太陽系で最も遠くを公転する惑星“海王星”の表面には、周囲と比べてより深い青色をした“暗斑(Dark Spot)”が現れることが知られています。
でも、暗斑が何なのかは、これまでほとんど分かっていませんでした。
今回の研究では、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設した超大型望遠鏡“VLT”(※1)に搭載された3次元分光装置“MUSE”を用いて、海王星の暗斑の詳細な観測を実施。
さらに、その反射スペクトルの観測にも世界で初めて成功しています。
この観測成果により、暗斑の正体に迫るだけでなく、その近くに存在する“輝斑(Bright Spot)”の発見という予想外の成果もあったようです。
この時に撮影された多数の画像データには、海王星の赤道付近にあった大きな暗い色の斑点がはっきりと写っていて、“大暗斑(Great Dark Spot:1989年に観測されたことからGDS-89とも言う)”と名付けられました。
主にガスでできた惑星の表面に見られる特徴的な大気活動の例としては、木星の“大赤斑”が有名ですが、海王星の大暗斑は大赤斑とは異なる大気現象だと見られています。
木星の大赤斑と比較して、大暗斑にはほとんど雲が見られません。
また、大暗斑は寿命も短く、“ボイジャー2号”の接近から5年後の1994年に“ハッブル宇宙望遠鏡”が海王星を撮影したときには、すでに消滅していました。
その一方で、大暗斑ほど大きくはない小ぶりな暗斑は“ボイジャー2号”の撮影以来何個も見つかっていて、出現と消滅を繰り返しています。
たとえば、“ボイジャー2号”の画像データに写っていた南半球の小さな暗斑は“暗斑2(Dark Spot 2)”と名付けられましたが、こちらもハッブル宇宙望遠鏡による1994年の撮影時には消滅していました。
このことから、海王星の暗斑は数年で誕生と消滅を繰り返す大気現象だと推定されてきました。
でも、これまでのところ、暗斑に関するこれ以上の理解は進んでいないんですねー
その主な理由は、寿命の短い大気現象であることに加え、海王星という最果ての惑星を地球から観測すること自体が困難なこと、暗斑の様子を知ることができる観測データが不足していたことでした。
このため、海王星の暗斑は木星の大赤斑と同じように低気圧の嵐なのか、それとも雲が晴れて大気の下層部が見えている高気圧なのか、といった正反対な仮説のどちらが正しいのかさえも分かっていませんでした。
惑星の分類としては木星、土星、天王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類されています。
今回の研究では、2019年に超大型望遠鏡“VLT”に設置された3次元分光装置“MUSE”を用いて、海王星の暗斑“NDS-2018”の撮影を行っています。
“NDS-2018”は、ハッブル宇宙望遠鏡によって2018年に発見された暗斑の1つ。
海王星の暗斑は、高度約540キロを周回するハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたことはあるのですが、これまで地上の望遠鏡で撮影されたことはありませんでした。
観測の結果、VLTは地上の望遠鏡としては、世界で初めて海王星の暗斑の撮影に成功。
それだけでなく、波長別の詳細な観測データからは、“NDS-2018”の反射スペクトルを得ることにも成功しました。
反射光の波長ごとの強さを示す反射スペクトルは、暗斑に存在する物質の組成や状態を知るための手掛かりとなるデータです。
観測データを分析してみると、少なくとも雲がなくなる高気圧によって暗斑が生じる可能性は除外されました。
最も可能性が高い説は、海王星の表面(※2)よりも下側で生じた硫化水素の“雲”が原因だとするもの。
“DBS-2019”と名付けられたこの輝斑が存在していたのは、暗斑であるNDS-2018のすぐ隣でした。
メタンの固体で構成されていると見られる明るい雲のような構造は、過去の観測でも見つかっていたものの、これほど大気の深い位置で輝斑のような特徴が見つかったのは初めてのことでした。
輝斑(DBS-2019)が暗斑(NDS-2018)のすぐ隣で見つかったことに加え、その深さも一致している…
この事実から考えられるのは、輝斑と暗斑が関連した大気現象であり、大気循環の中で暗斑が維持されるために輝斑が関わっている可能性でした。
でも、大きな進歩となったことは間違いないんですねー
