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星間空間を航行する老探査機“ボイジャー1号”はデータ転送に未だ問題を抱えている… 地球から離れすぎて解決には時間が必要

2024年02月23日 | 宇宙 space
NASAのジェット推進研究所“JPL”が、惑星探査機“ボイジャー1号(Voyager 1)”のデータ転送に関する問題に引き続き取り組んでいることをX(旧Twitter)に投稿しています。

1977年に打ち上げられたNASAの“ボイジャー1号”は、10年以上も星間空間を飛行している探査機です。

星間空間とは、銀河内の各々の恒星と恒星の間に広がる空間。
太陽風勢力圏といった各恒星の影響が及ぶ空間は惑星間空間、各銀河の間の空間は銀河間空間と言い区別されています。

“ボイジャー1号”は2012年に星間空間に到達し、“ボイジャー2号”は2018年に太陽風と星間物質がぶつかり合う境界“ヘリオポーズ”を通過し、星間空間に達しています。

“ボイジャー1号”では、2022年と2023年に相次いでコンピュータ関連の問題が発生し、観測データの送信に問題が発生していました。
JPL公式Xアカウントのツイートより
ジェット推進研究所によれば、“ボイジャー1号”との通信は引き続き可能なものの、地球から非常に離れた場所を航行しているので、問題の解決には時間がかかるとのこと。

現在、“ボイジャー1号”が航行しているのは地球から240億キロ以上も離れた星間空間。
通信によるコマンドが届くのに22時間以上もかかってしまうそうです。

NASAでは、この老探査機の寿命を少しでも伸ばすために様々な取り組みが行われています。
最近では、スラスターの動作を修正するコマンドの送信がありました。

スラスターは、主に探査機の通信用のアンテナを地球に向けるために使われています。

スラスター内では、外部の燃料ラインより25倍も細いチューブを推進剤が通ることになります。
ただ、スラスターの点火のたびに、そのチューブ内には、ごくわずかの残留物が残ってしまうんですねー

打ち上げから46年が経過し、一部のチューブでは残留物の蓄積が顕著になっているものもあります。

そこで、ボイジャーミッションの技術者が考えたのは、残留物の蓄積を遅らせるため、スラスターを噴射する前のアンテナと地球との間の角度のズレの許容範囲を、わずかに広げることでした。
これにより、スラスターの噴射頻度を減らすことができる訳です。

許容角度が大きくなると、気になるのは科学データの一部がときおり失われる可能性があること。
でも、今後のミッション全体としては、“ボイジャー”がこの先より多くのデータを送信することができると、ミッションチームは結論付けています。

寿命をはるかに超え46年間にも渡ってミッションを継続している“ボイジャー1号”。
いろいろと問題が発生するのは仕方がないとして、人類史上最も遠方を航行する探査機として、まだまだ頑張ってほしいですね。
星間空間を航行するNASAの惑星探査機“ボイジャー”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
星間空間を航行するNASAの惑星探査機“ボイジャー”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)


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海王星の本当の色は、わずかに緑色を帯びた淡い青色だった! 撮影画像の情報を強調するため深い青色に変更されていた

2024年02月21日 | 天王星・海王星の観測
よく見る惑星の外観で、“天王星は空のような薄い青色”で“海王星は海のような深い青色”というイメージありますよね。

でも、公開されている天体の画像には、様々な事情で補正がかけられていることがあります。
なので、実際に人間の目で見たイメージを、正確に反映しているとは限らないんですねー

今回の研究では、独自開発した惑星の色モデルに、ハッブル宇宙望遠鏡と超大型望遠鏡“VLT”の観測データを適用。
これにより、天王星と海王星を肉眼で見た際の正確な“真の色”を確定しています。

その結果、天王星と海王星の“真の色”は、緑色を帯びた淡い青色で、海王星の方がわずかに青色が強いことを除けば、ほとんど区別できないほどそっくりなことが分かりました。

この研究は、長年持っていた天王星と海王星のイメージを変えるだけでなく、天王星の極地と赤道の環境の違いといった、観測が難しい遠方の惑星の環境についても重要な洞察を与えてくれるようです。
この研究は、オックスフォード大学のPatrick Irwinさんたちの研究チームが進めています。
図1.今回の研究で出力された、天王星と海王星の“真の色”の画像。わずかに海王星の方が青いものの、あまり大きな違いがあるようには見えない。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳およびトリミングは筆者(彩恵りり氏)による)
図1.今回の研究で出力された、天王星と海王星の“真の色”の画像。わずかに海王星の方が青いものの、あまり大きな違いがあるようには見えない。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳およびトリミングは筆者(彩恵りり氏)による)


