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直径は10億光年もある? 超巨大な泡状構造を構成する超銀河団の集まり“ホオレイラナ”を発見!

2024年02月02日 | 宇宙 space
この宇宙に存在する銀河はランダムに分布しているのではなく、物理法則に従い規則的に分布していると考えられています。

でも、銀河の分布に対する物理法則による影響はとても小さなものなので、観測で見つかる可能性は低いと考えられてきました。

今回の研究では、これまでで最大規模の銀河分布図“Cosmicflows-4”を使用し、天の川銀河の比較的近くに存在する直径10億光年にも達する巨大な銀河の泡状構造を発見しています。

さらに、この構造は、これまで別々の超銀河団(※1)として個別に発見されていた大規模構造を含んだもの。
研究チームでは、ハワイの創世神話に因み、この構造を“ホオレイラナ(Ho’oleilana)”と名付けています。
※1.超銀河団は、銀河群や銀河団が集まり形成されている銀河の大規模な集団。銀河群は50個程度以下の銀河が、銀河団は数百から1万もの銀河が互いの重力の影響によって集団となったもの。

この研究は、ハワイ大学マノア校のR. Brent Tullyさんたちの研究チームが進めています。
図1、“ホオレイラナ”(画像左側の茶色の円)は、天の川銀河(Milky Way)のすぐ近くにある巨大構造である。緑色は幅約5億光年の大きさを持つ“ラニアケア超銀河団”。(Credit: Frédéric Durillon, Animea Studio; Daniel Pomarède, IRFU, CEA University Paris-Saclay)
図1、“ホオレイラナ”(画像左側の茶色の円)は、天の川銀河(Milky Way)のすぐ近くにある巨大構造である。緑色は幅約5億光年の大きさを持つ“ラニアケア超銀河団”。(Credit: Frédéric Durillon, Animea Studio; Daniel Pomarède, IRFU, CEA University Paris-Saclay)


バリオン音響振動による影響が銀河の分布を決めている

生まれたばかりの宇宙は高温で、原子が電子と原子核に分離した“プラズマ”で満たされていました。
この状態は、宇宙の温度がプラズマを維持できなくなるほど低くなった、誕生から約38万年後まで続いたとされています。

プラズマの中を進む光は電子や原子核に頻繁に衝突して、粒子同士の距離を拡大しようとします。
一方、重力は物質が集まって質量が増えるほど強くなるので、光とは反対に粒子同士の距離を縮めようとする力が働いています。

この正反対の力のせめぎ合いによって、プラズマ内では音波に似た圧力波が発生します。
これを“バリオン音響振動(BAO; Baryon Acoustic Oscillations)”と呼びます。

バリオン音響振動は宇宙のあちこちで発生したので、重なり合う波が互いを強め合ったり打ち消し合ったりする場所が生み出すことになります。

プラズマが消える約38万年後にはバリオン音響振動も消えてしまいましたが、波の重なり合いは物質密度のわずかな差を生み出し、最終的には銀河が発生する“種”になったと考えられています。

なので、現在観測できる銀河の分布を調べることは、バリオン音響振動がどのような現象だったのかを調べることに繋がり、宇宙の物質構成や膨張速度といったパラメータを知る手掛かりにもなります。

ただ、宇宙の物質密度に対するバリオン音響振動の影響はわずかなものなんですねー
このため、これまでの研究では、明確にバリオン音響振動の影響によるものだと決定づけられた宇宙の構造は存在していませんでした。


直径10億光年もの超巨大な構造の発見

当初、研究チームは、天の川銀河の近くにある銀河の分布を調べる研究を進めていました。
でも、バリオン音響振動が関わる内容になるとは想像していなかったそうです。

研究に用いられたのは、銀河の分布図としては最大規模かつ正確なものとなる“Cosmicfliws-4”でした。
図2.天の川銀河の近くにある銀河の3次元分布(中央が天の川銀河)。“ホオレイラナ”を構成する銀河は赤色で示されている。“ホオレイラナ”の一部は“Cosmicflows-4”の範囲外になるので、銀河の分布が描き出す球の一部は欠けているように見える。(Credit: R. Brent Tully, et al.)
図2.天の川銀河の近くにある銀河の3次元分布(中央が天の川銀河)。“ホオレイラナ”を構成する銀河は赤色で示されている。“ホオレイラナ”の一部は“Cosmicflows-4”の範囲外になるので、銀河の分布が描き出す球の一部は欠けているように見える。(Credit: R. Brent Tully, et al.)
ところが、研究を進めていくうちに、研究チームは天の川銀河近くの宇宙に特徴的な構造があることに気付きます。

その構造は、地球から約6億8000万光年(※2)彼方の場所を中心に、多くの銀河がリング状に分布しているように見えていました。
後の調査で、これはリングではなく、3次元的な泡のような構造だと推定されています(※3)

