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星の誕生メカニズムを解明する上で重要な発見! フィラメントの分裂で星の素になるガスの塊“分子雲コア”を形成している現場

2023年12月14日 | 宇宙 space
今回の研究では、長野県にある野辺山45m電波望遠鏡およびフランスにあるNOEMA電波干渉計を用いて、オリオン座にある星が生まれている場所(星形成領域)“NGC 2024”(図1)に対して、分子からの放射“分子輝線”の詳細観測を行っています。

すると、分子輝線のデータの詳細分析から得られる、円柱状の細長い構造“フィラメント”の内部のガスの動きから、明らかになったことがありました。

それは、フィラメントが分裂することで、将来的に星を生む素となるガスの塊“コア”を形成していることでした。
大部分の星は、このようなフィラメントを介して誕生します。
なので、この分析結果は、星の誕生メカニズムを解明する上で、重要な手掛かりになるんですねー

また、観測の副産物として、分子輝線によりフィラメントの太さが異なることも明らかになったようです。
この研究は、九州共立大学の島尻芳人教授が率いる国際共同研究チームが進めています。
研究成果は、2023年4月発行のAstronomy & Astrophysicsに“Witnessing the fragmentation of a filament into prestellar cores in Orion B/NGC 2024”として掲載されました。


星が生まれている領域で見つかったフィラメント構造

星間空間に撒き散らされた原子やチリ(星間ガス)が集まって雲のようになったとき、周囲からの紫外線(星間紫外線)が内部まで届かなくなると、紫外線によって分子が壊されなくなるので、原子から分子が作られ始めます。

そのような雲を“分子雲”と呼び、数光年~数十光年と様々な大きさのものがあります。

分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を分子雲コアと呼び、いわゆる星の卵(種)に相当するんですねー
その分子雲コアがさらに収縮することで、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生します。

星間ガスは冷たく暗いので目では見えませんが、2009年から2013年にかけてヨーロッパ宇宙機関によって運用された赤外線天文衛星“ハーシェル”(※1)によって、大規模な調査が行われています。
※1.赤外線天文衛星“ハーシェル”は、ヨーロッパ宇宙機関が2009年から2013年まで運用していた宇宙望遠鏡。直径3.5メートルの主鏡と、主に赤外線を観測するための観測機器を搭載していた。
この調査では、私たちの太陽系から1500光年以内にある星が生まれている領域“星形成領域”が詳しく観測されています。

観測の結果、星形成領域の至る所で見つかったのは、円柱状の細長い構造“フィラメント”でした。
さらに、星の素になる密度の高いガスの塊“分子雲コア”のほとんどが、フィラメントに埋もれていることも明らかになっています。

それでは、このフィラメントがどのように形成され、フィラメントからどのようにしてコアが生まれるのでしょうか?

このことを解明することは、星の誕生の仕組みや、私たちの地球を含む太陽系が、どのように形成されたのかという問題を解決する上で残された重要な課題となっていました。

このフィラメントの形成や進化の研究は、世界中で多くの研究者が進めていて、観測は“ハーシェル”などによる赤外線で行われてきました。

赤外線を用いると、フィラメントやコアなどの星間ガスの形を、広く詳細に調べることができます。

でも、フィラメントの周りやフィラメント内部の運動に関する情報を得ることができず…
フィラメントから、どのようにしてコアが形成されるのかが解明されていませんでした。
図1.赤外線天文衛星“ハーシェル”で観測されたオリオン座にある星が生まれている領域(オリオン座B分子雲南部)と今回の観測ターゲットである“NGC 2024”領域の拡大図。70μm(青)、160μm(緑)、250μm(赤)の3色合成図。(Credit: 九州共立大学)
図1.赤外線天文衛星“ハーシェル”で観測されたオリオン座にある星が生まれている領域(オリオン座B分子雲南部)と今回の観測ターゲットである“NGC 2024”領域の拡大図。70μm(青)、160μm(緑)、250μm(赤)の3色合成図。(Credit: 九州共立大学)


フィラメントが分裂して分子雲コアを形成している様子

今回の研究では、オリオン座にある星が生まれている場所“NGC 2024”に対して、ガスの運動を調べることができる分子の放射“分子輝線”を詳しく観測。(図1)
観測には、長野県にある野辺山45m電波望遠鏡とフランスにあるNOEMA電波干渉計(※2)を用いています。
※2.NOEMA電波干渉計(NOrthern Extended Millimeter Array)は、フランス国立科学研究センター(CNRS)とフランス国立天文学研究所(IRAM)が共同で運営している電波干渉計。電波干渉計は複数の電波望遠鏡の観測データを合成して、一つの観測データとして扱う手法。口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能を得ることができる。
また、得られた分子輝線のデータに加えて、“ハーシェル”やAPEX電波望遠鏡(※3)から得られたデータも使用。
これらの観測データを詳細に分析することで、フィラメントが分裂して分子雲コアができている様子が明らかになりました。(図2)
※3.APEX電波望遠鏡(Atacama Pathfinder Experiment)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、ドイツ天文学研究所(MPIfR)、スウェーデン宇宙物理学研究所(Onsala Space Observatory)の共同プロジェクトとして、南米チリのアタカマ砂漠で運営する直径12メートルの電波望遠鏡。
分子輝線は、分子の種類により、詳細に調べることができるガスの密度が異なるという特徴を持っています。

