惑星に別の巨大な天体が衝突するという出来事は、惑星の誕生直後には頻繁に起きていたと考えられています。
でも、それを直接観測した事例はこれまでありませんでした。
今回の研究では、恒星“ASASSN-2lqj”の明るさの長期的な変化を観測。
これにより、“ASASSN-2lqj”の周りで惑星同士の衝突が発生したと報告しています。
この報告が正しい場合、地球の数倍~数十倍の重さを持つ2つの惑星が衝突した様子を、初めて観測によってとらえたことになります。
実は太陽系内での惑星同士の巨大衝突は珍しくなかった
誕生したばかりの恒星の周りには、水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造“原始惑星系円盤”が広がっています。
惑星の形成は、この原始惑星系円盤の中でチリ同士が集まり、衝突合体を繰り返して成長することから始まります。
そして、チリの円盤の中で惑星が作られた後、残ったガスはやがて恒星の放射によって円盤から外へと流れ出し少しずつ消えていくことに。
この段階になると、惑星の公転軌道が変化し、時にはお互いが衝突することもあると考えられています。
例えば、月はジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経て形成されたと考えられています。
ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、地球と月を形成したと考えられています。
大きい方は地球になり、大気と海のある地質学的に活発な惑星になるのにちょうどよい大きさと環境へと進化。
小さい方が月になるのですが、こちらには地球のような特性を保持するのに十分な質量はありませんでした。
ただ、このような巨大衝突は珍しくないんですねー
冥王星とその最大の衛星カロンについては、地球の月と同様に巨大天体衝突によって形成されたという説が提唱されています。
天王星だと、他の惑星のように直立した自転で誕生し、約40億年前に地球の1~3倍の質量の天体が衝突して自転が傾いたという説が有力です。
このように、太陽系内において巨大衝突は地球以外の天体でも発生したと考えられています。
でも、いずれも太古の巨大衝突なので証拠がほとんど残されておらず、今のところ仮説の域を出ていません。
なぜ恒星“ASASSN-2lqj”は明るくなってから暗くなったのか?
太陽以外の恒星を観測すると、誕生直後の惑星系が見つかることがあります。
誕生直後の惑星系を観測することは、過去の太陽系をイメージすることができるので、年代の若い惑星系の様子は、しばしば興味深い観測対象となります。
もし、惑星同士の衝突のような激しい現象があった場合、衝突に由来するチリの変化を赤外線望遠鏡で観測できるはずです。
すでに、NASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”は、“NGC 2354-ID8”や“HD 166191”、“ペルセウス座V488星”で顕著なチリの変化を観測しています。
でも、これらの観測結果が惑星同士の衝突によるものかどうかは、はっきりしていません。
研究チームでは、とも座の方向約1800光年彼方に位置する恒星“2MASS J08152329-3859234”に関するソーシャルメディア上の投稿をきっかけに、この恒星に注目していました。
“2MASS J08152329-3859234”の明るさは、2021年12月から約500日にわたって暗くなりましたが、それ以前の約1000日間は赤外線で2倍も明るくなっていました。
この明るさの変化は、超新星の探査を行う“超新星全天サーベイ(ASASSN; All Sky Automated Survey for SuperNovae)”によって検出。
このことから、“2MASS J08152329-3859234”は“ASASSN-2lqj”に再命名され、論文でもこちらの名が採用されることになります。
“ASASSN-2lqj”の明るさの変化については、過去の観測データや暗くなった後に実施された追観測データを使用し分析を実施。
すると、意外なことが判明します。
まず、約500日もの間暗くなった理由は、巨大なチリの雲が恒星の光を遮ることによって発生したと考えることができます。
一方、暗くなる前の約1000日間の明るい期間については、すぐに理由が判明しませんでした。
でも、観測データの分析から温度が1000K(約700℃)程度であること、恒星の放射全体に対してかなりの割合(約4%)を占める光の量であることから、かなりの高エネルギー現象であることが徐々に明らかになってきました。