※2.赤方偏移の値はz=0.068。この研究ではハッブル定数について独自の推定を行い、その値を76.9km/s/Mpcとして距離を計算している。一方、通常の遠方宇宙までの距離計算で参照される67.7km/s/Mpcを採用する場合、距離は約9億7000万光年となる。

※3.“ホオレイラナ”の泡のような球面構造という推定は、主に地球に近い銀河の分布で推定されている。遠い銀河になるほど分布が不正確となり、球面を構成しているかどうかも曖昧になっている。また、最も遠い球面の一部はCosmicvlows-4の範囲外であり、データが欠損している。

この構造は、研究チームによって“ホオレイラナ”と名付けられます。
これは、ハワイの創世神話“クムリポ(Kumulipo)”における“Ho'oleilei ka lana a ka Po uliuli(深い暗闇から目覚めのささやきが聞こえた)”という一説に因んでいました。

泡状構造という推定が正しい場合、“ホオレイラナ”は直径10億光年もの超巨大な構造になります。

研究チームでは、2014年に天の川銀河も含まれる“ラニアケア超銀河団”という、幅5億光年もある巨大構造を発見していました。
ただ、今回報告された“ホオレイラナ”はそれを上回り、天の川銀河に比較的近い宇宙では最大の構造になります。

“ホオレイラナ”の発見で分かってきたのは、これまでに知られていた宇宙の大規模構造のいくつかは、“ホオレイラナ”を構成する要素の一部だということ。
“スローン・グレートウォール”、“かんむり座超銀河団”、“おおぐま座超銀河団”、“おとめ座-かみのけ座超銀河団”などは、“ホオレイラナ”の泡状構造を構成する超銀河団ということが判明しています。
図3.別の2方向から見た“ホオレイラナ”の構造。これまで個別に発見されてきた超銀河団は“ホオレイラナ”の一部だと分かる。(Credit: R. Brent Tully, et al. / アニメーションから引用。日本語訳および名称の加筆は彩恵りり氏によるもの)
図3.別の2方向から見た“ホオレイラナ”の構造。これまで個別に発見されてきた超銀河団は“ホオレイラナ”の一部だと分かる。(Credit: R. Brent Tully, et al. / アニメーションから引用。日本語訳および名称の加筆は彩恵りり氏によるもの)
また、“ホオレイラナ”の中心付近には“うしかい座超銀河団”があり、“ホオレイラナ”の内部には“うしかい座ボイド”も存在していました。

“ホオレイラナ”は、あまりにも巨大なので、これまでそのような構造が存在するとは気づかれていませんでした。
一部の超銀河団の配置を元に、かなり大規模な構造が存在するとという研究成果が2016年には報告されていました。
ただ、全容が判明していなかったので、泡状構造の特定には辿り着いていませんでした。

研究チームがこの結論にたどり着くことが出来たのは、“Cosmicflows-4”という広範囲をカバーした銀河の分布図があったおかげ。
“ホオレイラナ”が統計学上の偶然である確率(たまたま銀河が直径10憶光年の泡状構造に分布していた確立)は、1%未満だと見られています。


宇宙の大きな謎についての手掛かり

“ホオレイラナ”が創世神話にちなんで命名されたのは、初期宇宙の“ささやき”とも言えるバリオン音響振動に関係しています。

バリオン音響振動によって生成された構造は、バリオン音響振動が存在できる約38万年の間に移動できる距離に制限されるので、これまでその最大値は5億光年だと考えられてきました。
ただ、“ホオレイラナ”はその制限を大幅に破る巨大構造なので、“ホオレイラナ”を生み出す何かしらの説明が必要でした。

そこで、研究チームが提唱しているのは、初期の宇宙の膨張速度がこれまでの推定よりもずっと大きかったという説です。

ただ、宇宙の膨張速度を表す“ハッブル定数(HO)”には、近くの宇宙で測定した場合の値と、遠い宇宙で測定した場合の値に大きな差が生じる“ハッブル緊張(Hubble tension)”という大きな謎があるんですねー

研究チームが割り出した、“ホオレイラナ”の存在を説明する最も適したハッブル定数は76.9km/s/MPC。
この値は、近くの宇宙で測定されたハッブル定数の値とよく一致するものでした。

“ホオレイラナ”の存在は、現状の宇宙論に何らかの不備があることを示す1つの証拠になります。

数億光年の距離にある“ホオレイラナ”は、宇宙論の研究においては“近所”と言えるほど近い距離にあるので、“ホオレイラナ”の観測によってバリオン音響振動やハッブル定数といった宇宙の大きな謎についての手掛かりが得られる可能性は十分あるようです。


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