得られる情報を強調するための色変更

天王星と海王星は、2つとも太陽系の最も外側を公転する惑星で、どちらも巨大氷惑星という同じ分類に属しています。
両惑星とも概ね青色の惑星と言えますが、天王星は空のように淡い青色、海王星は海のように深い青色、というイメージが一般的です。

この青色は、両惑星の大気中に含まれている数%のメタンが、主に赤色、次いで緑色の光を吸収することで発生しています。

その天王星と海王星の名前は、実は色に因んで命名されています。(※1)
ただ、外観のイメージを決定づけたのはNASAが打ち上げた惑星探査機“ボイジャー2号”による撮影画像でした。
※1.天王星と海王星は、望遠鏡で青く見える星なので、その名称はそれぞれギリシア神話の天空の神“ウーラノス”とローマ神話の海の神“ネプトゥーヌス”に因んでいて、日本語での名称はこれらを翻訳した中国語名に直接由来している。天王星と海王星は、近代天文学の発展後に発見された惑星なので、発見を主張する人々から様々な名称が提案され、現在の名称は発見から数十年後に定着している。
“ボイジャー2号”は天王星には1986年、海王星には1989年に接近し、それぞれの姿を撮影。
現在でも、両惑星に接近した探査機は“ボイジャー2号”が唯一の存在になります。
図2.天王星と海王星の“写真”として一般的に知られている画像。コントラストを強調しているので、本来は“真の色”ではないことを示す注釈が必要。でも、その情報がいつの間にか欠落したことで、天王星と海王星に大きな色の差があるかのようなイメージが定着した。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳およびトリミングは彩恵りり氏による)
図2.天王星と海王星の“写真”として一般的に知られている画像。コントラストを強調しているので、本来は“真の色”ではないことを示す注釈が必要。でも、その情報がいつの間にか欠落したことで、天王星と海王星に大きな色の差があるかのようなイメージが定着した。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳およびトリミングは彩恵りり氏による)
実は、“ボイジャー2号”が撮影した天王星と海王星の写真として一般的に出回っている画像は、両惑星を肉眼で見た“真の色”を忠実に反映したものではありません。

海王星の画像はコントラストが強調されていて、実際よりも青色が強すぎることが天文学者の間では知られています。
一方、天王星はコントラストが強調されていないので、海王星と比べれば比較的“真の色”に近いものでした。

撮影画像から得られる情報を強調するために色を変更することは、天文学に限らず一般的な科学研究の場ではよく行われています。
海王星の場合だと、表面の雲や風、帯状の構造を強調するためにコントラスト補正がかけられ、その結果として実際よりも深すぎる青色が現れることになりました。

そのため、補正がかけられた画像には、その内容を示す注釈が必要となります。
実際、当初は海王星の画像も、色の変更に関する注釈付きで公開されていました。

ところが、いつ頃からか、注釈が付かない画像が掲載されることが多くなるんですねー
現在では、海王星の“真の色”が深い青色であるかのように、イメージが定着してしまったようです。

これは、一般向けの天文系サイトでも同様で、例えばNASAの海王星に関するページでは、“Big blue”や“rich blue color”と表現する一方で、画像補正については触れられていません。


肉眼で見た色に最も近い天王星と海王星の画像

今回の研究では、肉眼で見た色に最も近い天王星と海王星の画像を出力するため、ハッブル宇宙望遠鏡の撮像分光器“STIS”、および南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設された超大型望遠鏡“VLT”搭載の3次元分光装置“MUSE”によって取得された観測データを使用しています。

ただ、これらの観測データから得られる色(光の波長)は複数の情報が混ざっているので、そのままでは画像として出力することができません。

また、目の細胞は光の波長によって感度が大きく異なるので、単純計算で得られる画像が、肉眼で見る実際の色を反映しているとは限らないんですねー

そこで、研究チームは、目の細胞が光の波長に対してどのように反応するのかを調べた2019年の研究を元に、人の目において惑星の色がどのように感じられるのかを忠実に再現するモデルを独自に開発。
モデルには、靄(もや)による影響も盛り込まれていました。

そして、このモデルを“ボイジャー2号”とハッブル宇宙望遠鏡の“WFC3(広視野カメラ)”で撮影された画像に適用しています。

その結果、肉眼で見た天王星と海王星に最も近い“真の色”は、どちらもわずかに緑色を帯びた淡い青色と確定。
海王星は天王星と比べてやや青色が強いものの、一般的に知られている深い青色とは程遠い色実になっています。

それでも、現れたわずかな青色の違いは、天王星と比べて海王星の方が大気中に含まれる“もや(ヘイズ)”の層が薄く、それだけ大気の深部まで入り込みやすい光から、赤色や緑色の波長が吸収されていることを示していました。
図3.一般的に知られている画像と、今回の研究で示された“真の色”をそれぞれ比較したもの。特に海王星は大きな違いが見て取れる。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳は彩恵りり氏による)
図3.一般的に知られている画像と、今回の研究で示された“真の色”をそれぞれ比較したもの。特に海王星は大きな違いが見て取れる。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳は彩恵りり氏による)


