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長時間輝くガンマ線バーストに関連している? 光速に近い速度のプラズマの流れが赤道方向から外に飛び出す“相対論的刃”

2023年12月13日 | 宇宙 space
“ガンマ線バースト”は、宇宙で最も高エネルギーな現象の1つです。
でも、代表的な謎の1つに、長時間持続するガンマ線バーストの発生メカニズムがあります。

今回の研究では、恒星の崩壊時に赤道方向から激しいプラズマの流れが生じ、その過程で大量のエネルギーが放出されることを、シミュレーションにより突き止めています。

この流れは光速に近い速度で運動し、恒星を切り裂くのに十分だと表現できることから、研究チームではこの現象を“相対論的刃(Relativistic Blades)”と呼んでいるようです。
この研究は、ニューヨーク大学のMarcus DuPontさんとAndrew MacFadyenさんの研究チームが進めています。


宇宙で最も高エネルギーな天文現象の1つ“ガンマ線バースト”の発生メカニズム

短時間に高エネルギーのガンマ線を放出する、宇宙で最も高エネルギーな天文現象の1つが“ガンマ線バースト”(※1)です。
ガンマ線バーストは、太陽よりもずっと質量の大きな恒星で発生する超新星爆発に伴って発生する現象だと考えられています。
※1.ガンマ線バーストは、0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象。1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象。
でも、発生メカニズムには、まだ多くの謎が残されているんですねー

大きな謎の1つは、ガンマ線バーストがなぜ大量のエネルギーを限られた範囲に放出するのかです。

ガンマ線バーストのエネルギーはあまりにも大きく、ごく一部の範囲にのみ放出されたとしなければ説明がつかないと考えられています。

このため、エネルギーの放出方向を絞るメカニズムが必要になります。
図1.ガンマ線バーストのイメージ図。(Credit: NASA, Swift, Mary Pat Hrybyk-Keith, John Jones)
図1.ガンマ線バーストのイメージ図。(Credit: NASA, Swift, Mary Pat Hrybyk-Keith, John Jones)
現在支持されている説は、恒星の中心核で発生する“マグネター”(※2)の発生によるというもの。

太陽のおよそ8倍以上の質量を持った星が、進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなり、星は自身の重力を支えきれずつぶれてしまいます。

この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“重力崩壊型超新星爆発”を起こし、そこには、非常に高密度で自転速度の速いマグネターが発生することがあります。
※2.マグネター(磁石星)は中性子星の一種で、10秒程度の自転周期を持つ、主にX線で輝く天体。100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されていて、磁気エネルギーを開放することで輝くと考えられている。
マグネターは非常に強力な磁場を持ち、電気を帯びた粒子であるプラズマを高速で運動させます。
このプラズマの流れと、恒星を構成する粒子同士の衝突で発生するエネルギーの放出が、ガンマ線バーストの源になると考えられています。

現在の研究では、このメカニズムで自転軸方向のエネルギー放出を説明できていて、これは短時間輝くガンマ線バーストについて良く説明できていました。

でも、数は少ないものの、より長時間輝くガンマ線バーストも観測されていて、このメカニズムでは説明することができていませんでした。


光速に近い速度のプラズマの流れが赤道方向から外に飛び出す様“相対論的刃”

今回の研究では、恒星内部での活動をモデル化し、物質やエネルギーの流れのシミュレーションを実施。
すると、これまでに知られていないエネルギーの流れが生じることがあることを突き止めます。

マグネターの自転速度が極めて速い場合、磁場の変化の激しさから、粒子の流れは赤道方向に集中してしまいます。

これにより、激しいプラズマの流れはマグネターの赤道方向、つまり恒星そのものの赤道方向に発生。

流れるプラズマの速度はほぼ光速に達し、一方でその厚さは恒星の大きさに対して非常に薄いので、プラズマは恒星を飛び出して半径の数倍の距離まで到達し、その過程で大量のエネルギーが放出されることが分かりました。

このプラズマの流れは、線的な形状であるジェットとは異なり面的に拡がっていることから、研究チームでは“薄板(Lamina)”または“刃(Bladed)”と名付けています。

そして、光速に近い速度のプラズマの流れが赤道方向から外に飛び出す様を、恒星を2つに切り裂いている刃に例え“相対論的刃”と呼んでいます。
図2.シミュレーションされた“相対論的刃”の一例。赤道方向に薄く発生することが特徴的。(Credit: DuPont & MacFadyen)
図2.シミュレーションされた“相対論的刃”の一例。赤道方向に薄く発生することが特徴的。(Credit: DuPont & MacFadyen)
相対論的刃が発生する状況では、典型的な超新星爆発の50倍(約5×10の45乗ジュール)に相当するエネルギーが放出されると考えられます。

総エネルギーと放出時間は、長時間持続するガンマ線バーストに適合するので、研究チームはこれがガンマ線バーストのカギではないかと考えています。

今回の研究は、相対論的刃がガンマ線バーストと適合することを証明したに過ぎず、まだ研究は初期段階の状態です。
研究チームでは、次の段階として相対論的刃が時間経過によってどのような変化をするのか、そして最終的に恒星の運命にどう関与するのかを調べるようです。


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