」

マウスの農家はこの地方では見慣れた建物だ。周囲の畑は放置されている様子を見せている。裕福な家に生まれた一行のものは-プファイルも今は一文無しの狂信者だが、かつては立派な家に生まれ良い教育を受けていた(教育が行き過ぎていたのかもしれない)-寂しく枯れている作物の残骸を見ても何を育てていたかは分からない。しかしほんの数日前までは季節外れの作物を育てていなような印象を受ける。

家の周りの草は立ち枯れ人の気配はない。壁には吹き寄せられた枯草や放置された木材や薪が積みあがっている。入り口に鍵はかかっていない。家は一間だけの小ぶりな作りで、マウスが独身だったことが分かる。窓は小さく、部屋に差し込む光は少ない。室内世様子からは家主の鬱々とした精神を感じるが、壁にかかる4枚のタペストリーには目を引かれる。そこには四季が描かれており、季節によって様々な作物を植えたり収穫したり、そして自分たちで育てた作物を仲良く食す人々が描かれている。



「マウス氏はつき合い辛い人物だったようだが趣味は悪くないな」ウィズマーはタペストリーをじっくりと眺めながら言った。プファイルはこの家が気に入らないようで部屋の四隅で神聖なものを表す仕草を繰り返している。部屋を歩き回っていたアルヴィンは床板が浮いている場所を見つけ、屈みこんでよく調べた。
「ここになにかある」全員が注目するなか、アルヴィンが床板を外すと中には琥珀色のレンズが入っていた。レンズを取り出し日の光にかざして中を覗いていたアルヴィンがガラスの向きを変えたとたん息を飲んだ。
半透明の琥珀越しに見たタペストリーは恐ろしい絵に変貌した。ある人物は他の人々の上に土を積み上げ、作物の横からは埋まった人々の腕が突き出ている。豚飼いの一団は姿を変え豚のような動物になっている。冬のタペストリーに描かれた焚火で暖を取っている人々の一団が、燃え盛る偉大な人影を崇拝する狂信者の一団に変わっている。
「これを見て見ろ」アルヴィンが仲間に声をかける。
「シグマーの両眼にかけて! 思った通り邪教徒の住処だ、燃やしてしまえ!」
「マルコルフのメモもこの琥珀で見てみよう」ウィズマーはメモを取り出し琥珀のガラス越しに見た。



この土地に来て、彼らを作り変えよう。
変えてしまえ。
運命の支配者は
時のねじれから現れるであろう、
肉体を作り変え
苦痛と苛烈な怒りを叫びながら。
変化が肉を作り
肉が変化を作り

「シグマーを恐れよ! 燃やせ!」
ヤッタランは顔を上げて周囲の匂いを嗅いだ。「ん? 何か燃えていないか?」
全員がプファイルを見た。
「シグマーの名に懸けて、確かにこの小屋は既に燃え始めている」
アルヴィンは素早く扉に近づき様子を確かめた。
「扉は外から閉じられている」
「シグマーズハンマー!」プファイルは扉に突撃して、手にしたフレイルで扉を叩き壊し始めた。
人ひとりが通り抜けられるだけの隙間が開くとプファイルは外に飛び出した。小屋を焼く炎を抜ける際に衣服に着火するのも構わず、残りの者も次々に外へ飛び出す。



地面に転がり衣服に移った火を消したプファイルは目の前に処刑人が首切り用の大斧を振りかざしているのを目にした。その男は大柄な獣のようだ。髭を剃り、鼻は折れ、目はこげ茶色で険しい顔をしている。地味なローブ、革の手袋とブーツ、そしてフード、死刑執行人の衣装だ。無言のまま振り下ろされた大斧をプファイルは転がって避ける。

==========
武装解除され両手を縛られ跪いた状態でも男は顔色一つ変えず傲然と顎を上げ無言を貫いている。
「こういう男は知っている。何もしゃべらないだろう。見上げた忠誠というところか」
「シグマーを恐れよ! これは邪教への狂信。腐敗、堕落の明白な証。このような者に与えられるのは賞賛に非ず」
プファイルはベヴィニャーテの手紙と呼ばれる聖なるフレイルを振り上げた。

==========
一行は探索を続け丘の上の風車に目を止めた。マルコルフのメモに描かれた風車に違いない。よく見ると風車の回転方向が風向きに対して反対になっている。周囲を観察すると人の出入りがあることが分かる。扉には鍵が掛けられていたが簡単に(力ずくで)開けることができた。内部では粉ひきの機械が動いている。風車が反対向きに回っている理由は分からない。ここでもまたアルヴィンが地下室へ続く隠された引き上げ戸を発見した。