天王星は数十年かけて少しずつ変色している

今回の研究は、「天王星と海王星の色にまつわる長年の誤解を解く」 っという側面もありますが、研究の主題はそこにはありませんでした。
長年にわたって、わずかに変化する天王星の色の謎に迫る研究だった訳です。

天王星は、約84年をかけて太陽の周りを公転しています。
アメリカ・アリゾナ州のローウェル天文台で1950年~2016年にかけて得られた天王星の青色と緑色の光の観測データは、天王星が数十年かけて少しずつ変色していることを示していました。

具体的には、天王星は夏至と冬至の時期に緑色が濃くなる傾向にあり、春分と秋分の時期には青色が濃くなる傾向にありました。

この色の変化は、天王星の自転軸の傾きが理由だと考えられています。
天王星の自転軸は公転面に対して横倒しになっているので(約98度傾いている)、文字通り公転面を転がりながら太陽を周回しているといえます。

地球から観察すると、天王星が夏至や冬至の時期には主に極地が見えるのに対し、春分や秋分の時期には主に赤道が見えることになります。
天王星の1年は地球の84倍もあり、季節も84倍長く続くことになるので、天王星の季節の変化は長期的な色の変化として観察される訳です。
図4.2014年~2022年にかけてハッブル宇宙望遠鏡の“WFC3(広視野カメラ)”によって取得された天王星の画像を、今回の研究を元に補正したもの。線は北緯35度、南緯35度、および赤道の緯度を表している。赤道を見ている2014年と極地を見ている2022年の画像を比較すると、その色が違うことが分かる。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford)
図4.2014年~2022年にかけてハッブル宇宙望遠鏡の“WFC3(広視野カメラ)”によって取得された天王星の画像を、今回の研究を元に補正したもの。線は北緯35度、南緯35度、および赤道の緯度を表している。赤道を見ている2014年と極地を見ている2022年の画像を比較すると、その色が違うことが分かる。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford)
研究では、観測データとモデルを比較することで、天王星の極地付近と赤道付近のそれぞれの色を分離することに成功。
極地は赤道に比べて緑色や赤色の光の反射が多いので、その分だけ緑色を帯びて見えることを明らかにしています。

天王星の極地が多くの太陽光に照らされるのは夏至と冬至の時期で、極地が赤道よりも緑色に見るということは、夏至や冬至の天王星が春分や秋分の時期よりも緑色に見える理由になります。

一方、天王星の極地が赤道に比べて、より多くの赤色や緑色の光を反射する理由も突き止めています。
赤色や緑色の光を吸収する大気中のメタンが、極地は赤道の約半分と少ないこと、さらに低温で固体の粒となったメタンの結晶が、赤色や緑色の光を反射することにあるそうです。

天王星や海王星は、太陽から遠く離れた軌道を84年もかけて一周しているので、その変化は非常にゆっくりと現れ、地球からも遠いので詳細な観測も困難な状況です。

今回の研究では、天王星の極地と赤道の環境の違いという、得ることが難しいデータを知ることに繋がりました。
これは、長年の観測データがあってこその成果になります。
長年に渡る基礎的なデータの蓄積が、いかに重要かを示すひとつの結果と言えますね。


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129憶光年彼方のクエーサーから強烈に噴き出す分子ガスを発見! 分子ガスのアウトフローが銀河の星形成を抑制していた

2024年02月20日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、アルマ望遠鏡(※1)を用いた観測により、129憶光年彼方の銀河(※2)で明るく輝くクエーサー“J2054-0005”からの強力な分子ガスのアウトフローをとらえることに成功。
そのアウトフローが、初期宇宙の銀河の成長に大きな影響を与えていた強い証拠を、世界で初めて発見しています。
※1.日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。

※2.今回の天体の赤方偏移の値はz=6.04。これを元に最新の宇宙論パラメータ(H0=67.7km/s/Mpc, Ωm=0.3111, ΩΛ=0.6889)で距離を計算すると、129億光年になる。
現代の宇宙では、星形成が不活発な巨大銀河の存在が知られています。
その原因として理論的に考えられているものの一つが、銀河からのガスの噴き出し“アウトフロー”です。

ただ、これまで宇宙初期のクエーサーにおいて、分子ガスのアウトフローが観測された例はわずか2天体しかなく、その2天体で観測されたアウトフローは星形成の進行を左右し銀河の成長に影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。