今回の研究では、野辺山45m電波望遠鏡が持つ“同時に複数の分子輝線の観測を高い速度分解能(※4)で得ることができる”という特徴を最大限に活用。
これにより、様々な分子輝線の観測データを取得し、102~105cm-3と3桁の幅広い密度のガスの運動を調べることに成功しています。
※4.速度分解能は、物体がどの方向にどれだけ速く移動しているかを区別することができる能力。小さければ小さいほど、より細かい運動を切り分けることが可能となる。この研究では、秒速0.1キロ(時速360キロ)の速度分解能の観測データを取得し、使用している。
このガスの運動と広がりについて詳しく調べてみると、ガスがフィラメント中に埋もれたそれぞれの分子雲コアに向かって動いていることが分かりました。
この様子は、フィラメントが分裂して、分子雲コアが形成されている可能性を示していました。

さらに、研究チームでは、分裂中のフィラメントと分裂していないフィラメントの単純なモデルを作成し、今回の観測結果との詳細な比較を実施。
その結果分かったのは、観測されたフィラメント内部のガスの動きは、分裂中のフィラメントと似た特徴を持っていることでした。

これにより、フィラメントが分裂しているという解釈は正しいと、研究チームは結論付けています。

この結果は、異なる密度域をとらえた様々な分子輝線のデータを同時に分析することで初めて見えてきたものです。

大部分の星は、このようなフィラメントを介して誕生することが明らかになっています。
そのため、今回の研究成果は、星の誕生メカニズムを解明する上で重要な手掛かりとなります。
図2.フィラメント中のガスの動きと分子雲コアの分布を表したイメージ図。(Credit: 国立天文台)
図2.フィラメント中のガスの動きと分子雲コアの分布を表したイメージ図。(Credit: 国立天文台)


10年以上続いているフィラメントの太さについての論争

フィラメントの太さは、理論研究との比較からフィラメントそのものの形成機構の解明につながるので、重要なポイントになります。

一部の研究グループは、連続波による観測から、フィラメントの太さが0.3光年で一定だと考えています。
でも、別のグループは、様々な分子輝線による観測から、太さは一定でないと考えているんですねー

この10年間、その意見は分かれていて、まだ結論は出ていませんでした。

そこで、今回の研究では、野辺山45m電波望遠鏡を用いて、違う種類の分子輝線データで同じフィラメントの太さを測定。
すると、観測している星間ガスの密度によって結果が違うことが分かります。(図3)

さらに、連続波のデータから測定した太さは0.3光年だと分かりました。

この発見は、「連続波データによる測定結果は太さが0.3光年で、分子輝線データによる測定結果は太さが0.3光年ではない」っという10年間続いた論争と一致。
この結果から、フィラメントの太さが一定かどうかを確定するには、同じ種類のデータを使って、色々なフィラメントの太さを測る必要があることが分かりました。

このことは、10年以上続いているフィラメントの太さについての論争に結論を出すのに、重要な結果と言えます。
図3.(a)赤外線天文衛星“ハーシェル”で観測されたNGC 2024“”領域、(b)一酸化炭素分子の同位体(13CO)、(b)一酸化炭素分子の同位体(C18O)、(b)HCO+分子の同位体(H13CO+)、(e)動径方向の分布の比較。(Credit: 九州共立大学)
図3.(a)赤外線天文衛星“ハーシェル”で観測されたNGC 2024“”領域、(b)一酸化炭素分子の同位体(13CO)、(b)一酸化炭素分子の同位体(C18O)、(b)HCO+分子の同位体(H13CO+)、(e)動径方向の分布の比較。(Credit: 九州共立大学)


今後の展望

フィラメントの研究をするには、“広い範囲を観測できること”や“細かい部分まで見えること”、そして“ガスの動きを詳しく調べられること”が必要になります。

これらの能力を持ち合わせているのが、野辺山45m電波望遠鏡でした。

そう、野辺山45m電波望遠鏡は、フィラメントの研究に最も適した電波望遠鏡の1つと言えるんですねー

今回の研究で確立した解析方法は、様々な星が生まれる場所の観測データに使えるはずです。

それでは、フィラメントから分子雲コアへの分裂は、どのくらい一般的に起こっているのでしょうか?

この疑問は、野辺山45m電波望遠鏡を用いて、軽い星が生まれる場所から重い星が生まれる場所までを観測し、同じような解析をすることで解けるのかもしれませんね。


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