人工衛星がとらえた世界の降水観測データを活用した、5日後までのリアルタイム降水予報。
こんなWebサイトが、理研(理化学研究所)、千葉大学、東京大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)らの国際共同研究グループにより、8月20日に公開されました。
増大する大雨の降水リスクに直前の予測で対応することで、災害による被害の防止や軽減につなげていくようです。
雨量計による降水の観測
地球規模の気候変動により、世界の降水量が大きく変化してきています。
これまでに経験したことがない規模の大雨や渇水などの災害が、日本を含め世界各地で頻発するようになっているんですねー
これまで気象学では、降水という大気現象の理解を深めることで予測技術を発展させてきました。
でも、世界の降水については、まだよく分かっていないのが現状です。
それは、降水の観測を行う上で基本となっているのが、バケツに水が溜まる原理で行う雨量計観測だからです。
これだと、雨量計が設置された地点でしか観測結果が得られません。
そのため、雨量計の設置が難しい海洋上や極域、山岳地帯などでは、雨や雪がどのように降っているのかを正確に測ることができませんでした。
人工衛星を用いた降水の観測
人工衛星は、宇宙から雨雲を測定するため、雨量計の有無にかかわらず、広い範囲を一様に観測できます。
つまり、世界の降水を知るのに有効なのが、人工衛星での観測ということです。
そこで、JAXAとNASAが共同で進めてきたのが、降水を観測するための人工衛星を打ち上げることでした。
1997年11月に打ち上げられた熱帯降雨観測衛星“TRMM(トリム)”は、2015年4月まで熱帯の降雨を観測。
その後継機になる全球降水観測計画主衛星“GPM”は、2014年2月に打ち上げられ、現在も観測を続けています。
これらの衛星には、降水レーダーが搭載されていて、雨雲の立体的な分布を観測できます。
この観測データを活かし、その他のマイクロ波放射計などの各種衛星観測データを統合した“衛星全球降水マップ(GSMaP)”をJAXAが開発し、リアルタイムで運用されています。
二つの降水予測“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”
降水の予測は計算を用いて行われ、“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”という二つの手法があります。
“降水ナウキャスト”は、観測データによる直近の降水分布の動きをとらえ、それがそのまま持続すると仮定した将来の降水分布を予測します。
特徴は、雨雲の発生や発達などの気象学的なメカニズムを考慮しないので、計算が単純で高速だということ。
でも、予測時間が長くなると精度が急速に低下するという問題もあります。
一方の“数値天気予報”は、気象学的なメカニズムを考慮したシミュレーションに基づいているので、予測時間が長くなっても“降水ナウキャスト”より精度を高く保つことが可能。
ただ、スーパーコンピュータを用いた複雑な計算が必要になります。
日々の天気予報に使われている気象庁の“全球モデル(GSM)”は、地球全体をおよそ20キロ四方のメッシュ状に区切り、1日1回、11日後まで予測する数値天気予報システムになります。
“降水ナウキャスト”の予測精度を向上させる
国際共同研究グループでは、降水予測の高度化を目指し、人工衛星による降水観測データを生かした降水予報に関する研究を、2013年4月から進めていました。
降水予測の高度化として研究グループが取り組んだのは、これまでの“降水ナウキャスト”手法に“データ同化”手法を取り入れること。
これにより、予測精度を向上させた新しい“降水ナウキャスト”技術を開発しています。
“データ同化”は、“数値天気予報”の要として、シミュレーションに実測データを取り込む方法です。
“降水ナウキャスト”では、降水分布の場所ごとの移動の方向や速さ(移動ベクトル)をとらえることが重要になります。
でも、刻々と変動する降水分布の画像データから、安定した移動ベクトルを得ることが難しいという課題がありました。
これに対して、“数値天気予報”で用いられる“データ同化”の方法を応用してみると、移動ベクトルがより安定的に算出できるようになりました。
研究グループでは、この新しい“降水ナウキャスト”手法を“衛星全球降水マップ(GSMaP)”に適用。
2017年5月以降、12時間後までの降水予報を、理研の天気予報研究のウェブページおよびJAXAの理研ナウキャストウェブページで公開してきました。
“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”を統合する高精度降水予測
また、研究グループでは、“降水ナウキャスト”技術とは異なる高度化技術の研究として、“NICAM-LETKF数値天気予報システム”を新たに開発しています。
