無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

食屍鬼島 -13(ネタばれ注意)

2023年11月11日 | 食屍鬼島
歓喜したドムニクが、息を切らしながら宿に飛び込んでくる。
「この書物は・・・すごいですよ! たくさんの疑問に対する答えが書かれています。どこから手を付けてよいやら」
「そうだろう。知識の価値を正しく理解する者を見るのは気持ちが良いものだ」ネヅコは価値を共有する者の出現を歓迎して言った。
「ポンペアが命懸けで託したものだ。当然だろう」
「その通りです、彼女の魂が女神の元にたどりつけることを祈りましょう。さて知りたいことは何ですか? できるだけお答えします」
ケイザの書には光の女神の起源が詳しく記されていた。書によると光の女神信仰は元をたどると、ファルジーンの山、すなわちケイザ山に宿る元素の霊への信仰だったらしい。光の女神に対する現在の儀式と習慣の多くが、ケイザに捧げられた原初の儀式に見て取れる。
「ケイザは…、暴力的な創造を司る原初の知性体なのです。供物に対する彼女の反応は…」彼は適切な言葉を探すために言いよどむ。「控えめに言っても…、そうとても印象的です」ドムニクは本質は似ていても、光の女神とは全く異なる側面を見せるケイザに魅了されたようだ。
「この島はケイザそのものであり、彼女は島に捧げられたあらゆるものを自分に向けられたものと見なします。適切な生贄には相応に報いるのです」彼はその儀式についても詳細に語った。
「これとは別に私はファルジーンにおけるガタノソア信仰についても古文書を調査しました」
500年以上前、ムー大陸山中の牢獄から脱出したガタノソアがファルジーンにたどり着き、島の地下で眠りについた。これによりケイザの力が弱められたが、それが同時のケイザ教団の女司祭の力によるものと認識され、光の女神として神位を得た。一方、ケイザの力が弱まったことで、ガタノソアの崇拝者が力を得て、ガタノソア教団が設立された。彼らは勢力拡大のため島の外から食屍鬼を大勢連れてきた。原住民と食屍鬼の間で激しい戦いが発生し、その最中、島の最後の王族が戦いに敗れ食屍鬼の女族長に喰われてしまった。光の教団はケイザの力を呼び起こし、食屍鬼たちの本拠地となっていた地下の溶岩洞の多くを崩壊させ戦いを終わらせた。王族を失ったファルジーン有力諸家は統治者として執政官を選出し、食屍鬼の有力氏族、ヨガシュ氏族と協定を結んだ。食屍鬼は地下に止まる代わりに、地上での死者は食屍鬼の土地に埋葬する。これにより、ファルジーンは平和になり、地上の住人は地下に住む食屍鬼のことを心配することが無くなった、墓地がいっぱいになるという心配と共に。
《なるほど。するとガタノソア教団が再び動き出したのは、ガタノソアが目を覚ましたのか、あるいは食屍鬼の数が増えすぎて食べ物が足りなくなったということかしら》
「一揆ですか。恐ろしいことです」
その時、宿屋の外から聞こえるロタールの力強いテノールが会話を遮った。
「入り込まれた!みんな、こっちだ。高司祭を守れ!」
続いて武器が打ち合わされる甲高い音と罵声が聞こえてきた。

敵の数は多く、ロタールとモマオは包囲され危険な状態だ。敵の技量は高くはないが、獰猛な熱意で補っている。ザローとグラトニーが切り込み、敵を押し返す。クレシダは建物の屋根に陣取り、高所から全体の動きを見極め、敵の密集地帯に暗き触手を召喚し敵の動きを分断しながら、怪光線で各個撃破を行う。ロタール、モマオに加勢したザローとグラトニーはお互いの背後を守りつつ、敵を挟撃し、有効な打撃を与えながら殲滅していく。そろそろ決着がつくと思われる頃、ザローは不可視の魔法をまとった敵が別の建物に侵入しようとしているのに気づいた。
「ロタールさん、向こうの建物には何があるのですか?姿を見えなくした敵が入り込もうとしています」
「あそこには小さくなった光の女神像が安置されている。この攻撃は陽動だ、敵の本命は光の女神だ!」
その言葉を聞いたザローは光の女神像がある建物へ向かう。

どうやらこちらが敵の主力だった。深きものの司教、墓穴の賢者、ノーリの都市の魔術師ら高レベル術者が一斉に蝗群、這いまわる蟲の群れを連続召喚する。無数の蟲に襲われ、ザローが、クレシダが力尽きる。力が抜け身体が倒れていき、傾く視界のなかで、群がる蟲を叩き落とすグラトニーの姿をクレシダは見た。そして最後の瞬間、グラトニーがこちらを見てうなずくと白い毛をもつ何かが頬を撫でるのを感じた。


「それで君は何を望むの?」
「グラトニー、やめろとは言わないが、これは魂を対価とした取引だということを忘れるな」ネヅコが真面目な口調で警告する。
「心配するなネヅコ。魂に関しては俺もちょっとした大家だ、いやグルメと言うべきだろう」
「ではグルメ君、改めて聞こう。君の望みは?」
「ザローとクレシダはやられてしまったようだが、俺はまだ立っている。二人の肉体を味わ…、いや魂を受け継ぐのも良いが、今ではない。3人でまだやることがある。延長戦だ、延長戦を望む」
「良いだろう。君の願いは叶えられた」

何。確かに私は倒されたはずなのに。まあ何だか分からないけど助かったのね。じゃあ、遠慮なくやらせてもらうわ。クレシダの背中から天使の翼がゆっくりと広がり、頭の上で光輪を形作る。ヒゲが高速で震え、耳を聾する高調波が生じる。これは圧縮された呪文の詠唱だ。クレシダの漆黒の毛皮から、闇より暗い1条の影が、敵にまっすぐに飛んで行く。その影は2本、3本、4、5、6本と次々に撃ち込まれる。

この感じ、違和感を知っています。前回は身体の大きなあの人、名前を知らない戦士が一度倒れて立ち上がった時と同じです。前回私は白い毛皮の流体、ネコ? それに助けを求めました。何かを取引して、敵を全滅させました。今回は私の代わりに誰かが取引したということですね。感謝を申し上げなくては。でも今は、目の前の敵の急所にシミターを突き刺さすのが私の仕事。感謝はそのあとで十分間に合うでしょう。

「モマオ、しっかりしろ。敵は全滅した」ロタールが倒れこんだモマオの上半身を抱え、必死に呼びかける。ドムニクが近寄り、ロタールを叱咤する。
「ロタールどきなさい。癒しの技を行う邪魔になります」ドムニクが手をかざし、祈りの言葉を唱えると傷口が塞がり、モマオの顔から苦悶の表情が消えた。
「さあもう大丈夫でしょう」そして立ち上がるとドムニクは大声でファルジーンの戦士に告げた。
「敵はケイザ山にあるゴート教団、いえ今はガタノソア教団であることが分かっています。その神殿に集結し、邪神の復活を目指しています。この襲撃は邪神復活を妨げる、光の女神様の力の焦点である女神像の奪取を目的としたものです。ですが我々は敵を撃退しました。光の女神様が邪神復活を阻止している今のうちに、敵の本拠を叩かなければなりません」
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