本研究では、クエーサー“J2054-0005”からの分子ガスのアウトフローを、分子ガス中のヒドロキシルラジカル(OH)分子から作る“影絵”として検出することに成功。
影絵の様子を詳しく調べて分かったのは、星の材料となる分子ガスが銀河の外へ激しく噴き出していることでした。
その速度は毎秒1,500キロにも達し、流出している分子ガスは1年間当たり太陽質量の1,500倍に相当する莫大な量になります。
さらに、この流出量が、銀河の中で新たに作られる星の量と比べて大きいことも明らかになります。

この銀河からは、1000万年ほどで星の材料となる分子ガスが枯渇し、新たな星が作られにくくなると考えられます。
今後、より多くの銀河を観測することで、さらなる初期宇宙の銀河成長メカニズムの解明に期待できそうです。

本研究の成果は、分子ガスの噴き出し“アウトフロー”が銀河の星形成を抑制するという理論予測を裏付ける重要なもの。
本研究の成果は、日本時間2024年2月1日(木)のアストロフィジカルジャーナル誌に掲載される予定です。
この研究は、北海道大学高等教育推進機構のDragan SALKA(サラク=ドラガン)助教、筑波大学数理物質系の橋本拓也助教、早稲田大学理工学術院の井上昭雄教授を中心とする研究チームが進めています。
図1.宇宙初期の銀河中心で明るく輝くクエーサー“J2054-0005”から噴き出す分子ガスのアウトフローを、アルマ望遠鏡で“影絵”としてとらえているイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
図1.宇宙初期の銀河中心で明るく輝くクエーサー“J2054-0005”から噴き出す分子ガスのアウトフローを、アルマ望遠鏡で“影絵”としてとらえているイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)


銀河における星形成の抑制メカニズム

現在の宇宙では、星を活発に作っている渦巻銀河や、星形成を終えた楕円銀河の存在が知られています。
でも、銀河でいつどのようにして星が作られにくくなるのかは、現代の天文学の大きな謎になっているんですねー

実は、宇宙誕生後わずか15億年頃には、すでに星形成が不活発な巨大銀河が存在していたことが知られていました。
このような不活発な銀河は、過去に星形成が活発な時期を経て、何らかの原因によって星形成が抑制されたと考えられています。

その原因として理論的に考えられているものの一つが、銀河からのガスの噴き出し“アウトフロー”です。
例えば、現在の宇宙では、ガスが銀河円盤の上下に噴き出すアウトフロー現象が観測されています。
分子ガスは星の材料なので、特に分子ガスのアウトフローは星形成の進み具合を調節する大切な働きをしています。

そこで、星形成の抑制メカニズムを明らかにするには、遠方つまり初期の宇宙に遡って、星形成とアウトフローの関係を調べることが重要になります。

ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在していることが知られています。
特に、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体は、クエーサーと呼ばれています。
銀河の初期形態とも考えられていて、遠方にあるにもかかわらず明るく見えています。

宇宙初期のクエーサーは星形成が活発であり、超大質量ブラックホールの影響も相まって、強烈な分子ガスのアウトフローを生み出している可能性があります。

でも、これまで宇宙初期のクエーサーにおいて分子ガスのアウトフローが観測された例は、わずか2天体しかありませんでした。
その2天体で観測されたアウトフローは、星形成の進行を左右し銀河の成長に影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。


ガスの動きを吸収線の光のドップラー効果として観測

今回の研究では、アルマ望遠鏡を用いて129億光年彼方に位置するクエーサー“J2054-0005”を観測しています。

“J2054-0005”は、宇宙年齢10億年未満の時代において、最も明るく輝くクエーサーのひとつ。
このような明るい天体は観測し易いという利点があります。

分子ガスの動きは、分子の放つ電波の波長の変化として観測できます。
電波観測では、光のドップラー効果によって、私たちの方へ動いているガスが発する電波(光の一種)の波長は短く(青く)なり、遠ざかるガスからの電波の波長は長く(赤く)なります。
なので、この波長の変化量を測定することで、銀河の中でのガスの動きを知ることができる訳です。
一酸化炭素(CO)などが放つ“輝線”が、分子ガスの観測によく用いられます。

でも、銀河から噴き出すアウトフローを観測する場合、銀河本体の回転による放射信号の方が大きいんですねー
アウトフローによる放射信号が弱くて検出できないことなど、複雑な要因が絡み合い、観測は難しくなります。
このため、これまでのCOなどの輝線の観測では、クエーサー“J2054-0005”からのアウトフローは検出されていませんでした。

一方、クエーサーの発する連続波(様々な波長の混ざった光)のうち、観測者から見て手前側にあるガスが固有の波長の電波を吸収することによって生じる“吸収線”をいわば“影絵”のように観測すれば、輝線観測の場合にある複雑な要因がなく、ガスの動きを吸収線の光のドップラー効果として観測ができます。
ただ、当該の波長の強度が強い連続波光源がガスの背後にある必要があります。