研究チームでは、シミュレーション結果も組み合わせて分析を実施。
その結果、約1000日間の赤外線放射は、惑星同士の衝突で発生した膨大な熱に由来していると結論付けています。
観測結果を良く説明できていたのは、恒星から2~16天文単位(3億~24億キロ)の距離で、地球の数倍~数十倍ある2つの巨大氷惑星(天王星や海王星のような惑星)が衝突したというシナリオでした。
この衝突によって膨大な熱が発生するだけでなく、衝突で生じたチリの雲は公転運動によって長く引き伸ばされることになります。
これにより、約1000日間の明るい期間と、その後に発生する約500日間の暗い期間の両方を、うまく説明することができていました。
特に約500日の暗い期間は明るさの変化が複雑だったのですが、これは公転運動によってチリの雲が分断された結果として説明することができました。
今回研究チームが結論付けたシナリオが正しい場合、“ASASSN-2lqj”では誕生から3億年後に2つの巨大氷惑星が衝突を起こしたということになります。
これは恒星の放射によって原始惑星系円盤のチリが消滅し、惑星同士が衝突しやすくなるという、これまでの予測と一致。
“ASASSN-2lqj”は、惑星同士が衝突するという惑星形成論で予測されていた出来事について、初の詳細な観測事例になるかもしれません。
“ASASSN-2lqj”で起きた惑星の衝突による残骸の運命はよく分かっていません。
おそらくチリの一部が再び集まって、小さな惑星やその周りを公転する衛星になるはずです。
この段階での進行はかなり遅いので、ずっと観測し続けて成り行きを見守るという訳にはいきません。
でも、他の恒星で同じような現象を見つけることができれば、惑星衝突の別の段階が観測できるかもしれませんね。
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でも、それを直接観測した事例はこれまでありませんでした。
今回の研究では、恒星“ASASSN-2lqj”の明るさの長期的な変化を観測。
これにより、“ASASSN-2lqj”の周りで惑星同士の衝突が発生したと報告しています。
この報告が正しい場合、地球の数倍~数十倍の重さを持つ2つの惑星が衝突した様子を、初めて観測によってとらえたことになります。
この研究は、オランダ・ライデン大学のMatthew Kenworthyさんたちの研究チームが進めています。
図1.2つの巨大氷惑星が衝突した“ASASSN-2lqj”のイメージ図。(Credit: Mark Garlick) |
実は太陽系内での惑星同士の巨大衝突は珍しくなかった
誕生したばかりの恒星の周りには、水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造“原始惑星系円盤”が広がっています。
惑星の形成は、この原始惑星系円盤の中でチリ同士が集まり、衝突合体を繰り返して成長することから始まります。
そして、チリの円盤の中で惑星が作られた後、残ったガスはやがて恒星の放射によって円盤から外へと流れ出し少しずつ消えていくことに。
この段階になると、惑星の公転軌道が変化し、時にはお互いが衝突することもあると考えられています。
例えば、月はジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経て形成されたと考えられています。
ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、地球と月を形成したと考えられています。
大きい方は地球になり、大気と海のある地質学的に活発な惑星になるのにちょうどよい大きさと環境へと進化。
小さい方が月になるのですが、こちらには地球のような特性を保持するのに十分な質量はありませんでした。
ただ、このような巨大衝突は珍しくないんですねー
冥王星とその最大の衛星カロンについては、地球の月と同様に巨大天体衝突によって形成されたという説が提唱されています。
天王星だと、他の惑星のように直立した自転で誕生し、約40億年前に地球の1~3倍の質量の天体が衝突して自転が傾いたという説が有力です。
このように、太陽系内において巨大衝突は地球以外の天体でも発生したと考えられています。
でも、いずれも太古の巨大衝突なので証拠がほとんど残されておらず、今のところ仮説の域を出ていません。
なぜ恒星“ASASSN-2lqj”は明るくなってから暗くなったのか?
