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“ケプラー1658b”は公転軌道が小さくなりすぎて破壊される運命!? 主星のすぐそばを公転する灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”

2023年01月24日 | 宇宙 space
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのShreyas Vissapragadaさんを筆頭とする研究チームは、はくちょう座の方向約2571光年彼方で見つかった、太陽系外惑星“ケプラー(Kepler)1658b”に関する新たな研究成果を発表しました。

研究チームによると、“ケプラー1658b”は公転軌道が少しずつ減衰し主星に近づき続けていて、最終的には破壊される運命にあるようです。
主星の恒星“ケプラー1658”と太陽系外惑星“ケプラー1658b”(イメージ図)。(Credit: Gabriel Perez Diaz/Instituto de Astrofísica de Canarias)
主星の恒星“ケプラー1658”と太陽系外惑星“ケプラー1658b”(イメージ図)。(Credit: Gabriel Perez Diaz/Instituto de Astrofísica de Canarias)

主星のすぐそばを公転する灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”

“ケプラー1658b”はNASAの系外惑星探査衛星“ケプラー”による観測で最初に検出され、2019年に系外惑星であることが確認されました。
 “ケプラー”は、太陽系外にある惑星(系外惑星)を見つけることを目指して、2009年に打ち上げられたNASAの系外惑星探査衛星。2013年5月までのメインミッションで発見した系外惑星の数は2300億近く。姿勢制御装置の故障による主要ミッション終了後にも、2014年からは太陽光圧を姿勢制御に利用する“K2ミッション”を開始し、さらに数百個の系外惑星を発見している。残念ながら燃料切れにより“ケプラー”の運用は2018年の10月30日に終了。“ケプラー”は、これまでの観測で膨大なデータを取得しているので、このデータの解析を進めていけば、まだまだ新しい発見が出てくると期待されている。
系外惑星の検出にはトランジット法という観測方法が用いられます。
“ケプラー”は、地球から見て惑星が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光を観測し惑星の存在を探っているんですねー

“ケプラー1658b”の直径は木星と比べてほぼ同じですが、質量は約5.9倍。
公転周期は約3.8日で、ホットジュピター(公転周期が約10日以下の巨大ガス惑星)に分類されています。
 ホットジュピターは、木星ほどの質量を持つガス惑星が、主星の恒星から近い軌道(わずか0.015~0.5au程度:1天文単位auは太陽~地球間の平均距離)を、高速かつ非常に短い周期(わずか数日)で公転する天体。主星のすぐそばを公転し表面温度が非常に高温になるので、灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”と呼ばれる。系外惑星の発見初期に多く見つかっていた。
主星の“ケプラー1658”は準巨星(主系列星から赤色巨星に進化しつつある恒星)になります。

地球から見ると、“ケプラー1658b”は主星の手前を横切る“トランジット”を定期的に起こしています。

トランジットの間は、惑星が主星の一部を隠してしまうので、主星の明るさがごくわずかですが暗くなります。
この明るさの変化を詳しく調べることで、系外惑星の存在だけでなく、その公転周期や直径などの情報を得ることができます。
惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画。(Credit: ESO/L. Calçada)

ホットジュピターの軌道が減衰している証拠を発見

研究チームでは、13年分の観測データを元に“ケプラー1658b”の明るさの変化を分析。
すると、毎年約131ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒)という、ごくわずかな変化ではあるものの、“ケプラー1658b”の公転周期が短くなり続けていることが分かりました。

分析には“ケプラー”だけでなく、パロマー天文台のヘール望遠鏡やNASAの系外惑星探査衛星“TESS”の観測データが用いられています。
 2018年4月18日に打ち上げられたトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”は、マサチューセッツ工科大学が中心になって実施しているNASAの衛星計画。2年間ほぼ全天のトランジット惑星を探索する計画を実施し、第1期延長計画までの4年間で発見したのは、5000個を超えるトランジット惑星候補。観測は5年目に入っていて現在は第2期延長計画を実施中。“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星。“TESS”が目指しているのは、“ケプラー”よりもはるかに広い範囲を観測し、より多くの系外惑星を発見すること。
公転周期が短くなったということは、公転軌道が小さくなって、主星により近づくことを意味します。

“ケプラー1658b”は、主星から約0.054天文単位(太陽から水星までの平均距離の7分の1程度)しか離れていないので、長い時間をかけて螺旋(らせん)を描くように主星に接近し、いずれ破壊されるのは確実だと見られています。

準巨星のように進化した恒星の周囲で、こうした現象が観測されたのは、今回の“ケプラー1658b”が初めてのことでした。

研究チームでは、“ケプラー1658b”の軌道減衰の原因は、主星である“ケプラー1658”との潮汐作用だと考えています。

“ケプラー1658b”は、予想よりも明るく温度が高いように見えています。
このことから、火山活動が起きている木星の衛星イオのように、潮汐作用によって内部が加熱される潮汐加熱が起きている可能性もあるようです。

“ケプラー1658”星系の他にも、これから同様の惑星系が発見されるかもしれません。
発見された惑星系の観測により、潮汐作用の理解を深めることが期待されますね。


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