ヒドロキシルラジカル(OH)分子の119マイクロメートル(=0.119ミリメートル)の吸収線は、こうした観点から今回の観測に適していて、これを観測することでクエーサー“J2054-0005”からのアウトフローを初めて検出し、速度も正確に求めることに成功しています。

本研究は、アルマ望遠鏡だからこそ実現できた成果と言えます。
遠方の天体が放つ光や電波は微弱なので、観測するには高い感度を持つ望遠鏡が必要になります。
また、宇宙は膨張しているので、遠方の天体からの光や電波の波長は長く引き伸ばされることになります。

今回の研究では、このような観測波長を高い感度で観測できる唯一の望遠鏡であるアルマ望遠鏡を用いたことが、成功へのカギになったと言えます。


理論予想を裏付ける重要な成果

今回の研究では、クエーサー“J2054-0005”からの強力な分子ガスのアウトフローをとらえることに成功しました。
さらに、アウトフローが初期宇宙の銀河の成長に大きな影響を与えていた強い証拠を、世界で初めて発見しています。

図2に示すとおり、分子ガス中のOHによって生じる吸収線を検出しています。
遠方のクエーサーで、これほど高い有意度のOHの吸収線が検出された初めての例になりました。

吸収線の波長から明らかになったのは、アウトフローの速度は典型的に毎秒700キロ、最大で毎秒1,500キロにも達すること。
流出した分子ガスの量は、年間当たり太陽質量の1,500倍ほどに上り、この量は“J2054-0005”が年間当たりに新しく作る星の質量の2倍に相当する莫大なものでした。
今後、およそ1000万年という短い期間で、星の材料となる分子ガスが枯渇していくと予想されています。

本研究は、分子ガスのアウトフローが銀河の星形成を抑制するという理論予想を裏付ける重要な成果と言えます。
図2.分子ガス中のヒドロキシルラジカル(OH)によって生じる吸収線。ガスが放出される場合は、観測者に向かってくるので短い波長に吸収線の中心が移動する(ドップラーシフト)。一方、ガスが落下する場合は、観測者から遠ざかるので長い波長に移動する。今回は吸収線が短い波長に移動しているので放出、つまりアウトフローだと分かった。また、吸収線の幅が大きく広がっているので、アウトフロー中のOH分子は速いものから遅いものまで様々な速度を持ってアウトフローしていることが分かる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), D. Salak et al.)
図2.分子ガス中のヒドロキシルラジカル(OH)によって生じる吸収線。ガスが放出される場合は、観測者に向かってくるので短い波長に吸収線の中心が移動する(ドップラーシフト)。一方、ガスが落下する場合は、観測者から遠ざかるので長い波長に移動する。今回は吸収線が短い波長に移動しているので放出、つまりアウトフローだと分かった。また、吸収線の幅が大きく広がっているので、アウトフロー中のOH分子は速いものから遅いものまで様々な速度を持ってアウトフローしていることが分かる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), D. Salak et al.)


銀河の進化と分子ガスのアウトフローの関係

本研究は新しい謎にも繋がっています。

“J2054-0005”では、星形成を抑制するほどの強いアウトフローが認められました。
一方、過去に調べられた2例のクエーサーのアウトフローは、星形成に大きな影響を及ぼすほど強いものではありませんでした。

この違いは何によって引き起こされるのでしょうか?

今後の研究でカギとなるのは、より多くのクエーサーに対してOHを観測することで、星形成を抑制するほど強いアウトフローが起きている銀河の割合を統計的に調査することです。
また、アルマ望遠鏡はアンテナ間を広く離して配置することによって、高い空間分解能を実現できます。

今後、アウトフローが銀河のどこでどのように発生しているかを解明できれば、銀河の進化と分子ガスのアウトフローの関係を、さらに深く理解できると期待されています。


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Surface Pro Xを30か月使ったレビュー そろそろSnapdragon X Eliteが来そうなので… 結構使っていたWSAが終了へ

2024年02月20日 | book gadget goods etc
2024年6月14日更新

Surface RTのほろ苦い経験から、いろいろと買わない理由をつけて様子見してたけど
やっぱり気になるWindows on arm…
我慢できずに購入したのは2年ほど前のこと
そろそろ、Snapdragon X Eliteを搭載した新しいSurfaceが出そうなので
今のSurface Pro Xの使用感を簡単にレビュー
Surface Pro Xレビュー


こんな感じで使っている

軽いので、いつもカバンに入れて持ち歩くPCとして使用

用途はこんな感じ
文字入力(60%)、Web検索・翻訳(20%)、RAWデータの現像(10%)、その他(10%)