太陽以外の恒星を観測すると、誕生直後の惑星系が見つかることがあります。
誕生直後の惑星系を観測することは、過去の太陽系をイメージすることができるので、年代の若い惑星系の様子は、しばしば興味深い観測対象となります。
もし、惑星同士の衝突のような激しい現象があった場合、衝突に由来するチリの変化を赤外線望遠鏡で観測できるはずです。
すでに、NASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”は、“NGC 2354-ID8”や“HD 166191”、“ペルセウス座V488星”で顕著なチリの変化を観測しています。
でも、これらの観測結果が惑星同士の衝突によるものかどうかは、はっきりしていません。
研究チームでは、とも座の方向約1800光年彼方に位置する恒星“2MASS J08152329-3859234”に関するソーシャルメディア上の投稿をきっかけに、この恒星に注目していました。
“2MASS J08152329-3859234”の明るさは、2021年12月から約500日にわたって暗くなりましたが、それ以前の約1000日間は赤外線で2倍も明るくなっていました。
この明るさの変化は、超新星の探査を行う“超新星全天サーベイ(ASASSN; All Sky Automated Survey for SuperNovae)”によって検出。
このことから、“2MASS J08152329-3859234”は“ASASSN-2lqj”に再命名され、論文でもこちらの名が採用されることになります。
“ASASSN-2lqj”の明るさの変化については、過去の観測データや暗くなった後に実施された追観測データを使用し分析を実施。
すると、意外なことが判明します。
まず、約500日もの間暗くなった理由は、巨大なチリの雲が恒星の光を遮ることによって発生したと考えることができます。
一方、暗くなる前の約1000日間の明るい期間については、すぐに理由が判明しませんでした。
でも、観測データの分析から温度が1000K(約700℃)程度であること、恒星の放射全体に対してかなりの割合(約4%)を占める光の量であることから、かなりの高エネルギー現象であることが徐々に明らかになってきました。
研究チームでは、シミュレーション結果も組み合わせて分析を実施。
その結果、約1000日間の赤外線放射は、惑星同士の衝突で発生した膨大な熱に由来していると結論付けています。
観測結果を良く説明できていたのは、恒星から2~16天文単位(3億~24億キロ)の距離で、地球の数倍~数十倍ある2つの巨大氷惑星(天王星や海王星のような惑星)が衝突したというシナリオでした。
この衝突によって膨大な熱が発生するだけでなく、衝突で生じたチリの雲は公転運動によって長く引き伸ばされることになります。
これにより、約1000日間の明るい期間と、その後に発生する約500日間の暗い期間の両方を、うまく説明することができていました。
図2.今回の研究により、“ASASSN-2lqj”では「2つの巨大氷惑星が衝突し、大量の熱とチリの雲が発生する」というシナリオが起きた可能性が高いことが突き止められた。(Credit: Kenworthy, et al.) |
今回研究チームが結論付けたシナリオが正しい場合、“ASASSN-2lqj”では誕生から3億年後に2つの巨大氷惑星が衝突を起こしたということになります。
これは恒星の放射によって原始惑星系円盤のチリが消滅し、惑星同士が衝突しやすくなるという、これまでの予測と一致。
“ASASSN-2lqj”は、惑星同士が衝突するという惑星形成論で予測されていた出来事について、初の詳細な観測事例になるかもしれません。
“ASASSN-2lqj”で起きた惑星の衝突による残骸の運命はよく分かっていません。
おそらくチリの一部が再び集まって、小さな惑星やその周りを公転する衛星になるはずです。
この段階での進行はかなり遅いので、ずっと観測し続けて成り行きを見守るという訳にはいきません。
でも、他の恒星で同じような現象を見つけることができれば、惑星衝突の別の段階が観測できるかもしれませんね。
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