地下室の床の中央にはルーン文字と共に魔法陣が描かれている。その周りには謎の液体が入ったガラス瓶が散らばっている。作業台の上には錬金術に使われる器具が整然と置かれている。部屋の隅のテーブルには切断された首が4つ置かれている。近づくと床から毒々しい紫色の光が迸り4つの頭部に仮初めの生命力を与える。これらの朽ち果てた頭部は身悶え目蓋を激しく開いたり閉じたりする。太い糸で縫い閉じられている口を動かしている。
「シグマーの名を称えよ!」
プファイルは頭部に近寄り口を閉ざしている糸を切ってやった。

ブロンドの女性が叫ぶ。「ウバースライクからここまで来た私を、彼らは切り捨てた!新たな始まりだ!彼らは豊饒と成長について語る。私に死以外の何がある?哀れなグリセルダは?」

鼻の無い黒髪の男性が酔ったような口調で話し出す。「酔っていた!ほろ酔いだよ。あのマルコルフはとても素敵に見えたよビールの話。お酒は大好きなんだけど、ある?唇がカラカラで、最後に...」

耳の無い男性は低い声で言う。「大いなる成長、大いなる変化が訪れる。土地は作り変えられ、ハルトのすべてが震えるだろう!私は燃料であり、肥料である。私は…」

特徴のない男性が必死に叫ぶ。「ウーテのために!ウーテのために私は死に、ウーテのために彼は殺す!夜、ひそひそ声が聞こえる、秘密の弟よ。俺の腕はお前のものだ 兄弟よ 俺ができなかったことをやれ」

頭部はは一斉に話し始めた。「魔女は見る、魔女は待つ、緑色の月が昇る、トリックスターの運命。肉は焼かれ、首は転がる、緑の月が昇り、皆に死が訪れる。騎手は乗り、騎手は殺す、翡翠の月が昇る、この工場を燃やせ!」

4つの頭を頭陀袋放り込んだプファイルは向き直って叫ぶ。「シグマーズハンマー! 火をつけろ!」

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夜が訪れ、モルスリーブだけが周囲の山や森、そして町の上に昇る。冷たい光を放ち、魔法の風を強く吹き、死者をかき乱す。町はビリジアンというべき青緑色の光に満たされ、ロウソクやランプの明かりは消えてしまったようだ。人々は家の扉を堅く閉じ、寝具に深く潜り、この地にはびこる邪悪なものを遠ざける。降り積もった雪が、青緑色の光をより際立たせている。
目の前では風車小屋が盛大に燃えている。青緑色に染まった世界にある確かなもの。この世の毒虫たちを引き寄せ焼き尽くす聖なる光。一行は小屋から少し離れたところに身を伏せ誰が引寄せられるのかを見ていた。


町から人がやってきた。フェルギーベル市長、鷹匠のキーファ、それに見たことのない男と女が一人ずつ。更に町の衛兵が4人。燃える小屋を見上げながら話し合いの後、衛兵だけが町へ戻った。残った男女は一行が伏せている場所とは反対側、建物の向こう側へ行ってしまった。そのまましばらく様子を見ているとキーファだけが建物の周りを警戒しながら歩いている。
「奴らは何をやっているんだ?」ウィズマーが呟く。
「シグマーに栄光あれ!」建物の角を回ってきたキーファへプファイルが突撃する。ウィズマーも後に続く。アルヴィンとヤッタランは建物の向こう側の市長らがいる方へ向かう。


アルヴィンが建物の角を回ったその時、建物を覆いつくす炎が凍り付き、頭上の星や月が飛び去るように地平線の下に沈み辺りは闇に閉ざされる。暗闇の中不気味な光を放つ液体を飲んだ、市長をはじめとした狂信者は苦痛の叫び声をあげながら倒れこむ。そしてその身体は人間ではありえない動きをしながら這うように互いに近づき練り合わされてゆく。瞬く間に一つに溶け合い蠢く触手、歯軋りを上げる口、瞬きする無数の目からなる混沌の怪物に変貌する。
人間相手なら無敵のアルヴィンでさえもこのような怪物の前では恐怖を感じ、動きが止まる。一方、長い水上生活で数々の伝承や噂話の一部が本当であることを知っているヤッタランのほうが、このような状況への適応力は高いようだ。
怪物は複数の触手を振り回し、捕まえた犠牲者を鋭い歯がびっしりと生えた口で噛みつこうとする。恐怖の衝撃から抜け出せないアルヴィンの動きは鈍い。ヤッタランはつかまらないよう触手を払いのけるのが精一杯だ。しかし鷹匠を始末したプファイルとウィズマーがやってくると状況は好転した。恐怖を克服した4人の戦士の攻撃は怪物を徐々に追い詰めていく。ヤッタランの一撃を受けた怪物は動きを止め、人間の身体を一つに練り上げていた力を失った。怪物の死骸は半分溶けた複数の人間の身体の残骸となった。
「シグマーに栄光あれ!」プファイルの言葉を合図に周囲の暗闇が晴れ、穏やかな大晦日の夜が訪れた。少し離れたところに首なし騎士が立っている。彼は馬上斧を高く掲げると、馬を返して走り去った。
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