Webで情報を集めて、考えをまとめてからの文字入力がメイン
あと、コンデジで撮ったRAWデータの現像

13インチのタブレットは一覧性が良く読みやすいので、書籍や雑誌、マンガを読むことが多くなった
雑誌は縦向き(単ページ表示)
書籍やマンガは横向き(見開き表示)、片手持ちだとちと重く感じる

天体のイメージ画像作成がしたくて入れた3D CGソフトのBlender
図解の作成用に入れたコンセプト
それぞれ勉強中

まぁー 軽い作業がメインなのでストレスなく使えている


使っていて気になったこと

simカードを挿しておくと外出時に便利
ネット環境を気にせずに使える
Wifiスポットを探さなくていいし、ポケットWifiやスマホを取り出す手間やバッテリーの心配もしなくていい

バッテリーライフも気にしなくなったかな、自分の用途的には十分だし
残量が少なくなっても、モバイルバッテリーから短時間で充電できるのには驚いた

WSAでAmazon Kindleを使っていて、他のアプリに切り替えようとすると少しモッサリ
これはメモリ16GB版だと発生しないのかも

バックグランドでアップデート動いていると、マウスカーソルの動きがカクカクで全体的な動作もモッサリ
まぁー 仕方がないことだけど、インテルなPCより顕著に出ている感じ
原因は、非力なSOC? それともメモリが8GBと少ないから?

USB Type-Cが2つとSurface Connectがあるので、充電・メモリカードリーダー・ポータブルSSDの運用はしやすい

旅行のときには新幹線の背面テーブルや膝上にのせれない
これはSurface Pro Xというより2 in 1の宿命かな… 10インチのSurface Goだと大丈夫
Surface laptop goのような小さめのノートPCが欲しくなる


使っているアプリ

ブラウザはEdgeを使用
GoogleのChromeやOperaもネイティブアプリ(Arm-64)が提供されている

文字入力はシンプルにメモ帳

Adobeのフォトプランに入っているので、RAWデータの現像にはLightroom(Arm-64)
使用感やスピードはまずまず
Photoshop(Arm-64)はたまに使用

書籍やマンガはAmazon KindleのAndroid版をWSAで使っている
雑誌はdマガジンなんだけどAmazon Appstoreにアプリは無し…
ブラウザで使っているけど、読み終えて閉じたときにTopに戻るのが不便

Excelは付属のX86-32版を使用
扱うデータ行は多くはないけど違和感なく使えてる

趣味としてプラネタリウムソフトStellarium、3D CGソフトBlender
どちらもX86-64版を使用

手書き風地図や図解作成にコンセプトを使用(arm版)

基本、armネイティブアプリ(Arm-64)は問題なし(当たり前か…)
X86の32・64ビットアプリでも、Direct XやOpenGLがからむとインストール出来なかったり(SONYのRAW現像ソフトImaging Edge:Direct X)、インストール出来ても立ち上がらない(Blender:OpenGL)のを経験した

Blenderはマイクロソフトの何かを入れたら使えた
Windows on arm(Arm-64)版は開発中なので期待
Arm-64版のAlpha版がデイリービルドのダウンロードページから入手可能らしい
  https://builder.blender.org/download/daily/
システム要件は以下の通り
・Snapdragon 8cx Gen 3(2020年9月に登場)及びそれ以降のCPUを搭載したデバイス
・OpenGL 4.3及びそれ以降への対応
・Microsoft storeで配布されているOpenCL™、OpenGL®、および Vulkan® 互換機能パック
  https://apps.microsoft.com/detail/9nqpsl29bfff?launch=true&mode=full&hl=ja-jp&gl=jp&ocid=bingwebsearch
Snapdragon 8cx Gen 3はMicrosoft SQ3なので
手持ちのSurface Pro X(Microsoft SQ1)使えるかどうか…

あと、Windows向けに公開されているGIMPだと、ユニバーサル インストーラーなので、実行中のプラットフォームを自動検出し、必要に応じてx86 32ビットおよび64ビット、ARM 64ビット(実験版)のうち適切なバージョンが自動的にインストールされる
まだ使ってないので、どれだけ安定しているかは不明

Surface Pro XはX86の32・64ビットアプリ(全部ではないけど)やAndoroidアプリが使えるので、WindowsRTのどうしようもない状況よりは数段まし
それに、Windows 11の次期アップデート“24H2”には、“Prism”と呼ばれるエミュレーターが含まれている
これにより、Armデバイス上でエミュレートアプリのパフォーマンスが向上するそう
MacでIntelチップからAppleシリコンへの移行を成功させた大きな要因となった“Rosetta 2”。
この“Rosetta 2”と同様の変換レイヤーがWindows11にも存在していて、“24H2”では“Prism”と呼ばれている
Microsoftによると“Prism”は、従来から存在する変換技術に新しい名前を付けただけでなく、エミュレートされたアプリが従来と比べて10~20%高速に動作するパフォーマンスがあるんだとか
また、“Prism”がx86アプリとの互換性をさらに向上させるとしているけど、どのような変更が行われるのか詳細は不明
Surface Pro Xにも恩恵があるのか気になるところ