特に、暗斑と同じくらいの深さにある輝斑の発見は、暗斑の出現と消滅に関する謎を解明する大きな手掛かりになるはずです。
海王星は、太陽から45億キロの距離にあり、これは太陽から地球間の距離の約30倍に相当します。
このような遠くの惑星の大気活動を詳細に調べるには、当初はボイジャー2号のように惑星探査機を送り込むしかないと考えられていました。
ただ、そのためにはコストも時間もかかるという問題があるんですねー
でも、ボイジャー2号による海王星接近観測の数年後には宇宙望遠鏡で、そして今回は地上の望遠鏡で詳細な観測が行えました。
このことは、コストや時間をそれほどかけない手法でも惑星科学上の謎を解明できることを示す好例になりそうです。
2021年12月25日に打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、赤外線望遠鏡として優れているだけでなく、見た目の移動速度が速い太陽系内の天体を追跡して詳細な観測が行えることも強みにしています。
遠方の深宇宙だけでなく、太陽系内の天体… 海王星の観測にも威力を発揮してくれるのかが気になりますね。
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でも、暗斑が何なのかは、これまでほとんど分かっていませんでした。
今回の研究では、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設した超大型望遠鏡“VLT”(※1)に搭載された3次元分光装置“MUSE”を用いて、海王星の暗斑の詳細な観測を実施。
※1.超大型望遠鏡“VLT(Very Large Telescope)”は、口径8.2メートルの4基の光赤外線望遠鏡の総称。それぞれ1基ずつ独立に観測でき、ガンマ線バーストをはじめ様々な観測を行っている。4基の望遠鏡を光ファイバーで結合して光干渉計としても活用されている。日本の“すばる望遠鏡”と共に世界最大の光赤外線望遠鏡の1つ。“すばる望遠鏡”と違い、南半球からでしか見えない宇宙を観測している。
すると、地上の望遠鏡で初めて暗斑の撮影に成功するんですねーさらに、その反射スペクトルの観測にも世界で初めて成功しています。
この観測成果により、暗斑の正体に迫るだけでなく、その近くに存在する“輝斑(Bright Spot)”の発見という予想外の成果もあったようです。
この研究は、オックスフォード大学のPatrick G. J. Irwinさんたちの研究チームが進めています。
図1.超大型望遠鏡“VLT”に設置された3次元分光装置“MUSE”によって各波長で取得された海王星の画像。暗斑と輝斑はほぼ同じ位置にあることが分かる。(Credit: ESO, P. Irwin et al. / 文字と矢印は彩恵りり氏による加筆) |
謎めいた暗い色の斑点“暗斑”
1989年、NASAの惑星探査機“ボイジャー2号”が史上初の海王星への接近探査を行いました。この時に撮影された多数の画像データには、海王星の赤道付近にあった大きな暗い色の斑点がはっきりと写っていて、“大暗斑(Great Dark Spot:1989年に観測されたことからGDS-89とも言う)”と名付けられました。
図2.1989年8月にボイジャー2号によって撮影された海王星のナチュラルカラー画像。赤道付近(画像左側)に大暗斑が、南半球(画像右下側)に暗斑2が写っている。(Credit: NASA, JPL) |
木星の大赤斑と比較して、大暗斑にはほとんど雲が見られません。
また、大暗斑は寿命も短く、“ボイジャー2号”の接近から5年後の1994年に“ハッブル宇宙望遠鏡”が海王星を撮影したときには、すでに消滅していました。
その一方で、大暗斑ほど大きくはない小ぶりな暗斑は“ボイジャー2号”の撮影以来何個も見つかっていて、出現と消滅を繰り返しています。
たとえば、“ボイジャー2号”の画像データに写っていた南半球の小さな暗斑は“暗斑2(Dark Spot 2)”と名付けられましたが、こちらもハッブル宇宙望遠鏡による1994年の撮影時には消滅していました。
このことから、海王星の暗斑は数年で誕生と消滅を繰り返す大気現象だと推定されてきました。
でも、これまでのところ、暗斑に関するこれ以上の理解は進んでいないんですねー
その主な理由は、寿命の短い大気現象であることに加え、海王星という最果ての惑星を地球から観測すること自体が困難なこと、暗斑の様子を知ることができる観測データが不足していたことでした。