“NICAM-LETKF数値天気予報システム”は、“数値天気予報”モデル“NICAM(非静力学正20面体格子大気モデル)”と局所アンサンブル変換カルマンフィルタ“LETKF”を組み合わせたもので、“衛星全球降水マップ(GSMaP)”データを同化することに成功しています。
降水予測のさらなる高度化はまだ続きます。
“降水ナウキャスト”による12時間後までの予測データと、“NICAM-LETKF数値天気予報システム”による5日後までの降水予測データ、この二つの異なる降水予測データを統合して、一つの高精度な降水予測データを作成しています。
この手法では、場所ごとの統計的特徴を考慮した局所最適化という独自の工夫を行うことで、予測精度を向上させています。
これにより可能になったのは、12時間後までは“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”を統合する高精度降水予測です。
ただ、12時間後から5日後までは、“降水ナウキャスト”の予測精度が低下してしまうので“数値天気予報”のみを用いています。
この“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”を組み合わせた5日後までの予報データが今回公開され、理研の天気予報研究のウェブページおよびJAXAの降水情報ウェブページ“GSMaPxNEXRA 全球降水予報”で見ることができます。
増大する大雨などの降水リスクに、直前の予測による災害への対応は重要なことになります。
世界には、地上に設置する雨量計やレーダーなどの降水観測が限られている地域も多くあるので、広い範囲を一様に観測する衛星データの利用は有効な手段と言えます。
今後研究グループでは、スーパーコンピュータ“富岳”を用いて、降水予報のさらなる高度化にも取り組んでいくそうです。
衛星降水観測データを活用したリアルタイム予測情報が、世界の国々で活用され、直前の対策による被害の防止や軽減に役立てられるといいですね。
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こんなWebサイトが、理研(理化学研究所)、千葉大学、東京大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)らの国際共同研究グループにより、8月20日に公開されました。
増大する大雨の降水リスクに直前の予測で対応することで、災害による被害の防止や軽減につなげていくようです。
雨量計による降水の観測
地球規模の気候変動により、世界の降水量が大きく変化してきています。
これまでに経験したことがない規模の大雨や渇水などの災害が、日本を含め世界各地で頻発するようになっているんですねー
これまで気象学では、降水という大気現象の理解を深めることで予測技術を発展させてきました。
でも、世界の降水については、まだよく分かっていないのが現状です。
それは、降水の観測を行う上で基本となっているのが、バケツに水が溜まる原理で行う雨量計観測だからです。
これだと、雨量計が設置された地点でしか観測結果が得られません。
そのため、雨量計の設置が難しい海洋上や極域、山岳地帯などでは、雨や雪がどのように降っているのかを正確に測ることができませんでした。
人工衛星を用いた降水の観測
人工衛星は、宇宙から雨雲を測定するため、雨量計の有無にかかわらず、広い範囲を一様に観測できます。
つまり、世界の降水を知るのに有効なのが、人工衛星での観測ということです。
そこで、JAXAとNASAが共同で進めてきたのが、降水を観測するための人工衛星を打ち上げることでした。
1997年11月に打ち上げられた熱帯降雨観測衛星“TRMM(トリム)”は、2015年4月まで熱帯の降雨を観測。
その後継機になる全球降水観測計画主衛星“GPM”は、2014年2月に打ち上げられ、現在も観測を続けています。
これらの衛星には、降水レーダーが搭載されていて、雨雲の立体的な分布を観測できます。
この観測データを活かし、その他のマイクロ波放射計などの各種衛星観測データを統合した“衛星全球降水マップ(GSMaP)”をJAXAが開発し、リアルタイムで運用されています。
二つの降水予測“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”
降水の予測は計算を用いて行われ、“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”という二つの手法があります。
“降水ナウキャスト”は、観測データによる直近の降水分布の動きをとらえ、それがそのまま持続すると仮定した将来の降水分布を予測します。
特徴は、雨雲の発生や発達などの気象学的なメカニズムを考慮しないので、計算が単純で高速だということ。
でも、予測時間が長くなると精度が急速に低下するという問題もあります。
一方の“数値天気予報”は、気象学的なメカニズムを考慮したシミュレーションに基づいているので、予測時間が長くなっても“降水ナウキャスト”より精度を高く保つことが可能。
ただ、スーパーコンピュータを用いた複雑な計算が必要になります。
