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ビッグバン理論に残された問題解決せず… さらに謎が深まった“宇宙リチウム問題”

2017年02月26日 | 宇宙のはじまり?
ビッグバン元素合成

量子力学的な粒子が衝突し、
反応を起こす確率を表す量のことを断面積といいます。

ビッグバン理論によると、
宇宙の始まり10秒後から20分後にかけて“ビッグバン元素合成”が起こり、
水素、ヘリウム、リチウムなどの軽い元素が生成されます。

このうち、水素とヘリウムの同位体については、
生成量の観測推定値と理論予測値が良く一致。

その一方でリチウム同位体の1つになるリチウム7(7Li)については、
生成量の観測推定値が理論予測値の約3分の1しかないという、
不一致が知られています。

このことは“宇宙リチウム問題”と呼ばれ、
ビッグバン理論に残された深刻な問題として注目されているんですねー


リチウム7が少ない理由

7Liはベリリウム7(7Be)が崩壊して生成されたと考えられています。

なので、(a)7Beの生成量そのものを小さくしたり、
(b)7Beから7Li以外へ変わる反応を大きくしたりして、
7Liの少ない生成量を説明する試みが行われてきました。

(b)については、
ベリリウム7と中性子から2個のヘリウム4ができる反応“7Be+n→4He+4He”が、
高い確率で起こるという仮説が考えられています。

でも、7Beと中性子が短寿命の不安定核なので、
その確率の測定は簡単なことではありませんでした。


逆反応の利用

そこで研究グループが思いついたのは、
“7Be+n→4He+4He”の逆反応になる“4He+4He→7Be+n”を測定に用いること。

“4He+4He→7Be+n”反応の断面積を測定するという手法で、
“7Be+n→4He+4He”反応の断面積を決定しようということです。

加速した4He2+ビームをHeガス標的に照射し、
放出された中性子を測定することにより、
7Beの基底状態と第一励起状態が生成されたことを確認し、
その生成断面積を決定しています。

  量子力学的な安定状態のうち、エネルギーが最低の状態を基底状態、
  これ以上のエネルギーをもつ状態を励起状態という。


この結果から、
“詳細釣り合いの原理”という原子核反応の時間反転不変性から導かれる性質を用いて、
7Be+n→4He+4He反応の断面積を決定することに成功したんですねー

7Be+n→4He+4He反応と、
今回測定された逆反応のイメージ図。


有力な解決策の否定

同反応の断面積は、
これまで“ビッグバン元素合成”の理論計算に広く用いられていた測定値より、
約10倍も小さい値でした。

そして、この値から明らかになったのが、
宇宙初期において中性子が7Beに衝突して2つの4Heに分解する反応の寄与は、
非常に小さいこと。

これにより、7Be+n→4He+4He反応が高い確率で起こっているという仮説では、
“宇宙リチウム問題”の説明が難しいことが分かってきます。

そう、“ビッグバン元素合成”の謎は、
さらに深まることになったんですねー

今回の研究結果により、
“宇宙リチウム問題”の有力な解決策が否定されてしまいました。

でも、これにより原子核反応率の見直しや、
標準ビッグバン模型を越える新しい物理の探索など、
“宇宙リチウム問題”へのさらなる研究が進むといいですね。


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