なかなかarmネイティブアプリが増えないけど、Snapdragon X Eliteを搭載したSurface Laptop 6やSurface Pro 10が出たりすると状況は変わるのかも?
GoogleもやっとArm-64版のChromeを出すみたいだし
Davinci ResolveはX Eliteに間に合うように開発を進めているってのは聞いたけど
Davinci ResolveはGPUを内蔵した標準の12コアCPUよりも1.7倍高速で、X EliteのNPUで実行すると最大で3倍高速になることが約束されているらしい。

あと、Amazon Appstoreのアプリは、もっと増えてもいいと思うけどね。

っと、楽観的に考えていたんだけど急な展開が…
2025年3月5日にWSA(Windows Subsystem for Android)のサポートをMicrosoftが終了するようです。
それに伴って、2024年3月6日からは、Windows 11デバイスのMicrosoftストアからAmazonアプリストアのダウンロードが不可に
2025年3月5日以降は、Windows 11版Amazonアプリストア、およびWindows 11版Amazonアプリストアからダウンロードしたアプリのサポートも終了
確かに、利用者数やAmazon Appstoreのアプリの状況を見れば仕方がない面もあるにせよ、これからだと思っていたので残念
代わりになる新しい仕組みが発表される まぁー 無いかな



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現代宇宙論では説明がつかない直径約13億光年もある巨大構造物を発見!

2024年02月19日 | 宇宙 space
私たちの宇宙について、広い目線で見れば天体や物質の分布が均質であるという“宇宙原理”が広く信じられています。
でも、近年の観測では、宇宙原理に反すると思われる巨大構造物(宇宙の大規模構造)がいくつも見つかっているんですねー

セントラル・ランカシャー大学のAlexia Lopezさんは、地球から約92億光年彼方の位置に、直径が約13億光年にも達する巨大構造物“ビッグ・リング(Big Ring)”を発見したと、アメリカ天文学(AAS)の第243回会合の記者会見で発表しました。

Lopezさんは2021年にも同様の巨大構造物“ジャイアント・アーク(Giant Arc)”を発見していますが、両者は非常に近い位置と距離にあります。
このことは宇宙原理に疑問を呈する発見になるようです。
図1.今回発見された“ビッグ・リング”(青色)と、以前発見されていた“ジャイアント・アーク”(赤色)の位置。両者は非常に近い位置ある。(Credit: Stellarium)
図1.今回発見された“ビッグ・リング”(青色)と、以前発見されていた“ジャイアント・アーク”(赤色)の位置。両者は非常に近い位置ある。(Credit: Stellarium)


宇宙原理に反するように思える巨大構造物の発見

宇宙には恒星や惑星、銀河や銀河団など、物質が集まって塊となっている構造が無数に存在しています。

観測技術が未発達だった時代の人類は、その様子を観察して地球や太陽が宇宙の中心にあると考えたり、あるいは宇宙には銀河が1つしかないと考えていました。

ところが、観測技術の発達で数十億光年のスケールに渡って銀河の分布が調べられるようになると、銀河の分布に特別な点は見当たらず、どこを切り取っても同じように見えることが明らかにされました。
宇宙に特別な場所はなく、どの位置や方向を見ても同じように見えることは、やがて“宇宙原理”と呼ばれるようになります。

宇宙最初の光“宇宙マイクロ波背景放射”を観測すると、物質やエネルギーのデコボコが非常に小さくて均質に見えるという結果からも、宇宙原理は支持されています。

ただ、非常に遠い銀河の正確な数や地球までの距離を望遠鏡で観測することや、それらをまとめて1つの情報として分析することは、処理すべき情報量が膨大になることから困難なことでした。

そのような研究が可能になった1990年代以降、宇宙原理に反するように思える巨大構造物が複数見つかるようになりました。


宇宙原理では自然発生が許されない巨大構造物

“ビッグ・リング”と名付けられた宇宙原理に反するように思える構造物は、膨大な銀河やクエーサーの位置がデータ化されている“スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)”の分析によって見つかっています。