日々の天気予報に使われている気象庁の“全球モデル(GSM)”は、地球全体をおよそ20キロ四方のメッシュ状に区切り、1日1回、11日後まで予測する数値天気予報システムになります。
“降水ナウキャスト”の予測精度を向上させる
国際共同研究グループでは、降水予測の高度化を目指し、人工衛星による降水観測データを生かした降水予報に関する研究を、2013年4月から進めていました。
降水予測の高度化として研究グループが取り組んだのは、これまでの“降水ナウキャスト”手法に“データ同化”手法を取り入れること。
これにより、予測精度を向上させた新しい“降水ナウキャスト”技術を開発しています。
“データ同化”は、“数値天気予報”の要として、シミュレーションに実測データを取り込む方法です。
“降水ナウキャスト”では、降水分布の場所ごとの移動の方向や速さ(移動ベクトル)をとらえることが重要になります。
でも、刻々と変動する降水分布の画像データから、安定した移動ベクトルを得ることが難しいという課題がありました。
これに対して、“数値天気予報”で用いられる“データ同化”の方法を応用してみると、移動ベクトルがより安定的に算出できるようになりました。
研究グループでは、この新しい“降水ナウキャスト”手法を“衛星全球降水マップ(GSMaP)”に適用。
2017年5月以降、12時間後までの降水予報を、理研の天気予報研究のウェブページおよびJAXAの理研ナウキャストウェブページで公開してきました。
“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”を統合する高精度降水予測
また、研究グループでは、“降水ナウキャスト”技術とは異なる高度化技術の研究として、“NICAM-LETKF数値天気予報システム”を新たに開発しています。
“NICAM-LETKF数値天気予報システム”は、“数値天気予報”モデル“NICAM(非静力学正20面体格子大気モデル)”と局所アンサンブル変換カルマンフィルタ“LETKF”を組み合わせたもので、“衛星全球降水マップ(GSMaP)”データを同化することに成功しています。
降水観測データを“数値天気予報”に用いるのは難しく、ガウス分布変換手法を降水データに適用することでこの問題を解決している。
“NICAM-LETKF数値天気予報システム”をJAXAのスーパーコンピュータ“JSS"(JAXA Supercomputer System Generation 2)”によりリアルタイムで実行し、“世界の気象リアルタイムNEXRA”として公開している。
“NICAM-LETKF数値天気予報システム”をJAXAのスーパーコンピュータ“JSS"(JAXA Supercomputer System Generation 2)”によりリアルタイムで実行し、“世界の気象リアルタイムNEXRA”として公開している。
降水予測のさらなる高度化はまだ続きます。
“降水ナウキャスト”による12時間後までの予測データと、“NICAM-LETKF数値天気予報システム”による5日後までの降水予測データ、この二つの異なる降水予測データを統合して、一つの高精度な降水予測データを作成しています。
“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”を統合した高精度降水予測の全球分布図。2020年7月5日22時を初期時刻とした3時間後の降水予測地の分布を表示している。(Credit: 理研/JAXA/千葉大/東大) |
これにより可能になったのは、12時間後までは“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”を統合する高精度降水予測です。
ただ、12時間後から5日後までは、“降水ナウキャスト”の予測精度が低下してしまうので“数値天気予報”のみを用いています。
この“降水ナウキャスト”と“数値天気予報”を組み合わせた5日後までの予報データが今回公開され、理研の天気予報研究のウェブページおよびJAXAの降水情報ウェブページ“GSMaPxNEXRA 全球降水予報”で見ることができます。
JAXAの降水情報ウェブページ“GSMaPxNEXRA 全球降水予測”の例。2020年7月5日22時を初期時刻とした3時間後の降水予測地の分布を表示。令和2年7月豪雨に伴う大雨が九州南部で予測されている。(Credit: 理研/JAXA/千葉大/東大) |
世界には、地上に設置する雨量計やレーダーなどの降水観測が限られている地域も多くあるので、広い範囲を一様に観測する衛星データの利用は有効な手段と言えます。
今後研究グループでは、スーパーコンピュータ“富岳”を用いて、降水予報のさらなる高度化にも取り組んでいくそうです。
衛星降水観測データを活用したリアルタイム予測情報が、世界の国々で活用され、直前の対策による被害の防止や軽減に役立てられるといいですね。
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