このため、海王星の暗斑は木星の大赤斑と同じように低気圧の嵐なのか、それとも雲が晴れて大気の下層部が見えている高気圧なのか、といった正反対な仮説のどちらが正しいのかさえも分かっていませんでした。
史上初めて暗斑の地上観測に成功
ガス惑星と呼ばれる木星や土星、天王星と同様に、水素とヘリウムを主成分とする大気を持っている海王星。惑星の分類としては木星、土星、天王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類されています。
今回の研究では、2019年に超大型望遠鏡“VLT”に設置された3次元分光装置“MUSE”を用いて、海王星の暗斑“NDS-2018”の撮影を行っています。
“NDS-2018”は、ハッブル宇宙望遠鏡によって2018年に発見された暗斑の1つ。
海王星の暗斑は、高度約540キロを周回するハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたことはあるのですが、これまで地上の望遠鏡で撮影されたことはありませんでした。
図3.超大型望遠鏡“VLT”に設置された3次元分光装置“MUSE”によって2019年に取得された海王星の画像。右上にある薄暗い斑点が暗斑“NDS-2018”になる。今回の観測で、地上の望遠鏡としては初めて撮影した暗斑となった。(Credit: ESO, P. Irwin et al.) |
それだけでなく、波長別の詳細な観測データからは、“NDS-2018”の反射スペクトルを得ることにも成功しました。
反射光の波長ごとの強さを示す反射スペクトルは、暗斑に存在する物質の組成や状態を知るための手掛かりとなるデータです。
観測データを分析してみると、少なくとも雲がなくなる高気圧によって暗斑が生じる可能性は除外されました。
最も可能性が高い説は、海王星の表面(※2)よりも下側で生じた硫化水素の“雲”が原因だとするもの。
※2.海王星のように明確な固体の表面がない惑星では、大気圧が1気圧になる場所を表面としている。
この説では、約5気圧の深さで生じた硫化水素の雲が光(※3)を吸収することで暗く見えていると考えています。※3.700nm未満の可視光線。これは赤外線に極めて近い赤色を除いた、可視光線の大部分になる。
そして、今回の観測では、予想外なことに硫化水素の雲と同じくらいの大気の深さで、暗斑とは全く異なる“輝斑”を発見。“DBS-2019”と名付けられたこの輝斑が存在していたのは、暗斑であるNDS-2018のすぐ隣でした。
メタンの固体で構成されていると見られる明るい雲のような構造は、過去の観測でも見つかっていたものの、これほど大気の深い位置で輝斑のような特徴が見つかったのは初めてのことでした。
輝斑(DBS-2019)が暗斑(NDS-2018)のすぐ隣で見つかったことに加え、その深さも一致している…
この事実から考えられるのは、輝斑と暗斑が関連した大気現象であり、大気循環の中で暗斑が維持されるために輝斑が関わっている可能性でした。
観測機器の技術進歩によるコストや時間をかけない手法
今回の観測結果により、海王星の暗斑にまつわる謎をすべて解決したわけではありません。でも、大きな進歩となったことは間違いないんですねー
特に、暗斑と同じくらいの深さにある輝斑の発見は、暗斑の出現と消滅に関する謎を解明する大きな手掛かりになるはずです。
海王星は、太陽から45億キロの距離にあり、これは太陽から地球間の距離の約30倍に相当します。
このような遠くの惑星の大気活動を詳細に調べるには、当初はボイジャー2号のように惑星探査機を送り込むしかないと考えられていました。
ただ、そのためにはコストも時間もかかるという問題があるんですねー
でも、ボイジャー2号による海王星接近観測の数年後には宇宙望遠鏡で、そして今回は地上の望遠鏡で詳細な観測が行えました。
このことは、コストや時間をそれほどかけない手法でも惑星科学上の謎を解明できることを示す好例になりそうです。
2021年12月25日に打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、赤外線望遠鏡として優れているだけでなく、見た目の移動速度が速い太陽系内の天体を追跡して詳細な観測が行えることも強みにしています。
遠方の深宇宙だけでなく、太陽系内の天体… 海王星の観測にも威力を発揮してくれるのかが気になりますね。
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