“ビッグ・リング”が位置しているのは、うしかい座の方向約92億光年彼方。
赤方偏移(※1)の値は約0.0802になり、この値は現在と比べて宇宙の大きさが半分程度だった時代に当たります。
銀河やクエーサーまでの距離は、マグネシウムイオンによる吸収スペクトルを基準に測定されました。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
図2.観測されたクエーサー(点)や光を発光する天体(灰色)の分布。“ビッグ・リング”は中央に配置された環状構造。(Credit: Alexia Lopez (University of Central Lancashire))
図2.観測されたクエーサー(点)や光を発光する天体(灰色)の分布。“ビッグ・リング”は中央に配置された環状構造。(Credit: Alexia Lopez (University of Central Lancashire))
“ビッグ・リング”は銀河やクエーサー、その他の光を発する天体で構成された環状の巨大構造物で、直径は約13億光年、円周は約41億光年にもなります。
“ビッグ・リング”は地球から見た目の構造が環状に見えているだけであり、より厳密な分析ではコルクスクリューのような螺旋構造を持っていることが示されています。

ただ、“ビッグ・リング”の直径が、宇宙原理で自然発生が許される構造物の最大の大きさとなる12億光年を越えていました。
Lopezさんの計算では、銀河やクエーサーが特に何の理由や原因もなく、たまたま巨大な環状構造を作る確率は約0.00002%(5.2σ)。
なので、“ビッグ・リング”は偶然の産物ではなく、何らかの意味を持つ構造である可能性が極めて高いと考えられます。

宇宙原理を破らず、かつ12憶光年を超える巨大構造物が生成される理由としては、“バリオン音響振動(BAO; Baryon Acoustic Oscillations)”という現象が考えられます。
2023年には、このバリオン音響振動に関連して生成されたと考えられる泡状構造“ホオレイラナ”が発見されています。

ただ、バリオン音響振動で生成される巨大構造物は、“ホオレイラナ”のように3次元的な球状構造になると考えられているんですねー
“ビッグ・リング”は2次元的な環状構造になるので、バリオン音響振動が生成に関与しているのかは現時点では不明です。


現代宇宙論では説明がつかない2つの巨大構造物

むしろ、“ビッグ・リング”の発見は、他の巨大構造物とセットで考えると、より重要な意味を持ちます。

Lopezさんは2021年にも、“ビッグ・リング”と同程度の巨大構造物“ジャイアント・アーク”を発見しています。
“ジャイアント・アーク”は、長さ約33億光年の巨大構造物で、やはりバリオン音響振動で説明できる大きさを大幅に超えていました。

“ビッグ・リング”の円周は“ジャイアント・アーク”に匹敵する大きさでした。

また、“ジャイアント・アーク”は地球から約92億光年彼方の位置にあり、これは“ビッグ・リング”と同じ距離になります。
さらに、地球から見た位置は、お互いに約12度しか離れていませんでした。
これほど至近距離に、宇宙原理を破る2つの巨大構造物が存在することは、現代宇宙論では説明がつかないことでした。

そこで、Lopezさんが提唱しているのは“ビッグ・リング”と“ジャイアント・アーク”を生成する理由となるユニークな2つの仮説でした。

1つ目は、“共形サイリック宇宙論(CCC)”によって発生した、前の宇宙の構造の名残りだという可能性です。
“共形サイリック宇宙論”とは、2020年ノーベル物理学賞受賞者のロジャー・ペンローズさんによって2010年に提唱された宇宙論。
“今いる私たちの宇宙は、前の宇宙が潰れた後の反発によって膨張して生まれたもの”という説で、より先駆的で似たような形式の“サイリック宇宙論”における理論上の問題を解決したものです。
ペンローズさんによれば、“共形サイリック宇宙論”によって、前の宇宙の巨大構造物の名残りが継承される可能性が指摘されています。

2つ目は、“宇宙ひも”によるという説です。
“宇宙ひも”とは1970年代に提唱された時空の構造的欠陥であり、ひもと呼ぶように線状の構造を持ちます。
“宇宙ひも”の周りでは時空の性質が異常になるので、巨大構造物を作るのに関与するという説が、2019年ノーベル物理学賞受賞者のジェームズ・ピーブルスさんによって提唱されています。

今のところ、“共形サイリック宇宙論”も“宇宙ひも”もかなり野心的な仮説で、現代宇宙論を置き換えるほどの証拠が揃っている訳ではありません。
でも、Lopezさんが“ビッグ・リング”と“ジャイアント・アーク”を発見したように、現在使用されている単純な形式の宇宙論や宇宙原理が成立していない可能性は年々高まっています。

今まで信じられてきた宇宙論や宇宙原理が、どこかで破綻する可能性は高いのかもしれません。

その修正が、今までの宇宙論の大半を否定する全く新しいものになるのか、あるいは非常に小さく目立たないものになるのかは、今のところ誰にも分かっていません。
ただ、これらの観測証拠は理論の修正案を考える上で重視されることは間違いないでしょうね。


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