孤立した星々が放つ淡く広がった光
数百~数千個の銀河が集まった“銀河団”の内部には、どの銀河とも重力的に結びついていない迷子のような星がたくさん存在しています。銀河団全体を眺めると、これらの星々が淡く広がった光を放っているんですねー
このような星が放つ淡い光は“銀河団内光(intracluster light ; ICL)”と呼ばれています。
銀河団内光は、1951年に天文学者のフリッツ・ツビッキー氏(Fritz Zwicky, 1898 - 1974)によって“かみのけ座銀河団”で初めて検出されました。
かつてツビッキー氏は、この銀河団で微光を発する銀河間物質を観測したと報告しています。
“かみのけ座銀河団”は地球から約3億3000万光年彼方にあり、1000個以上の銀河を含んでいます。
地球に最も近い銀河団の一つなので、当時の小さな望遠鏡でも幽霊のような光を検出することができたそうです。
なぜ銀河間内光を作り出している星々は迷子になったのか
では、銀河団内光を放つこれらの孤立した星々は、いつ、どのようにして銀河団の中に散らばったのでしょうか?このことについては、
1.銀河団の中を銀河が運動することで星々がはぎとられた。
2.銀河の衝突合体で星々が放出される。
3.銀河団が形成された数十億年前には既に存在していた。
など、いくつかの説があって決着はついていません。
今回の研究を進めているのは、韓国・延世大学のHyungjin Jooさんたちの研究チームです。
今回の研究では、ハッブル宇宙望遠鏡を使って、赤方偏移zがおよそ1~2(80億~100億光年)までの距離にある10個の銀河団を近赤外線で観測。すると、銀河間内光が銀河団全体の明るさに占める割合は、過去数十億年にわたってほぼ一定であることが明らかになります。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
このことは、銀河間内光の光源である迷子の星々が、数十億年前から既に銀河団の中に存在していたことを示しています。ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた大質量銀河団“MOO J1014+0038”(左)と“SPI-CL J2106-5844”(右)。3つの波長の近赤外線画像から疑似カラー合成した画像に、銀河間光の成分を青色で重ねている。(Credit: NASA、ESA、STScI、James Jee(延世大学)、画像処理: Joseph DePasquale (STScI)) |
でも、今回の観測結果からは、このような比較的新しい時代に起こる力学的な作用は、迷子星ができる主な原因ではないらしいことが分かっています。
もし、こうしたメカニズムが原因なら、銀河間内光の明るさ(=迷子星の数)は時代とともに増えていくはずなんですねー
銀河間内光を作り出している星々が迷子になった原因は、まだ正確には分かっていません。
ただ、今回の観測結果から、宇宙の初期段階には既に、何らかの原因で大量の迷子星が銀河団の中に存在していたことになります。
銀河団が形成された初期の時代には、銀河はまだかなり小さくて重力が弱かったので、簡単に星が銀河外へ流出できたのかもしれません。
もし、迷子星が宇宙の初期に生まれたのであれば、こうした星々は長い時間をかけて、既に銀河団の隅々まで広く散らばっていることになります。
そうすると、銀河や銀河団を重力でまとめている“暗黒物質”の分布を探るのに、迷子星を利用できるのかもしれません。
銀河団内の暗黒物質の分布は、現在は背景銀河の像が銀河団の重力レンズ効果で歪む様子をたくさん調べることで推定しています。
それが、銀河間内光を使うことで、これまでの手法を補える可能性があるんですねー
近赤外線で高い感度を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で迷子星を観測して、銀河団全体の暗黒物質の分布を調べられるようになれば、銀河団の歴史を理解するのに大いに役立つはずです。
重力レンズとは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする。その効果を重力レンズ効果と呼んでいる。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする。その効果を重力レンズ効果と呼んでいる。
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